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清水参考人 明治大学の
清水でございます。私は実は交通の
専門家でありますので、特に
交通政策上の問題から、ただいま御
審議中の
三つの
法案について
意見を述べさせていただきたいと思います。
〔
委員長退席、細田
委員長代理着席〕
御
承知のように、最近、全般的な交通の危機の問題として取り
上げられておりますが、なかんずく、
国鉄問題を議論する場合におきましては、単に
国鉄企業をどうすべきかという問題だけでは、片のつかない重要な問題が実は多くひそんでおるというように私は考えるのであります。すなわち、
国鉄の置かれておる環境というものも十分問題にしなければならない、かように考えるわけでございます。この十数年間のわが国経済及び社会全体は、大きな変革を遂げてきておる。すなわち、太平洋岸メガロポリスといわれる産業立地を中心に、表日本の過密、裏日本の過疎に代表されるような特異な
状況をつくり出していることは、御
承知のごとくであります。加えて、自動車の自由生産と交通における
競争政策というものは、鉄道と自動車及び航空機の激烈な
競争を呼んでおるわけでございます。他面、急速に上昇いたしました生産水準に適応させる
輸送体系の
整備の場合につきましては、
国鉄に対する大都市及び主要幹線に対する輸送力増強の要請となってあらわれ、これが第一次五カ年
計画以来のばく大な設備
投資となってあらわれております。
国鉄当局あるいは運輸白書にもあらわれておりますように、このことが
国鉄企業を非常に圧迫している原因になっておることは、すでに周知の事実でございます。と同時に、このしわ寄せが
経費節減のための、一面においては
合理化となってあらわれ、他の一面は、
資金調達のための
利用者負担としての
運賃の値
上げという形で、従来まで処置がとられてきたわけでございます。しかし、第一次、第二次の五カ年
計画を通じまして、
国鉄企業及び
国鉄労働者の大きな
努力というものは、私も決して否定するものではございませんけれども、それで基本的な問題が解決をされたというふうには考えないわけでございます。特に、
運賃面において見てまいりますと、二等
旅客運賃は、他の交通
機関との
関係において非常に独占度が強いわけでございます。そのために、企業主義を
前提とする原価主義を中心に
運賃の
改定が続けられてまいりました。また反面、
貨物運賃と一等
旅客運賃については、前者はトラックとの
関係、後者は航空機との
競争運賃となっておりまして、輸送対象ごとに、あるいは原価主義を採用をし、あるいは
競争運賃を適用をしていくという矛盾が、実は露呈をしてきたわけであります。このような矛盾は、単に
国鉄企業に対する要請あるいは
国鉄企業の
再建という問題をはるかに超越した
政府の産業立地政策、あるいは都市政策、あるいは総合的な
交通政策との
関連の中で、はかられねばならないと考えるのが、基本的な問題点ではないかろうかと考えるわけでございます。しかし、今回の運輸
委員会で
審査中の
政府提出法案について、これらの点が十分明らかに解明をされているというふうには思わないわけでございます。このことをまず最初に申し
上げておきたいと思います。
国鉄運賃の改正案と
国鉄財政再建促進
特別措置法案については、両者は密接な
関係があるわけでございます。この両者を切り離しては論議できないと考えますので、一括してこの両
法案についての
意見を、これから述べさせていただきたいと思います。
まず第一点は、従来の
運賃改定の際には、その目的が具体的に明示をされております。第一次五カ年
計画については、動力車の
近代化、第二次五カ年
計画につきましては、東海道
新幹線を中心とする
近代化計画、あるいは通勤緩和の見通し等々が、
国鉄当局の
意見なり、あるいは試論というものが
参考資料として出されながら
審議をされたわけでございますけれども、昨日私が手元にいただきました資料の中に限定をいたしますと、
国鉄当局の
意見というよりかは、むしろ
国鉄財政再建推進会議の
意見書の
趣旨というものが、今回の
運賃改定の主要な背景だというふうに考えられるわけでございます。そうだといたしますと、
国鉄財政再建推進会議の
内容と申しますものは、単に
国鉄だけではなくして、わが国の交通全般にきわめて大きな
影響を与える
内容が盛られておりますので、まず、わが国の
交通政策の基本を、この
国鉄財政再建会議の
意見書の
内容の方向に持っていくかどうかについての原則的な討議と決定が先行すべきではないか、かように考えるわけでございます。特に、
資金調達の面を
運賃とのからみ合いの中で考えてみますと、
先ほどの御
質疑と
参考人の御弁答の中にも明らかにされておりますように、
昭和五十三年度までに、付属資料を拝見をいたしますと、三回の
運賃の値
上げというものが試算の中で考えられております。今回の
運賃の値
上げの提案は、それについては触れておられませんけれども、もし
財政再建会議の
意見書どおりの形でこの
運賃法の改正が行なわれるとするならば、今後二回の値
上げというものが、当然に予測をされるわけであります。そうだといたしますと、それとのかね合いの中で論議をされなければならないと思いますが、その点についても、明確さを欠いているように私は考えるわけでございます。特に、この
国鉄再建に対するところの
負担の分担比率というものを見ておりますと、
合理化について約一兆数千億、
運賃値
上げによる
増収分が三兆数千億、
利子補給を除きました直接の補助金が千数百億というふうに私は記憶をしております。もし私の記憶に間違いがないといたしますれば、このアンバランスはあまりにもひど過ぎはしないか。もう少し
政府が直接的に
国鉄に対し、あるいは交通全般に対する積極策を示すべき必要があるのではないかというふうに考えるわけでございます。
第二点は、前回の
国鉄の
運賃値
上げの際には、第三次中期
計画というものを
前提に値
上げを行なったわけでございます。ところが、今回の
運賃の値
上げは、当然第三次中期
計画の変更が
前提になっております。だといたしますと、前回の値
上げの際に、国会での御
審議の中で
国民に公約をなすったところの第三次中期
計画を変更せざるを得ない責任の所在というものが、より一そう明確にされなければならないと考えるものでございます。
第三点は、
日本国有鉄道法の第五条第二項についての
関連が、いままでの
運賃の
改定の際にも明らかでございませんが、今回も実は明らかにされてないわけでございます。
日本国有鉄道法の第五条第二項におきましては「
政府は、必要があると認めるときは、予算に定める金額の範囲内において、
日本国有鉄道に追加して出資することができる。この場合において、
日本国有鉄道は、その出資額により資本金を
増加するものとする。」という規定がございます。ところが、
日本国有鉄道が発足して以来今日まで、資本金の
増加というものが見られておりません。このことを考えますと、今日に至るまで、
政府が
国鉄そのものに対し可能な限りの出資をも含めた
努力があったかどうか、この点について疑問を持つものでございます。
第四点といたしましては、
国鉄には、
運賃法の中には
運賃と料金とがございます。料金は、御
承知のように、国会の
審議を経ないわけでございますが、
運賃そのものは輸送対価である。料金というものは、使用料的な意義を持っているからであります。ところが、東海道
新幹線の開通を契機にいたしまして、
運賃と料金の存在意義というものは全く失われてしまった。料金そのものは
運賃と同額であり、かつては
運賃を上回った料金を取っておったわけであります。しかもこの料金は、国会の
審議を経ずして決定ができる。また、同時にダイヤ改正のたびごとの特急、急行の増発というものは、事実上の
運賃値
上げとしての側面を持っておったわけであります。このことを抜きにいたしまして、基本
運賃だけの
改定を議論するということは、やはり問題があるのではないか、こう考えるわけでございます。一〇%と申しますけれども、今回の
運賃改正と同時に予定されておりますところの料金の
引き上げの額を見ておりますと、たとえば東海道
新幹線の場合を例にとりますと、ひかり号の場合には、二百キロまで現行六百円を三百円、五割の値
上げをして九百円、あるいは、こだまの場合でありましても、千三百円が千五百円に、あるいは八百円のところが九百円になるという形で、
新幹線の場合も、あるいはまた、在来線の急行の場合にも値
上げを考えておりますので、そうなりますと、国会へ提案されておりますところ以外の面でも値
上げが加わってまいりまして、パーセンテージは必ずしも一〇%という形にはならないということでございます。しかもサービスの面におきまして、向上をしておればいいわけでございますけれども、逆に、従来在来線の時期には見られなかった、特急ですら立ち席
承知という形で乗らざるを得ないという形のサービスの低下が見られるわけであります。特に地方に参りますと、無人駅の
増加に伴って、積雪寒冷地のごときは、
利用者自体が雪かきを行なうというような形の中で
国鉄の運行が保たれておるという点については、むしろサービスは悪化したといわなければならないわけであります。
五番目には、もし今回の
運賃改定が行なわれたとしますと、どういうことになるか。
先ほども若干
関連してこの御
意見が出ておりましたけれども、線区によっては、私鉄をはるかに上回る定期
運賃が想定されるわけであります。定期
運賃につきましては、この一年間見ましただけでも、千葉-市川間の千七百八十円が二千八百八十円、名古屋-豊橋間の四千九十円が七千三百十円と、大幅な値
上げをしております。これが今回の
運賃改定によって、いま申し
上げたような形の値
上げが行なわれるといたしますと、私鉄を上回ってくる。ところが、私鉄を上回ってまいりました場合に、並行路線であるところの私鉄の
運賃がそのまま据え置きになるということは、
競争の公正性の面から、あるいは私鉄の
運賃値
上げの申請に対しましても、それを阻止する理論的な正当性というものが、きわめてむずかしくなってくるわけでございます。こういう点を考えますと、今回の
運賃の値
上げは、時間的な問題はありましょうけれども、結果的には、私鉄の
運賃の値
上げを誘引する可能性が多分に推測をされる。その場合には、現在でも一割配当を行なっておりますところの大手私鉄に対しては、過保護政策になりはしないかという点でございます。
六番目には、
国鉄財政再建の
趣旨及び目的が、今後十年間で経常
経費の中では、最終的には黒字にするという形が出されております。御
承知のように、
国鉄の場合は民間企業と違うわけでございます。民間企業でございますれば、
現状のような体制の中では、資本が最大限の利潤の追求をするのは当然のことでございます。公共企業体である
国鉄の黒字というものを問題にする場合には、具体的にはその利潤率というものをどこに置くかということは、きわめて重大な問題でございます。ところが、この利潤率に対する基準というものが明確になっておりませんことは、放置いたしますればますます企業主義が先行し、
日本国有鉄道法の第一条の目的を阻害をすることになるんではないかと考えるわけでございます。すなわち、
日本国有鉄道法の第一条では、「能率的な運営により、これを発展せしめ、もって公共の福祉を増進する」というのが目的でございます。企業性というものを、
一つの公共企業体であっても、そのめどとして使うことはあっても、本来的な目的が公共の福祉であるということは、現行法ですでに明確になっている点でございます。この点を黒字化の問題、企業主義優先との問題の中で、あいまいにしておくべき問題ではないと考えるわけでございます。
八番目におきましては、将来にわたるところの
国鉄の位置づけという点が
財政再建会議の中でもうたわれておりますが、これは同時に、わが国の
交通体系をどうすべきかという接点で考えなければならないということでございます。今回の
財政再建会議の中では、将来のわが国の
交通体系には触れておりません、
国鉄の位置づけだけを考えております。先進各国におきましても、第一次世界大戦以降の鉄道の自由化というものは、すでに終止符を打ちまして、公有化あるいは国有化の中で、公共統制の中で、
国民経済の動脈としての
役割りを果たしております。交通企業におけるところの生産の無
政府性の中で、国有鉄道だけ、たとえ
計画的に位置づけを置きましても、それは簡単にいかないことは、戦後いままでのわが国の交通の混乱が示しております。この点につきまして、やはり具体性を持つことが非常に必要ではないかと考えるわけでございます。
第九点といたしましては、
国鉄財政再建会議の
意見書においては、その
内容がきわめて重大であることは、いま申し
上げたわけでございますけれども、
内容によりましては、当然国会にかけ、法律の改正をも考えなければいけない点を幾つか含んでおります。この点を抜きにいたしまして、
国鉄財政再建会議の方針というものを単純にのむという形にはいかないということは、すでに
専門家である議員の皆さん方のほうが、私以上に御
承知だと思います。この点が
政府の提案の中には何も触れておりませんけれども、
国鉄財政再建会議の
意見を尊重するということ、
内容をそのまま政策として引き継ぐのか、あるいは
運賃の値
上げ、あるいはその他若干の
部分だけのその
意見を採用するのか、この辺についても多くの疑問を持つものであります。
最後に、
国鉄の歴史的な経過から、
国鉄そのものの質というものが企業性を持たされても、企業
経営を独自にでき得る体質であるかどうかという点についても、私どもは十分に考えなければならないと思います。御
承知のように、明治三十九年の国有化以降、社会政策的に、あるいは軍事的に、いわゆる企業採算というものを度外視した中で国有鉄道は発達をしてまいりました。戦後におきましても、鉄道建設
審議会の御
審議の中に見られるように、必ずしも営利というものを目的としない
赤字路線も数多く、地域住民の
利益なり、あるいは沿線の地域開発のために、建設をされてきたわけであります。このような
国鉄の持つ下地というものは、諸外国で発達をいたしました民有鉄道の基盤における民有の場合とは、基本的に違う性格を持っている。このような点を考えますと、社会的な必要路線を直ちに
赤字という問題で片づけることはできません。あるいは企業主義をそのままそっくり導入をするということも、体質的に不可能な側面を持っているということでございます。むしろ
国鉄が
国民経済そのものに、企業利潤はあがらなくても、どれだけの功績をあげ、
利益をあげるかという点のほうが、価値判断としてはきわきて重要な素因になるのではないかと考えるわけでございます。
以上の理由から、私は
国鉄運賃法の一部改正及び
国鉄財政再建促進
特別措置法案の
内容については、何とぞ再
検討をお願いしたいというふうに考えるわけでございます。以上の点から、私はこの二つの
法案については、原案のままでは反対の
意見を持つものでございます。
むしろ、この際お願いしたいことは、
政府はこの際、総合的に
交通政策、産業立地、都市政策を考え、合理的な運輸配置網の再編成を確立、実施をしていただきたい。そして
国鉄を中心とした現代日本交通の危機を救う方向のビジョンを確立をしていただきたいと思います。
次に
日本国有鉄道の
鉄道施設の
整備に関する
特別措置法案についての
意見を申し
上げたいと思います。
この
法案の提案の理由を読ましていただきましたが、提案の精神となっておりますところの全般的な交通調整、公共性の重視、国の
財政援助の
増加という二点の基本姿勢については、私は全く賛成でございます。しかし、それが具体的にどうなるかという点の
法案の
内容等につきましては、私は詳しい説明を承る機会もございませんので、十分認識できなかったわけでありますけれども、より具体性と、きめのこまかさをより以上に考えていただければ、ありがたいというふうに希望をするものでございます。
特に、フランスなりあるいはイギリス等の実情を考えました場合に、
国鉄の場合には、企業資本と
社会資本を分離をすることをお考えいただきたいというふうに考えるわけでございます。
社会資本投下
部分に対しては、国有財産として企業資本から分離をして考えるというような、同じ資本主義国家でありましても、フランスのようなやり方がわが国の場合に適応できるかできないか、この点についても、十分な今後の御
検討をいただく必要があるのではないか、かように考えるわけでございます。
時間の制約を受けておりますし、昨晩御要請を受けましたために、せっかく御招請を受けたわけでありますけれども、十分な研究なり、あるいは
内容についての緻密な
検討が欠けておりました点はおわびをいたしたいと思います。
以上をもちまして、私の三
法案に対する
意見の陳述を終わらしていただきたいと思います。