○川村清一君 私は、
日本社会党を代表して、ただいま
説明されました
昭和四十二年度の漁業の動向に関する
年次報告、いわゆる漁業白書に対し、
佐藤総理並びに
関係大臣に若干の
質問をいたします。
まず、
佐藤総理大臣にお伺いします。
質問の第一点は、水産物の需給
関係についてであります。
国民食生活の高度化は、動物性たん白質食糧として水産物の需要を年々
拡大しているのであります。これに対し、生産の伸びは停滞あるいは鈍化しているとこは、御承知のとおり四十二年度は七百十万トンの生産をあげており、これはいままでの
最高でありますが、需要を満たすことができず、
総額六百三億円に及ぶ輸入を行なっており、輸入の伸びは、ここ五
年間に実に七倍に及んでいるのであります。
国民生活の向上により、たん白質食糧の需要のますます高まることは必然であり、現在、
日本人一人一日当たりの摂取量二十六グラムが、欧米並みに五十グラム程度まで向上することを
理想とするなら、もちろん畜産物への依存度が高まるとしても、なお水産物の需要が
拡大されることは明らかであります。水産庁は、
昭和四十六年には九百万トン、五十一年には一千万トンにまで需要が伸びるだろうとの見通しを持っておりますが、一方、生産のほうは大体七百万トン台で
頭打ちでないかともいわれております。このことはきわめて重大であります。
総理は、食糧政策の上から、
日本漁業の現状をどのように
考えられているのか、農業とともに
国民食糧の自給体制を確立するという基本姿勢で、漁業生産向上のための
施策を勇断をもって講じなければ、将来きわめて憂慮すべき事態が招来されることは明瞭であります。この際、
総理の自信ある御見解をお伺いいたします。
質問の第二点は、生産
拡大を阻害する要因は国の内外に存在します。
まず遠洋漁業についてでありますが、世界の海に活躍した
日本の国際漁業は、いまやきびしい国際情勢下、至るところで締め出しを受けており、既得権を持つ漁場において、あるいは操業の禁止、あるいは漁獲量の削減等の
規制を受け、まさにじり貧の状態であります。白書は、現在、わが国が加盟している主要漁業条約あるいは協定について、またはわが国近隣の低開発諸国の漁業の現況について詳細
報告はしておりますが、これに対する方針、対策等については、何ら触れておりません。
総理は、この現状をいかに認識し、どのように対処せんとするのか、その基本的方針を明らかにしていただきたいと思います。
さらに、先般、領海及び接続水域に関する条約をようやく批准いたしましたが、領海の幅は条約上
規定はされておりませんので、世界各国の領海の幅はまちまちであることは御承知のとおり、領海三海里国、十二海里国、二百海里国、三海里国でも専管水域十二海里を宣言している国も多数あります。このことが国と国、両国間による個別条約あるいは協定によって問題を解決せざるを得ないことになり、非常に複雑でもあり、不便でもあります。何とか世界の海洋国の話し合いの中で、円満に領海あるいは接続水域の幅を
規定できないものか。この際、
日本政府が、一九六〇年のジュネーブ
会議のごとき
会議の開催を提唱してみてはどうか、
総理の御見解をお伺いいたします。
次に、
日本の漁業は、なぜ世界の国々からきらわれるのか、この際、謙虚に反省すべきであります。率直に言って、
日本漁業は世界の国々から強い不信感を持たれておるのであります。過去の遠洋漁業は、利益追求のみを目的とした資源を無視した収奪漁業であった点を深く反省し、信頼を取り戻さなければならないし、さらには進んで、新漁場の開発、
関係国との協調による資源の国際管理並びに合理的利用、あるいは漁獲物の高度利用等に努力すべきであります。これに対する
総理の御
意見を伺いたいと存じます。
質問の第三点は、経済の高度成長に伴い、独占発展のしわ寄せを受け、国内漁場は狭められ、沿岸中小漁業はその犠牲になって、生産は縮小されるとともに、漁民生活が苦しめられている現状を、
総理はどのように把握され、これに対処してどのような
施策を講ぜられようとしているのか、お伺いします。
白書は、ノリ養殖の経営体数は年々大幅に増加してきたが、伸び率が鈍化しているのは、既存の漁場が次第に失われているのが最大の原因であると、具体的に指摘しておりますし、漁船漁業及び内水面漁業においては、工場及び都市排水、船舶廃油の投棄、あるいは事故による船舶燃料油の流出等による公害が生産を阻害する要因であることを、事実をあげて大胆に提起しております。しかるに、水質汚濁を防止する対策は何らなされていなし、補償についても何もない。特に納得できないことは、最近、阿賀野川における水銀中毒事件に見られるような、長期にわたる科学者の研究の結果の結論に対し、厚生、通産、科学技術庁の同じ
政府の省庁の見解が相違するのは、いかなるわけか。通産はもとより、科学技術庁までが大企業の代弁者的役割りを演じているという印象を
国民に与えたことは、まことに遺憾であります。この際、
総理の
責任ある見解を、
国民の前に明らかにしていただきたいことと、沿岸中小漁業を守るためにも、公害防止のための決意を明確にお示しいただきたいのであります。
なお、これに関連して、中曽根運輸
大臣にお尋ねしますが、運輸省が
考えておられる海上交通法の構想は、沿岸漁民から漁場を奪うことにならないのかどうか、御答弁を願います。
次に、農林
大臣にお伺いいたしますが、関連する事項については、運輸、労働の両
大臣からも御答弁をいただきます。
質問の第一点は、漁業経営体の構成変化の中で、白書は、
大臣許可漁業経営の問題について注目すべき分析を行なっております。
すなわち大経営の経営
規模が
拡大する一方で、
規模の小さい経営が減少しており、近年の経営常体総数の増加の中で、上層では
大臣許可漁業を営む経営体が増加し、下層では逆に減少する傾向が見られる。四十一年十一月現在で、
大臣許可を有する企業体三千四百八十二企業中、わずか一件しか持たない企業体五八%に対し、十一件以上持つものが二十八企業もある。このことは収益の高い
大臣許可漁業において、大企業や、一握りの上層階層に許可が集中してきていることを示しているものであり、競争の激化と、現在の許可
制度に内在する欠陥がこのような結果を生んだものであり、許可の集中を防ぎ、中小企業下層の経営を
改善する措置が講ぜられなければならないと思うが、これに対する御見解をお尋ねします。
質問の第二点は、漁業人口の動向についてであります。
漁業就労者の年齢構成が若年労働者階層が逐年減少し、高齢化していることについてはしばしば指摘されてきました。今年の白書が、就業者中に占める女子就業者の増加している実状を明らかにしていることは
一つの特色であります。女子は、これまで主として養殖業に就業していましたが、最近では、漁船漁業への就業も増加し、一航海一週間近くの操業にも従事する実例もあり、減少する男子労働力にかわり、婦人労働力が沿岸漁業の重要な、にない手になってきつつあるということは、労働の再生産の場としての家庭における家事時間を圧迫し、生活上のひずみが増大することであり、主婦の健康を守る立場からも新しい問題として早急に検討し、強力な対策を講ずべきであります。これに対する御所見をお伺いいたします。
質問の第三点は、労働条件及び労働環境についてであります。
漁船労働者の労働条件や労働環境の
改善については、白書は克明に分析し問題を提起しております。
総理府が実施した漁船乗り組み員の意識調査で、船内生活に関する乗り組み員の要望を見ても、陸上生活では想像もできないような事項に関する要望が高い比重を占めており、また現在の労働条件についての不満を見ても、給料が少ないなどのほか、給料が不安定である、睡眠時間が少ない、労働時間が長い、休日が少ない等、不安定な賃金、長時間労働に関することが多くあげられているのであります。さらに、船内設備の中で
改善してほしい設備として、寝室、食堂、換気装置、洗面所、便所等をあげているような段階であります。漁業労働賃金調査
報告によれば、漁業における賃金の支払い形態は、固定給と歩合給を併用するものが二七%、最低保証つき歩合給四五%、全額歩合給二七%であり、全額固定給は一%にすぎません。最低保証つき歩合給は、その最低保証額が一万円から一万五千円程度であり、実質的には全額歩合給とほぼ同様の性格のものであり、これが漁業労働者の賃金の
実態であります。
さらに、漁船乗り組み員の労働時間は、四十一年運輸省の資料によれば、平均一日当たり一一・二三時間、連続休息時間八・一〇時間であります。漁船乗り組み員は海上労働として最も長時間労働に従事しており、これが、漁船乗り組み員の意識調査に、船内生活において睡眠をとることが最も楽しいこととしてあらわれているのであります。一航海当たりの出漁日数も長くなる傾向を示している漁業が多く、これらに伴い、乗り組み員の疲労が増し、海上労働という特殊性もあり、他産業より危険の高い労働環境下に置かれている
関係上、他の船舶乗り組み員に比較して、労働災害、疾病による労働損失が高い比率を示しております。
次に、漁船の海難事故は減少傾向にあるとはいえ、四十一年で千百四十五隻に達しており、うち全損海難が一八・九%を示しております。近年の漁船装備の向上から、安全度がかなり増加したにもかかわらず、依然として海難事故発生が多いのは、乗り組み員の技術水準の低さ、経営間の過当競争、歩合制賃金
制度からくる無理操業、運航技術の未熟等に基因するものであります。
このような労働情勢に対処して漁業の安定的な発展をはかるためには、これまでのような豊富な人力と低い賃金に依存する安易な経営や労務管理から脱却して、省力的な生産方式を導入するとともに、より合理的かつ近代的な労務管理方式を確立するよう、
政府の強力な
施策がなされなければなりません。このことに対し、農林、運輸、労働各
大臣から、所管事項に関し所信のほどをお聞かせ願いたいと存じます。
最後に、大蔵
大臣にお尋ねいたします。
申すまでもなく、政策を裏づけるものは予算であり、予算の伴わない
政府の政策は、単なる抽象的試論にすぎません。私が
質問で申し上げましたように、
日本の漁業は、ますます増大する
国民需要に応じて生産
拡大という至上使命をになっております。しかるに、沿岸中小漁業においては、公害による水質汚濁、あるいは米軍及び自衛隊の射撃演習場設置等によって漁場は逐次狭められており、その反面、生産
拡大のための基盤整備事業や、新漁場開発のための資源調査、あるいは、水質汚濁防止のための具体的対策、沿岸漁業振興のための特別金融措置等による積極的な
施策が強力になされておりません。農業の土地改良事業に匹敵する漁港の整備計画とその実施状況を見ても、第一次計画の実施率はわずかに三二%、第二次計画では七二%、現在第三次計画実施中でありますが、終了年度四十五年まで、あと二年を残したのみで、その進捗率は六三%にすぎないのであります。沿岸構造
改善事業にしても、その実施が不徹底なものに終始しているため、沿岸漁業の生産の伸びは横ばいの状態を続け、価格の高騰により漁業所得はふえたとはいえ、一人当たりの所得は、なお他産業従事者に比較してかなり低位にあるのが実情であります。これは、要するに、水産
関係予算のあまりにも少ないことに最大の要因があると判断いたします。
国民が生きるための大切な動物性たん白質食糧七百万トンも供給している水産
関係予算が、農林省総予算六千五百四十億円に対し、その五%にも及ばないわずか二百八十四億円などということは、一体大蔵
大臣は、漁業に対し、どの程度の認識を持たれているのか、疑わざるを得ません。この際、食糧産業としての漁業の重要性を再認識されて、誠意ある所信を表明されますことを期待して私の
質問を終わります。(
拍手)
〔
国務大臣佐藤榮作君
登壇、
拍手〕