○戸田菊雄君 私は、
日本社会党を
代表して、
国立病院特別会計法の一部を
改正する
法律案に対して、
反対の討論を行なうものであります。
国立療養所の特別会計移行が、こんなに大問題となりましたのは、さきに発表されました医療保険の抜本改革試案とともに、
政府・自民党の医療保障破壊政策の重要な柱になっておるからであります。しかも、医療保険の抜本改革に先行して、その受け入れ体制づくりの役割りを果たそうとしているからであります。
国立療養所は、戦争中の陸海軍病院や、傷痍軍人療養所を転用して、おもに結核、
精神病、ハンセン氏病など、長期に療養を必要といたします患者を収容し、治療いたしてまいりましたことは、御承知のとおりであります。これらの病気は、普通、長期療養を必要といたしますので、患者の多くは収入の道を失い、家族も療養費を負担し切れない状況であります。そこで国は、その入院代など医療費を二割引といたし、さらに入院費に加算されます看護、給食、寝具の特別料金を免除してまいったのであります。
現在、国立療養所は全国で百七十一、六万四千床、うち結核は百五十三、五万一千床を持ち、わが国医療制度の根幹とも言うべきものであります。ところが、
政府は、国立療養所の運営費、施設費に合計三百五十七億円も支出しているのに、診療収入は百四十億円にすぎず、差し引き二百十七億円の持ち出しになっているから、これは不都合だというのであります。
だから、収支が償うように、らい療養所を除いて特別会計にするのだと言っておるのであります。
佐藤内閣
総理大臣は、口を開けば人権尊重を唱えますが、いま入院中の結核、
精神障害患者などの入院療養を困難におとしいれ、これら患者の大部分を療養所から追い出す結果になることは明白であります。
以下、具体的に
反対の
内容について申し上げたいと思うのであります。
第一は、国立としての性格を放棄し、患者負担の増大をねらうものだからであります。
特会法の
審議の中で、
政府はことごとに、社会保険が発達した今日、二割引廃止は当然であり、他が特会になっているのに国療のみ一般会計である理由はない、また患者にしわ寄せばしないと言っておるのでありますが、二割引廃止、基準料金徴収で、患者一日当たり入院料は六百四十円から一挙に千百五十円にはね上がるのであります。また、一番進んでいると言われます群馬県の場合でも、一月の単価四万三千五百六十三円に対し、特会法実施後は四万六千百四十円となり、明らかに民間の入院料よりもはるかに高くなる可能性があるのであります。
さらに、これは公費負担による地方自治体、すなわち県及び健保、国保組合財政を圧迫することになるのであります。
新潟県衛生部によれば、国療特会はね返りは結核予防法のみで年間三千六百九十八万円の支出増を見、全国で約八億円から十二億円の自治体負担増を招来する結果に相なるのであります。
国療が二割引を設け、基準料金を徴収せず、一般会計であった理由は、前述したとおりでございますが、結核、
精神重症児、交通災害後遺症などの長期患者が、長期ゆえに貧困におちいらないための防貧
措置であるはずなのであります。特会は国の直轄事業としての医療の公共性を奪い去るからであります。
第二は、国立療養所特別会計法は独立採算制を目ざすものであるからであります。
政府は口を開けば、「特会は独立採算制ではない」との主張を行なっているのでありますが、
昭和二十四年に特会になったとき、当時の林厚生大臣は全国病院長を東京に招集し、訓示の中で次のように言っておるのであります。
「国立病院を特別会計にする理由は、現在、国立病院は一般会計で処理しているが、収入と支出に相互
関係がないために、収入に不熱心となり、あるいは支出が放漫に流れるので、特会にすれば、収入に熱心になり、支出の面で節約がはかれる利点が生ずる。また、人員、金銭に機動性を持つことができるし、能率をあげることが要請され、各職員が能力を発揮する。加えて運営が合理化され、各種統計が迅速となる」のであります。「しかしながら、反面、欠点があらわれる。特別会計の最大の欠点は、収入をあげなければ運営が不可能となる結果、必然的に収入第一を目的とするようになり、そのため公的医療機関としての特色が希薄となり、少ない支出で多くの収入をあげようとすることになる。このために具体的な欠点として、まず、診療
内容が不適正となり、実質的な医療費の高騰を来たす。次に、粗悪な薬品を使用し、診療費の徴収を目的として不必要な治療を行なうことになる。また、収入のあがらない患者を敬遠し、難病や慢性的な病気を歓迎しないことになる。その他、治療、診断などの基礎的な研究業務が等閑に付され、実施された場合は患者の負担となり、災害時、伝染病流行など、公衆衛生面の活動がおろそかにされ、新設・大修繕工事が困難となる」等々、多くの重要な問題に対しましてその欠陥が指摘されているのであります。
また、国立病院は、
昭和二十四年特別会計に移された当初、二五%繰り入れるとのことにもかかわらず、実績二十四年度二三・七%、二十六年度に至って二五・一%実現、現在は一一%の繰り入れ率となって大幅に低下しているのであります。
あと一歩で独立採算であります。もはやその公共性は失われてしまっているのみならず、病院整備借入金百十五億円の返済が、職員の肩にずっしりと重くのしかかっているのであります。
国立療養所についても、四十二年度は五六・三%が、四十三年度は四三・五%と、一年で一二・八%も減じられているのであります。四十三年度は初年度であり、二割引き廃止などに伴う在院患者等の免除
措置がとられると言うが、これがはずされますと、四十四年度以降大幅な繰り入れ低下を招くことは、従来の
政府のやり方からすれば、必至の情勢と見なければなりません。
第三は、多くの療養所がつぶされ、大量の労働者の首切りを招来するからであります。
独立採算制はとらない、四九%は一般会計から繰り入れますと、園田厚生大臣は言っておりますが、前述したとおり、
昭和二十四年の国立病院の移行時に林厚生大臣が明らかにしているように、収支率のみがものを言うのが、特会制の本質なのであります。現在国立療養所の定員は、二万三千三百二十七名でありますが、収支率改善の第一着手であります。高齢者の退職勧奨、清掃、洗濯、給食などの現場全面下請とともに、国立療養所は、大量の労働者の首切りをもくろんでいることは間違いのないところであろうと思うのであります。
第四は、結核、
精神重症児などの医療を後退させ、中断させることになるからであります。
結核は減少したとはいうものの、まだ百四十万もの患者が実際に保健所に登録されているのであります。活動性患者で医療を受けられず放置されている者が、十四万人もいるのであります。決して手を抜いたり中断してよい段階ではありません。しかし、二万五千円で国立療養所に入所できたものが、四万八千円にもなると、これは新潟の例でございまするけれ
ども、これまで予防法のワクが十名分のところも、五名分となってしまう。県で国療に入所させたくとも、二分の一しか入所できなくなるのであります。
精神ベッドも、
昭和三十四年、国立四千二百九十六床、民間との比率九七%が、四十年五千三百三十床と、十年間で千三十四床ふやしたのみで、比率は三%へと、六七%も下がっているのであります。
精神重症児の医療の保障についても、民間、国立を問わず、医療費、重症児指導員に対する県の補助を加えても、収入に達していない。しかも、重症児と職員の比は、児童
精神医学会の要望に見られますように、患者一対職員一には、はるかに及ばないのであります。採算を度外視しなければならない福祉的医療を特会にすること自体、理解に苦しむところであります。
以上、私は
幾つかの例をあげ、
反対してまいりましたが、国立といい、公立といい、もともとこれらの病院は赤字になるように、つまり、患者から医療費取り立てをできるだけ低く押えるようにつくられたものであるのであります。
すなわち、国立療養所の割引制や、僻地の自治体病院は、その
代表的なものであります。したがって、赤字は当然国費によってまかない、国立療養所については、現行制度を維持するだけでなく、むしろ、積極的な改善が必要でありますし、自治体病院に対しては、一定の基準を設けて国が大幅に援助することが必要なのであります。
それにもかかわらず、佐藤内閣は、今次
国会の
審議を通じて明らかになりましたように、アメリカの極東侵略政策に追随をし、倉石問題に見られますように、憲法を否定、軍国主義、汚職、
公約無視等、数多くの
政治不信を招来し、
国民大衆からきびしい
批判を受けるに至っておるのであります。そして総評、全医労、日患同盟の労働者共闘
会議に結集する全労働者をはじめ、多くの
国民大衆が心から
反対をいたしておるのであります。それにもかかわらず、本日わが党をはじめ、
野党各党が慎重
審議中にもかかわらず、
質問半ばにして、本特別会計
法案を強行いたしました
政府の態度は、絶対に容認のできないところであります。
政府はすなおにわが党の正しい要求を認め、本
法案を撤回し、
国民大衆の期待にこたえることを強く要望して、私の討論を終わりたいと思います。(
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