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佐藤(達)
政府委員 本日この機会に私の
発言をお許しいただきましたことについて、心から感謝をいたしたいと存じます。
ただいまお手元に、
人事院と書きました
謄写版刷りのものを二枚お配りしておりますが、一応その
謄写版刷りをながめながら、ごく簡単に御
説明申し上げまして、その
あと若干つけ加えさしていただきたいと存じます。
この問題になっております
国家公務員法関係の
条文は、御
承知の第百三条でございますが、この百三条のねらいとするところについては、これは当時、この
規定が制定されましたころの
国会での
説明もされておるわけでございますが、要するに、
職員が
在職中の
地位、職権を乱用して
特定の
営利企業と私的な
情実関係を結び、これを利用してその
企業に
就職しようとする弊害を防止するため、
在職中密接な
関係のあった
営利企業の
地位への
就職を禁止することによって、
在職中の
職員の
服務を厳正ならしめようとすることにある。要するに、
在職中コネをつけてもそれはむだですというかまえを
法律で設けたものと
考えておるわけでございますが、ただ、無条件にこのような
就職禁止をいたしますことは、退職した
職員に対しましてこれはもう
国家公務員たる
身分を離れて、普通の
日本国民になっております
関係上、
憲法の保障をフルに受ける、
職業選択の自由を受けることになっておりますに対して、大きな
制約を与えることにもなるということから、同じ
条文の第三項におきまして「
所轄庁の長の
申出により
人事院の
承認を得た場合には、これを適用しない。」という
除外例を設けておるわけでございます。したがって、
人事院は
申請を受けまして、具体的な
ケースごとにその
判断をいたします。この場合、申すまでもなく
基本的人権と
公共の
福祉との
関係というような点をも重視いたしまして
審査をいたしておるわけでございます。
そこで、第二といたしまして、この
制度の
対象となっておりますのは、これは申すまでもありません、
営利企業と密接な
関係のある国の
機関に
在職し、かつ、その
営利企業の
地位に
就職しようとする
一般職国家公務員の
退職者でございます。したがいまして、申すまでもありません、
特別職の人々と
自衛官等を除きましてはかぶってまいらない。もちろん
地方公務員、公団、公社の
関係もかぶってまいらない、こういうことでございます。さて、この
申請は、その
本人が退職するときに所属しておりました
役所の長、すなわち
各省大臣あるいは
外局長官から
人事院に対して
申請されることになっております。私
どもとしては、
個人がばらばらに
申請してくるについてはこれは乱にわたる、したがって、
各省大臣が一応責任を持って、そして
大臣の
名前で
人事院に
申請してくる、そういう
制度の
趣旨だろうと思いますので、たとえば、
申請者が
大臣の
名前でない、
事務次官などの
名前になっておるというようなときは突っ返して、
大臣の
名前で出してくれというようなことをやっております。
そこで、各
省内部の実情を見ますと、たとえば、ある局の
関係の者、これの場合を
考えますと、第一次的には、その
当該所属機関の長が適当かどうかという
判断を内部において行ないます。適当と認めますときは、その
所属長官から
申請の手続をとるということになります。
かくして、第三点といたしまして、
申請を受けました
人事院としては、
本人の歴任した
ポストとその
営利企業の
地位との
関係に主眼を置いて、各
事案ごとに
審査をいたしております。
本人の歴任した
ポストをつかまえておりますことは、これも制定当時の
国会における
政府委員の
言明からそういうたてまえが明らかにされておるわけでございまして、そのたてまえを踏襲してやっておるということでございます。そして、
具体的事件ごとに綿密な
審査をやる。ときには、現場の
実地調査に人をつかわしまして
調査をするくらいのこともやっておるわけでございます。
なお
申請の前に――何
ぶん大臣名で出すものですから、これが
人事院にけられてしまうと非常に形がぐあいが悪いというわけで、
各省からあらかじめ、これはどうでしょうかということで相談に来られる場面が非常に多うございまして、非公式な
判断を求められる。その
判断の結果、これはわれわれとしてはやはり
人事院会議を開きまして、実は私も加わって、非公式ではありますけれ
ども、慎重に
審査をした上で、これはだめだという場合にはそのことを申し渡しまして、これは
各省側から撤回をするという形になっております。したがいまして、
人事院の
審査は全部オーケーじゃないかというふうに見られますけれ
ども、その形で撤回されるものが毎年相当ございまして、昨年の場合は約三十件近いものが撤回されております。ただ、
週刊誌などの記事を拝見いたしますと、ただでさえ甘い
人事院にはねられたというのは、これはよほど悪いことをしたやつだろうというふうに書いてございますが、これは決してそうではございませんで、ここに
カッコ書きでつけ加えておきましたけれ
ども、この
制度の性質から申しまして、
本人が形式的な条件に該当する以上は、いかに
在職中公正に職務を行なっていてもこの
就職は
承認されることはないんだ。これは冷厳なる
法律のたてまえでございますから、私は、そのような
批判を受けた御
本人に対しては非常に気の毒だと思いますが、きわめて冷厳なる
制度になっているということをつけ加えさしていただきたい。
そこで、別の紙に、去年の分についての
報告の概要を簡単に申し述べておきました、これは
ごらんになればわかることでありますから、くどくは言いませんが、大体去年、
昭和四十三年じゅうに
人事院が
承認した
件数は百三十七件、
人数は百三十六人。一人で二件の者がありますから、
人数と
件数とはちょっと狂っております。このうち、
本省課長級以上の者で
承認ざれたものは百二十人ございますが、これに相当する官職の人で四十三年じゅうに離職した者が何人いるかというと、約千六百人おります。
離職者数約千六百人の中での百数十人である、こういうふうに御理解をいただかねばならないと思います。
おもな省庁の
承認件数は、これはもうかねがね御
承知のとおりでありますので、あらためて申し上げません。
それから、
承認されました者を
事務系、
技術系と分けてみますと、
事務系が八十二人に対しまして
技術系が五十四人となっております。これは御
承知のように、全体の
公務員八十四万人ばかりの中で、
事務系と
技術系との
人数のバランスはどうかと見ますと、もちろん
技術系は非常に少ないのでありまして、全体の一七・五%
程度を占めておる。
技術系はそれだけしか占めておらないわけでありますけれ
ども、この
就職の面から申しますと、
事務系八十二人に対して
技術系五十四人となっているということは、大体毎年の
一つの例になっておる。
技術者のほうが比較的多いということであります。よしあしは別でございます。
それから、
承認件数を
就職先の
地位別に見ますと、
取締役等の
役員が五十五件、それ以外の
顧問、
嘱託等の非
役員が八十二件ということになっております。
それから、
承認された者の
年齢を見ますと、これも
一つの問題を含んでおると思いますが、四十歳未満が去年は一人。三十九歳であります。四十歳代の者が四十人。それから五十歳代が八十七人、六十歳以上八人ということになっております。
これがいまのプリントについての大体の御
説明でございますが、これに関連いたしまして、私
どもがかねがね
考えておりますところを率直に申し上げまして、
あとでまた御
批判を仰ぎたいと存じます。
第一点は、卑俗な
ことばでいえば、
人事院の
審査は甘いのではないか、これに対して
人事院はどう
考えるかというような面を念頭に置きまして申し上げて、これは言いわけがましくなるかもしれませんけれ
ども、御
批判は別であります。
そこで、そのやり方は、
役所全体とその
会社との
関係は密接であっても、私
どもの
審査では、その人の経歴上から見た職歴の上で、
会社に対する不当な
支配力を与え得ない
ポストだという場合には、これは大体認めてよかろうというたてまえになっております。これが
一つのめどであります。このことは、先ほ
ども触れましたように、現在の
条文ができましたときの
国会の
審議の過程において、当時の
提案者たる
政府側がはっきり申し上げている筋でございまして、それを踏襲しておる。
それから、いま、当時
審議されたときの
政府の
言明ということを申し上げましたが、いまから
考えますと、実に感慨無量なものがございます。この現在の
規定が
審議されましたのが
昭和二十三年の暮れでございました。そのとき、この法案は、当時の、
人事院の前身であります
臨時人事委員会がたしか受け持っておったと思いますが、その
審議の際の御
議論として出てきましたところは、ほとんど、この
制約は行き過ぎではないか、
退職者に対しては酷に失するのではないかというようなことが、
基本的人権にも触れて
批判されまして、それが集中しております。たとえば、
事務次官のごときはどこにも行き場がなくなりはしないか、それでいいのか、また、
労働者の弾圧につながるんじゃないか。これははっきり
速記録に出ておる。私が申し上げますと非常にオーバーにお聞き取りになるといけませんので、
速記録の番号を申し上げておきます。第三回
国会、
人事委員会二十三年十一月二十七日の
速記録を
ごらんになりますと、まさに隔世の感があると思います。したがいまして、当時の
臨時人事委員会の
当局者としては、いまさら弁護するわけではありませんけれ
ども、そういう御
追及を受けまして、
速記録を見ますと、そういうことは
承認の
運用の妙によってよろしくやりますということを、二回ばかり言っておるわけです。したがって、その
運用の妙が、今度は
運用そのものにあらわれてきておるわけであります。いまから見ますと、相当ルーズな
扱い方がされておりました。しかし、世の中はだんだん変わってまいり――おそらくそのころは
公務員の
信用というものは確立されておったんではないか。皮肉な言い方をすればそういう気もいたしますが、不幸にして、最近、
公務員に対する
信用というものは非常に下落してまいっております。そういうことが、おのずから、このいわゆる天下りの名において非難されておるという空気になったと思います。したがって、
世論も、今度は甘過ぎるではないかという
世論になって、
国会の御
意向もそういうことであります。したがいまして、
人事院といたしましては、もちろん旧套を墨守すべきではない。やはり
世論なり
国会の御
意向を体して
引き締めなければならないということで、たとえば、この発足当初、
事務次官が
会社の会長さんとかなんとかに大手を振ってなっておった当時の例がずいぶんある。それはそういう背景からきたものだと思いますけれ
ども、現在ではそういう点を相当
引き締めておる。
それから、その後さらに、御
承知の
国会に対する
報告制度というのができました。私は、前に、
人事院総裁就任の
辞令書をいただきまして、ここにご
あいさつに伺ったすぐ
あとで、猛烈に
皆さんの御
追及を受けまして、非常にしどろもどろの答弁を申し上げたことを思い出します。それらのことも十分身にしみて
考えまして、そうして次々と
引き締めの
方向に進んでまいっておるわけであります。したがって、今後もその態勢をもって、やはり
世論に耳を傾けながら進めてまいりたい。これははっきり申し上げます。
ただ、この
引き締めの場合について、やはりわれわれとして無視できないのは、
憲法の
基本的人権との
関係、これの壁でございます。これは釈迦に説法でございますけれ
ども、御
承知のように、
憲法の十三条では
幸福追求の
権利を保障しておる。二十二条では
職業選択の自由を保障しておる。二十七条では勤労の
権利を保障しておる。さらには平等の原則もございますが、要するに、すでに
公務員でなくなった、平の
日本国民になった者に対して、これらの
権利を
制約するというためには、明白に、
公共の
福祉上これだけのやむを得ない要請があるんだという理論が立ちませんと、
人権の制限はできない。これは
憲法の当然のたてまえであります。
ただ、この場合に、一体
公共の
福祉とは何だろうということをわれわれ
考えてみますと、汚職をやった人は、これは刑罰に処すればいい、刑務所にやればいい、
懲戒処分に付すればいい。ここで
対象になりますのは、それとは別のものをここでチェックしよう。そこで、先ほど触れましたように、
在職中に清廉潔白で、何も悪いことをしなかったという人も、ある
特定の
ポストにいたからという理由のみで
就職を制限されざるを得ないという、その意味ではきわめて強い
規制になっておりますために、そのための
公共の
福祉というのはどこにあるだろうか、これは率直にわれわれ
考えるわけであります。この場合に
考えられるのは、最初にこの
条文の
趣旨として申し上げた、このことによって
在職中の
公務員の
服務の適正を期するんだ、これは確かに
公共の
福祉ではございますが、さてその面から見ますと、たとえば非常に優秀な
技術者が
勧奨退職で
職場を追われて、そうして、その
技術を生かそうとして
関係の
会社に行こう、
関係の
会社でありましょうと、
技術を生かすための、経験を生かすための
職場に行って活躍することは、実は
社会に対してはむしろ貢献になるのではないか、
公共の
福祉に害があるどころか、むしろ
社会の
福祉に対して
プラスになるんじゃないか。これは、数年前のロンドンのエコノミストに、
日本の
官僚は非常にすぐれておるということを書きまして、
日本の
経済興隆が今日に至ったのは、
官僚がすぐれていることとともに、優秀なる
官僚がどんどん
民間会社に入って、そうして活躍しているからだというようなことを、これは
日本では皮肉としてしか見られておりませんけれ
ども、率直にいえば、
公共の
福祉からいえば、そういう面から
公共の
福祉には
プラスになるんではないか、そういうようなことが、理屈になりますけれ
ども非常にございます。そういう面も兼ね合わせて
考えませんと、なかなか断固たる
処置がとれないんじゃないかということがわれわれの従来の
一つの悩みでございます。
したがいまして、その辺のところをわきまえながら、これはおそらく
憲法アレルギーとおっしゃられるでありましょうし、私
自身憲法を手がげたために一種の郷愁から言っておるんじゃないかという御
批判は甘んじて受けますけれ
ども、
憲法の
基本的人権を
考えます場合には、やはり
公共の
福祉との
関係は、そうルーズには
考えられないんじゃないかという
気持ちがございます。したがいまして、そういうことを申し上げただけであります。
しかし、それにいたしましても、壁は壁として、その壁に至るまでにまだ数段階あるんじゃないかというのがわれわれの
気持ちであります。一
押し二
押しとこれを締めていく道はまだあるんじゃないか、そこをいまだに熱心に検討を続けておるということは、これは事実でございます。
もう
一つ、念のために申し上げておかねばなりませんのは、以上私の申しました
人事院の
規制、これは
国家公務員法に基づくいわば法的な
規制について申し上げたわけであります。各
個人の
方々の
自粛あるいは
各省の、あるいは各庁の
自粛ということは、これは全然別問題でございます。今日でしたか、
新聞に
行政監理委員会の
意見書というのが出ております。これは
各省側も
自粛していいんじゃないかということを指摘されております。これはまさに私がいままで申しました
法的規制の問題とは並行して
考えられる別の問題であります。私
どもとしては、
自粛をしていただくと同時に、われわれも、いま申しましたように、さらに
承認制度の
合理化、
厳粛化という
方向に歩調を合わせて
努力をしてまいりたい、そういう
気持ちを持っておるわけであります。
最後に、これは実は
人事院総裁として申し上げるよりも、ここに御列席の各
参考人の諸
先生の立場に立って申し上げたものとお聞き取り願ったほうがよくはないかと思いますが、しからば、この
抜本策はどこにあるかということを、私の思いつきを申し述べまして、
あとの諸
先生の御
意見も承らしていただきたいと思いますので、あえて
ことばをつけ加えさしていただきますと、この
抜本策につきましては、たとえば、代償措置的なものとして
退職金あるいは年金などの拡充をすべきではないか、あるいは
人事局あたりで集中的にその
処置をやる、交流をはかるべきじゃないかという御
議論がございますけれ
ども、何と申しましても、問題の根本は、
公務員に対する
信用の問題であろうと私は痛感いたします。今日、とにかくこの
制度の
運用が甘いという
批判がありますのも、
公務員に対する
信用が下落しているからではないかというふうな見方は、私は十分成り立つと思います。残念なことでありますけれ
ども、
堀田それがし一人出てくると、この
堀田それがしによって、ごく一部の不心得の者のために、多くのまじめな
公務員諸君、その
公務員全体が
信用を失墜しておるということは、まことに残念なことだと思います。
公務員部内における綱紀の振粛が徹底いたしまして、そうして
公務員の道義が確立するならば、実はこのような
法律の
規制そのものがほんとうは要らないんじゃないかというふうにまで
考えます。したがいまして、これは
総理府の
人事局あたりともわれわれタイアップいたしまして、今後もこの
公務員諸君の
信用の回復ということに対してはあらゆる
努力を尽してまいりたいと思っております。
それから第二は、先ほど
年齢のことを申しましたけれ
ども、とにかく有能な人材が四十代そこそこで官界を去ってしまう。これはまことに国としても大きな損失ではないかということについては、どなたもお
考えになるだろうと思う。しからば、
定年制等を設けて、これを長く引きとめるべきではないか。むしろ
定年制というのは近ごろでは引きとめの作用のほうに
考えられておるわけであります。そういうことをいたしまして、長く
職場にとめておくべきじゃないかという
考えが当然浮かんでまいりますが、さて、その場合の
新陳代謝をどうしてはかるか。多数の下積みの
公務員諸君が、
新陳代謝が停滞しているために、いつまでもくさって、くすぶってしまうこの
人たちに対して、いかように励みを与えるかという重大な問題が一面にあるものですから、なかなか単純に割り切れるものではありません。そのために、たとえば
総理府人事局が、
長期人事計画を
考えるべきではないかという御
研究をやっていらっしゃるようでありますが、そのほうの御
研究も必要であろうかと思いますけれ
ども、とにかく総合的な
計画の策定その他の方法が立てられなければならないというふうに痛感いたします。
それから
最後にもう
一つ、私、身の回りのことから痛感いたしますことは、外へ出ていかれる、転職をされるにいたしましても、狭い国内にあくせくと
職場をさがされるというのはどうだろうか。
海外派兵は、これは
憲法違反でございましょうが、
公務員が
海外に進出するということを、もっと各方面で
考えていただいていいんじゃないか。ただいま外務省では、
国連の
職員として
日本から多くの人をとってくれという
努力を非常にしております。そういうこともあります。私の
役所自身のことを申し上げましても、遺憾ながら私の
役所には全然そういう
関係の
会社はございませんから、独力をもって開拓をいたしておりますが、その
一つとして、昨年は私
どもの
職員を
タンザニア政府の
顧問として派遣いたしました。ことしの四月発令になるはずでありますが、これは
国連の
人事機構の中にやっと送り出すことにきまりました。若い男でございますが、
国連に行っての
月給は、私と同じ
月給をもらえる。そして六十までは
身分が保障されるということでございますので、
海外派兵じゃなしに、
海外進出のほうもひとつ
皆さんで
考えていただけないものだろうかという
気持ちがいたします。
きわめてよけいなことを申し上げまして恐縮でございますが、御
批判は
あとでたっぷり伺わしていただきたいと思います。
以上、長くなりましたが、御
説明を終わります。
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