○
八木(一)
分科員 では一般的な問題はそれだけにいたしまして、
法務省管轄の問題で御
質問申し上げたいと
思います。
先
日本院の
法務委員会で同僚の
中谷君から壬申戸籍についての御
質問があったと伺っているわけでございます。それから、最近それについて
法務省が通達を出されたことも、新聞紙上を通じて拝見をいたしました。この壬申戸籍の問題は、これは
法務大臣、十二分に御
承知だと
思いますが、明治五年、みずのえさるという年に最初の戸籍がつくられたわけであります。その戸籍法で、明治四年の四月四日の太政官布告で戸籍をつくれということになりました。その最初のときには臣民一般をその戸籍に載せるということになっていまして、その身分は、士族、祠官
——これは神主さんです、僧侶、平民と分けられておったわけであります。したがって、同和地区の住民の方々は、最初の戸籍をつくるときの対象から除いておったというような状況がございました。その明治四年の八月にこの問題に関する太政官布告が出ました。第六十一号であります。いわゆる解放令といわれておりますものが出たわけであります。この壬申戸籍を
ほんとうにつくりましたのはその翌年になりましたから、そこで未解放部落の同胞の皆さんがそこで戸籍に載ることになったわけでございますが、その戸籍の中で、元穢多であるとかあるいは新平民であるとか、そういう記載がなされておりました。昔の身分的な賤称が記載をなされた
状態でいわゆる壬申戸籍がつくられたわけでございます。そこで、その問題が不当でございますので、大正年間にいろいろ水平社の
運動その他の状況がございまして、当時の内務省では司法省に対しまして「戸籍制度実施前に於ける戸籍賤称ある部分を改写し原本を焼却せられたきこと」の請願を行なわれたわけであります。それで司法省は、そのときに、それを受けまして、司法省の民事第一〇一九六号司法次官通牒ということで、「当該戸籍の改製をなすは差支えなく又」間を抜きまして、「当該文字を市町村長の職権にて抹消することを得しめるのみならず、右抹消の如何には拘はらず、当該戸籍の謄本若は抄本には当該文字の謄写を省略して交付すべきこと」ということを地方
裁判所にいっておられるわけであります。内務省はその
見解を付して、大正十五年の五月三十一日に、社会
局長の通牒で、「戸籍に於ける賤称抹消に関する件」ということを各知事あてに通達をされております。ところが、こういうことが行なわれましたけれども、指示が徹底しておりませんで、その戸籍を悪用いたしまして、それを調べて、昔の身分的差別の概念を持って、その人の結婚を妨害をしたり、あるいは就職を妨害をしたり、そういうようなことがずっと事象として行なわれておる。そこで、そういうことがございましたので、福岡県の知事から、
昭和七年六月二十七日付で、「現在の戸籍のみ改製しても問題は除籍簿にある」除籍簿のところ、除籍のもとをたどると壬申戸籍が出てくるわけでございますが、「除籍簿にある」「当該文字を市町村の職権にて抹消することを得」というが、これは「賤称を抹消し得るに止まり、右箇所の抹しあるものは閲覧等の場合一見して賤称ありしものたること判明しその効甚だ尠きを以って之を改製して痕跡を留めざらしむるを要す」ということを、福岡県知事から中央官庁に、そういう意見を具申をしているわけであります。それに対して司法省のほうは、次官名で、「賤称の抹消の痕跡あるものについては、今般更に之を改製せしめれる上、原戸籍は
裁判所に引継保管せしめることに相成候」ということで、
昭和七年の九月六日付で通達を出しているわけであります。
そういうことが行なわれておりますが、それにもかかわらず、その壬申戸籍が各市町村で保存をされておりまして、各地でこれが悪用をされておる事実がたくさんあるわけであります。いま戸籍法では、残念ながら、手数料を納めさえずれば、だれでも戸籍の閲覧ができるというふうになっております。そういうことで、金だけ払えば、その除籍簿も通じて壬申戸籍まで人が閲覧をできるようなことになっておりますので、興信所の
人たちなどが悪用をしまして、個人的なけしからぬ差別概念のある
人たちの用をなすために、興信所がそれを見に行って、それを悪用しているという事実が方々にあるわけであります。これは結婚の問題や就職の問題やその他の問題にも非常に影響がある、
基本的人権が完全に侵されているわけであります。そういうことについて、市町村長が、そういう悪用を許しておらないところもありますけれども、おったところがあることは市町村長が非常にけしからぬと思うわけでございますが、そのことを、戸籍の点について監督する立場にあるのは地方の
法務局でございます。したがって、その
法務局がそういうことを許して、そういうことをなおざりにしておかれたことについては、
ほんとうの
基本的人権を擁護する点においては非常に怠慢だったといわなければなりませんし、その
法務局のもとをなしておられる
法務省のほうも、そういう点について非常に不十分な態度で終始をされてきたということをいわなければならないと
思います。そういうことについて、
法務省全体として深い反省をされて、そういうことが、ただ通達を出したからそううまくいくというのではなくて、このような完全にいわれのない差別、昔のけしからぬ身分制からきたいわれのない差別がこういう法制面で残っているというようなことはゆゆしき問題でございますから、それを完全になくすように、ありとあらゆる強力な
措置を
法務省としてはとられる必要があるわけでございます。どうかひとつ、
法務大臣はじめ
関係の方々は、そういう問題の重要性を深く
考えられまして、いままでの手抜かりについて、その点は十二分に反省をしていただきまして、今後の問題について一番完ぺきな方法で対処をしていただきたいと思うわけなんです。先日通達を出されたのはわかりますけれども、あの通達では私はまだ不十分だと思うわけであります。と申しますのは、閲覧禁止ということであって、そのものがあるわけであります。そのものがあれば、差別の概念が残念ながら消え得られない関西方面においては、まだそういうことの影響を受けておられる市町村長が現在もないとはいえないし、市町村長がかわったときに、またそういう人が市町村長になられないとも限らないし、ということになると、そのものがあれば、閲覧禁止をしても、内緒で見せるとか、そういうことが起こりがちであります。そういうことによって人権が非常に侵害されることがありますので、閲覧禁止だけではなしに、完全にこれを廃棄をする。廃棄をするというのは、焼き捨てるということではございません。完全にそれを
法務省あるいは地方
法務局に回収をして、そこで厳重に封印をして、たとえば純学術的なことのためにそういうことを調べるようなときに、特にそういうことについては厳重に管理しながら、そういうときに各機関との協議の上、見せていいときには見せる、あるいはまた、めったにないと
思いますけれども、同和地区以外の人も含めて、以外の人でも、昔のものがなければ
裁判上、相続の問題で帰属がはっきりしない、民事
裁判やなんかで、そういうものにどうしても必要があるという場合も、ほとんどないと
思いますけれども、もしあるというおそれがありますならば、そういう場合の
裁判上の記録、そういうもののために保存をされていくことは、これはいいと
思いますが、とにかく市町村で保存をするということは、いままでの内務省あるいは司法省のそれだけの努力にもかかわらずそういう事実があります以上、そこで市町村で保管されて、そして閲覧禁止ということでは、不十分だと思うわけであります。そういうことについて、先日通達を出されたお
気持ちはわからないではありませんけれども、さらに強力に完ぺきにそれをするための廃棄処分、いま申し上げたような
内容の廃棄処分、学術あるいはそういう
裁判上の問題については特に機関が協議をして決定することは、あるときには閲覧させることがあるかもしれないけれども、それ以外のときには一切見られないというような処置をとっていただきたいというふうに
考えるわけでございます。そういう問題について
法務大臣のひとつ、従前の
——法務大臣は前から
法務大臣ではございませんから、直接
赤間さんの責任というわけではございませんが、
法務省全体のそういう問題についての手抜かりについて御反省の上の完全な方法をとられる御決意を承らしていただきましたならば、非常にけっこうだと思うわけであります。