○大平国務
大臣 初めにお断わり申し上げておくのでございますけれ
ども、ひずみがない成長なんて私はないと思うのです。静態
経済ではないので、まさに成長
経済でございますから、
経済は変動があるから成長するわけでございます。ひずみという字は「不正」と書いてあります。ああいう
ことばが普通使われておりますけれ
ども、そういう摩擦が起こるとかいうことであって、ひずみという
ことばはぼくは非常にいやな
ことばだと思うのです。成長には必ずそういう摩擦が伴うもので、摩擦が起こらない成長なんてないと思うのでございます。したがいまして、いま永井さんが御
指摘のように、ことしも成長、来年も相当の強い成長が見られるであろうという見当につきましては私も同感でございます。そうだとすれば、来年もまたそれ相当の摩擦が
経済に起こるだろう、それは覚悟しなければいかぬと思うのでございます。それをまず最初にお断わりを申し上げておきたいと思います。
で、来年の景気をどう判断するかということでございますが、これは、正直に告白いたしまして、毎年
政府が
予算編成前に、明
年度の
経済の見通しというのを立てます。それから運営の基本的態度というのを立てて、それから
予算の編成
方針をつくるわけでございますけれ
ども、これが合った
ためしがないのです。もう
年度途中で必ずこれを直さなければいかぬ事態が起きておるのでございます。したがって、的確な見通しなどというのは景気についてできるはずがないということも第二にお断わりしなければいかぬと思います。人間のやることでございますから。それで、このままの調子でまいりますと、昔のように景気の循環がなだらかな波を持ちながら、山あり谷ありという姿をとりません最近の景気の型として、賃金を景気が悪いからカットするとか、労働組合も低い賃金でがまんするとかいうような時勢じゃございませんから、個人の消費、国民全体の消費は依然として非常に強いだろうというごとは想像にかたくないところだと思います。
それから設備投資も、最近役所側でも日銀側でも来年の国際
経済の環境は相当きびしいぞという警告をいたしておるにかかわりませず、非常に強気でございまして、設備投資意欲は相当強い
状況でございますし、巷間伝えられているように、企画庁がいまいろいろ作案いたしておるようでございますけれ
ども、設備投資は九兆をこえるのじゃないかというようなこともいわれております。そうすると、そういう需要もふえてくる。その次は
財政でございますが、これは福田さんがいま苦心して
構想しておるところだと思いますけれ
ども、すでにもう食管を全然度外視いたしましても七千億をこえる当然増が黙っておってもついてくるというわけでございます。そういう
状況でございますから、
財政需要も
政府の需要も減る見通しはないわけでございます。そうすると、今度は問題はわれわれの担当しておる
輸出でございますが、
輸出のほうは、
アメリカの景気が
スローダウンするであろう。
財政もカットしたし、増税もしたし、ベトナムも終結するのだから、
アメリカの景気は
スローダウンするだろうと前々からいわれておるのでございますけれ
ども、その予想に反しまして、依然として
アメリカの景気は強い。ことしの
輸出を見ましても、対米
輸出は非常に伸びてきた。だから、来年一体どうなるかというこの
輸出の見通しは、いま原田君から、まだ自信を持って答えられる段階じゃないというお答えでございましたけれ
ども、的確な見通しはまだ立たないのでございますが、全体として総需要がことしよりも相当大幅にふえることだけは間違いないようでございますから、永井さんが、そういう各要素を踏まえて相当の大型景気じゃないかと言われる断定は、私はそのとおりだ、こう思うわけでございます。
しからば、そういう状態を想定して一体
政府としてどうするのだということでございますけれ
ども、この
一つ一つをとってみまして、正直に申しまして、
政府がこれを冷やしたりあっ
ためたり、伸ばしたり縮めたりすることはなかなかできないのでございます、自由
経済、自由
企業体制を基調にしてやっておるわれわれの体制でございますから。それで、
民間の力がこんなに強くなり、ある
意味において手に負えないくらいの強さを持ってきておるのでございますから、
政府のやり方と限界というのは、私はあると思うのでございます。
そこでまず第一は、あまり調子に乗って、もう前に進め進めで、馬のけつにむちを当てていくという、そんな
姿勢を
政府はとったらいかぬと私は思う。そうでなくても、
日本の国民というのは活力が奔放に横溢しているのですから、
政府としては、いま大蔵
大臣その他がいわれておるように警戒中立型というような感じ方でムード的には指導していくのが賢明な態度じゃないか、こう思います。
しかし、そういうような活力が展開されて、私
どもの部面では設備投資も行なわれておるという段階でございますから、せっかく設備投資が行なわれておる以上は、それが将来
日本の
産業の国際的な地歩を確立するのに役立つように、自主的な
技術がほんとうに定着するように、大事な
産業の体質が改善されるようなぐあいに投資調整その他を通じまして懸命に指導してまいらなければならぬと思いますし、
輸出につきましては、ともかくちょっとしたすき間を見てでも
輸出をはかっていくという最大の
努力をしなければならぬと思います。
ただしかし、
輸出輸出ばかり言うて、
輸入のことも
考えなければ、なかなか世の中は
承知しませんので、われわれは
輸出と
輸入のバランスのとれた
拡大というような点を用心深くもくろみながら賢明な指導をしていけば、大きな誤りなく、まあ来年の山が越せるのではないかという感じがいたしますが、しかし
経済というのは、先を見通すということはなかなかむずかしいのでございまして、薄氷を踏む思いでございます。