○川井
政府委員 ごもっともな仰せと思います。三十八年、三十九年、四十年の司法統計にあらわれたところを見ますと、三年の
最高刑までいきましたのが、三十八年が二十、二年以上が二十九、合計四十九、三十九年は
最高刑が同様二十、それから二年以上が三十五、合計五十五、四十年は
最高刑が六になりまして、逆に二年以上が六十五になりまして、合わせまして七十一という
数字を示しておりますので、
一般論でございますが、三年という法定刑の中で二年以上という重刑がいま申しましたような司法統計における大きな
数字を示しているということは、これは
岡沢委員御
承知のように、裁判の実態から申しましても、非常に異例な事態だと思います。窃盗などにおきましては、前科十五犯くらいございましても、懲役五年以上はめったにいかないのでございまして、せいぜい三年か四年くらいでおさまっているというのが、
日本の裁判の実情であるわけでございます。殺人なんかの量刑の実証的研究から申しましても、同じようなことが言えるわけでございまして、御
承知のように、死刑の判決というものは非常に少なくなってきているという実情でございます。にもかかわらず、この業務過失の
事故につきましては、
法律で定められた現行の
最高刑ないしはそれに近い刑が何十となく
発生しているということは、
日本の裁判の実情をよく御存じの岡澤
委員のお
立場からはよく御理解が賜われると私信じているわけでございますけれ
ども、さてそれは
一般的な論議でございまして、その多くは結局
自動車の運転による業態のものだということでございまして、それ以外のものにはそのような重刑をいったものはまだ何十というわけではございませんで、あらわれたところでは過去五年の間に十例近いものにすぎないということでございます。それにいたしましても、かりに一例でも
最高刑をいくというようなものが出るということは、やはりこの社会の実態から申しますと、法定刑との
関係におきまして十分検討に値する問題ではないかというふうに思うのでございます。
それからもう
一つ、抽象論で失礼でございますけれ
ども、
刑法という
法律のたてまえから申しまして、これはやはり一片の
取り締まり法規ではございませんで、社会生活を営んでおる国民の人たちの道義的な規範と申しましょうか、そういうふうな規範力に重点が置かれておる
法律でございますので、このような犯罪につきましてはこのような
刑罰が盛られているんだということが、国民全体に対しまして、特にこのような人の生命身体に危険を及ぼすような業態にある者に対して、注意力を喚起し、その道義心を喚起する、こういうふうな一面の目的を持った
法律でございますので、またさような点から申しましても、同じく人の生命身体に危険を及ぼす業態の者を、ある一部の者につきましては特に重くし、それからある一部の者につきましてはそれを軽くするというふうなでこぼこの取り扱いをするということは、
刑法という
法律の持っております性格から申しましても適当でない、こういうふうな
考え方でございます。わずかな例ではございまするけれ
ども、
自動車以外のものにつきましても、重刑をいった者がすでにかなり出てきておる。さらにまた、その
一般的な趨勢は、そういうふうなものがこれからますます多くなる趨勢にある。こういうふうな観点に立ちまして、私
どもといたしましては、ひとしく人命尊重というたてまえから、人の生命身体に影響を及ぼす危険な業務に従事する人の注意義務を喚起するというふうなたてまえに主眼がございますので、やはり
刑法という形においてその
刑罰を上げていくという方法が最も適当である、かように信じておるものでございます。