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参考人(
西田信一君) 私は、ただいまの
グルノーブルの
オリンピックの
日本の
選手団長として参りまして、非常に御
期待に沿えない結果を持って帰ったわけでございますが、率直にその
大会の
状況並びにその結果に対する
反省について申し述べてみたいと思います。
で、このたびの
オリンピック、三十七カ国の
参加でございます。
選手数は千三百七十名。
うち女子が大体二百五十名で、
種目は三十五
種目ございまして、そのうち
日本が
参加いたしましたのは二十八
種目でございます。
で、出発前の私どもの
考えといたしましては、
札幌オリンピックが決定いたしまして、
札幌オリンピックに備える
長期の
強化策というものを立てておりますが、それの第一年目が終わって第二年目に差しかかるところでこのたびの
オリンピックを迎えた、臨んだと、こういう
立場にあるわけでございます。したがいまして、
札幌オリンピックにおいて
日本が最大の
成績をあげますための
立場から申しますと、今回は
札幌大会に対する足がかりを確保いたしたい、こういうようなことを
総体の
目標といたしまして、その
種目別に見ますると、そういう
立場から
考えますれば、
日本の
水準も一歩一歩
向上しておりますので、ごく若干の一、二の
種目につきましては、あるいは
上位入賞、あるいは
上位入賞できないまでも六位以内の
入賞というものは、二、三の
種目につきましては何とかかちとってもらいたい、こういう実は率直な
希望を持って参ったわけであります。
で、
大会の
状況その他につきましては、後ほどまた
お話がございましょうから、私はそういう点は省きまして、
日本が
参加をいたしました
種目別にその
成績の概要と、それからまたそれに対する
反省等を申し述べてみたいと
考えます。
第一に、
スピードスケートについて申し上げますが、これは
男子と
女子と両方が
参加をしております。で、
日本は、
男子も
女子も、
短距離におきましてはやや
国際水準に近いのでありますけれども、
長距離になりますというと、
かなり開きがあるわけでございまして、これはとうてい
入賞というようなことは
最初から
期待はできませんでしたが、
短距離、ことに
男子の
短距離におきましては、
かなり日本の
水準が
世界の
水準に接近をしておる。あるいは肩を並べるところまでいっておるのじゃないか、こういうふうなことでございました。われわれはこの五百メートルという
種目に非常な
期待をかけたのでありましたが、残念なことには、
日本の最も
期待をかけた
鈴木選手が、
鈴木選手にはいまだかつて見たことのないような
失敗をやりました。第三
コーナーと申しまして、スタートを切りましてから
最初の
コーナーを回って第三
コーナーに差しかかったところ、安定を失いまして、ついにそこで異様な大きなロスをいたしまして、結局第八位という
成績に終わったわけでありますが、もしこのことなかりせば、おそらくは、
優勝いたしまして今日
日本に来ております
ケラー選手とどちらが勝ったかわからない、あるいは
日本の
鈴木が
優勝したかもしれないというようなペースですべっておりましたが、そのたった第三
コーナーにおきますところの思わざる失策のためにこれを失したというような結果に終わったわけであります。
中
距離、
長距離等におきましては、これは残念ながら
日本の
選手は自分の持っておる
記録にも到達しない、
日本の最高の、
日本記録にも及ばないというような結果でございまして、これはいろいろ
反省を要することであろうと思いますが、ことに
日本の
女子選手がはなはだ不振でございまして、これは全
参加選手のずっと
あとのほうに位置するというような
成績しかあげ得なかったのでございます。
次に
フィギュアスケートについて申し上げますと、この
フィギュアスケートにおきましても、
日本の
男子も
女子もかつては、相当な
水準に去年あたりまでは達しておりました。
世界の
選手権等に出ましても四位ないし五位というところにおったのでありますが、今回は
男子の
有望選手が引退をいたしましたために、
かなり水準が低い
選手が出場いたしました。
かなりと申しますと語弊がありますが、そういうようなかつての四、五位におるような
選手は
男子では送り得なかったのであります。
女子につきましては、これも
優秀選手が引退いたしました
あとを継いで
大川という
選手が、これは場合によりますと四位、非常にうまくいけばあるいは三位にも
期待を持てるかというような実は
考えで参りましたが、率直に申しまして、
世界の
フィギュアの
水準はこの一年間に非常に伸びておりまして、そういうような
上位入賞ということはまず困難であろうけれども、五、六位ぐらいのところには食い込める
可能性を持っておる、こういうふうに実は思っておりましたが、これも若干の不運も手伝いましたけれども、やはり先ほど
竹田副
会長が申されましたようないろいろな悪条件が重なりまして、ついに
期待をしておった
大川選手も、実際には順位や点数では第六番目になっておるのでありますが、いろいろこまかい
競技規定がございまして、これによって第八位にとどまったというようなことで、これも
最初の
期待を裏切ったわけであります。
男子は、残念ながら先ほど申しましたような
選手しかおりませんために、これも
上位の者にはとうてい及ばない
状況でありました。
アイスホッケーにつきましては、
日本は従来の戦績に従って
Bクラスに出場する
出場権を得ておったわけでございますが、その前の年に
Cクラスから
Bクラスに上がりまして、そして
Bクラスでは何とかできれば
優勝をしていきたい、こういうような
期待を持って参ったわけであります。結果は、御案内のように四勝一敗ということで、第一位の
ユーゴに勝を譲ったわけでありますが、しかしながら、これも結果から見まして
考えますならば、
日本の持っておる
実力というのは、
Bクラスで
優勝いたしました
ユーゴともし今日やればどっちが勝つかわからない伯仲した
実力を持っているというふうに思いますが、とにかく
ユーゴに第一戦を失いまして、この
Bクラス優勝という
希望も実は実現できなかったわけであります。
ちょっとここで一言触れますと、
アイスホッケーは
Aクラスと
Bクラスに分かれておりまして、
Aクラスのほうは八
チーム出ておりますが、この八
チームによって第一位から六位までの
入賞の国がきまったわけでございますが、その
実力を見ますというと、今度
優勝いたしました
ソ連は飛び抜けておりますが、続いてカナダ、あるいは
チェコスロバキア、
フィンランド等、こういうような国が非常に強いのでありますが、下位の東西両
ドイツは七位、八位に終わったわけでありますが、これらの
チームと
Bクラスの一、二位にありますところの
日本、あるいは
ユーゴ等との
実力はそう大きな
開きはないというふうに
考えられるわけでありまして、これから
日本の
アイスホッケーにつきましても、何とか
Aクラスに突入したいという、この当初の目的に向かって今後
努力を要する、すればまたこれは不可能なことではないというふうに
考えるのであります。
それから、
スキーについて申し上げますと、これは
種目がたくさんございますから一まとめに申し上げますが、
ジャンプ競技——ジャンプ競技にも七十メートル、九十メートルの
二つの
クラスがございます。それから
複合競技、
滑降競技、
回転、
距離競技と、こういうように
種目が分かれております。これらについて申し上げますと、最も有望視されましたのは
ジャンプ競技、しかも
ジャンプ競技の九十メートルのほうは
かなり国際的な
実力に近づいておるというようなことで、これに一番の大きな
期待を持っておったわけであります。ところが、この九十メートル、
最終日でございましたが、これにおきましても、
日本の最も
期待いたしておりましたところの
藤沢選手が、第一
飛躍におきましては百一メートルというような
記録を出しまして、五十六名の一番最後から二番目に
ソ連の
選手が飛ぶまでは
藤沢選手がずっと第一位を占めており、
ソ連選手が百一メートル五十飛びましてわずかに
藤沢選手を上回るというような第一回の結果でございました。これはすでに
皆さん御存じと思います。ところが、第二
飛躍におきまして、われわれは非常に
期待をいたしておったのでありますが、残念ながら非常に
藤沢選手は
失敗の
飛躍をやりまして、ついに十数位に落ちるというようなこれも結果に終わったわけであります。
滑降、
回転、
距離競技等におきましては、なかなかこれは
日本の
選手は
欧州陣には
かなりの力の差がございます。わずかに
ジャンプと
距離とを合わせました
複合競技におきまして、いままでにない第十位の
成績に上がったわけでございますが、
ジャンプにおきましては、
複合において
日本選手が二位、四位、こういうような
かなりの
成績をあげましたが、
距離競技におきまして、はなはだ残念でありますが十位に落ちる。しかし、十位というのはいままでかつてない
成績でございまして、
スキー競技におきましては、
ジャンプにおいて
入賞の機会を失し、その他の
競技におきましては残念ながらあまり
上位に近い、あるいは中位の
成績もおさめ得ない、
複合におきまして
ジャンプの
成績によって十位に上がったというような結果に終わったわけでございます。
それから次は、
スキーと
射撃を組み合わせました
バイアスロンでございますが、これも
日本選手は
かなり射撃がうまいということで
期待をいたしておったのでありますけれども、これまた雪質等非常に天候に災いされました影響も受けまして、残念ながらはなはだ
成績がふるわず、最も悪い
成績で終わって、これも
期待を裏切ったわけであります。
リュージュ、
ボブスレイ等には
日本は
選手を送っておりませんで、
リュージュは新しい
競技でありますが、
日本の
選手が特別に試みにすべる試走を許されたという
程度でございまして、まだこれから
日本が
選手をつくっていかなければならない
種目でございます。
以上がきわめて簡単な概況の
報告にすぎないのでございまするけれども、そこで、なぜ一体
日本選手はこういうような不振な結果に終わったのであるかということを、これは率直に振り返って見、
反省もし、そして将来に備えなければならない、こういうふうに存じておりまして、
団長として非常に
責任を痛感しておるわけでございます。
先ほど来
竹田さんも
お話がございましたが、私は、先ほど冒頭に申し上げましたように、この
グルノーブル大会において
日本選手がきわめて優秀な
成績をおさめてくるという
実力は持っておらない、これは
最初からわかっておりました。きわめて限られた一、二の
種目に
期待をかけておったわけでございまして、四年後の
長期強化対策、これの成功のためには今回できる限りの
成績をおさめてきたい、こういう
考えを持っておったのでございまするけれども、率直に申して非常に、
世界の
水準に近い、あるいは到達している
種目もごく少数ございます。しかしながら、
世界の
水準にはるかに遠い
種目が数多いのでございます。また、それに中間的なところまで進んでおるものも若干ございますが、
総体を通じて申しまするならば、まだ
世界の
水準から
かなり遠いところに
日本選手の位置がある、こう申して間違いないと存じます。しかしながら、私は当初から
選手に申しておりましたことは、あまり
選手に対して
精神負担になるようなことは申しておりませんでしたが、とにかく自分の悔いのない戦いをせよ、自分の持てる力を出し切るということが悔いのない戦いである、もし自分の持てる力を出し切れなかったときはこれは全く悔いを残すような結果になるのであって、もし敗れても自分の持っている
実力を、力を十分に出し切るということだけはやるようにということを実は
選手に申し、
期待をしておったわけでございます。ところが、率直に申しまして、私は、
日本の
選手が、これは例外もございまするけれども、
総体を通じて見るならば、自分の
実力もよく出し切らなかった、こういうように実は思うのであります。それは一体どこに原因があるのかというようなことは、これは謙虚にひとつ振り返って
反省しなければならぬと私は思うのであります。これはただ
一つの事柄だけによってそういう結果になったのではないと思います。いろいろな条件がそこに積み重なってそのような結果に終わったものであるというふうに
考えるのが妥当であろう、こう思うのでございます。
一体、何がそれじゃ
日本選手に欠けているのか。これは
日本の
競技の歴史というものが、これは残念ながらまだ歴史が浅いのでございます。欧米に比べて非常に歴史が浅い。また、
競技をする期間も短い、
競技をする場所も少ない、
選手の層も非常に薄い、しかも
国際交流の機会というものはきわめて少ない、こういうような条件に置かれているのが
日本の
立場であると思います。こういう条件の中から
世界の強豪を相手にして勝利を目ざすということは並みたいていのことでないということは、十分覚悟しているところでございまして、要するに、平易なことばで申しますならば、
世界を追っかけて、そしてそれを追い抜く、こういう二段の
努力が必要であるというふうに私どもは理解をしている。そのためにいろいろな
目標を立てまして
選手強化をやっており、
皆さまから非常な御鞭撻をいただき、国からも相当の援助をいただき、民間からも相当な支援をいただいて、そしてやっておりますけれども、私は、
外国の
選手の鍛練のしかた、あるいは国をあげての
選手に対する
組織の力で
選手をささえている姿、いろいろ
考えてみますると、まず第一にみずからなさなければならぬことは何であるか、私はまず精神鍛練であるというふうに思うわけであります。精神鍛練ということはいろいろな意味にとれまするけれども、
日本選手が決してなまけておった、こういうような意味ではございません。
しかしながら、何と申しましても、
世界の舞台において堂々と渡り合うためには、やはり現在の
日本の背負っているところのマイナスの条件を、これを克服していかなきゃなりませんが、そのためには何といっても十分使い得る
施設も必要でございます。さらにまた、
競技会、つまり
競技鍛練をする
競技会の機会等も、おそらく諸
外国の
選手に比べましては二分の一ないし三分の一でございます。
向こうの
選手たちはもう、欧州の各国におきましても、ちょうど隣の県に行くごとく
交流を行なう。そして年に二十回、三十回というような、きわめてきびしい
競技経験を経て鍛練をして、そして
オリンピックに臨んでおりますけれども、
日本の場合においては、国内におきましてもそれだけの
競技を通しての鍛練もできておりませんし、それから
国際交流の機会などはなおさらないというようなことでございます。そして海外に遠征するにいたしましても非常に
長期間を要するのでありまして、今度もユニバーシアードに出場して、そしてユニバーシアードからさらに
オリンピックというようなことになったわけでありまするが、こういうような
距離が遠いために、費用の
関係ももちろんこれにからんでまいりまして、一ぺんに出かけてチャーター機を雇うというようなことにしなければ費用負担もかさむというようなこともございまして、これが各
競技種目によりましてそれぞれ違う事情を
一つにまとめて出発をするというようなことでございます。そしてなれない海外に初めて行く
選手もあるというようなことでございまして、
外国の連中は全くもの珍しいというような気持ちではなくて、全く自分の国でやっていると同じような気持ちであらゆる
競技会に出ているのに比べて、
日本選手はそういうような面においても十分なチャンスがないというようなことから、ことばもできない、あるいは食事の面等におきましてもいろいろ
考えなければならぬ点があると思いますが、スタミナが十分ないとか、あるいは精神的な何かものをそういう場合において感ずるというようなことやら、いろいろございまして、いよいよ大事な本番というときに十分自分の最高の力を出し切らなかったというようなことは、これからの精神鍛練とさっきことばで申し上げましたが、これは心がまえの問題も必要であります。同時に、やはりそういうようなことのハードトレーニングをやって、そうして各国
選手と同様の鍛練をやる、国際的な雰囲気にならすというようなことによって、ものに動じない試合度胸をつけるというようなことはどうしても私は必要なことであろう、こういうふうに実は
考えておるわけでございます。
ことにこの
日本におきましては、何と申しましても、
外国と違いまして、
選手の、何といいますか、
選手年齢といいますか、これも短い。これは
日本の社会環境あるいはその他のいろいろなものに影響を受けているわけでありますが、
外国の
選手の寿命は相当長うございますし、あるいはまた生活等におきましても、
日本選手は合宿をいたしましても、合宿の期間だけ栄養をとるというようなことで、家庭に帰ってそれが年じゅう生活を通して鍛練をするというようなことにはやや欠ける面がありはせぬかというようなこともあろうと思います。
それから、今度三冠王になりましたキリーというのがフランスにおりますが、これなどはちょうど、私は
札幌と
東京というと、パリと
グルノーブルというのがちょうど似通ったところにあると思いますが、パリでは一体この
オリンピックに対してどのぐらいの関心が示されたであろうかというようなことも興味を持って見ておったのでありますが、キリーというああいう三冠王が出たということもありまして、全くやはり強い
選手が出なければ国全体の空気が盛り上がらぬというようなことも痛感されるわけでございます。私が
向こうにおります間に、各国のスポーツ大臣と申しますか、青少年大臣と申しますか、そういう大臣が自分の国の
選手を激励に来た国も相当ございました、これは
距離が近いから。
日本はそう簡単には
いかないということは当然でありますけれども、そういうこともございまするし、それからまた国民全体の
組織の力で
選手を盛り上げる、育て上げる、こういうようなことも痛切に感ずるわけでございます。
何とかひとつこういうような
失敗というものを、ただ申しわけだけするのじゃなくて、申しわけは一切しないつもりでおりますが、なぜ
日本が敗れたのか、なぜ持てる力を出し切らなかったのかということにつきましては、謙虚に
反省をいたしまして、そうしてこれに対する対策というものを十分立てて、次の自分の国で、母国で行なうところの
オリンピックには少なくとも国民の満足されるような成果をあげなきゃならぬ。私はたいへんこれは言い過ぎたことばになると思います。おしかりになると思いますが、なまじっかの
成績をあげてきたよりも、むしろ惨敗してきたほうが奮起の機会になるし、また残っておるところの後続部隊、若い次の
札幌オリンピックを背負う青少年の奮起の材料に
一つしたい、なってほしい、こういうふうに実は思っておるような次第でございます。
はなはだ、時間がありませんので概略を申し上げましたが、率直なひとつ心境を差し加えまして御
報告をさしていただきました。