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古瀬参考人 私は、
日本ムチ打症連絡協議会の
古瀬でございます。
当然のことながら、交通災害の被災者の
立場から、
自動車賠償
保険制度に基づく
自賠責の問題について、二、三の
問題点について
意見を述べたいと思います。
御存じのように、
交通事故は非常に激増しています。その中で、特に昨年は八十四万人、つい最近の警察の発表を見ましても、すでに
死亡者がこの上半期で七千三百五十六人、一日平均四一・一人、これもまた史上最高の
数字だということを
警察庁で発表しております。このように、非常に
交通事故の
死傷者が急増しているわけです。したがって、この
交通事故の被災者の
保護と
救済という問題は、非常に重要な問題になっていますし、緊急を要する問題であるというように私
たちは
考えております。
そういう状況の中で、いわゆる自
賠法に基づく、
自賠責保険制度は、いまさっきからいろいろ出されておりますけれ
ども、現状では非常に不十分であり、現状の中では交通の災害者が非常に苦しんでいる。そういう実態を、私
たちは毎日見てきているわけです。
一番大きな問題の第一は、
自賠責保険は、
被害者の損害のうち一定
限度額までの分を支払う、つまり最低
保障制度になっているわけです。その
限度額が、
死亡の場合三百万円、
傷害の場合五十万円ということに現行なっているわけです。ところが、まず最初に
死亡の問題を見ましても、先ほど来からいろいろいわれておりますように、その
治療費だけでも、すでにこれは朝日新聞等の例を見ますと、二週間で二百万円の
治療費を取られたというような問題や、わずかな期間に何百万という
治療費を取られているという実例が非常にあるわけです。遺家族はそうした
治療費の
請求を受けて、非常にあたふたしているというような事態があるわけです。そうしますと、ほんとうに遺族に残されるのは、現行の三百万円の中では非常に少ないものであるし、今後生活していく上では非常に暗たんたるものがあるのじゃないかというふうに思います。こうした実例は非常に多いわけです。今日日本の場合には世界第二の
自動車生産国になっているということであります。しかし
保険の
状態は最低というようなことが新聞等にも書かれているわけです。
死亡に対する欧米の
補償の相場を見ますと、大体二十万から三十万ドル、つまり七千二百万から一億八百万円というぐあいに新聞なんかでは発表されています。具体的にいいましても、スウェーデンが最高ですが、七千万から一億八千万、フランスの場合で三千六百万、英国の場合で、営業車が三千五百二十八万、自家用車で一千五百十二万、ノルウェーが一千万、ドイツが九百万、アメリカが一千八十万等々、こうして国際的に見ますと、非常に
自動車の生産は高まっているにもかかわらず、その
被害者に対する賠償
保険制度は非常に悪いということがいえるんじゃないかというぐあいに思います。したがって、私
たちは、こうした
死亡についての
保険金も大幅に
引き上げることが必要だと思いますし、当面としても、一千万円ぐらいに
引き上げていただきたいというぐあいに
考えておるわけです。
さらに、
傷害の場合の五十万円について申し上げますと、この五十万円については、今度の中では何か
据え置きになるようなことがいわれておりますけれ
ども、これは非常に問題のあるところじゃないかというぐあいに
考えております。この点についても、五月に横浜市内で起きた
事故を見ましても、先ほどの
治療費の問題を見ましても、十八日間で九十一万円以上の
請求を受けている。そして、その後も
治療を続けなければならないというような事態の
被害者がいるわけです。警察が発表しております
重傷患者、つまり初診時一カ月以上の診断
治療をしなければならないという
重傷患者は、今日非常に多いわけです。こうした
重傷患者は、当然、今日の五十万では
治療を済ますことはできないというぐあいに私
たちは思います。
また、最近問題になっております追突
事故等によるむち打ち損症の場合には、いま盛んに厚生省、
運輸省その他いろいろ研究はされておりますけれ
ども、今日なお医学的には、はっきり究明はされておりませんし、その
治療方法は確立されておらないわけです。したがって、
病院によってそれぞれ
治療方法が違う。
患者はいろいろな症状を訴えている。
皆さんも御存じのように、
運輸省の船舶技研でサルの実験をやりました結果の中で、むち打ち症が全身障害だというような見解も発表されておるわけですけれ
ども、いずれにしても、その
治療方法が確立されていないために、
治療期間が非常に長くなっている。そして、初診時は二週間なり三週間の診断書でありますけれ
ども、その症状がなかなかなおらない。そういう中から、すでに一年以上、あるいは二年、三年になる人まで出てきているわけです。そういう
状態を見ますと、これまた五十万の
自動車賠償
保険では、まかない切れないというぐあいに
考えるわけです。
もちろん、
自動車事故は第三者行為でありますから、加害者が任意
保険に加入していれば、任意
保険のほうからも出るということがありますけれ
ども、これも新聞等によりますと、任意
保険の加入率は、現在、日本では大体二〇%そこそこだといわれている
状態であるわけです。今後さらにモータリゼーションということで
自動車がさらに激増してくる、そういう中では、当然、
支払い能力のない
状態の車の所有者も出てくると思います。そうなってきますと、任意
保険の加入率は、将来ずっと見ていきますと、もっと低くなっていくという可能性も、なきにしもあらずだというぐあいに思います。そうしますと、やはり勢い
自賠責にたよらざるを得ないということになると思うのです。
さらに、ここでつけ加えておくならば、いわゆる任意
保険制度を見ましても、任意
保険は営利
保険のたてまえになっておりますから、当然、
事故発生件数あるいは損害率によって、いわゆる
メリット料率だとか、あるいはデ
メリット料率などが設けられておるわけです。また、砂利類運送
自動車割り増し、そういうことで異常に危険度の高い車についての
料率は非常に高くなっております。したがって、具体的にいうならば、ハイヤー、タクシーあるいはダンプカー、そういうものは任意
保険に加入していない場合が非常に多い。また、加入が事実上できない形になっている。しかし、実際にはタクシーあるいはダンプ、そうした
事故というのが非常に多いわけです。そういうぐあいに見ていきますと、これらの問題を見ましても、
自賠責にたよる
状態というのは、ますます大きくなってくるのではないだろうかというぐあいに思うわけです。
さらに、前にも申し上げましたように、この
自賠責保険は、
被害者の損害のうち一定
限度額までの分を支払う最低
保障制度になっているということでありますけれ
ども、実際にはこれらが悪用されて、最高の
保障制度に悪用されているという
状態があるわけです。たとえば、タクシー
会社に働く労働者が業務による
事故疾病をするわけですけれ
ども、その場合に、経営者はその
運転手からいわゆる白紙委任状というものを取るわけです。この白紙委任状の中には、強制
自動車賠償
保険の範囲内で問題を解決するについての一切の責任を委任するというようなぐあいになっております。したがって、こうした条件の中で、まだ本人が病気入院中に白紙委任を理由に相手と示談をし、一定額でもって
補償を打ち切ってしまうというような事態が、これは
一つや
二つの例ではなく、非常に多くあるわけです。やはりできるだけ五十万の損害賠償の範囲内でこの問題を済ましてしまいたいというような事態が起こっているわけです。また、多くの場合、加害者はやはり五十万の
限度内で解決するために、任意
保険に入っていることを実際には隠していたり、あるいは
自賠責の手続や支払いを故意におくらせて、泣き寝入りをさせるというようなことが現実には行なわれております。したがって、そうした点から見ましても、この五十万円の金額をもっともっと大幅に
引き上げていくことが、今日非常に重要になっているのではないだろうかというぐあいに思うわけです。先ほど来から出ておりますように、
被害者は非常に弱い
立場にありますので、やはりそうした点を十分加味をして、この
保険制度を改善をしていっていただきたいというぐあいに思います。
次に、後遺障害の問題でありますけれ
ども、特に、むち打ち症等交通災害の場合には、非常に複雑な症状を呈しております。にもかかわらず、まだ
治療を続けてもらいたいにもかかわらず、途中で症状固定ということで打ち切られてしまう例が非常に多いわけですけれ
ども――やむを得ずそうした形で
補償を打ち切られるわけですが、この等級が
医師によって認定をされるわけです。ところが、その認定を持って
保険会社にいくわけでありますけれ
ども、査定事務所の中でさらにそれについての査定が加えられ、その等級が実際上は下げられるという例が非常にあるわけです。
被害者にとっては、まだまだ
治療は続けていってもらいたいにもかかわらず、症状が固定だということで打ち切られてしまい、そして、その後遺症を
医師から認定を受けたにもかかわらず、また査定事務所で引き下げられてしまうというようなことで、この点では非常に多くの不満が出ておりますので、そういう点についての問題もあわせて
考えていただきたいというぐあいに思います。
最後に、やはりこうした
問題点を
考えますと、この
保障制度については、現在のようないわゆる総合
保険制度では、やはり問題のほんとうの解決にならないのではないだろうか。今日、
交通事故の非常にたくさん出てきている
状態の中からでは、非常にむずかしいのではないか。したがって、できる限り社会
保障制度を加味した形での方向で将来やられる必要があるのではないかというぐあいに思います。
さらにもう
一つ最後に申し上げたいのは、いわゆる交通災害者の実態がほんとうにどうなっているのかということが、今日まだまだ明らかになっていません。そういう点をやはり専門的な調査
機関で調査をしていただきたいし、そうした実態の上に立って、こうした
自賠責保険の
制度を根本的に改善をしていただくようにお願いをしたいというぐあいに思います。
時間の関係がありますので、以上をもって
意見を終わります。(
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