○
金丸(信)
委員 当
委員会理事会の決定に基づき、私のほか、田村
良平君、
渡辺惣蔵君及び
山下榮二君の四名は、去る七月十日午前八時より午後二時までの日程をもって、鎌倉市における歴史的風土の保存並びに風致地区の維持の現状を調査してまいりましたので、その概要を御報告申し上げます。
近年における
わが国経済の高度なる成長は、人口及び産業の急激な都市集中をもたらし、その結果、都市は過密化の現象を呈し、それに伴う都市周辺部のスプロール化はますます激しくなってきております。かかる
状況に対し、昭和四十年十二月、議員立法による、京都市、奈良市及び鎌倉市等、いわゆる古都における
わが国固有の文化的資産について国民がひとしくその恵沢を享受し、後代の国民に継承さるべき歴史的風土の保存を目的とした古都における歴史的風土の保存に関する
特別措置法、略称古都保存法が成立し、翌年一月十三日に公布されましたことは、御存じのとおりであります。また一方、新都市計画法によって、風致地区の決定、決定された地区における建築物の建築、宅地の造成及び木竹の伐採等の行為は、都道府県等
地方公共団体の条例によりその規制を行なう等、京都市、奈良市及び鎌倉市等の自然の保護については、国及び
地方公共団体とも法制的にもその適切なる
措置を講ずることとなっております。
われわれは、この中にあって、首都圏におけるその代表的な市であります鎌倉市の現状を拝見することができましたことは、将来の
国土の保全を思うとき、たいへんに参考になりましたので、以下、鎌倉市の概況及び視察個所について申し述べることといたします。
鎌倉市の面積は約四千ヘクタールありますが、その中において、歴史的風土の保存区域が約七百ヘクタールあります。歴史的風土保存区域の中でも特にその規制をきびしくしております特別保存地区が、約二百三十ヘクタールあります。この約七百ヘクタールの歴史的風土保存地域が鎌倉市に占める割合は、約一八%となっております。また、風致地区は約二千二百ヘクタールありまして、鎌倉市に占めるその割合は、実に約五五%となっております。
かかる
状況にあります鎌倉市が、近年における東京、神奈川等への人口集中と、これに伴います土地需要の増大によりまして、住宅地の開発に関する申請が急にふえ、神奈川県及び鎌倉市におきましても、もろもろの事情により、その取り扱いに対する適正なる判断に困難を来たしている
実情であります。
なお、歴史的風土特別保存地区においては、不許可の決定をした場合、県がその土地を所有者の申し出により買い入れることとなっておりますので、特別保存地区では現在特別の問題があるとは聞いておりません。
われわれが
最初に調査いたしました場所は、鎌倉の北部に属します今泉地区吉ケ沢、柳谷戸及び滝ノ入、別名散在ケ池周辺であります。本地区はもともと都市計画法による風致地区でありましたが、昭和四十一年、首都圏近郊緑地保全法によります第一次近郊緑地保全区域指定の際、首都圏
整備委員会といたしましては、鎌倉市と横浜市との両地区を一体とした区域で指定するよう計画を進めておりましたが、当時、横浜市側における計画上の都合によりまして第一次の首都圏近郊緑地保全区域の指定は見送られ、その後、指定に対する調整がつきまして、本年三月、首都圏近郊緑地保全区域に指定され、現在は、都市計画上の風致地区でありますとともに首都圏近郊緑地保全区域にも指定されている地区であります。
まず。今泉地区の吉ケ沢、柳谷戸にわたる信販コーポラス株式会社による宅地造成地二十九万五千平方メートル、九百六十五区画の現場であります。本地区における住宅地の造成計画は、昭和三十九年六月、昭和四十三年三月にそれぞれ許可され、現在はほとんど事業を終了し、住宅の建築も進み、相当数の市民が生活しております。本宅地造成を許可した理由につきましては、当地区が鎌倉市の中心からは尾根で遮断されているため、直接に見えることはなく、また風致を害することもないとの判断からのようです。しかし、地区住民は、尾根の南側が歴史的風土の保存区域並びに特別保存地区になっております点及び現に風致地区であることから、自然保護に対する不安があるようです。ただ、本地区と隣接し、歴史的風土保存区域であり、風致地区でもあります山ノ内明月谷という場所に高層マンションの建築申請が出され、地元住民に不安を与えております。本申請に対し、県としては、計画の修正を求める等さらに
検討を加えているとのことです。神奈川県及び鎌倉市におきましては、それぞれの事情はあることと思いますが、かかる地区における住宅の高層化につきましては、今後とも大きな問題ともなり得る要素を含んでおりますので、その扱いには特に慎重を期していただきたいと思うのであります。
次に、今泉地区の滝ノ入、別名散在ケ池周辺の宅地造成についてであります。
本地区は、
日本開発株式会社が本年の三月に住宅地造成の許可を得た
ところでありまして、事業の本格化はこれからでありますが、本住宅地造成計画は五十万九千平方メートル、三百九十九区画が予定されております。散在ケ池、またの名を鎌倉湖と申しますこの周辺は、鎌倉市における唯一の湖を有する地区でありまして、市民並びに観光客にとっては、史跡と自然を結ぶハイキングコースとしても親しまれている地区であります。
かかる観点から、神奈川県及び鎌倉市としても、開発の許可をするにあたり、自然の美をできるだけ破壊しないような計画とする指導を行なう等、古都鎌倉にとってはなはだいわれのある本地区の宅造には詳細なる
検討が加えられているとも聞いております。しかし、歴史的にも風致上からも重要な地区における開発は、慎重の上にも慎重を期し、絶対に悔いを残すことがあってはなりません。このため、
地方公共団体、地域住民及び宅地造成者は十分に納得し合い、協力し合わなければ、古都鎌倉の保全という社会的大使命を達成することは困難と思われます。成造の許可については、
地方公共団体の責任においてやられたことであり、とやかく申し上げませんが、宅地造成による切り取り部分の緑化、環境
整備等については十分なる配慮と細心なる注意を払い、風致の維持に特段の努力をすべきでありましょう。
次に、十二所地区における住宅地造成計画についてであります。
本地区は鎌倉市の東部に属しておりまして、われわれが今回調査した個所のうち、唯一の古都保存法による歴史的風土保存区域に指定されている地区での宅造計画地であります。本地区の住宅地造成計画は、三井物産株式会社が施行面積三十五万六千平方メートルの申請をし、現在鎌倉市が受理いたし、市の都市計画
審議会にて
審議中のものであり、いまだ許可不許可の決定はいたしていない地区であります。
本地区は、さきにも申しましたとおり、歴史的風土の保存地区でありますが、御存じのとおり、古都保存法における特別保存地区は、不許可に対する土地の買い入れ規定がありますが、
一般の保存区域は
知事への届け出のみであり、必要に応じて
知事が助言及び勧告をする規定となっておりますため、法律的にも強力に規制できる
措置がありません。しかし、古都保存法の国家的、社会的重要性にかんがみ、その
趣旨並びに意義を尊重して、
地方公共団体及び
地方審議会はあらゆる角度から鎌倉の将来を
考え十分な
検討と
審議を尽くされることを望むとともに、本地区における歴史的風土保存の問題が、一鎌倉市のみの問題に帰することなく、その結論が今後における
国土保全に対する健全な姿となるよう、
関係者は率先して国民の期待に沿えるよう強く要望してやまない次第であります。
最後に、腰越における蟹田谷地区の宅地造成について申し上げます。
本地区は、鎌倉市の西部に属する風致地区内の宅地造成地であります。本宅造は、榎本商事株式会社及び株式会社湘南モノレールの共同事業であります。本事業の施行面積は十三万六千平方メートル弱で、その区画は三百九十八区画の予定であります。
本事業は本年六月に許可されたものでありますが、本事業に対する住民の不安は、鎌倉山一帯の風致が破壊されることはもとより、この宅地造成により、鎌倉独得の地形からくる塩害、風害のおそれがあり、さらに降雨による地すべり、鉄砲水の危険がある等、風致上、防災上からも不安があるようです。これら住民の不安危惧に対しては、県、市、さらには国の機関も、住民の
立場を十分考慮し、住民に不安を与えず、住民の期待に十分こたえ得る対策のもとに、開発者に対し適切な指導を行ない、事業の実施に万全を期するよう強く要望いたします。
以上が今回の調査の概要でありますが、各種の問題について、直接の行政は神奈川県及び鎌倉市当局の自主的判断にかかっておりますことは申すまでもありませんが、鎌倉市は、国民の歴史的財産を数多くかかえ、さらには自然の緑地を十分に有している土地でもありますので、現今の都市問題解消への大きな歯車として、
政府当局は、古都保存法並びに都市計画法等の適切なる運用をはかるとともに、その効力を遺憾なく発揮させるため、
地方公共団体に対し、適正にして、かつ十分なる計画あるいはその実施の指導を行ない、鎌倉市におけるこれらの問題の提起が、一鎌倉市のみの問題にとどめることなく、
わが国の将来における
国土保全の問題として、その対策に万全を期するよう強く要望して、今回の調査報告を終わることといたします。