○新谷
政府委員 印鑑の問題につきましては、私も専門家でございませんので、十分なお答えができるかどうかわかりませんが、いろいろの文書に使用されます印鑑、あるいは署名とか、あるいは記名とかいうものがあります。これはいずれもその文書の真正を担保するために行なわれておる制度でございます。とりわけ
日本におきましては、古くから印鑑を使うということが慣行として行なわれております。署名よりもむしろ印鑑のほうが大切であるというふうな観念が、
国民に浸透してきておるのであります。そこで先ほどお話しのございましたような印鑑証明制度というものが市町村にできまして、これによって印鑑の真正を確保しておる。さらに印鑑の真正を確保していくことによって、その印鑑を使用した人が当該の人に間違いがないであろうか、いわばその人の同一性を確認するという
手段として使われておるわけであります。印鑑証明制度につきましては、これはお話しのように、各市町村の条例に基づきましてやっておるのが現状でございます。これは市町村の固有事務として、現在市町村が扱っておるわけであります。これは古くから、寄留法のございました当時から、寄留地あるいは本籍地におきましてこの印鑑証明をやってきたのでございます。現在は寄留法はもちろんございませんが、それにかわるものとして自治省で所管いたしております住民基本台帳法というものがございます。これがその人を登録いたしております。人を登録しておりますので、当該人についての証明というものは、この台帳によって本来なさるべきものでございます。しかし、台帳の謄本、これは正確には
住民票の謄本でございますが、
住民票の謄本を持っているからということだけで必ずしもその人の同一性は確定できません。と申しますのは、
住民票の閲覧、あるはこの謄抄本の交付の請求は、何通でもできることでございます。そこに問題がございますので、やはり印鑑証明制度というものは、各市町村で必要であるということで行なっておるという実情であろうかと思うのであります。
そこで、その印鑑証明制度なるものはどういうしかけで現在やっておるかと申しますと、住民基本台帳法に基づく
住民票に登録した者、その者について印鑑を届け出をすれば、さらにその印鑑がその本人のものであるという証明を市町村がやっておるわけであります。いわば
住民票を土台にいたしまして、その上に乗っかった制度として、これに結びついて印鑑証明制度というものを行なっておるのであります。
〔
委員長退席、大竹
委員長代理着席〕
これはかつての寄留法時代の寄留地における印鑑証明とその軌を一にするものであろうと思います。
そこで、その証明の
方法でございますが、これは届け出の際に、御
承知のように、すでにその市町村で印鑑登録を受けておる保証人を二人以上必要としまして、その本人であるということの確認をまずそこでやっております。さらに登録した印鑑と同じものの証明を得る場合も、これは本人出頭をたてまえといたしております。必ず本人が出ることということになっております。さらにその印顆でございます。印鑑と申しましても、印影ではなくて、いわゆる判こといわれておる印顆そのものを持参する必要があります。それを現認いたしまして、印鑑簿には印顆の形状とか材質とかいろいろなものが記入されております。それを係の人が確認いたしまして、さらにまたその持ってきた人が本人であるかどうかということを
質問したり、いろいろの
方法で確認いたすのでありますが、私
どもも印鑑証明をもらいに参りますと、本籍を聞かれたり、住所を聞かれたり、いろいろなことを聞かれまして、間違いないということを確認いたしまして印鑑証明の手続をとっておるのが、実情でございます。そのように慎重な手続をいたしておりますので、印鑑証明書を交付する際には、申請者がまさにその届け出た印鑑の所持人であるということを実質的に確認いたしました上で、その証明書を交付しておるのであります。したがいまして、その証明書を持っておれば、その判をついた人と間違いない同一人であるということの証明が一応できる、こういう仕組みになっております。ただ、御指摘のように、これを統一的に規制する法規がございません。従来長い間の伝統の上に立ちまして、市町村が条例に基づいてこれをやってきておる。しかし、その間におのずからそういった印鑑証明の取り扱いの手続に統一が保たれてきておる、これに信頼しましていろいろの取引上印鑑証明書が利用されておる、こういうことになっておるわけです。
ただいまお話しのように、印鑑の多量生産の場合に問題が起きるじゃないかということでございます。これはまさにそういう問題も起き得ると思います。思いますが、その印鑑を持っておる者、これは同じ田中なら田中という同じ材質、形状の印鑑を多数の人が持っておりますけれ
ども、その人
自体はいずれもこれは違うのであります。同じ印影をあらわしておる印鑑にいたしましても、その人であるかどうか、住民基本台帳法上の登録をしておる当該の田中という人であるかどうかという確認の手続は、印鑑証明の際に必ず行なわれるのでありまして、単なる印影だけによって同一人であるかどうかということの判断をするのではございません。その本人であるかどうかというところに印鑑証明の真の意味があろうかと思うのであります。そういう手続をとってやりますので、印鑑の多量生産の問題は確かにこれからの検討の余地はございましょうけれ
ども、それによって印鑑証明制度そのものが直ちにくずれ去ってしまうというものではあるまいというふうに考えられます。