○斎藤吉平君 私、海員組合に所属しておりまして、海技部長をやっております。海技部長と申しますのは主として海難問題を専門にやっておりますので、その
立場から御意見を率直に申し上げさせていただきたいというふうに思っております。
私は
基本法案をちょっと読ませていただきまして、どうもやはり陸が中心になっておりまして、海というのは何かこうつけたりのような
関係で載せられているということで、たいへん大きな不満があるわけでございます。正直申し上げまして海というものは陸と離れているように見えますけれ
ども、実は現在非常に陸と危険の問題につきまして密接なつながりを持っております。私はことさらにむしろ海上に目を向けなければ非常に大きな災害というものも予想されるのではないかということが心配でございまして、特にこの辺を強調いたしまして、
基本法案から具体的な
法案ができる場合にこのような点をぜひ
考えてお願いしたいということを申し上げたいと思います。
特に私
ども非常におそれている点で具体的なことを
一つ申し上げますと、現在東京湾に十九万トン、二十万トンという大型タンカーが入っております。もし油が流れたといったようなことを仮定をいたしまして、イギリスの場合にトリー・キャニヨンといった十万トンの船の
事故がございましたけれ
ども、いろいろ油の流れるのを計算いたしますと、一ミリの油の厚さで六時間で一千トンの油が三分の一平方マイルに広がるというのが実績であるというように私
ども聞いておるわけですが、それを計算をしてまいりますと、ちょうど三十万トンの油が二十四時間かかりますと四百平方マイル
——これは海のマイルでございますが、二十四時間で四百平方マイルに広がります。それを東京湾というのに当てはめてみますと、たまたま東京湾の広さが四百平方マイルでございます。そうしますと原油でございますから揮発性の油を持っているということで、もしそれに火がつけば、海面全面が油でおおわれるばかりでなくて、火がついた場合を想定いたしますと、東京湾のまわりに二千万の人が住んでいるということでございまして、現状においては手のつけられないような大災害ということが当然
考えられる。しかもタンカーが停泊しております真上には、今度成田飛行場ができるかできないかわかりませんが、羽田にいたしましても成田にいたしましても飛行機があの上を飛び回る。へたをすると飛行機とタンカーとが衝突をするということもなきにしもあらずということが
考えられまして、私
どもたいへん陸と海との危険というものについては、むしろきびしい点でつながりがあるということを特に強調を申し上げたいと思います。
日本のまわりは、いま海外に比べましても非常に船舶がふくそう化しております。世界全部でいま二億総トンの船舶ができたといわれているわけですが、その二割なり三割が日本にいま集中をしている。特に大型タンカーのマーケットがむしろ東京に中心が置かれている。しかも造船も世界一であるということから世界各国の船が日本を中心に集まってきております。それで世界の二割なり三割が日本のまわりに集中してきている。そのほかに日本の特色といたしまして漁船がまた世界で非常に多い。それからはしけ、小型鋼船、機帆船を中心にしましての内航船もまた非常に数が多いということで、世界で最もと言っていいほど沿岸が船舶でもってふくそうをしている海域でございます。
ところがいままでの
考え方は、
一般に海というものは広いんだという
考え方がございまして、船の運航その他についてのルールというものはございません。現在あるのは海上衝突予防法というものがありまして、一隻対一隻が向かい合ったときに右側を通りな
さいといったようなルールだけでございまして、このような狭いまわりにたくさん集結しているようなところに適切なルールがない。いませいぜいあるとしますと港則法、港の中にある場合にきめられてあるだけということでございまして、現在のこのふくそう度といいますのは、私
どもの
考え方からいいますともう完全に行き詰まった姿、もう完全に万歳をした姿といっても私は過言ではないというように
考えておるわけでございます。ことさらに、最近は少なくとも三百名、四百名、一番多いところは千五百名の人を、海についての完全なしろうとというのを乗せましたカーフェリーが激増しておりまして、それがふくそう化した
一般船舶と直角に交わり合う航路をとっておる。これもまた人命ということから、もしその船に何かありましたら、私
どもカーフェリーについての一番心配は、ガソリンというものを燃料にしている
自動車がたくさん積まれておりますので、火災ということを非常に心配しておりますが、もしカーフェリー等に火災等がありましたならば、完全に多数の人間が蒸し焼きになるというような悲惨な状況というものも
考えられるわけでございます。それに対して一番必要なのは何かといいましたら、この沿岸に対しまして船が通るそのルールの設定ということをまず行なうべきである。これは緊急にルールの設定を行なうべきである。陸上ではすでに左右分離、一方通行、あるいは高架といいますか、上下でもって
道路の交錯というのも車等行なわれておりますが、海上につきましては何らのそういうルールがない。海面のふくそう化を秩序立てる意味でまずルール化が必要である。外国ではもうすでに始まっておりまして、このやり方にはいろいろなやり方がございますが、陸上と同じように左右の分離のしかた、右左分離する。船ですから風なり波なりでもって漂う性格がございますので、まん中にバッファーゾーンあるいはセーフティーゾーンといいまして、半マイルなり一マイルなりの間隔の安全地帯を置きましてその回りを左右分離をする、あるいはドーバー海峡等でやっておりますように、一方通行、航路を一方的に指定しまして、北にのぼる船はこの航路を通りな
さい、南へ下がる船はこの航路を通りな
さいというように航路を分離をする、あるいはサンフランシスコ、ニューヨークあるいはバルチック海等でも行なわれておりますが、ラウンドアバウトという方式、これは陸上でいいますとロータリー方式になると思いますが、アンチクロックワイズ、あの時計の反回り、反対の方向に全部が回りながらしかも航路を左右分離で出ていくというような方法等が
現実に海外ではもうどんどん行なわれてきておりまして、日本はすでにもう国際的な
立場になっておりますので、日本も早急にまずこれを設定しなければならないというように私
ども考えているわけでございます。そういうように航路分離なりラウンドアバウト、ロータリー方式なりやりますと、船舶の危険というのはいわゆるいままでのような多数船舶の行き合い
関係がなくなる、一方の流れになりますので、追い抜きだけの危険になるということで、危険度が非常に減少するわけでございます。現在私
ども一番心配しているのは衝突でございまして、船と船とが衝突することによってタンカー等が油が漏れる、鉄と鉄とがすり合いますので火が出るということでございますので、まず衝突ということを防ぐという方法からいいまして、しかも最近はスモッグなり霧が非常に多く出始めていることから、視界が非常に悪くなっている状況でございますので、たとえ視界が悪くなっても前のほうに
注意をして左右分離のあれを守っていけば、一方の流れになれば
一つだけの危険になるんだということで、その辺を早急にやっていただきたいというように
考えているわけでございます。
その次は、先ほ
ども申し上げましたような超大型船の処置でございますが、少なくとも、東京湾あるいは瀬戸
内海あるいは伊勢湾というように、閉じ込められました海面といいますか、そのような海面の中には、あのような危険な油といったものを含んだ大量の大型船というものを入れるべきではないという原則をぜひ立てるべきである。実際に
通産省等が奨励をいたしましたことと思うのですが、鹿児島のところに、CTS構想といいますか、原油基地構想というように、たとえ油が流れましてもそれはすぐ黒潮に乗って太平洋の中に拡散さしてしまう、あるいは火がついた場合でも、まわりにはあまり多くの人というものは住んでいない、人に被害を与えるのが少ないというようなことが行なわれて、実際にもすでに行なわれているわけでございまして、ああいう危険の大型化というものにつきましては、その
規制ということをぜひ中に織り込んでいただかなければ大惨事につながるということを特に強調いたしたいと思います。
それから陸上におきましてはハイウエー等非常にモダンな高速
道路等がどんどんできているわけでございます。海につきましても同様のことがなぜ
考えられないかということでございまして、航路を掘ってつくるという新しい航路の開発ということも積極的にお願いをしたいと思います。といいますのは、たとえば浦賀で東京湾に入ります入り口を見ましても、第一海堡、第二海堡、第三海堡とございます。
一般の航路は第二と第三の間に航路があるわけでございますが、ほとんど外国から来る船は、第一海堡、第二海堡の間に海堡を見間違いましてのし上げている。日本のあの浦賀のところはいま世界で一番難所に言われて批判されている場所でございますが、あそこにもし、第一海堡と第二海堡の間に二千メートルなり水深二十メートルなりの航路というものを掘ってつくられるとしましたならば、一方通行になりまして、先ほど申し上げました東京湾全体が
一つのラウンドアバウトの形になり、しかも全部が
一つの流れになるということで、たいへん安全上もよくなるわけで、まず新しい航路をつくるというようなことも、陸上と同じような
考え方で何としてでもやっていただきたいというように
感じます。
それから海上保安庁の問題でございますが、陸上では巡査等がたいへん懇切丁寧に
指導をすることをやっております。
道路でストップをして立ち入り
検査等もやっているわけでございますが、いまの海上保安庁の勢力は、私の記憶では、終戦当時残りました船腹量が百七十五万トンだったと思いますが、現在はもう世界で四番目、間もなく世界で二番目の保有トン数になろうということで、現在すでに二千万総トンをこえているというような、こういう現状に対しまして海上保安庁は、二十四年にできてからまだほとんどその規模というものが大きくなっていない。これなんかもいまのような全体の船腹量に相応した形でもっと、革命的にと申し上げてもいいと思いますが、強化をされまして、海上
交通の
指導ということをやはり親切にぜひ行なっていただきたい。先ほど罰則の問題も出ましたけれ
ども、まず第一に
指導教育ということでございまして、その辺の力がまだたいへん不十分であるというように私
ども考えます。
それから、日本の海運に対する行政につきまして私
ども非常に不満とするところは、大きな船につきましては非常に懇切丁寧ないろいろな行政なり措置が行なわれるのですけれ
ども、小さな船に対する措置というのがいろいろな面で怠りがございます。特に漁船でありますとか、内航船でありますとか、機帆船でありますとか、そういう船に対する親切な行政
指導がない。しかも数におきましては非常に多い、海難等で喪失する人命も非常に多い、こういうところに対する対処のしかたがない。たとえば
交通にいたしましても、瀬戸
内海等を
考えましても、小型船なり漁船なりの通る小さな航路というものを、もっと小さな船が通りやすいような親切な
指導なり、標識を立てるなり、航路の開発なりが行なわれるということが、私は緊急に大事なことではないかと
考えております。そのことが逆に言いまして大型船の航路を守るということにもなりますので、
政府全体としても小さな船に対するきめこまかい
対策ということにもっと力を入れていただきたいということを感ずるわけでございます。
それから、いろいろ申し上げました中で私
どもお願いしたいのは、航路というもののルールの設定ということを行なわれますと、必ず沿岸漁民との中の漁業権との問題というのが争いとして出てくるわけでございます。たとえば瀬戸
内海にいたしましても東京湾にいたしましても出てくるわけでございます。この点はわれわれ仲間同士が常に争わさせられるという形になるわけでございますが、ルールの設定につきましては、一部についてはすでにもう国際的な航路であるという点をお
考えになると同時に、政治的な解決といいますか、行政的にもぜひお願いをしたいのは、たとえば瀬戸
内海等を
考える場合に、瀬戸
内海というのは、あの瀬戸
内海全体というのを工業地帯にするのが主なのか、あるいはあそこを観光資源なり、漁業の養殖なら養殖ということを中心とする場所とするのか、その辺の基本的な
考え方というのをまず設定をしていただきたい。いつもそのままどちらつかずにいっているものですから、タンカーも入る、工場もできる、そうしてまた漁業もだんだん水が濁ってきて魚がとれなくなるという争いが現場で行なわれておりまして、その辺のもっと総合的な
対策ということを、あるいは海面別にといいますか、ぜひ、行政面といいますか、正規にといいますか、はっきり目標というものをきめていただきたいことを私
どもお願い申し上げたいと思います。
それから、
法案の中に海難救助のことが出ておりましたが、日本の海難救助体制というのは最も幼稚と言っていいと私は思います。たとえば船舶
一つの救命のなににいたしましても、何十年前のボート
一つがいまだに行なわれている。ようやくこの前、
国会の御努力によりまして、ゴムいかだ
一つつけましたところ、昨年一年間で一千九名という人命をゴムいかだが救出しております。昭和三十九年から五カ年でもって二千六百七十五名という人命を救出しておる。ことし一月一日からこの六月までの半年間でも、四百四名という人間を救っているわけでございまして、海上におきましては、まず最初の設備ということがいかに大事であるかということを私
ども痛切に感ずるわけでございまして、海上におきましては、まず私
ども、海上に科学性をということを盛んに言っておりますけれ
ども、飛行機等のいろんなこともありますが、まず海難救助にシステマチックな救助体制といいますか、そういう面の科学的な導入ということを早急にお願いをしたい。一方にただ海洋開発ということを言うだけでなくて、海洋開発を言うならば、それと平行して、安全
対策ということもバランスをとって進めなければ、
ほんとうの海洋開発にはならないというように
感じているわけでございまして、この点もいろんな点でお願いを申し上げたいと思います。
それから、最後に、岸壁のターミナルの問題でございますが、日本の港は地獄であるというように外国船員から特に
指摘を受けております。最近新しくたくさん港ができます。行ってごらんになりましたら、岸壁の高さが三メートルないし五メートルございまして、海の中に落ちましたら、どこにもすがって助かる方法がございません、いまの日本の岸壁は。助けに飛び込もうとしても、
自分の命を守るということができなくて、飛び込むこともできないわけでございます。外国の例を見ますと、たとえば、アメリカが使っております、横浜にあります北埠頭
一つごらんになりましても、三十メートル置きに照明、救命具、繩ばしご、ロープ、そうして百メートルごとに医療具、それから百メートルごとに、何かがあった場合には通信連絡ということが綿密に行なわれております。ノルウェー等のスカンジナビアに行きましても、公園にある池についても救命具といったものがそのふちについているわけでございまして、私
ども、その港の中で、落っこちまして、助かるべくして助からない、ために失われている命もまたたいへん多うございまして、水と陸との接点、このターミナルにおける安全という面につきましても、きめこまかな方策というものをぜひ私
どもお願いをしたいと思います。
私は、
基本法というのができたのはたいへんけっこうなことだと思いますが、問題は、これから先に
法案でどういうように具体的に実施をするかにすべてがかかっていると私は思いまして、その点によく注目しているわけでございますが、海上というのはたいへんに情報の入りにくい場所でございますので、その点を御考慮の中に入れられまして、
ほんとうにひとつやる気でといいますか、特にこれは行政の人にお願いをしたいと思いますが、前向きに、
ほんとうに実施をするということでぜひお願いを申し上げたいというように思います。
これで終わります。(拍手)