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1968-05-07 第58回国会 衆議院 法務委員会 第27号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十三年五月七日(火曜日)    午前十一時四十三分開議  出席委員    委員長 永田 亮一君    理事 大竹 太郎君 理事 田中伊三次君    理事 高橋 英吉君 理事 中垣 國男君    理事 濱野 清吾君 理事 猪俣 浩三君    理事 神近 市子君       鍛冶 良作君    中馬 辰猪君       山手 滿男君    河野  密君       横山 利秋君    岡沢 完治君       中野  明君    林  百郎君       松野 幸泰君  委員外出席者         議     員 猪俣 浩三君         議     員 神近 市子君         法務省刑事局総         務課長     伊藤 栄樹君         専  門  員 福山 忠義君     ————————————— 五月六日  委員有島重武君辞任につき、その補欠として山  田太郎君が議長指名委員に選任された。 同月七日  委員佐々木更三君、西村榮一君及び山田太郎君  辞任につき、その補欠として横山利秋君、岡澤  完治君及び中野明君が議長指名委員に選任  された。 同日  委員横山利秋君及び岡澤完治辞任につき、そ  の補欠として佐々木更三君及び西村榮一君が議  長の指名委員に選任された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  参考人出頭要求に関する件  死刑確定判決を受けた者に対する再審臨時  特例に関する法律案神近市子君外七名提出、  衆法第三号)      ————◇—————
  2. 永田亮一

    永田委員長 これより会議を開きます。  この際、参考人出頭要求に関する件についておはかりいたします。  すなわち、ただいま本委員会において審査中の神近市子君外七名提出死刑確定判決を受けた者に対する再審臨時特例に関する法律案について、参考人出頭を求め、意見を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 永田亮一

    永田委員長 御異議なしと認め、さように決しました。  なお、参考人の人選、出頭日時決定等につきましては、すべて委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  4. 永田亮一

    永田委員長 御異議なしと認めます。よって、さように決しました。      ————◇—————
  5. 永田亮一

    永田委員長 次に、神近市子君外七名提出死刑確定判決を受けた者に対する再審臨時特例に関する法律案を議題といたします。  これより質疑に入ります。質疑の申し出がありますので、これを許します。大竹太郎君。
  6. 大竹太郎

    大竹委員 まず、法務省のほうへ資料の問題が関係がございますので二、三お尋ねをし、またおわかりにならぬ点があったら、資料提出していただきたいと思います。  この案でごらんになってもわかりますように、「この法律は、昭和二十年九月二日から昭和二十七年四月二十八日までに公訴を提起された者でこの法律施行前に死刑判決確定し、この法律施行の際その刑を執行されていないものに係る再審請求について特例を定めるもの」、こういうことになっておりますが、この法律が通ったといたしましたならば、この法律適用を受けるといいますか、これに該当する者が現在何人あるか。たしかこの前神近先生の御質問では、名前は一々申し上げかねるというような御答弁だったと思いますが、人数くらいならばよろしいと思いますから、まず御答弁をいただきたいと思います。
  7. 伊藤栄樹

    伊藤説明員 ただいま御審議いただいております法案の第一条の規定を読みまして、これの適用を受けます死刑確定者と申しますと、現在七名でございます。
  8. 大竹太郎

    大竹委員 それでは、これは昭和二十年九月二日から昭和二十七年四月二十八日まででありますが、それ以前に公訴を提起された者であり、死刑確定しており、現在まだ死刑執行をされていない者がありますか。
  9. 伊藤栄樹

    伊藤説明員 ございません。
  10. 大竹太郎

    大竹委員 次に、この七人の中で、現在の法律によっていわゆる再審裁判を受けた者がありますか、ありませんか。
  11. 伊藤栄樹

    伊藤説明員 七名がほとんど再審請求を過去においていたしておりまして、最も多く再審請求をした者は、たしか十七回再審請求をしておるように思います。
  12. 大竹太郎

    大竹委員 私の質問は、再審請求をしたということもさることながら、再審請求が取り上げられて、再審裁判を受けた者があるかどうかということの御質問でございます。
  13. 伊藤栄樹

    伊藤説明員 再審請求に対して、再審が開始せられました事例はございません。
  14. 大竹太郎

    大竹委員 次にお伺いしたいのでありますが、死刑確定しているわけでありますが、その中で確定してから一番年月のたっている者は、何年くらいになっておりますか。また、一番短い人は何年くらいになっておりますか。
  15. 伊藤栄樹

    伊藤説明員 確定後一番目がたっております者は、昭和二十七年に確定しました者が最も古いようでございます。最も新しい者といたしましては、昭和三十二年に確定した者がございます。
  16. 大竹太郎

    大竹委員 一番最後の者は、何年だとおっしゃったのですか。
  17. 伊藤栄樹

    伊藤説明員 三十二年でございます。
  18. 大竹太郎

    大竹委員 そういたしますと十一年、一番期間の短い人で、確定してから十一年たっておる、こういうことになると思うのでありますが、それならば、昭和二十七年四月二十八日以降公訴を提起され、死刑確定してまだ執行されない者で、一番古い人はどのくらいでありますか。
  19. 伊藤栄樹

    伊藤説明員 現在未執行死刑確定者確定日時が最も古い者は、昭和三十三年に確定した者が一名おるようでございます。
  20. 大竹太郎

    大竹委員 これは課長さんのほうから御説明されることがあるいはむずかしい問題でもあるかと思うのでありますが、短い人でも確定以来十一年たっているということであります。そういたしますと、刑が確定していながら、死刑執行が非常におくれたということであります。先ほどお話だと、十七回も再審の訴えを出したというような理由にもよるかと思うのでありますけれども、これらがおくれているといいますか、実行できないでいる理由は、それぞれの案件によってある程度違う面もあるかと思いますが、これらについて主たる理由をお聞かせいただきたいと思います。
  21. 伊藤栄樹

    伊藤説明員 御承知のように、刑事訴訟法四百七十五条によりますと、死刑執行命令判決確定の日から六カ月以内に法務大臣にお出しいただくように規定がされておるわけでございますが、反面、同じ条文を見ますと、再審請求手続に要した期間でございますとか、あるいは恩赦手続に要しました期間は、この六カ月の期間に算入されないことになっております。すなわち、再審とか恩赦手続が行なわれておるということは、必ずしも死刑執行を妨げる理由にはならないわけではございますが、やはりいわゆる地球よりも重しとされるような人の命を奪います極刑でございますので、その執行には慎重の上にも慎重を期することが相当であろうということで、執行にあたっては相当慎重な手続をとっておるわけでございます。すなわち、法務大臣の命を受けまして、法務省刑事局の係官が主となりまして確定記録を精査いたしまして、万に一つの形式的な瑕疵がないかどうかを精査いたしますと同時に、恩赦非常上告、あるいは刑の執行停止等の原因がないかどうか、これを十分検討いたしまして、さらにこれを関係部局の長に検討してもらい、その上で次官、大臣記録をあげまして、最後に、大臣におかれまして記録を精査され、以上のような諸条件を十分お考えの上、執行命令をお出しになる、こういうことでございますが、それらの判断過程におきまして、やはり再審請求がなされておる、あるいは恩赦出願がなされておるという事実は、相当尊重して検討いたしておるわけで、歴代大臣もそういった点を十分御勘案になっておることも、私ども事務当局からも拝察いたしておるわけでございます。さような事情から、先ほど御指摘の七名の者につきましては、再審請求がしばしば出ておる、あるいは恩赦出願がなされておるというようなことを勘案いたしまして、執行に慎重を期しておられるということであろうと存ずるわけでございます。
  22. 大竹太郎

    大竹委員 いま一つ数字的な問題でお聞きしておきたいのですが、この七名については再審の申し立てが、多いのは十七回もあったけれども、取り上げられておらないという先ほどお話でありますが、この中で原審差し戻しになった事案がありますか、ありませんか。
  23. 伊藤栄樹

    伊藤説明員 御質問趣旨が必ずしも正確に理解できているかどうかわかりませんが、一審、二審、三審におきまして裁判変更を見たという事例は、一つもないようでございます。  なお、念のために申し上げますと、そのうち一件につきまして、地方裁判所において再審請求に対して再審開始決定がございましたが、高等裁判所におきまして再審開始決定が取り消されて、結局再審開始に至らなかった案件が一件ございます。
  24. 大竹太郎

    大竹委員 そういたしますと、この七名の事件については、一審からずっと死刑という判決変更がなかった、こう理解してよろしいのですか。
  25. 伊藤栄樹

    伊藤説明員 さようでございます。
  26. 大竹太郎

    大竹委員 それでは、次に提案者にお聞きしたいのでありますが、第一条に、「昭和二十年九月二日から昭和二十七年四月二十八日までに公訴を提起され」云々となって、期間が限ってあるわけであります。これを限られた理由をまずお聞きいたしたいと思います。
  27. 猪俣浩三

    猪俣議員 これは前提といたしまして、この一条の思想的根底には死刑廃止論があるわけでございます。ただし、現在死刑問題につきましては法務省法制審議会が論議を重ねておりますので、議員立法は少し早きに失すると考えまして、死刑廃止議論は前面に出さなかったのでありますが、思想的背景はそこにあるわけであります。これが、この死刑囚だけに適用して、他の一般の犯罪についてはこの再審適用をしないという理由になっておるわけであります。  御質問昭和二十年九月二日から二十七年四月二十八日というのは、日本アメリカによって占領せられ、支配せられたときでありまして、これが第一点の特徴であり、外国の軍隊が入り込んで、外国の権力によって支配せられている場合において、ほんとうにわれわれの人権が完全に擁護せられたかどうか、非常に疑問があるわけでございます。そういう特殊の事情がこの期間にあるわけでありまして、それが第一点であります。第二点といたしましては、大竹君も御存じのように、刑事訴訟法が改正せられまして、ことに証拠法が徹底的に改正せられて、アメリカ流証拠法になってきました。これは在来の証拠方法でやっておりました、ことに権利を擁護する立場弁護士なんかには、非常に熟練ができなくて戸惑った。いまの司法研修所を出た連中は相当熟練してきましたけれども、当時弁護士会で講師を雇って、新証拠法やり方についてだいぶ講義なんかしたのでありますが、何十年も頭にしみ込んでおったそのやり方が頭についておりますので、法廷に出て弁護士相当まごついた実情であります。したがって、やはり訴訟技術上人権擁護に欠くるところがあったとわれわれは思われる。これがやはりこの期間を限りました一つ理由になるわけでありまして、そういうような状態であります。いま一つは、ここにいま七人の人があると申されましたけれども、これらの人々の公判における審理の模様を検討いたしますと、非常に共通の部分が多いのでありまして、ひとつは本人最初自白に非常に重点を置いたか、あるいは本人最初から徹頭徹尾自白をしないにかかわらず、なおこれを断罪せられたか、いずれにしても非常に物的証拠が乏しいのです。まあ常識的に見て、黒白相半ばするような疑問の事件が、共通的にあると思うのです。大体この七人についての実情を私ども調べたのでありますが、これはあるいは二十年も監獄につながれております帝銀事件平沢貞通をはじめといたしまして、非常に物的証拠が少ない。こういう点もやはり影響いたしまして、確定判決が出たにかかわらず、歴代法務大臣死刑執行にちゅうちょされておるのだろうと私は思うのであります。そういうふう左共通の点があるのでありまして、これは再審請求も何べんもやったじゃないかということになりますけれども、現行の再審制度は、大竹君も御存じのように、非常に間口が狭くて、再審が成立するということは至難中の至難のような状態でありまするので、この門戸を開いて、これらの特殊事情を勘案して、もう一ぺん再審恩恵に浴さしたい、そういう意味でこの第一条というものはできたものであります。
  28. 大竹太郎

    大竹委員 いまのお答えで、さらに法務省にお聞きしたいのでありますが、この昭和二十年九月二日以前に死刑の宣告を受けて、死刑執行ということになればやはり相当期間があったと思いますが、一番長いのは確定執行との間にどのくらいありましたか。それをちょっと、そこでわかったらお答え願いたい。
  29. 伊藤栄樹

    伊藤説明員 ただいま的確な資料を持ち合わせませんので、調査の上お答えいたします。
  30. 大竹太郎

    大竹委員 それからいまひとつお調べになるついでにお願いをしたいのでありますが、この以前とこの期間以後、第一審において死刑判決を受けながら、高等裁判所ないし最高裁判所において無罪判決を受けたというような事例がありますか、ありませんか。それもいまおわかりになれば御答弁をいただきたいし、おわかりでなければ、資料として提出していただきたいと思います。
  31. 伊藤栄樹

    伊藤説明員 若干ございます。たとえばいわゆる松川事件でございますとか、あるいは千葉県でかつてございました死刑事件で控訴して無罪になったようなものもございますが、調査の上で資料としてお出しいたします。
  32. 大竹太郎

    大竹委員 次に、提案者のほうへお聞きをいたしたいのでありますが、占領下にあっては、裁判が非常に公平に行なわれないことがあった。また、たまたま刑事訴訟法の、ことに先ほどお話がありましたように、証拠方法について非常に大幅に変わったということから、いわゆる被告人防御方法において欠陥があった。こういうことでありますが、申し上げるまでもなく、一口に言えば、ささいな事件と違って、事生命に関する裁判でありますので、いわゆる証拠方法が違ったからといって、白が黒になるというようなことは——少なくとも裁判技術の面においても、また精神的な訓練の面においても、相当高度だと思っておるこの日本裁判制度において、いわゆる白が黒になるというようなことはあり得ないようにも考えられるわけでありますが、それは特にどういうようにお考えになっておりますか。
  33. 猪俣浩三

    猪俣議員 白が黒になるということは考えられないというのでありますが、しかし、白が灰色であるかどうかというような疑いがあるわけです。疑わしきは罰せずというのだから、罰してはいけないわけです。これは白が黒にならぬかもしれないが、灰色だと思われるのが相当あるわけです。これは平沢事件など、徹底的に検討してみますと、これは当時の平沢事件捜査主任の警部がみずから告白しておるように、実に疑問が多いわけです。私は、法務省最後判こを押せないような感じがあるのじゃないか。こういうものに対して、一体白か黒か、あるいは灰色か、もう一ぺん審査し直す。われわれも現在の日本裁判をそう疑うわけではありませんが、しかし、松川事件のようなものがありまして、あるいは青梅事件のよう左ものがありまして、裁判官といえども必ずしも神さまじゃないのですから、少なくとも白を黒と言わぬまでも、灰色を黒と見たようなことがなきにしもあらず。灰色なら、これは疑わしきは訓せずということにならなければならぬということになります。もう一つ念のために申しますことは、占領中の裁判に対しまして、これは抽象的な理屈になるかもしれませんが、やはり一種の裁判の公正というものが疑われてしかるべき状態ではなかったか。そのために、現に昭和二十七年平和条約発効に伴いまして、平和条約の実施に伴う刑事判決の再審査等に関する法律というのが、昭和二十七年の法律百五号で出ておる。これは平和条約の第十七条の(b)項に基づいて、戦時中に連合国人が受けた有罪判決に対して、平和条約発効の日から一年内に限りゆるやか左条件再審を認める、こういう法律がすでにできておる。これは戦時中であるということ、占領中であったということを理由にして、かような法律ができておるとすれば、これは連合国人のみならず、本来の日本自身にやはり当てはめて、再審をゆるやかにすべきものじゃないかという理由も、一つあるわけであります。
  34. 大竹太郎

    大竹委員 次に、いま御説明になりましたが、いまの御説明は、二条にある「明らかな証拠」というのを「相当証拠」と法文の上ではあらわされる意味を御説明になったのだろうと思いますが、実はこの間参考人訴訟費用の問題でお呼びしたときに、横山委員から、関係がないけれどもということで、死刑確定判決に対するこの法案について御質問をされまして、出られた学者にお聞きになったのでありますが、それらの先生方は、ただ条文の上において「明らかな証拠」とあるのと「相当証拠」とあるのでは、条文の上から見て、また実際的にはあんまり実益がないんじゃないですか、こういうお答えがあったようにお聞きするのでありますが、もちろんことばで明らかなように、「明らかな証拠」と「相当証拠」ということは違っておりますけれども、これについて猪俣議員専門家でもいらっしゃるから、ひとつ御質問をいたしたい。
  35. 猪俣浩三

    猪俣議員 私は、その答弁に当たられた人がだれであるか、ちょっと聞いておらなかったのでわかりませんが、しかし、これは実務家ならばすぐぴんとくるはずです。明白な証拠というのと相当証拠というのは、それこそ相当な隔たりがあるわけでありまして、大竹さんも法律専門家だからこれはいろいろむずかしい説明をすればありましょうが、いまの明白な証拠というのは、要するに裁判所判決を徹底的にくつがえすだけの蓋然性のあるものということになっておりますが、しかし、それはなかなか容易じゃないわけです。しかし、徹底的にくつがえすだけの蓋然性のある重大なものでなくても、相当なということになれば、それより価値が低いわけです。少しこの裁判には見直す点があるんだという何らかの理由があるならば、これは再審を許すというふうなことで、ここが実は本法の眼目なんであります。だから、明白ということと相当ということがたいした違いがないなら、本法を必要といたしません。再審間口をいまよりも広げたいということから出たのです。最初社会党も、重大な証拠と明白な証拠、それでもまだ重大な影響のある証拠というほうが広いだろうと考えたのだが、それでも重大と明白ということがあなたのような議論が出てくるおそれもあるので、今度は相当というふうに変えたのでありまして、それは価値判断の問題でありますけれども実務から見ると、明白というのを相当と変えたことによって相当再審間口が広くなる、こう私ども考えておるわけであります。
  36. 大竹太郎

    大竹委員 いま一つ、これはやはり基本的な問題ですからお聞きしておきたいのですが、これは先ほどあらかじめ予防線を張って、死刑は特に重大だから、死刑だけをこういうふうに取り上げるのだ、そしてその前提としてはいわゆる死刑廃止議論が基本にあるんだという御説明、一応ごもっともだと思います。しかし、やはり裁判というものは国民全体のことを考え、そしてどこまでも公平左理論をもって進まなければ、ほんとう裁判の目的というものは達せられないというふうに思うわけであります。そういう見地からいたしますと、いわゆるこの期間における裁判というものに欠陥があるという、これが一番の根拠ということになりますと、当然先ほどもちょっと触れましたように、死刑以外のいわゆる軽い、ことにささいな裁判というようなものについての誤りというものは、なおあり得ると私は考えるわけであります。そういう面からいたしまして、いわゆる裁判の公平という立場に立って、これだけを取り上げた——もちろん先ほどお話がありましたように、いわゆるこの死刑廃止根拠理論というものはわからぬわけではございませんけれども裁判の公平という立場に立って、しかもなおこういう法案を御提出になった趣旨を御説明願いたい。
  37. 猪俣浩三

    猪俣議員 御質問もっともでありますが、先ほど申しましたように、生命というものには回復の道がない。死刑執行されたら、もうそれで取り返しがつかぬ。ほかの刑については、回復の道がまだあるはずであります。それで広くヒューマニズムの見地に立ちまして、最初に申しましたように、死刑は廃止すべきものだと考えまするけれども、少なくともまだそこまで行かぬ過程におきましては、現在確定判決を受けて風前のともしびになっているこの人たちに対して、もう一度裁判恩恵に浴させてやる。これは取り返しがつかぬ。それでもだめなら、これはあきらめられます。死刑判決を受けながら、あとから真犯人が出たという事例は、多々あるわけなんです。最近もあったわけです。私はいまここへ資料を持ってきておりませんが、議員会館には持っておる。これをもし死刑執行されてしまったら、どうすることもできません。無期懲役であるならば、釈放もできますし、有期懲役なら、これもまた釈放できるわけです。死刑の場合にはどうすることもできない。こういう意味において、他の懲役その他の刑と死刑という刑は、全く違った刑罰であるとぼくは考えておりますので、少なくともこの死刑だけについては慎重をきわめて、それでやむを得ない場合にはがまんしよう。なお進んだら、死刑というものは廃止してもらいたいということが根底にあるわけであります。その意味におきまして、ほかの刑罰とは違った考えを持っておるということを御了承いただきたいと存じます。
  38. 大竹太郎

    大竹委員 先輩に対してことばを返すようで恐縮なのですが、私は、いまの論拠にお立ちになるならば、この期間だけを限らないで、これ以後の死刑判決についても、やはり相当理由があるものについては再審を認められるべきではないかというふうに思うのでありますが、この点はいかがでございましょうか。
  39. 猪俣浩三

    猪俣議員 実は、いま再審問題につきましても法制審議会審議中であります。これはあらゆる学者が集まって、その道の役人が集まって審議しておりまして、相当権威あるものだと私ども思っておるわけであります。しかし、ここはなかなか議論が多くて、結論を出すのになかなか容易じゃないのです。それだけ慎重ではございましょう。これは政府に聞いてみなければなりませんが、いつ一体この審議会の草案というものができるのか、見当もつかない状態であります。しかし、とにかくそこで死刑問題、再審問題をやっておりますので、そういう根本的なことにつきましては、これはやはりその審議会審議を待つということが、慎重な態度ではなかろうか。ただ、いま七人か八人のこの人たちは、法務大臣がある日ひょいと気が変わって印を押してしまえば、すぐあすから命がなくなるのでありますから、これだけはとにかく救わなければならぬという、全くのそういう差し迫った心から、この法案が出たものである。これは、その意味におきまして、ぜひ御賛成をいただきたいと思うわけです。
  40. 大竹太郎

    大竹委員 大体基本的なお考えをお聞きしたわけでありますが、いまの御答弁に基づきまして、今度は細部にわたって多少お聞きいたしたいと思いますが、まだそこまで準備ができておりませんので、きょうはこの程度にお願いいたしたいと思います。次回また継続してやることにして、お許しいただきたいと思います。
  41. 永田亮一

    永田委員長 本日は、これにて散会いたします。    午後零時二十一分散会