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穗積委員 私は、
質問の中でも申しましたが、一部は前進、最近の状況にマッチしようとする改良の部分も認められますけれ
ども、以下申しますような諸点において、われわれは原則的にも、また個別の取り扱いから見ましても、やはり時代に逆行する、あるいは大きな政治的偏向というものが行なわれておるということをあげまして、社会党を代表して、本案には強く反対をする意思を表明いたしたいと思います。
再々
質問の中でも出ましたように、わが党の各
委員が主張いたしましたように、海外
渡航の権利というものは、近代憲法あるいは国際法、国連憲章等におきましても、自然権に近い
基本的人権として確立されたところであります。したがいまして、旅券の発行というものにいろいろな制限または禁止条項をつけ、あるいは政治的な
理由を付して、そして不
許可にするというような
性質のことではなくて、
日本国民であることを証明する国籍
証明書である、同時に
渡航者自身の安全を保障するための、ある意味では相手国に対する依頼状でもある、この
性質を出るものであってはならぬと思います。したがいまして、本来いえば、届け出をもって直ちにこれを
許可する、いわば届け出事項として取り扱うべきことであるとすらわれわれには思われる。ただ、特殊の刑事犯罪その他の個人の保護の点から見まして、不適当なものに対する除外例はありましょう。これは政治的偏向を加えてはいけない。ところが、今度の新法におきましては大きな偏向があるわけです。すなわち、承認国に対しては、
先ほど与党の
委員が言われたように、数次にわたって五カ年間、いずれの地域に出てもいいという旅券に改正されておるにかかわらず、未承認国、特に
朝鮮民主主義人民共和国、中華人民共和国、ベトナム民主共和国、ドイツ民主主義共和国、これらの国に対しましては、非常なへんぱな差別と制限が強化されておるとすらいわなければなりません。そして旅券の形式も一回一回の
渡航に限って
許可をする。しかも特に十三条というのは、
先ほど質問の中でも申しましたように、
国益、
公安というばく然としたものであって、しかもこれが時には時の
政府の党利党益に合わせて
国益と詐称するような
態度をもってこれに制限を加え、あるいは拒否をする。そして今度の法案におきましては、十九条に、さらに
日本国民一般の信用と利益を阻害する等々の条項をつけまして、そしてこれを拒否する。しかも従来からいきますと、これらの国に対しては制限または禁止をされておりましたし、しかも国民的な常識から見れば、
国益に合致すると思われる平和の追求、友好の発展、相互貿易の拡大あるいは文化技術の交流等の
国益のためになる旅行
目的をもって
渡航せんとする者に対しましても、これに対して非常な制限や禁止が行なわれてきた、こういう状態であります。特に
朝鮮民主主義人民共和国に対しましては、国
会議員数件に対して平壌行きのパスポートが出た事実はありますけれ
ども、それ以外は全部禁止であります。ゼロでございます。このようなことが行なわれておりましたのは、分裂政権の他のほうとの
国交があるということがおもなる
理由であって、それらの
国交回復国からの不当な
外交干渉に屈して、この
基本的人権が禁止または制限をされておったのであります。したがいまして、やむを得ざる便法として、これは
政府の
立場から見ても、
渡航者の
立場から見ましても、全く便法として行なわれましたのが、いわゆる
渡航先記載のない横すべりの方法であった。ところが、従来はこれに罰則がなかったのですが、今度は二十三条におきまして罰金のみならず、再度の旅券発行を拒否することができるというきびしい条項になっております。もしここで
政府が反共あるいは敵視政策をもってこれらの国に対する
渡航を抑止または禁止するといたしますならば、この罰則規定によって便法は完全に遮断をされまして、
両国の
関係というものは鎖国状態になるわけでございましょう。こういう危険があります。いままでの審議の中で、
外務大臣を先頭として
法務大臣からも、これらの取り
扱い方については、
先ほど委員長が読まれましたように、すべての地域に対して
渡航自由を阻害しないように
措置をしたいという御意思が表明されました。これによってかすかなる可能性をわれわれは信じたいと思います。しかしながら、今後の情勢いかんによりましては、この法律のたてまえからいきますならば、これが悪用されまして、罰則規定によって鎖国状態に引き込まれる危険もある、こういうことであります。
さらに私
どもが非常にけげんに感じますのは、いままで
渡航先の国によりまして、同じ
渡航の
目的でありながら、ある国には寛大、ある国にはきびしい、こういう政治的な判断が行なわれてまいりましたことは、われわれにとっても忍びがたい不平等な制限であるとともに、相手国に対してもこれは侮辱であり、あるいは敵視政策であると見られても差しつかえはない。こういう制度が残りますことをわれわれは非常に遺憾に思うのであります。
多くを申しませんが、こういうことによって、私
どもは、マルチのパスポートというものを未回復国四カ国に対しましても無差別平等に施行することを強く要望、要求いたしまして、私の反対の
理由といたしたいと思います。