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浜崎公述人 朝日新聞の論説副主幹をしている
浜崎則雄でございます。
公営住宅法の一部
改正につきまして、私の所見を申し述べます。
先ほどからるるたくさんの
公述人からお話がございました、また、国会の各位は、私どもよりもむしろその方面には精通しておられるベテランの方ばかりでございますので、私は一々
法案のこまかい点には触れません。そこで、大筋の考え方というようなものを述べさせていただきたいと思います。
御承知のように、先ほどからもお話がありましたけれども、現在の
都市の過密
状況、特にその中における
住宅問題の深刻さというものは、これはもう皆さん、特に国会に出ておられる方は一番御承知のはずだと存じます。私は昨年の末まで
東京におりまして、そして年末に
大阪のほうに転勤いたしました。両
都市圏の
実情もある
程度体験上わかっておりますが、
都市問題の中でも、
住宅問題ほど重大な問題はないと思います。これはいまのままに放置しておきますと、あらゆる面で非常に激しい社会政策的な問題を露呈してくるんじゃないか、こういうように憂慮しております。したがって、
住宅建設というものは、
政府施策の最も重要な柱として今後取り上げていただかなければならないということは、申すまでもございません。
戦後のわが国の
住宅事情は、
昭和三十一年に経済白書が戦後は終わったということを書いて胸をそらせましたけれども、事
住宅に関する限りは、私は、戦後は終わるどころではなくて、ますますひどくなりつつある、こういうように考えます。そして、現在行なわれております
住宅建設五カ年計画、あるいは四十六年から施行されるはずの、現在策定の準備に入っております新
住宅五カ年計画のかりに計画戸数あるいは
居住水準というものが全部達せられたといたしましても、まだまだわが国の
住宅難は
解消するということには至らない、こういうように考えております。したがって、今後のこの
住宅建設というものは、皆さま方のお力によってより一そう強化していただかなければならない、こういうように考えております。
それから、先ほどからもお話がありましたように、現在の
住宅建設計画は、いわゆる公四民六といわれますように、公共
施策によるものはわずかに四割にすぎない、そして六割が民間の自力
建設に依存しております。この政策は、現在
住宅問題は社会政策として考えなければならないという観点に立ちますと、修正して逆転してもらわなければならないと思っております。そういう意味で、この
住宅建設というものが、
政府の投資、公共投資の中で非常に大きなウエートを占めてもらいたいということを皆さまにお願いしたいわけであります。しかも、この
住宅建設の基本は、これはあくまでも
政府施策の公共
住宅は
公営住宅に重点を置いてもらいたい。公団の
分譲住宅とか、そういうようなものに手の出せない、ほんとうに困っている低所得者の方を救うための
公営住宅に大きなウエートを置くべきものであるということは、申すまでもないと思います。ただ、こういうような政策をとるにあたりましては、現在の
国家財政上から見ますと非常にむずかしい面があることは、これは国政全般をおにらみの皆さま先刻御承知だと思います。
国家財政上、いわゆる財政資金が窮迫しておりますし、しかも、
土地の入手難その他から、一挙に解決できるものではございません。非常に長年月かかります。そこで、そうなった場合に、それでは、そういう理想論を幾ら展開しても、
現実に大きなひずみが出ている問題は是正しなければならぬじゃないかということが起こってまいります。そこで私どもは、理想論は幾らでも述べられますけれども、いろいろな
事情から考えまして、当面のこの
公営住宅の
現状というものをそのまま野放しに放置しておいていいものかどうかという点を考えますと、いろいろな
問題点がたくさん出ておりますので、これは
改正せざるを得ないだろう。そこで私のきょうの
意見は、万全ではないけれども、次善、あるいは次善までいかないかもしれませんけれども、何がしかの
改正を行なわなければいけないという
現実に立脚いたしますと、この
改正に
賛成せざるを得ない、こういう
立場で、以下この
改正の要点についての
意見を申し述べます。
第一点の、
土地の融資の問題でありますけれども、私は本質的にはとの問題には
賛成しがたい。先ほど言いましたように、
住宅政策というものは社会政策の一環として考えなければならないという
立場に立ちますと、これは従来あった
補助制度を
実勢価格に見合うように国がちゃんとめんどうを見てやるというのが一番の本筋だろうと思います。いわゆる大蔵省その他の言い分でどうしてもそれができないというのでしたら、では
現実に
公営住宅が建ちやすくするにはどうするかという次善の策を考えないわけにはまいらない。そこで私は、この融資に切りかえることには個人的に
反対でございましたけれども、
全国知事会とか、あるいは市町村会とか、こういうような方々の御
意見を聞き、それから現地の話を聞きますと、いまのような
補助金の補助のあり方では、実際問題として
住宅は建たない。これはどなたか先ほどからも申しましたように、おそらく、場所によっては三分の一、
平均して半分ぐらいしか補助が行なわれていないということになります。これでは、
地方財政は窮迫しておりますし、将来に
負担はかかるといたしましても、むしろ
融資制度に切りかえて、その融資の額を保証してさえもらえれば、そのほうが
現実に家は
建てやすいというのが、一致した
意見でございました。これは冒頭に
大阪市の
大島助役さんが申し上げましたように、
現実に
公営住宅を
建てる場合は融資のほうがやりやすい、だからそうしてもらいたいということが
地方公共団体から強く要望されておりますれば、これは単なる理想論を引っ込めて、そのやりやすくて、当面、家が一軒でもよけい建つような方策に切りかえるということのほうが私は大切だと思います。そういう意味で、心から
賛成するわけではありませんけれども、やむを得ない
改正としてこの
融資制度を認めていかなければしかたがない、こういうように考えます。
それから、第二の
明け渡しの問題でございます。これは現在
公営住宅に入っておられる方、あるいは
公営住宅に入りたくてどうにもならない方という、この両方の
立場を考えますと、これは議論がまっ二つに分かれる、これは当然でございます。私どもは、第三者というと非常に悪いのでありますけれども、そのワク外からものを考えてみますと、現在の
公営住宅に入っておられて、そしてカラーテレビを持ち、あるいはマイカーまで持っておられるというような、そういう人を私どもは
高額所得者と言いたい。こういう方
たちは、やはり、ほんとうに困って、あとに入りたくてひしめいている
人たちに席を譲ってやるということが、
国民の連帯精神、いわゆる助け合い、こういう意味からいいまして、社会正義上あるいは社会
常識上から当然であろうと思います。
聞くところによりますと、この高額所得の水準は二百万円だそうでございます。これは先ほど
中村さんがおっしゃいましたように、私自身はむしろ高過ぎると思う。総理府の家計
調査の統計を見ますと、現在二百万円をこえる所得者は全世帯の三%にすぎません。それから、同じくその
調査の統計を見ますと、年収百四万円というのが、いわゆる夫婦と子供三人の標準サラリーマンの
平均収入でございます。そういうことから考えますと、二百万円という限度は、私は少し高過ぎると思う。これは、
公営住宅に入っておられる方から考えますと、何を言うかといわれるかもしれませんけれども、私はそれが現在のわわれわれ
国民の所得の実態だと思う。そこで、百万円、いな、それ以下の低所得者が非常に多いということをまず考慮に入れなければなりません。この
人たちが
現実にどうしているかと言いますと、先ほども
説明がありましたように、
東京だけでも七十万以上の方が過密狭小の
住宅にひしめいております。しかもこれらの
住宅は、
住宅の名に値するような
内容のものではございません。炊事場とか便所とかが共用になっている、あるいは六畳一間に親子五人が住んでいるというような方々が
現実に非常に多いのです。この
人たちを救済してやるというのが、私はほんとうの政治であり、政策であると思う。したがって、
公営住宅に入っている方々が、先ほども御婦人の方がおっしゃいましたように、子供の教育の問題とか、あるいは定年を迎えるとか、いろいろの
事情はございましょう、しかし、その
公営住宅にさえ入れずに、転々と追い出され、そして、家を求めている
人たちは一体だれが助けてやるのか、それは
公営住宅を
建てればいいじゃないかといいましても、これは皆さん御承知のとおり、簡単にすぐに解決できないといたしますと、この
人たちを順々に入れてやって、そして少しでもゆとりがある方はやはりしんぼうしていただく。昔からいいます、乏しきを憂えず、ひとしからざるを憂う、これがわが国の美風じゃないかと思う。
住宅に関しては、私は乏しきを憂えます。乏しきを憂え、ひとしからざるも憂える。したがって、
公営住宅を一戸でも多く
建ててそしてこの
人たちを救済するのと同時に、二百万円以上も所得を持たれている方は——幸いに、今度の
改正を見ますと、私はやや不満ですけれども、二百万円以上の
収入を持たれている方は、百四万戸のうち四千六百戸です。しかもこの中から、奥さんや子供さんの
収入を合算して、ある
程度、三分の一にするとか、いろいろな処置をとりますと、四千六百戸のうちの三分の一くらいはまた戸数が減ると思います。たとえば二百万円という
収入は、
東京都で申しますと、いわゆる古参課長の
収入です。最右翼の課長の
収入です。宮城県の例をとりますと、これに該当する人は、宮城県の県営
住宅の中では、東北大学の教授と土建会社の社長さんの二人が該当するにすぎない。こういう
人たちを守るために
公営住宅におられる大部分の方がこの法律に
反対するといたしますと、世間の受け取り方はいかがになるでしょう。善良な、ほんとうに貧しい——と言うと語弊がありますけれども、生活のお苦しい大部分の百四万の
公営住宅の方々は、世間から非難されるんじゃないか。なぜ、わずか四千六百戸の
高額所得者を守るために
公営住宅百四万の人が
反対しなければならぬのかということになりますと、これは
公営住宅居住者全体の方々がむしろ
国民から非難されるんじゃないか。私はこの
反対にはどうしても納得がいかないのであります。そういう面から考えまして、私はどうしてもこの
高額所得者——これはわずかで、何も
住宅難の解決にならないとおっしゃいますけれども、しかし、世間は、筋道とか、たてまえということが必要なんです。私は、野放しにしておけという議論にはならないと思うのです。そういう意味から、
公営住宅居住者の方々も、御不満はございましょうけれども、なるべくあとにつかえている
人たちに譲るというおおらかな助け合いの気持ちになっていただきたい。しかも、この四千六百戸という数字は
現実にはそれより減ると思いますけれども、立ちのいた場合に
地方公共団体が他の
住宅にあっせんできる数字だと私は思います。逆に言いますと、この
程度はあっせんできるからというところからこの数字が逆算されて出されているんじゃないかというような気分も私はいたします。そういう意味で、路頭に迷われることはまずございますまい。そして、高い
家賃になるという御不満はございましょうが、
公営住宅に入れないで、しかも
公営住宅に入っている方々よりももっと安い
収入の人は、はるかに高い一畳二千五百円も三千円もするような、ほんとうに環境の悪い
住宅に住んでおるということを考えますと、自分
たちの権利と
義務だけを主張されていましては、
国民生活というものは円満にいかない。
公営住宅にお住まいの方々が、まず、自分よりも苦しんでいる
人たちを何とか助けようというあたたかい気持ちになっていただきたい。これを私どもは心からお願いしたいと思います。
そういう意味で、この
明け渡しの
義務というものは、やはり当然
法改正で認めてもらわなければ困ると思う。皆さんも古い方は御存じだと思いますが、
公営住宅法の
改正は
昭和三十四年に国会をパスしております。そのときの原案もたしか
明け渡し義務があったはずでありますが、国会の修正によってこれが
努力義務ということになっております。その結果、ほとんど実効があがらなくて今日に至っておるということは、もう皆さん御承知のことだと思います。そういう意味で、一見非常に酷なように思えますけれども、社会全般の良識あるいは社会正義というような面から見ましても、私はこの
程度の
改正は当然行なわれるべきであり、なぜいままでほっておいたかということにむしろはなはだ遺憾な思いをするわけであります。
それから次の
建てかえの問題、これは私がここでるる申し上げる必要はないと思います。
公営住宅にお住いの方も、おそらく、心の底ではこの問題に根本的に
反対している方はないと思います。現在の
都市の過密化、
土地の有効利用、
都市再開発というようないろいろな観点から見ましても、この平家
建ての古い
木造の老朽した
住宅をいつまでもそのまま置いてよいということは許されることではございません。しかもこの方々は、
家賃は多少上がるにいたしましても、ほかの
公営住宅に入れない人々に比べれば、新しい家をあっせんしてもらえ、移転の場合は移転料ももらえるのだし、そしてちゃんともとのととろに
居住地を与えられる。これにすら
反対するというようなことは、私は許されることではないと思います。
そういう意味で、一度自分が取った既得の権利は是が非でも守るのだというような、そういう狭いお心ではなくて、もう少しみんなが助け合って国全体、
国民全体が少しでもしあわせになるような
方向にみんな
努力していくということは当然のことであります。特に国会に出ておる方々は、そういう
国民のより多数の
人たちの利益ということを考えて政策を遂行していただきたいと思います。ものを言える
立場にある人と、ものを言えない
立場にある人、いろいろな方々がございます。ただ、従来私どもが外から見て不満に思いますことは、いろいろな組織を持ち、ものを言える
人たちのことが政策の上で大きく取り上げられて、ものを言えない、組織も持たない
人たちの
発言というものがなかなかあらわれてこない。こういう従来の
傾向から見ますと、ものを言えない、未組織の、
住宅にほんとうに困っている
人たちのことをもひとつお考えくださいまして、今回の
住宅法の
改正をお通し願いたい、こういうように衷心からお願いしたいと思います。
最後に一言申し上げておきますけれども、むろん、わが国の今後の
住宅政策で、この
程度のもので能事終われりとしておられては、これはたいへん迷惑でございます。これはあくまでも当面の
改正でございまして、根本的には、冒頭に申し上げましたように、公的
施策住宅を一戸でも多くつくり、そして一人でも多くの
国民に家を与えるという政策を遂行していただかないと困るわけであります。
その点につきまして私どもがもう一つ衷心から国会の皆さま方にお願いしたいのは、
土地問題の解決でございます。先ほどからもるる申し上げておりますが、
住宅問題を解決するのに、
土地政策を何ら樹立せずに何とか
住宅を
確保しようということは、もうこれから不可能なんです。ところが、わが国の
土地政策は列国に比べて最も立ちおくれております。今国会にかろうじて——たいした役にも立たないと私ども思うのですが、
地価公示
法案というものが出されております。しかし、これすらもなお異論があるというようなことを伺っておりますが、このようなことでは、日本の
住宅問題をただ
住宅問題として切り離して幾ら論議しても、私は解決の道はないと思う。したがって、
土地に対する私権の制限ということは、もう百万言を費やしておりますが、皆さま方が所属せられております自民党でも、
都市政策大綱の中で、あるいは社会党でも公明党でも、それぞれりっぱな
都市政策を出しております、その中でみんな
土地問題にはりっぱなことをいっておりますが、それが一向実行に移されない。私はここに
住宅問題が難航している最も大きなガンがあると思う。したがって、非常に申しわけない
発言でございますけれども、
政府がそれだけの
意欲や熱意がないのならば、議員立法で、政党が、あるいは皆さんが一日も早くこの
土地政策というものをもっと強化して、その上に立脚した
住宅の大量
建設というところにこの出発点を返していただきたい。
そういうことで、個々の
住宅法の
改正とか、こういうようなものをいじっていたって私はしかたがないと思う。それはいじらぬよりもいいのですけれども、もう一つ根本の
立場に立って抜本的な
土地対策、
住宅政策というものをひとつ樹立していただきたい。それは
政府には制約があるかもしれませんので、議員立法でちっとも差しつかえない。そういうことにこそ、ひとつ皆さんの偉大なる力を大いに発揮していただきたい、こういうことをお願いしまして、非常に雑然とした話になりましたけれども、私の
意見を終わらしていただきます。
どうも失言の点も多々あったと思いますが、御了承願いたいと思います。