○畑
委員 最近、新聞紙上にも報ぜられたりあるいは週刊誌等でも議論になっております国学院大学の映画研究会が、たまたま過般の十月二十一日新宿
事件の際に撮影をしたフィルム、あるいはその前の十月八日の、やはり新宿での
事件を撮影したフィルムを
東京地検で押収をした。それに対して準抗告がなされまして、それが一たん取り消された。そして、それに対してさらに、それを所有者に返還する手続を一応したのでありますけれ
ども、その間にまた別の被疑者あるいは被告人の被疑事実についての令状をとって、それをまた差し押えた。さらにまた、これに対して第二の準抗告がなされました。その結果、準抗告申し立て人の請求が認められて、結局所有者のほうへそのフィルムが戻った。この
事件でございますけれ
ども、この問題は非常にいろいろな問題を含んでおると思います。しかもそのやり方等について、私は
東京地検のとった姿勢というものに相当問題があるのじゃないかと思う。
捜査の必要性の度合いと、憲法に明記されておりまする表現の自由、報道の自由、こうした基本的人権との調和、この接点をどうするかといった問題でございまして、基本的な人権の問題がその中に介在するということで非常に注目を引いた
事件であろうと私は思います。
この
事件は、御
承知でもございましょうけれ
ども、その後第一の押収に対する準抗告、その結果に対してさらに特別抗告が
最高裁判所に対してなされまして、目下審理中であります。最後の結論はついておりません。そういう点でこれから
質問いたしましても、
法務省の立場として、先ほどの公明党の
質問に対してと同様な立場から、
答弁の回避ということがあるかもわかりませんけれ
ども、しかしできるだけ率直にひとつ答えていただきたいと思います。
議論をいたします前に、その
事件の概貌について——もう
法務省当局は大体
承知していると思うけれ
ども、
概略最初に申し上げます。これは十一月七日、すなわち新宿
事件の
あとに全学連の学生
たちが、その新宿
事件に抗議をするという
意味もありましょう。国会周辺というか、総理官邸の周辺というか、その辺で二隊に分かれて
中心部に対してデモをやった。その際に相当多数のものが逮捕されたのでございます。このこと自体についてはまた
あとでこれに関連して申し上げますけれ
ども、その際に、当時十八歳の青年でありまするA君がそのデモに参加しまして、現行犯逮捕にあった。ところで、このA君が十九日に釈放をされましたけれ
ども、同日また別件で逮捕をされました。それというのは令状逮捕でありまして、十月二十一日
事件の騒乱罪についての容疑でございました。A君がそうして第二に騒乱
事件の付和随行容疑で逮捕をされると同時に、その翌日の早朝に国学院大学の若木会館というところにある、先ほど申し上げました映画研究会の部屋が令状によって捜索をされ、また、そのメンバーの
人たちが下宿をしておるところが捜索を受けて、
合計で二十五点のフィルム類が押収をされたのでありますが、それに対して所有者側のほうから、代理人を立てて準抗告をいたしました。すなわち、二十五点のうち二十二点までは十月二十一日の
事件とは無
関係である。さらにまた、この押えられたフィルムにはA君は写ってはおらない。新宿
事件の当日には、単に二つのカメラの間の連絡係をしておったにすぎない。またこのフィルムは、将来学園祭等で、あるいはまた全日本の学生の映画祭などに上映する目的で、いわゆるドキュメンタリーな映画として仕立てるために撮影したものである。憲法二十一条に保障する表現の自由を著しく侵害するものだ、こういうのが準抗告側の申し立てであったわけです。それに対して目黒決定という、目黒裁判長の裁判があったのでありまするが、これは差し押え処分そのものは終了しておるから、したがって、令状そのものについては違法云々を論じても利益がない。したがって執行処分そのものについての問題だ。二十五点のうち二十点までは新宿
事件と
関係がない。だから、これは差し押え処分が許されないのだ。その他の五点については、十月二十一日の
事件と関連が認められる。第三者の所有するものについても、
捜査の必要性が十分に認められる場合には押収ができないことはない、できる。けれ
ども、押収される第三者の利益との比較衡量、これが必要である。本件の場合には、フィルムの中に被疑者の具体的な犯行の状況が撮影されておらないということ、その罪責に対する影響、それから被疑者の役割りの軽重の判定、その他被疑者の罪を立証すると思われる作用は、きわめて低いと思われる。したがって、本件ではフィルムを押収する必要性はさほど強いものとはいえず、フィルムを押収されることによって映画研究会が受ける不利益と比較衡量をしてみた場合、強制的な差し押えまでして
検察庁の手元に取り上げるということは許されないものだ、こういうことで、五点の問題についても差し押え処分を取り消した。取り消されたのですから、したがって品物は返すべきであります。ところが、それをなかなか
検察庁のほうで何だかんだといって時間をかせいで返さなかった。その詳しいことは省略をいたします。そして係がいないからとか、あした来てくれとか、あるいはいまここになくて警視庁のほうにあるのだ、こういうことを言ってみたりなどいたしまして、一日半も時間をかせいだ。まあだいぶしびれをきらしたらしい。それで、ようやくにして今度は受け取り場所である警視庁へ、翌々日か十時ごろ行ったそうです。そうしたら、確かにちゃんと並べられてあった。そうして一応点検してくださいと言うので点検をした。それではこれで受け取りましたという請書も用意してあって、それに判こを押してくださいということで、判こを押させられた。ところが、そのとたんに第二の令状を突きつけられた。そしてその全部のうち、そのまた一部を押収された。七点の物件を押収されたのであります。これはまたほかの
裁判官が発付をしたものなんです。前の
裁判官とは違う。
東京地検あるいは
東京の
裁判所等は非常に人数が多いから、小さい
裁判所なら同じ
裁判官がやるからわかっておる。ところが、違う
裁判官が発付をすることが多いので、おそらくこういうことになったのだと思いますけれ
ども、第二の令状はA君に関するものでなくて、同じく新宿
事件に
関係をしたI君に関するものが何点かある。それから一〇・八の、その前の
事件に
関係したT君外十何名というすでに起訴になっておる被告人についての
事件だそうであります。しかも
内容は完全に同じでありまして、結局I君の場合は騒乱罪となっておるわけで、まあそういう形で差し押えをまた食ったという形。おさまらないのは確かにその所有者のほうだったと私は思います。そしてしかもこの令状については、前の係
検事の窪田
検事は知っておるのかと尋ねたところが、
検事の山崎公安副部長は、もちろん前の
事件の窪田
検事は
承知している、こういうことだったそうであります。ところで、所有者側のほうでは第二の準抗告を申し立てた。その結果、次に竜岡決定というものが出された。その竜岡決定に従いますと、「目黒決定が差し押え処分を取り消した物件について、再び差し押え許可状の発行を申請することは許されない。現実の差し押え処分が取り消されただけであるからといって、なんら特別の
事情の変更もないのに、ただ
捜査の必要ということだけから、同一被疑
事件について再度同一
内容の差し押え許可状の発行を受けることなどを許すなら、
捜査官の押収に関して法が下した処分について、
裁判所に取り消し変更の申し立てができることになり、それは法が基本的人権を全うしようとしている趣旨や制度を完全に没却することになる。」こういうふうに判示をいたしておるわけです。それで、I君についての被疑
事件の罪名は、Aに対するものと、先ほど言ったとおり、全く同じであります。「被疑事実の
内容も被疑者ら個々の具体的役割を別とすれば完全に同一である。各被疑事実は明示されていないが、両名が共犯
関係にあるとされていることも明らかである。したがって
検察官がIに対する被疑
事件を基礎として再度前記物件の差し押え許可状の発行を申請した主な理由——
捜査の必要——は、準抗告申し立てに対する
検察官作成の意見書と同追加書からも明らかなように、右物件をIという特定の被疑者の
事情を立証する
資料とすることではない。」こういっている。「それは一〇・二一新宿
事件全般にわたる当日の騒乱に至る経過、共同意思成立の経緯や多数暴行などを立証する
資料としようとすることにある。その他目黒決定の後に特別の
事情の変更があったとも認められない、したがって
検察官の第二の令状の申請は、Aに対するのと同じ
内容の差し押え許可状の発行を申請したことになる。そうである以上、Iに対する第二の令状の申請は目黒決定を実質的に無効にするいわば脱法行為に類するもので、ただ違法というほかない。したがって第二の令状はもともと違法無効な申請に基づくという
意味で違法であり、取消しを免れない。」こういうふうに判示をいたしておるのであります。しかも、第二の令状につきましては、非常にあわてたために大きなミスをしている。新宿
事件とその前の一〇・八
事件との被疑事実に対する対応した物件目録があるわけですが、それがとんちんかんで決定が出ちゃった。普通ならば、
裁判所が間違ったとしても、それを見て、一見してこれは間違っているということならいいのですけれ
ども、そうでなしにそのまま急いで、とにかく一日半も待たしているのだから、それで持っていったところに目録の物件違いがあった。そういう点でも、実は退けられている点があるのです。そういう点で、最後に「本件物件のように第三者が自己の意思に基づいて撮影した映画フィルムなどが犯罪の立証に何らかの形で利用できるからといってただちに差し押えは許されない。その判断にあたっては、証拠
資料としての信憑性、代替性の有無、事案の重大性、その他の
捜査の必要性の度合いなどについてはもちろん、所持者がこれを作品として社会に発表するについての利益などについても十分検討したうえ、慎重に決定すべきである」こういって、目黒決定と同様に
検察官の姿勢を戒めておる。二つ目の黒星を、実は
東京地検はこの件について喫したわけであります。
そこで、もうそれで終わりかと思ったら、今度は
東京地検は二つ目の準抗告に対する決定に対しては、さすがに異議の申し立てはしない。第一のほうの、いわゆる目黒決定に対して、ちょうど一週間の期限ぎりぎりに特別抗告を出した。本来ならば、第一の決定があったら、それに対して特別抗告の手段をとるのが本来である。ところが、ペテンにかけるようなかっこうで、同じ
内容で、しかもほかの人の
関係で第二の決定をもらう。こういうことは、私は行き過ぎた、フェアじゃない、こう思うのです。私がその
関係に立ったら、私
自身も非常に憤慨しただろうと思う。どこへ怒りをぶつけていいかわからぬというようなことだったと思うのでありますが、しかし、まずいことをやればうまくいかないもので、結局第二のほうも敗れた。こういうことで第一の決定に対して特別抗告がなされまして、現在争っておるわけであります。
検察庁の申し立ての趣旨は、「
捜査の必要性の判断は
捜査官の専権事項であり、
裁判所の介入すべきことではなく、これは憲法第十二条、同三十五条に違反する」というような趣旨であるわけであります。ところで
弁護士側の意見の骨子は、「
検察官は目黒決定に対する適法な救済手段である特別抗告を捨て、脱法行為として第二の令状を申請したのであるから、公正であるべき
捜査官としては自ら手を汚して目黒決定を無
意味なものにしたとい、える。したがって同決定に対する救済を求めること自体がゆるされなくなっている。」これが一点。第二点としては、「この五点の物件は目黒決定によって返還されたのではなく、再押収後の竜岡決定によって返還されたものだから、特別抗告が認められても、映研は物件を
検察官に返還する義務は生じない。」第三点、「
裁判所が憲法第八一条にいう
司法権の優位の規定により、行政処分たる
捜査につき、その必要性を基本的人権の保障の立場から判断できるのは当然である。そうでなければ刑事
訴訟法が押収に対する準抗告を認めている理由がなくなってしまう。」第四点、「被疑者Aと全く無
関係に第三者が撮影した物件の押収を許すことは、憲法第二十一条が保障する表現の自由を著しく侵害するものである、」こういうふうに双方申し立てて、また近いうちに決定が出ると思いますが、そういう段階にある
事件であります。
概略を口早に申し上げましたが、そこで問題点についてこれから二、三
質問いたしたいのであります。
〔
委員長退席、田中(伊)
委員長代理着席〕
結局この問題は、先ほど私が申し上げましたように、本来ならばもう第一の決定で準抗告が認められたということになれば、それに対して私は特別抗告で争うべきであると思うのです。ところがそれをしないで、ペテン師のようなやり方で第二の令状をとった。そういうやり方が一体許されていいのだろうか。それは形の上では形式的には許されることになっておるでしょう。しかしながら私は、もしこれが同一の
裁判官でもあり、あるいは違う
裁判官ではあっても、小さい
裁判所でそれが打ち合わせできたり何かいたしますれば、おそらく第二の決定はそのまま出なかったに違いない、かように思うのでありまして、そういう点で第二の決定が出てしまった。そして第二の決定でも
検察庁側が敗れておる。こういうことなんでありますけれ
ども、大体こういったやり方は、形の上では許されないともいえないかもしれぬ。けれ
ども、好ましいものではないと私は思うのでありますが、その点についていかが考えるか。これはしろうといっちゃ悪いけれ
ども、新任された西郷法務
大臣にお伺いしたい。しろうと的に見ても、こういうことか好ましいのか、まずい、今後こういうことをしないほうがよろしいと思う、どちらであるか、ひとつ
お答え願いたい。