○
田中(榮)
委員 私もそのような
方法で
刑罰の
基準を大体内定していらっしゃると思っております。同じように、
裁判所関係におきましても
判決を下される場合において、各地方
裁判所あるいは
高等裁判所においても、同様な
刑罰の
基準というものを設けて、そうして
実地調査しかつそれに
裁判官の主観を入れて、
ケース・
バイ・
ケースによって公平な
判決を下されておると私は信じておるのであります。
そこで、私はこれから二、三の例をあげて、はたしてこれで公平であるかどうかということをひとつ
批判をしてみたいと思うのです。決して干渉ではありませんから、あらかじめ申し上げておきたいと思います。
私の
親友、これは
名前を伏せます。K君は、
昭和四十一年八月二日午前五時ごろ、平塚市の
高浜台湘南遊歩道路において、
早起き会に参加せんとして走って横断中のある主婦に衝突して、これを死亡せしめました。たまたま
K夫妻が同乗しておりましたので、直ちにこれを介抱し、もよりの病院に運び、その後
K夫妻はほとんどそれにつき切りで看護をいたしましたが、ついに死亡いたしました。その後、葬儀その他の全部の費用を持ち、その家庭を何回も訪問し、あとの世話をしておりました。
遺族も好意を持ち、夫君はみずから
裁判所に出向いて
減刑の
嘆願書を提出いたしました。Kは非常に性格が豊かな人であり、また非常に
人格のとうとい人でありましたので、私も
嘆願書を提出した一人でございます。一審は
禁錮八カ月、そこでさらに二審の
東京高裁におきましては、
被告はいたくその非を反省して
改俊の情を認めるということで、
禁錮五カ月の
減刑の
恩典に浴したのであります。K君は、私は人を一人殺したのであるからして
禁錮五カ月まことにありがとうございました。喜んで私は刑に服しますといって、五カ月間彼はまじめに
模範囚として刑に服して、すでに出獄せられておるのであります。そのときに私は、せめて
執行猶予がつくかと思ったのでありますが、ついに
執行猶予はつきませんでした。
それからもう
一つ、
昭和四十四年二月十二日、
港区内の某
酒類販売会社の
社長S氏より私の手元に、このような印刷された
書類が配布されました。これはおそらく多数の
人々にこれが配布されたと思うのであります。この
内容をちょっと御披露いたします。これも匿名で
社長S氏と一応言っておきます。
S社長の
従業員Iは、
昭和四十二年七月二十六日午前十一時二十分ごろ、品川区荏原四丁目六番地先にて、
左側のガソリンスタンドより突如ライトバンがガソリンを詰め終わって
道路を横断せんとして出てきたので、驚いて
ハンドルを左に切ったところ、たまたまその
左側を並んでO君が運転していた
原動機付自転車が進行していたのに気づかず左に急転回したので、O君を
自転車ごとひいて死に至らしめた
事件に対し、
社長S氏は
被害者の
家族と直ちに
示談に入り、
見舞い金等一千七十四万円を早急に支払うことになり、
円満示談解決をしたのであります。しかしながら一方、
刑事事件として第一審におきましては
求刑どおり禁錮十カ月の
判決を受けました。第二審におきましても控訴棄却されまして、
禁錮十カ月
執行猶予なしという
判決を受けたのであります。
このことにつきまして、この
S社長から私に来ました
書面のおもなることは……。
〔
田中(榮)
委員、
石原説明員に
書類を示す〕
これは
京都の
読売新聞だと思います。十二月二十五日付の
京都の
読売新聞に「
遺族の
直訴でポンと
慰謝料」という題名で
松下電器の
松下さんが
直訴を受けたので、
損害賠償千七百万円、
見舞い金二百万円を渡した。そこで
急転直下示談が解決して、
判決も
禁錮六カ月になり、
執行猶予二年というまことにありがたい
判決が下されたのであります。これは
京都の
五条通りで
松下電工株式会社の下請の
丸正運送店の
自動車が前にとまっておった車に追突いたしまして、その車がはずみで
前方に突き出していって、市電、バスと正面衝突して、乗っておった
運転手が死んだ、こういうことであります。その死んだ
運転手の
家族、
妻子が非常に
生活に困って、兄が十カ月ほど
示談をやっておったが、ちっともらちがあかない。そこでやむを得ず、
妻子の
生活の困窮を見るに見かねて、
松下幸之助氏あてに直接
直訴の手紙を出した。
松下会長はこれをごらんになって、まことに気の毒である、そういうことで、何とか早く解決しろというツルの一声で、いままでの
示談が急転直下解決いたしまして、一千七百万円の
損害賠償と二百万円の児舞い金を出されることになって、
遺族の方もたいへん喜んで、これが解決して、
判決もおそらく六カ月になり
執行猶予もついたんだと思います。しかし
S社長の
考えは
自分のところは、一千七十万円の金は
中小企業で非常につらい。一千七十万円の金を出すにも非常につらいんだ。それも
遺族のことを
考えてぽんと出した。片方は天下の
松下電器であり、
自分はほんの一
中小企業にすぎない。それが一千七十万円出したにかかわらず、このように違った待遇を受けるのかというのがこの
書面のあらましであります。この
京都の
判決の中には、この
会社の
誠意を認める、こういうことが一カ条
判決文にうたっておる。
会社の
誠意を認めるというのは、すなわち
会社が
損害賠償千七百万円、
見舞い金二百万円を投げ出したから
会社の
誠意を認めた、だから
禁錮六カ月にし、それからまた
執行猶予になった、こう
考えざるを得ない。ところが
自分のほうは
中小企業であるけれ
ども、非常につらい、がしかし一千万円以上の金を出した。だけれ
ども会社の
誠意は
一つも認めてくれない。依然として
禁錮十カ月の
実刑に服して、いまではやはり
刑務所に入っておる、こういう
考え方でありまして、ただいま
習志野刑務所に
服役中であります。
ちょっと書いてあるところを読み上げますと、「この
小社の終始示した
誠心誠意は、人道を尽くした行動は最高のものであったと自負しております。しかしこれらの
小社の善意は当然のこととして
当局には少しも認められることなく、それのみならず
模範社員であり温厚篤実な
運転手は、全
社員の心からなる
減刑署名運動をしたのにもかかわらず、全く無視された形で当人は
禁錮十カ月という長い体刑を宣告され、本年九月二十七日より
習志野刑務所に収容され
服役中であります。」これにつきまして
当局にお伺いしたいのは、一体どのように
会社の
誠意というものを認めておるかというような
意味の文書が配布されて、これはおそらく
方々に配布されたと思うのであります。
そこで、私もその事実を
調査せねばならぬと思いまして、私
自身が
京都の
裁判所に出頭いたしました。そして係の
裁判官にお会いしまして、せめてその
心境なり
——私はむしろこの
恩典に浴していただいたことをたいへんに喜んでいる。むしろ
裁判官にお礼でもいたしたいという
感謝の気持ちで参ったのでありまするが、そのときの係の諸君のお
考えでは、
立法権が
司法権に関与してはならないんだという、最初の電話ではそういうお話でありました。私も一
国会議員でございますから、その辺の
事情はよくわかっているはずです。ただ私は個人的に一ぺんお会いして、その間の
事情をお伺いしたいんだと私はこのことを申しました。私の
親友奥野健一という最高裁の
裁判長は、八
海事件を審理して
判決を下した。全部
無罪にした。その瞬間に、彼は
新聞記者にインタビューして、
自分の
心境を発表いたしております。
裁判長がこのように民主的に、
自分の
判決を下した
心境を公々然と
新聞記者にインタビューして発表されている事実もある。だからこうした
事件について、むしろ
国会議員が
感謝の意を表して訪問したにかかわらず、全然面会もさせないで玄関払いを食らわしたというのは、少し私は礼を失したやり方ではないか、こう
考える。だから
裁判所というものはとかく
民衆から離隔されるのだ、離れているようなことになる。私はこういう点で、いま少し
裁判所というものが民主的に
民衆の声、民の声を聞いていただきたい。これは
法務省の方に申し上げてもどうにもならぬことです。これはいずれ
速記録によって
裁判所の
方々もお読みになると思います。この
事件はそういうことであります。
それから、もう一例を申し上げます。これは非常に
知名度の高い
——名前を発表するのを避けますが、ある
知名度の高い
動物学者であります。Hと申します。H氏は、
昭和四十一年二月十九日午後十時三十分ころ、
普通乗用車、これは
外車で
左ハンバルです。これを運転して山梨県
富士吉田市付近の
国道吉原−
大月線を
大月方面から
富士吉田に向けて走行中、これは十時三十分ですから夜ですよ。先行する
貨物自動車を追い越さんとして、スピードを出して
貨物自動車の右側に出てほぼ並行になったのであるが、そのとき
道路前方に対向してくるM君の乗った第二種
原動機付自転車の前
照灯を発見したが、
夜間のため同車と自車との
距離等が十分に確認できない
状態であったが、この場合
自動車運転者としては直ちに追い越しを断念して
貨物自動車の後方につき従う業務上の
注意義務があるのにかかわらず、これを怠り、そのまま継続して運転して
バイクと衝突して、Mを
バイクもろともそばのみぞに突き落として、
頭部強打で即死させた。第一審の
判決は
罰金四万円です。私は、
加害者が
注意義務を怠って、しかも人間一人を殺しておって
判決が
罰金四万円だ、少々軽きに失しやしないかと思っておったのですが、これは
東京都下の
新聞に堂々と出ました。さらに
被告H氏は
——H氏というのは
人格者であり、私もH氏を尊敬いたしております。H氏の個人的なことについては申し上げません。これはりっぱな方であります。H氏はその職を直ちに辞して改悛の情ありと認められたのでありますが、その第二審におきましては何とこれが
無罪になったのであります。もちろんその
状況によりまして、人を殺して
無罪になるということも、これは
交通事故のたてまえで相手方に重大なる
過失のある場合においては当然
無罪になるのもよろしいと思います。そこで私は、どうもこの
事件についてやや不審に思いまして、私の秘書を
現場に派遣しまして、
関係の
警察署の
係官のお立ち会いを願って
現場で
実地調査をさせてみたのでありますが、どうも
警察署の
係官の言うことによりますと、
外車でありますから
左ハンドルです。
左ハンドルで抜こうとするときには、なかなか
前方が見にくいことは御承知のとおりであります。しかも夜の十時半、しかも未知の
土地です。抜いた向こうから
自転車が来た。それならば、当然それを断念するのが普通でありますが、そのまま突っ走って衝突した。しかも
自動車と
側溝との間が一メートル二十くらいしかないのです。
現場で調べたところが、一メート二十から多くて一メートル半、
夜間で一メートル半、しかも大きな目玉の
ヘッドライトが四つくる。こうこうとした
ヘッドライトに向かって、一メートル二十の
側溝と
自動車のそこに突っ走ることがだれでもできるかどうか、物理的に。これが問題だと思います。その辺について私は、H氏が
注意義務を怠ったことは事実じゃないかと思うのでありますが、この
弁護に立った方は私の
親友です。それは相当りっぱな
弁護士でございます。その方が
弁護されまして、この
弁護力が相当制圧しましてついにこれは
無罪になったと思います。これはしかたがないと思います。
罰金四万円が、とうとい人の一命を奪って、そうして
無罪になっておる、こういう
判決がある。私はこの三つの
判決をちょっと見まして、どれが公平を欠いておるか、そういうことは申し上げません。ただ
交通事故の
状況というものは、いずれも大体
状況が全部
過失により、しかも
環境がほぼ同じような
状況であります。
ケース・
バイ・
ケースにとりますと、それぞれ異った
ケースでございまするが、いわゆる最大公約数におきましては大体同じようなものが出てくると思います。こうした場合におきまして、
東西土地を異にした
裁判所における
判決がこのように異なって出されるということは、
憲法十四条によるところの、万人は法の前に平等でなくてはならぬ、
判決も法律と同じような効力があります。そうした
判決に対して
国民は平等でなければならない、公平な取り扱いを受けなくちゃならぬというのでありますが、私はこの点についていささか疑義を持ったのでありますが、こういう場合においてわれわれ
国民の与えられたる道は、法によって
上級裁判所にあくまで争うということであります。しかしながら、お
考えくださいませ。
中小企業の
人々か一体一審で
判決を受けて
——まあS氏のごときは二審までいっておりますが、普通第二審まで
弁護士をお願いして、それだけやる勇気と財力がはたしてあるかどうか、おそらく私は、第一審でおそれ入りましたといってそれに服するのが当然じゃないかと思うのであります。そういうことを
考えますと、私は、
判決というものは、ことに
交通事故というような
判決につきましては、これは絶対に公平でありかつ平等でなくてはならぬという感じを持つのでありますが、政務次官いかがでございましょうか。