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川井政府委員 答弁ができないわけではありませんで、私も答弁申し上げようと思ったのですが、大臣から先に大臣の所信に基づいて答弁なさったということでありますので、これから私の信念と確信に基づいて御答弁を申し上げます。
私は大体
前提として、犯罪を犯した者について身柄の拘束をするということについて、実は意見が
一つあるわけです。犯罪が重大で、きわめて悪質で、
社会の耳目を聳動した、だから身柄を拘束しなさい、こういう意見には賛成しがたいのでございます。私はやはり法の命ずるところに基づきまして、いかに重大な犯罪を犯しましても、その身柄を拘束するにつきましては、刑事訴訟法の命ずるところによりまして、その
条件を満たした場合においてのみ身柄を拘束するということが、私
ども法の
運用を
国民から負託された者の肝に命じて忘れてはならないことである、こういう私は信念を持っております。したがいまして、
過失事故であろうと故意犯であろうとを問わず、身柄を拘束して調べるか、あるいは在宅にして調べるかということは、あげて刑事訴訟法の要求するところの
条件を満たしているかどうかということできまるわけでございます。今日、検
察官が身柄を拘束して調べることが適当である、こういうふうな信念に立ちまして、
裁判所に勾留の請求をいたしましても、
かなりの数字のものが裁判官によって却下されております。これは検
察官と裁判官との意見の相違ということもありましょうけれ
ども、人権尊重のたてまえから入念に
検討されまして、証拠隠滅のおそれは認められない、薄い、罪証隠滅のおそれは認めがたい、そしてさらにまた責任ある身柄引き受け人がついておるので、逃走のおそれもない、こういうことになりますと、いかに検
察官が身柄の拘束が必要であるという意見を持っておりましても、勾留が却下になる。こんなことは御
説明するまでもなく、おそらく
中谷委員百も承知のことであろう、こう
考えるわけでございます。私
どもは犯罪が重要であるとか、あるいは
社会を騒がしたとかいうことのみをもって身柄を拘束するというたてまえをとりませんで、それは裁判の結果、その判決において量定されるところの
刑罰によって、その犯罪の最終の評価というものがなされるものである、こういう
考え方を私は持っているものでございます。そういうふうな一般論を
前提といたしまして
考えてみた場合に、故意犯でありましょうとも
過失犯でありましょうとも、その犯罪、あるいはその被告人の環境、周辺、そういうふうなものを
考えまして、身柄の拘束が必要でない、罪証隠滅のおそれもない、逃走のおそれも認められない、こういうふうに思われれば、これは釈放して、在宅をもって調べるというのが私は常道であろう、こう思うわけでございます。
前提として申し上げておきます。
そこで、この具体的な
過失の
事故でございますが、一、二例、例があったら言え、こういうことでございますので、あえて申し上げますが、先年名古屋において著名な作家が、親子三人が歩いているところへ突っ込んで二人を即死せしめたという重大な
事故が発生したことを、おそらく御記憶にあるだろうと思います。この事件は逃走するおそれもありませんし、本人みずからそこでもって
過失を認めておりますというふうなことで、本件は不拘束のままで取り調べをし、また送致を受けて
裁判所に請求いたしまして、四十一年一月十一日に名古屋地裁で判決がおりております。
その他、ごく最近の思いついた事例でございますけれ
ども、これは千葉県の佐倉で起きた事件でございますが、二十八歳のバスの運転手が前方不注意等、あるいは操作を誤りまして
事故を起こして、三人を死亡させて五十五人についてけがをさせたという事件がありますけれ
ども、本件も検察庁は在宅送致を受けて処理いたしまして、四十年五月十一日に
禁錮二年三カ月の判決が下っております。
その他また、香川県の事件でございまするけれ
ども、酒に酔ってスピード違反で一人をけがさして数人に傷害を負わしたというようなものも、不拘束で取り調べをして、四十二年一月三十日に判決が出ております。
取り急ぎ調査をしたものではありますが、致死の事件でございましても、その人のその当時の
状況によりまして勾留の要件に該当しないというような場合におきましては、常道に戻りまして、なるべく在宅でもって調べるというのは、私決してうそを申し上げているわけではないわけでございます。ことに最近の
事故につきましては、もとより、悪質重大なものが出てきまして、非常に
過失を認めることを渋ったり、あるいはいろいろな弁解が出て、その結果
事故が重大であればあるほど将来においてひょっとしたら罪証隠滅のおそれが出てくるのじゃないか、また事の意外さに驚いて、その結果、重大な
事故を犯したということでどっかへ飛んでいって自殺をしてしまうのじゃないかというようなことがうかがわれる事例もたくさんございます。そういうような特殊な事例があるものにつきましては、精神の鎮静を待って取り調べをするということのために身柄を拘束するということももとよりございます。したがいまして、事件事件によりまして、最も妥当な
条件を満たすもについては身柄を拘束し、しからざるものについては、これを釈放して調べるということは、私は決してうそのことを申し上げるわけではございませんで、そういうふうな事例があるということを申し上げたいと思います。