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参考人(
鶴尾昭君) 日本原子研究
所労働組合中央執行委員長の
鶴尾でございます。
こういう国会の場でなければ、原研の労使関係というものが原研の内部だけで解決できないいろいろの問題があるということは、私はそれなりに残念なことだと思っておりますが、実は、原研の労使問題が国会で取り上げられましたのは、今回が初めてでございませんで、四年ほど前に衆議院の科学技術振興対策特別
委員会で原研の問題が取り上げられまして、そこで労使問題も含めまして五項目の決議がなされております。その五項目の決議と申しますのは、大要を御
説明申し上げますと、
第一項は、原研が、今後、開発研究に重点を指向するとともに、これと不可分の基磯研究分野における有機的な結合をはかる。
第二項は、学界、産業界との協力を強め、人材を養成する。
第三項は、研究者、技術者に対する所要の体制を確立するとともに、労使協定、労務管理を整備し、所内規律の確立をはかる。
第四項は、研究者、技術者の処遇の
改善をはかり、施設の拡充にあたってこれに見合う要員の確保を期する。
第五項は、原研の
予算運営にあたって、会計法規の弾力的運用をはかる。
この五つのことを総合的に運用して日本の最大の研究所である原子力研究所を発展させていく、こういう点で国権の最高決議機関としての国会での決議がなされているわけでございます。
この国会決議の中で申し上げましたように、第三項のように、労務管理を強化して所内規律をきびしくしろというような条項は、労働組合として必ずしもたいへんありがたいと言うわけにいかないような
内容を含んでいるわけではございますけれども、いやしくも国会でそのような五項目の決議がなされまして、そういうものを総合して運用していくことによって研究を発展させていくという意思が明確に出されました以上、労働組合としても、これを尊重していくと同時に、こういうものを通じて労使の相互信頼の回復もはかれる、そして研究が発展されるならば、これにすぐるものはないと、そういうぐあいに思って
努力しておったわけであります。
このような決議がありましたあとで、
政府のほうも、どういう事情か、原子力
委員長も次々にかわりまして、私がこの二年間
委員長をつとめておりますが、その間に三回原子力
委員長、科学技術庁長官の方がかわられております。まあそういう中でこの五項目の決議が総合的に推進されたかどうかということが重要なのではないかと思うわけであります。ところが、私どもの見るところ、この五項目の決議が総合的に進められたということはどうしても
考えられないのであります。
まず、研究が発展させられていったかという点では、前記の国会決議がなされました三十九年四月直後に、現在の
理事長の丹羽周夫
理事長が来られまして、そこでは今後は原研はかなりよくなるのではないかという一種のみんなの期待があったわけでありまして、また、
理事長も、たとえば「日本原子力学会誌」の巻頭言に、国家の
目的で研究をやっていくにあたって、どうしても研究者やなにかの間に摩擦が生ずる、フリクションが生ずる、こういうフリクションをうまく管理して、そうしてみんなをまとめていくのが管理者の役目であると、こういうことを述べられておりました。ところが、残念なことに、研究者の中では、一体これからどうなっていくのかという点で非常な不満、不安というのが起きております。
たとえば、
理事長が来られましてから、原研の一番大きな任務は動力炉の開発なのである、こういうことをぶたれたわけでありますが、残念なことに、動力炉開発という大きな柱は、昨年、動力炉・核燃料開発事業団というのができまして、そこからいろいろ委託を受けていくということになって、それでは、一体、原研の主体性はどうなるのだろうか、どんな仕事のしかたをしていけばいいのか、どうも納得がいかない。特にこれは、開発を担当しておる研究者、技術者の中から非常に強い不満が出ております。
第二の、人材の確保、処遇の
改善についてつとめるべきであるという項でありますが、人材の確保どころか、流出の現象というものは、これは
理事長も認められているわけでありますが、この数年間に、研究歴十年ないし二十年の研究者の約三十人の人が原研から流出されております。このクラスの人というのは、原研全体で百数十人の程度でございますけれども、そういう中で一番中心的な研究員が流出していくわけでありますから、この三十人という数字は、われわれの研究者の気持ちとしては、何といいますか、からだがそがれていくような、そういう感じのする方が多いわけであります。そういう中で、本
年度は人員増加というものがほとんどゼロである。事業量はふえているのに実質増員がゼロという、こういう状況でございます。
それでは、少ない人数でもって待遇はかえって大いによくなったのかというと、そうではございませんで、わかりやすい例を申しますと、たとえば原研とほぼ同じような立場におります特殊法人――幾つもございますが、道路公団でありますとか、住宅公団でありますとか、そういう特殊法人の中の大卒初任給というものが、大蔵省の指導では二万九千四百円というようなことになっておるわけでございますが、原研だけはそれより二百円低い。原研などは、初任給調整
手当というようなものが研究者に対して出されているような事情があるにもかかわらず、そういう
政府の全体の方針に反して初任給が他の特殊法人よりも低い、こういうようなことはどういう
意味なのか、われわれは全く解しかねるわけであります。
そういう研究者の不満、こういうのは研究者だけじゃございませんで、たとえばまじめな事務屋さんの間にもそういう意見が強くて、たとえばこれは「原研」という原研当局で出しております雑誌でございますが、ことしの
予算折衝で折衝期間中の五日間は毎晩二時間足らずしか眠れなかったという担当のSさんは”敗軍の兵涙を流す”と題して、残念ながら原研は無配会社に転落した、もうだめなんだという
意味のことを論じておられます。私は、労働組合の
委員長としましては、研究所を株式会社と間違えるような発言をすること自体に対しては若干疑問がございます。正しい表現ではないと思いますが、こういう所の管理の中枢におられるまじめな職員にもこういうことばをはかせるその職員の気持ちというのは、痛いほどよくわかります。
じゃ、そうすると、何がなされておったかというと、こういう総合的な発展ということとは離れて、ただ労務管理の強化だけで、第三項のところの強化というところだけを、真の
意味を歪曲して、労使の信頼関係を失わせるようなかっこうで、決議全体の
精神を無視するようなかっこうで強行されておる、 ここに問題があります。そして、それは、極端な場合には、労働法さえ無視しているという事実があるわけでございます。たとえば、この間の労使紛争にあたりまして、われわれは、動力試験炉というもの、これはいま来ております原子力潜水艦なんかに積んでおります原子炉とほほ同じくらいの大きさの原子炉が原研に発電用の実験炉としてありまして、そこでいろいろ研究を行なっておるのですけれども、そういうところでどういう勤務をするかということに関しては、
昭和三十八年に労使協定がございます。この労使協定というのは、労働組合法の十五条第三項によりますと、無期限の協定でございましたので、明確な破棄の文書通告後九十日たたなければ破棄できないわけでございますが、実はこれを改定しようという通告があってから四十日程度でもって、しかも大みそかに近い暮れの十二月二十七日というような時点でこれを一方的に破棄してくる――破棄するというか、破棄の通告もなしに業務命令が出てくる、そういうことが行なわれるわけであります。こういう状態が、一体、労使信頼関係が持たれるかどうか、私は持たれないと思うのです。
でも、私どもは、いろいろそれで忍耐いたしまして、いろいろなことがあった結果、ストライキ、それに対するロックアウトというようなことがございまして、私どもは、研究を発展させるというようなことから、これ以上なにを大きくしないために、直ちにストライキを回避したわけでございますが、それ以後三週間余りロックアウトが続きました。こういう中で、たとえば、御承知のように、放射線を扱っておるわけでございますから、血液検査などが
法律上必要でございますが、そういうようなものも中止される。共済会とか
生活協同組合とか、ああいう東海村という僻地で
生活を維持していくために必要な施設の利用も十分にできない。労働組合事務所への立ち入りも
禁止である。そういう人道上の問題もございますし、特に研究者をおこらせましたのは、三月から四月にかけて学会シーズンのその研究発表も
禁止されていく、こういうようなことが行なわれました。
こういうことに関しましては、たとえば五月十八日の「朝日新聞」に次のように載っております。茨城地方労働
委員会は、「ロックアウトは会社側の
権利ではなく、労働法では、正当防衛、緊急避難の場合のみ行使できることになっている。従って、スト解除後のロックアウトは行過ぎだ。」というようなことを、「一般論になるが」と前置きして言っておられます。あるいは、「週刊読売」の記者としておいでになった評論家の奥野健男氏は、「今日の労働運動の常識では
考えられない前近代的、ウルトラC級の労組対策がとられている」ということをお書きになっていらっしゃいます。これが
実態かどうかは私は論評いたしませんけれども、第三者にそのような感じをさせたということは御
指摘したいと思います。
それから、歴代
委員長を原子炉研修所講師からはずしておりますような問題、これにつきましても、ただいま楠瀬
参考人からいろいろ申し上げられましたけれども、それについての参考資料は皆さまのお手元に時間の関係もございますので配付してございますが、きわめて形式的な御意見ではないかと私は存じます。これは、現実に、特にこの数年間、
昭和三十九年のそういう国会決議がなされて
理事長が交代されて以後の歴代中央
執行委員長を一挙に何の
理由の明示もないまま講師からはずす、こういうことについては、研究者の間では非常に大きな憤激が起こっております。現在の時点で、これを、特に学術会議の会員の選挙資格者、これが日本の
法律で科学者ということに規定されておりますけれども、そういう原研の中の科学者のうち四十五人の方が発起人となって署名活動なども進めておられます。この科学者の中には、労働組合員以外の方も含んでおられます。そういう点で、このことの持っている
内容の
意味ということがおわかりいただけるのではないかと思います。
まあまとめて言ってみますと、私どもの労働組合は、研究を一番大事にしております研究所の労働組合らしい、まじめな、そして民主的な運営を大事にしておる労働組合でございます。でございますから、あの三十九年の国会決議のように総合的に研究所の発展というものがなされており、人員の補充もあり。それに応じた処遇の
改善もあるならば、決して大きな問題は生じないのではないだろうか。それが、国会決議の
精神がゆがめられて、ただ一部だけを拡大して
精神をねじ曲げて適用されている、そういうところに問題があると、私はかように感ずるものでございます。