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参考人(
矢野勝正君) 私は
京都大学の
防災研究所長をやっております
矢野勝正でございます。
本日の
議題は、八月中における
集中豪雨等による
災害対策ということになっておるそうでございますので、まあ主として本年八月に
発生した
災害問題を
中心にいたしまして、若干昨年、一昨年などの
災害も加味いたしまして、
お話を申し上げたいと思います。
この一、二年非常に特徴的に考えますことは、まあ第一に、
わが国の
中小河川はその
治水対策がまだまだおくれておりますので、未改修の
中小河川が非常に
各地ではんらんして
被害を与えているということであります。
第二番目に同じく
中小河川と言えますけれ
ども、
都市の
河川、特に
住宅地が非常に稠密化いたしまして、そのために新しく開発された
住宅地を流れる
河川の
被害が顕著に多いのでございます。これは今後も起こる問題でございまして、大阪の寝屋川とか
神戸市諸
河川など代表的なものですけれ
ども、
都市が開発されまして
道路が舗装される。それから
田畑が宅地になって家屋が建てられるということになりますと、同じ雨でも流出してくる量が非常にふえます。三割、四割、場合によっては七割といったような
程度に
流量がふえます。早く出ます。そういった
関係で従来たとえば百立方メートル毎秒でやった
河川計画も、そういった場合におきましては、これを百五十とかあるいは百八十といったふうに、
計画の
高水雨量を修正しなければならない。そういったような
河川が
都市河川の問題として大きくクローズアップされておる。この問題を解決する必要があると思います。
第三番目には、
山地災害でございます。
わが国の
災害は平地に起こる
災害と
山地に起こる
災害を見てまいりますと、まあ半々、ところによってはむしろ
山地災害のほうが多いといったような
現状でございます。
山地災害といいますと、まあ山に起こる
災害でございますけれ
ども、大別いたしまして、地すべりによる
被害、それから山くずれによる
被害、山くずれの中にはいわゆるがけくずれも含めまして、山くずれによる
災害それから
土石流による
被害、土と石がまざって流れて、
新聞には鉄砲水というようなことばが使われておりましたが、
土石流による
被害、こういったようなものがございます。それでこの八月に起こりました
災害は、まあ四
号台風あるいは七
号台風あるいは十号、十三号といったような
台風が連続して起こりましたが、幸い
台風そのものとしては御
承知のようにそう大きなものではなかったわけですけれ
ども、その
台風が不連続線を刺激いたしまして、
各地に
集中豪雨を
発生したことも御
承知のとおりでございます。ところが、
集中豪雨というのは、
一体どの
個所にどの
程度の規模でいつ起こるかということは、今日
予知することがほとんど不可能に近い
状態でございます。地震の
予知が困難であるがごとくに、
集中豪雨の
予知が非常に困難でございますので、なかなかこの
対策のめどが立ちにくいのでございます。
日本全国集中豪雨というものがあり得るから、
日本全国じゅうその
対策を立てるというなら、それは簡単でございますけれ
ども、それは非常に膨大な金になりますので、少なくともこの
集中豪雨を
予知して避難するといったようなことができれば非常に幸いなのですが、そこにも至っていないというようなわけでございます。
それからまあ今回
飛騨川の
バスの
転落事件などを
中心にしまして、若干
土石流の問題について御
説明いたしたいと思いますが、
土石流という
現象は何も今日、この一、二年顕著に起こったわけではございません。昔からあった問題でございます。たとえば、
昭和十三年の
神戸の大
災害であるとか、あるいは
昭和二十八年のいわゆる門司の風師山の
土石流とか実は枚挙にいとまないことでございます。しかしながら、特に最近は、この
現象が顕著になっております。なぜ最近に限って顕著になったかという
理由は、私にもよくわかりませんが、たとえば足和田村の、あるいは九頭竜川の、西谷村の
土石流、それから昨年は
神戸、呉、佐世保などに大きな
土石流が
発生しております。新潟でも加治川の問題は別としましても、
櫛形山系に非常に大きな
土石流が
発生しております。今回起こりました
飛騨川の
事故も、私まだ
十分調査もしておりませんが、一回
現場を見た
程度でございまして、確定的なことは申し上げかねますが、大体
土石流というのが
原因であったように思うのであります。
それでは
土石流というのは
一体どういうものか、どういうときに起こるのか、どういった
被害を与えるのかといったような問題がございますけれ
ども、
土石流の
研究は非常におくれておりまして、私
たち専門分野の学者な
ども土石流の
研究をしている人は、非常に少ないんであります。これはもういろいろ
原因がございます。たいへん
防災上重要な課題でございますので、
研究しなければならないのですけれ
ども、
土石流というものを正直なところ、見たことがある人は非常に少ないのであります。かく言う私も、実はまだ
土石流を
研究しておりながら、
土石流というものを見たことがないのです。まあおそらく実際に
土石流を見たという人は、
日本全国にも数を数えるくらいじゃないかと思うのであります。
山地の
現場におられる
人たち、
建設省とかあるいは府県のあるいは
砂防関係であるとかあるいは
営林署関係の方、こういった
方々が見られておるというくらいでありまして、
土石流が
発生しておる
写真あるいは
ムービーといったようなものはほんの二、三しかない。あるいは隠れた資料があるのかもしれませんが、私も
ムービーで見得たものは
二つしかありません。それから
写真なんか見ましても非常に少ない。起こった後の姿は、これは皆行って見られますし、それから
写真もとられますが、
現実に起こっておる姿を見ておる人はないわけであります。そんなわけでこの
研究をするにしましても、実物をまだ見てない。いわんやその流速がどんなになっておるのか、どのくらいの石ころがどんな
状態で流れておるのかといったようなことは、なかなかつかみがたいわけであります。
大体
土石流というのは、もちろん昼間も起こりますけれ
ども、よく夜中に起こりまして、しかも
洪水というものと違いまして、まあ二十分かせいぜい三十分くらいであっという間に怒濤のように
土石が流れてしまうといったようなことでありますので、これが見えにくい。私もこれを見ようと思いますけれ
ども、全く命がけでありまして、へたをすると
自分も流されてしまいますので、たいへんその
現象をつかむことができないわけであります。あれやこれやで
土石流というものは実態がなかなかつかめていないわけでございますが、まあしかし
現地などを歩きまして、いろいろ考えてみますと、
土石流の
発生の
原因といいますか、様相な見ますと、
二つございます。
一つは
谷間に
土石が山腹が崩壊してくずれまして、これは一瞬にしてくずれた場合でございます。長年にわたってくずれた場合でもいいですが、それが
谷間を埋めていわゆる
ダムをつくる。大きいものもありましょうが小さいものもありましょうが、
ダムをつくる。そのつくられた
ダムに水がたまって、それが決壊して怒濤のように一瞬にして下流に流れる。こういったような
土石流と、もう
一つは
ダムはできなくても長年にわたって
谷間は
土石がたまります。場合によっては二メートル、三メートル、四メートルといったように基盤の上に
砂れきが堆積する。そこへ刺激的な
豪雨があって水が流れますと、この堆積しておった
土砂が一挙に流れ出すというわけでございます。で、いずれの場合にも、この
土石流の流れというのは、
土石がずるずると勾配を流れるんではなくて、いわゆる
段波状をなしまして流れます。その落差は二メートル、三メートル、場合によっては四メートル、五メートルといったような
段状をなしまして
土石が流れるといったようなわけでございまして、その圧力も、その速度も、普通の
砂れきが流れるのとは全然違います。したがって、
現場に行ってみますと、まあ今度の場合もそうですけれ
ども、非常に高いところにまで水位の
痕跡がございます。そんな高いところまで
洪水が流れたことを水理学的に立証することはできないのです。たとえば今度の
災害なんかでも、わずかに〇・二平方キロぐらいの面積を持ったところへ、そこへ、かりに百ミリの雨が降ったにしましても、
流量にしまして、ほんとに四トン、五トンといったような小さな
流量です。そんな
流量でそんなに高い
洪水痕跡ができるわけはないのでございますが、その
理由の
説明がなかなかつきかねるのでございますが、私
どもは、どうも
段波状をなしている、普通の川底より三メートル、四メートルも高い
砂れきが流れる、そのために
洪水の
痕跡が非常に高いところまで起こるといったように考えておりますが、先ほどから申し上げますように、何しろ
現実の事象を見ておりませんので、確言いたしかねます。このように
土石流という
現象は非常にまあ、現在のところ解明しにくい。いわんや
発生の
原因なり、
発生の機構などにつきましても、よくつかみがたい
状態であります。しかしながら
土石流というのは、先ほど申し上げましたように、
各地で
集中豪雨がございますと起こっておりますので、この
研究は万難を排してやらなければならないものと存じております。
それから、
一言ちょっと申し上げたいんですけれ
ども、よく
道路に
暗渠が埋設されております。大体
谷間から出てくる水を受けるために
コンクリートの
パイプなどが埋めてあります。この
コンクリートの
パイプは、まあ
場所によって一メートル級、二メートル級、いろいろございますけれ
ども、まあ
洪水を流すということだけの考え方じゃなくて、必ず
立木、二メートル、三メートルというふうな
立木が流れてきます。あるいは直径一メートルといったような大きな石が流れてきますので、そういうものが必ずといってもいいくらい
暗渠に詰まりまして、そのために水が流れない。流れないどころか
土石がそのためにたまって、あのような騒ぎを起こすというようなことが間々ございますので、なかなか
土石流の規模がどの
程度に起こるかということはわかりかねますけれ
ども、極力小さな
暗渠は橋梁に変えていくという方針が必要じゃないかと思いますけれ
ども、まあこういうことを言いましても、実はそういったような国道に直角に流れる
土石流の
発生しそうなところというのは、全国に何万とありまして、そういった数多い
個所について、全部そういった
対策を講ずることが
財政上できるかできないかは、私
どもはあまり知りませんけれ
ども、まあたくさんあるにしても、個々に
谷間を検討して、特に緊急度の高いものをどうやって判定するかは、まだ学問的には自信ありませんけれ
ども、たとえば岩石の堆積が非常に多いものだとか、周辺の岩石から見て崩壊が考えられるとかいったようなものについて、緊急度の高いものを選んで、そういったような
対策を講ずる必要があるように思います。
大体
土石流のことにつきまして
お話をいたしましたけれ
ども、そのほかにも、もちろん先ほど申し上げましたように、がけくずれ、山くずれといったような、これこそなお
予知が困難な
現象がございます。それから落石といったような問題もございますし、その次には寒いときにはなだれといったような問題がございまして、
道路運営の保安を期するためには、もろもろの好ましからざる
現象が
発生することがありますので、そういった面についても、十分これから検討いたしまして、
研究いたしまして、
対策を講じる必要があるようなに存じます。
ごく概要を、ちょっと私見を述べまして、また御質問がございましたらばお答えさせていただきたいと思います。