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下田参考人 本日は、
消費者である私たちの
意見を聞いていただく機会を設けられたことを、厚く御礼を申し上げます。
米審が、私
ども消費者代表を締め出されましたので、この機会に、与えられた時間で、できるだけわれわれの意のあるところを申し添えたいと思います。
さて、昨今、お米ができ過ぎているのに、米の値が上がるのは
納得できないという声が大きくなっています。私は、このような声の中には、何か
農家の
人たちにその責任があるような響きのある節をうかがうのですが、もしそのような
考え方の人がいるとするならば、まことにもって不届き千万な話だと思うのであります。
大蔵省の一部では、米の買い入れ制限や、
生産者米価の二分割
価格制を実施しようという
意見があるといわれていますが、このような
意見を聞くと、何だまた金庫番の
意見かと腹が立ってしかたがありません。どうして今日お米が余る結果を生じたのか、それはだれの責任なのかを考えるべきではないでしょうか。単に帳じりだけを考えるような頭番さんには、安心してお店はまかせられませんし、そんな番頭さんではお店の繁盛どころか、衰退の一途をたどる結果になるでしょう。
私は、食管会計の
赤字が今日危殆に瀕するまでに至ったといわれる問題点をめぐって、次の三点にしぼって
指摘をしたいと思います。
その第一は、米をつくれ、つくれと増産の叫び声をあげたのは、一体だれなのでしょうかということであります。
政府の増産連動にこたえて私
たち消費者の口を豊かにしてくれたのは、
農家の
人たちです。それを、いまになって、米が余っているから買わない、財政危機だからこの際食管をやめようというがごとき場当たり的
意見には、全く腹立たしさを覚えてなりません。
お米の
消費量が、昨年や今年になって急に減ってきたわけではありません。少なくとも四、五年前からこの減少傾向が顕著になっていました。一方
生産量は、
農家の努力と農業科学者や指導者の尽力によって、年々反収は増加してきました。また、
農家が米作
中心主義になってきたのは、お米をつくるととが
農家の家計にとって一番安定するからではありませんか。他の酪農、畜産や蔬菜、園芸などの産
物価格が安定せず、常に豊作貧乏に悩まされてきたので、
消費構造の
変化におかまいなく、
農家の家計安定のために
農家は米づくりに精を出してきたのです。採算ベースに合った畜産、酪農や蔬菜、園芸業を成立させるためには、多くの土地や資金を必要としますが、現在の
農家には、この土地や資金が乏しいのではないでしょうか。だから、
政府の増産運動と相まってお米づくり
中心となってきたのです。それを、
つくり過ぎはひとり
農家の責任のごとく、いまさら、つくった米を
政府は必要分だけ買う、残りは自由
販売というような小手先細工、場当たり的な糊塗策に憤りを感じます。
政府は、なぜすなおに農政の失敗を認め、その解決策を
国民に示して協力を求めないのでしょうか。
政府と農林
関係議員が
米価をめぐってかみ合ったとか、圧力をかけたとかかけないとか、仄聞することがしばしばあります。その結果は、農政を忘れた
政治米価によってわが国の農政が行なわれてきたとさえいわれています。
私たち
労働組合や使用者の間でも、毎年賃上げ交渉が行なわれます。賃上げは企業の収益を食っています。だから今日では、常識的な労使
関係の間では、先行き見通し、経営計画や産業
政策、
生産性
向上について、頭を日夜痛めて努力をしているのです。それを怠ると。石炭産業のようになると歴史が教えています。
労使の間では、常にこのような努力が積み重ねられているのに、
政府や自民党が農政についてなぜ、根本的な方策を講じることなく、当面を糊塗するだけの指導しかしなかったのか、私は大いなる不満を抱いています。
第二に、昨年わが国の輸出が年間百十二億ドルに対し、農林水産物
輸入は輸出額の実に三六%、四十二億ドルに及び、年々増加の傾向を示している点です。また、国内
米価格はカリフォルニア
米価格の二倍も高いこと、さらに酪農、畜産物についても、コスト競争のできるものが少ない点を重視しなければなりません。これは、
消費構造が
変化してきたのに国内
生産がそれに対応せず、その
大部分を
輸入に仰いできたこと、零細
農家、兼業
農家が多く、
生産性が低く、コスト高だということです。私はすべての農産物を自国でまかなうべきだと申し上げるのではありません。しかし、わが国は貿易立国として、このように
消費する産物をいたずらに
輸入にたよるということは国家的な損失であり、しかも、農業における
生産能力がないならばともかく、農政の実よろしければきっと成果を見るべきものまでも
輸入に仰ぐことに、強い不満を抱くのであります。
農業経営の
基本は土地にあると存じます。それにもかかわらず、年々耕作面積は減少しています。一方では、水田は増加をしています。そして、お米をつくることがことが不適当と思われる地まで水田がつくられ、北海道の東にまで水田が広がっています。酪農に適した土地は酪農に開発すべきであります。われわれの英知と勇断をもってわが愛する国土を効率よく利用することが、私たちや、私たちの子孫の幸福に役立つのではないでしょうか。それを指導、援助、実践することが
政府の責任ではないでしょうか。
第三の問題は、このように水田が増加し、お米が増産されてきましたが、はたしてそれで
農家の家計が豊かになってきたのでしょうか。私は、
農家の
収入がふえ、豊かになってきたから
生産者米価を上げなくてよいという
考え方には直ちに賛成できません。
生産者米価は、限界
農家の反収を基礎にしてはじき出しているようですが、はたしてこれら限界
農家やそれ以下の
人たちの生活が豊かになってきたのでしょうか。
都会ではかぎっ子ということが問題になっていますが、
農村ではもっとひどいててなし子がふえています。また、兼業
農家がふえている点をどう見るべきでありましょうか。
出かせぎによって
農家には潤いがなくなり、人間性は失われ、これはまさに人道問題ではありませんか。それでも
農家の出かせぎはふえているのです。それは
農家が豊かでない証左です。しかも、この出かせぎ
労働者や兼業
農家の
人たちの職場の地位は、決して安定していません。加えてその
労働条件は高くありません。それどころか、兼業
農家や出かせぎ
労働者の
労働条件が、
一般労働者の
労働条件の足を引っぱっている作用をしています。つまり、これは低賃金、低
労働条件
政策を形成するものです。いまや後進国のように、農業従事者を産業予備軍的な地位に置くような
政策は、国家の
繁栄に役立つどころか、むしろ害毒を流す結果を招来いたしましょう。
現に、一昨年、失業保険法改正案を
政府は提出しましたが、
国会でつぶされました。それは、かねての念願であった五人未満の事業所に働く
人たちまで失業保険をこの際適用しようというすばらしいものでありました。しかし、これを成立させるために、一方で
政府は、出かせぎ
労働者を失業保険から締め出そうという案がありましたので、
与党や
野党の
議員が、これに反対をしたのです。すなわち、失業保険が農政の
矛盾を補っていたところへ、農政の改革なしに失業保険だけを打ち切ろうとしたから 農林
関係に
関係の深い
議員の
方々が
中心になって反対をしたのです。その結果は、いまだに五人未満事業所の
労働者は、失業保険の適用を受けるに至っていないのであります。
このように、
農家の
人たちは失業保険を活用しなければならないほど豊かでないのです。冷害がやってきたら、北海道はまた米が取れなくなるでしょう。少しずつの水田で、低い
生産性、高いコストで苦しんでいる
農家、これを補うために、人間性や家庭を捨てても長期の出かせぎに行く人々や、どっちつかずの兼業
農家を救うときが来ているのではないでしょうか。それなくして
米価の根本的解決策はないと思うのであります。
そこで、私は、
全日本労働総
同盟を
代表して、次の建設的な提言をしたいと思います。
その
根幹とするところは、
政府はこの際、五年ないし七年の間に、農業の基盤を
つくり変えることです。つまり、米づくりに向く土地に米を、酪農、畜産、蔬菜、園芸などに向く土地はそれに開発、転換をはかり、かつ集中、集約すべきであります。しかも、これらの
消費動向の長期見通しの上に立ち、かつ国際
価格と競争できる基盤を
つくり上げなければなりません。そのためには、農業の
基本である土地の開発、
生産性
向上の要諦である農地の集約化をはかる必要があります。
都会近郊の土地は工業用地に向けられても、わが国土には、まだまだ農地開発に向けられる余地が多く残されているといわれています。要は、これに集中的に投資する資金が必要なのではありませんか。私は、この際
政府が農業構造改革のために思い切った財政投資を行ない、必要によって、たとえば公債を発行してでもやるべきだと提言する次第であります。
そのために、
政府はわが国の英知を集中し、たとえば農業基盤開発整備を目的とした
委員会を中央、地方にわたって設置し、来年からといわず今年から農業近代化に着手すべきでありましょう。もし
政府が勇断をもってこれらの農業の近代化をはかる素地を固めるとするならば、その実効果があがる数年の間、最低線の
消費者米価を上げても耐え忍んでくれというならば、私たちはがまんをしなければならないでしょう。しかし、今日のように、
政府の態度に見られるような
米価の
基本問題を解決する体制をつくらないままに、当面する食管会計の
赤字解消、はたまた総合予算主義の堅持ということだけで、
消費者米価を
値上げするようなどろなわ式には絶対反対であります。もうこの辺で当面を糊塗する愚策はやめて、ほんとうに
農家の
人たちや
国民、国家のために役立つ農政を実行してもらいたいと思うのであります。
農業基盤整備に着手すれば、転業、離農、離村の
方々、当面困難にぶち当たる
方々を多く生じるでありましょう。これらの
方々には、
政府は積極的な援助を講じるべきであります。そのようなためになら税金を幾ら使っても、
国民は必ず深い理解と
納得をするでありましょう。単に
米価の
値上げに賛成するか反対するか、食管会計是か非かというのではなくて、今日こそ抜本的な農業の構造改善、近代化を講ずるときでありましょう。大蔵省も農林省も食糧庁も経済企画庁もセクト主義を排して、
与党も
野党も党派の利害を乗り越えて、はたまた
農家も
消費者も、国をあげてわが農業の
発展と安定、ひいては
国民、国家の
繁栄のために、利己心を捨てて抜本的な農政の確立と推進のために取り組んでいただきたいと思考する次第であります。私たちも、及ばずながらその
立場から取り組む覚悟であります。
以上、私が申し上げましたように、当面する
食管制度や
米価決定、原価構成の問題点など、
物価問題につながる重要な
米価問題のこまかい点についても
指摘していきたいところでございますが、私
ども消費者の
立場として、
物価問題はきわめて重要な関心を示すところであります。しかもこの
物価問題で、農林水産物のわれわれの生活上に占める比重は非常に大きいものがあります。それだけに、その農林水産物の
物価安定をはかるためには、
基本的な農業改善をはかり、近代化をはかることが、ほんとうに
物価問題の解決につながることとわれわれは理解するからであります。
したがって、この
委員会及び貴院を通じて、われわれの生活の最大の問題である
物価問題、ひいてはその
根幹である農政問題に、適切なる御指導をお願いする次第であります。貴院の御処置と御研さんを、切に希求する次第であります。
御清聴ありがとうございました。(拍手)