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佐伯参考人 佐伯でございます。
総合資金制度について簡単に私の考えを申し上げたいと思います。
総合資金制度というのは、これまでの
農業金融の常識からいいますと、非常に型破りの
金融であるというふうに考えられます。いろいろな
意味で、これまでの
農業関係の
制度金融のワクを大きく踏み出している。その点をやや整理して申し上げますと、この
総合資金制度の形式的な特徴としては、大体次の三点にまとめられるのではないかというふうに考えます。
第一点は、
融資対象の規制の方法が、これまでのように個々の物ごとの規制から、
経営の総合的規制へと大きく変わったという点であります。つまり、個別的あるいは物的な
融資規制から、総合的、
経営的
融資規制へと
融資規制が変わったという点であります。要するに、
経営内容が一定の
政策目的にかないさえすれば、そこでの
資金は、使途のいかんを問わず、いわばまとめてめんどうを見る、そういう発想にこの
制度は立っていると言っていいかと思います。こういった
考え方は、これまで、たとえば
近代化資金の中のセット
融資方式であるとか、あるいは
農業改良
資金の中の後継者
育成資金などにも部分的に見られたところでありますけれ
ども、しかし、これだけ思い切って打ち出されたというのは、おそらくこれが最初であるというふうに考えております。そこに、まさに総合
資金といわれるゆえんがあるのだろうと思います。
第二の特徴は、
融資対象農家について、非常にきびしい選別を前提としているという点であります。
融資を受ける
農家は、この
資金を使用することによって
自立経営に到達し得る
農家である。つまり、
自立経営候補
農家にきびしく限定するということを貫いているわけであります。将来この
資金制度がどの程度拡大していくかということはよくわかりませんけれ
ども、かなり大きな
融資ワクを予定したといたしましても、こういった基準にたえ得る
農家というのは、つまり
自立経営候補
農家というのは、おそらくごく一部の上層
農家に限られるのではないかというふうに思います。このように、
自立経営の
育成ということを
制度の目的に掲げて
選別融資を徹底させるというのは、おそらくこれが初めてであります。その
意味でも、非常に画期的な
制度金融であるというふうに考えられます。
第三の点は、
融資限度がきわめて大幅に引き上げられたということであります。総合施設
資金の
融資限度は、一応一
農家当たりおおむね八百万円ということのようであります。しかし、これに
近代化資金とか、あるいは系統
資金などの形でセット
融資される
運転資金を含めますと、おそらく一千万、場合によってはそれをオーバーする巨額の
融資が、この
制度によって可能になるかと思います。現在、個人施設に対する
公庫融資の一件
当たりの
規模を見ますと、せいぜい五十万円程度にすぎない。あるいは
近代化資金について見ますと、一
農家当たりせいぜい三十万円前後にすぎない。そういうところから見ますと、この一千万という
融資限度は、まさに
日本の
農業金融の中では破天荒の大きさを持っているというふうに考えられます。
以上、要しますに、この
制度の基本的特徴は、形式から見ますと総合
資金であり、内容から見ますと
自立経営育成資金であり、そうしたものとして大量の
資金を集中的に
融資する、そういうところに一応の特徴があると考えられます。これまでの
制度金融に比べまして非常に思い切った、いわば異例の
制度金融であり、それだけに、この
制度が実現された場合に、それにまつわる問題点もいろいろあるというふうに考えられます。
そこで、以下問題点を大きく
二つに分けまして、いわば内在的な問題点と外在的な問題点と、この
二つについて若干の検討を行なってみたいというふうに考えます。その場合、内在的問題点というのは、いわば
制度自体に即した問題点であります。かりにこの
制度が現実に動き出したという場合に、一体その運用上の問題としてどういう点が生じてくるか、どういう点が予想されるかということを少し検討してみたい。それに続きまして、外在的問題点といたしまして、この
制度を
日本の
農業の現状なりあるいは
農業政策の現実なりという
一般的な関連でとらえた場合にどのような評価が下せるか、あるいはどのような問題点があるかということを次に考えてみたい、そういう順序で私の
意見を申し上げたいというふうに思います。
まず、第一に内在的問題点についてでありますが、これについても、こまかく言いますと幾つか問題がございますけれ
ども、ごく大切と思われる点だけを拾い出しますと、第一点は、はたしてこの
制度が実現された場合、うたい文句であります
資金の総合性という点が、うまく確保できるかどうかという点であります。といいますのは、との
資金制度の中には、
公庫資金と系統
資金あるいは
近代化資金という、いわば全く異質の
金融が含まれている。つまり、
設備資金について
公庫資金を
融資する、
運転資金については
近代化資金なりないし系統プロパー
資金を
融資する、そういう二重構造をこの
制度自身がかかえているわけであります。言ってみますと、現在の
農業金融が持っております二元的な構造がそのままこの
制度の中に持ち込まれ、その解決が、もっぱら
融資機関の運営の問題という形にゆだねられていると言っていいわけであります。それに関連いたしまして、当然、はたしてその
融資対象として施設
資金と
運転資金がうまく一致して
融資できるかどうか、あるいは
融資農家の選定について、はたして両者の
意見が一致するかというような、幾つかの調整問題が出てくる。それが
一つの問題点であろうと思います。
それから第二の問題点は、
対象の選別が、はたして
政策目的にかなった形に実現できるかどうかという点であります。この点は、おそらくこの
制度の最大の問題点かと思います。つまり、
自立経営候補の
農家とは一体何かという点であります。先ほどいただきました
農林省のこの法案に対する説明によりますと、
融資対象農業者としては大体四つの点をあげているようであります。
四つの点と申しますと、第一に、
経営者が比較的若年であるということ、第二に、主体的な能力といいますか、意欲といいますか、
農業経営の改良についての能力を持っているということ、第三に、十分な家族労働力を保有しているということ、最後に、将来
自立経営に達し得ること、その四点をあげているようであります。しかし、おそらくこの程度の抽象的な規定をもってしては、現実に
融資を実行する場合には、非常に困るのではないかという気がいたします。これは私の推測でありますが、この
制度が実現されて実施過程になり、
融資を行なうという段階になりますと、もう少し具体的な基準なりあるいは要綱なりといったものがつくられねば、おそらく実行はできないように思います。となりますと、その場合問題になりますことは、
一つは
農林省なりあるいは県なりによってつくられるであろう、そういった一定の営農類型なりあるいは一定の
経営についての指標なりが、はたしてどこまで妥当なものとして通用するかどうかという点が、
一つ問題であります。いま
一つは、実際の審査に当たる
関係者、たとえば信連であるとか、
農協であるとか、中金であるとか、
公庫であるとか、あるいは県、市町村、改良普及所、こういったところが入るわけであります。そういった介在する
関係者の中で、どのような権限の分業
関係を想定するのかという点であります。
融資協議会をつくるということはまことにけっこうでありますけれ
ども、この点は先ほ
ども加藤先生も御指摘になったが、一体そういう
協議会の中で、どのような相互の権限についての分業体制を想定するのか。へたをすれば、むしろ責任のすべてを全部が回避するということになりかねない。そういう点が問題になると思います。その、いま申し上げました
二つの問題の扱い方いかんでは、これまでもしばしば指摘をされたような、行政による一方的な押しつけになる可能性が多分にあるのではないか、そういうおそれが多分にあるのではないかというふうに考えます。
それから第三点といたしましては、
担保の問題についてであります。施設
資金八百万円という非常に巨額の
資金を
融資するという場合、当然これに見合う
担保をどう考えるかという点が問題になってきます。その点に関連して言いますと、当初、いわばこの
制度とセットに考えられていました
農場抵当制度が見送られてしまった。わずかに
農業動産信用法改正が実現されるという話でありますが、かりに
農業動産信用法が改正されたといたしまして、この程度の改正をもってしては、とうてい所要の
担保をまかない得ないのではないか。その点は、これまでの経験からいって火を見るよりも明らかだというふうに考えます。従来も
公庫融資については、非常に形式的な
担保主義を貫くという
批判が強かったわけであります。
担保がなければ
公庫資金は貸さぬ、これはけしからぬではないかという
考え方がかなりあった。これだけ巨額の
資金をつぎ込むということになりますと、それだけリスクが大きく、窓口担当者はますますそうなる可能性があるのではないか。そうしますと
担保の問題がネックになって、
資金が流れないということも起こりかねないのではないかという感じをいたします。
それから第四点は、
融資コンサルタントの問題であります。当初の構想では、この
制度のメリットとして営農指導と
融資の一体化という点が非常に強調されていたようであります。その一環として
融資コンサルタントの
機能の活用がうたわれていたのであります。おそらくそういった発想は、
自立経営育成資金のいわば模範であります
アメリカのFHA
金融、
農家更生
資金の模倣といいますか、それの発想を非常に強く受け継いだというふうに考えられます。
ところが、最終的に落ちついた案を見ますと、
融資コンサルタントとしては
公庫の本店にわずか三名の
融資コンサルタントを置くということになったようであります。どう考えてもきわめて中途はんぱでありまして、この程度の
規模のもので、はたして何をやろうとするのか。かりに一千戸程度の
融資ということを考えましても、本店にいる三人でもってはたして何をするのかということが、非常に不明確であります。その点はもっと詰めていきますと、そもそも
融資コンサルタントというようなものが、
日本の
農業の中で必要なのかどうかという点にもつながるわけでありますが、ここに
一つの問題があるというふうに考えます。
第五点といたしましては、この
制度ができました場合に、はたして現在あります他の
制度金融との区別がうまくつくのか、あるいは逆に言いますと、下部でかなり混乱が生ずるおそれがあるのではないかという点であります。この
制度の
考え方としては、
自立経営候補
農家についてはすべてこの総合
資金でめんどうを見る、他の
資金は一切貸さないということになるようであります。しかし、はたして現実に
農家をうまくそういうふうに峻別することができるかどうか。たとえば、
土地改良
資金を
融資するという場合どうするか、あるいは
近代化資金を
融資する場合どうするか、こういうふうに考えていきますと、実際の
農家段階においては、結局さまざまな
資金ルートが錯綜して、無理にそれを押えると、かえって混乱が生ずるおそれがあるのではないかという感じがいたします。その点からいいましても、やや問題が起こる。
以上述べましたところが、いわば内在的な問題点であります。
次に、外在的な問題点といいますか、あるいは
一般的な評価といいますか、それについて若干の点を指摘したいというふうに思います。
まず第一の点は、
自立経営育成政策の推進という点から見て、この
制度というのは手順が逆になっているのじゃないかという感じがいたします。西ドイツの場合にもそうですし、フランスの場合もそうですけれ
ども、構造
政策を展開する場合、まず
目標とすべき
経営内容あるいは
経営類型を想定して、その上で施策を集中していくという形をとるのが構造
政策の普通の手順であります。ところが、現在想定されている
資金制度の場合逆になりまして、この
制度ができたにかかわらず、国全体として
目標とすべき
農業経営なり
自立経営をどのようなものとして設定するかということが、依然として不明確であります。まだ構造
政策の
目標は、個別
経営か協業
経営か、あるいは個人的な
農家を考えているかそれとも集団
経営を考えるかというような、抽象的な議論が繰り返されているありさまであります。どうも、やや勘ぐって考えますと、やっていくうちに考えよう、あるいはどうにかなるだろう、やっていくうちにだんだん
目標が固まるのではないか、そういったあいまいさでもって
制度がつくられようとしているのではないか、それでは
政策としてはやや無責任過ぎるのではないかという点が第一点であります。
第二点は、以上に関連いたしまして、
政策全体の問題として、構造
政策全体の中で、この
制度の位置づけをどうするかという点が明らかでないということであります。構造
政策が農地
政策であり、あるいは後継者
政策であり、あるいは
技術政策であり、それらを含めた総合施策として展開されなければならないということは、すでに常識化しているわけですが、実際には他の
政策が一向に進まないで、もっぱら
金融独走の形を強めているというのが現状でございます。いわばこの
総合資金制度というのは、孤立化した
自立経営育成政策となる危険性が非常に強い、その点が第二の問題点であります。
第三の点は、これはさしあたりの問題ではございませんけれ
ども、
長期的に見た場合に、
制度金融の体系をどう考えていくのかということを、やはりこの際一ぺん振り返っておく必要があるのではないか。現在、さしあたり四十三年度については二十億円前後の
融資規模でございますから、さしたる問題にならないといたしましても、将来この
資金がかなりふえていく、場合によっては二百億なり三百億なりというふうにふえていくというふうに考えました場合に、一体
制度金融全体のシステムといいますか、体系をどう考えるかという問題が、当然出てこざるを得ない。つまり、
制度金融の中にはこういった総合
資金のような、
経営中心的な発想を持った
資金――これまでの
公庫資金の大部分、
近代化資金もそうですけれ
ども、物
中心の発想を持った
資金とこれが混在する、その
二つを一体どういう形で統合していくか、あるいは位置づけていくかということが、将来の
制度金融全体の問題として提起されるかと思います。以上、いろいろ問題点を指摘いたしましたが、結論として言えば、私はこういった方向には
賛成であります。発想といたしましては、この
制度はきわめて斬新であり、少なくも
農業の将来、将来の農政の基本線に沿った形で打ち出されておる、その点については評価するのにやぶさかではないわけでございます。ただ、実際問題といたしまして、それを取り巻く現実の
農業の状態であるとか、あるいは現在の農政の姿であるとか、あるいは
農業金融の実態であるとか、そういった点に照らしてみますと、まわりの
条件があまりにも弱体でありへこの
制度をささえるだけの
条件が熟していないのではないかという感じがいたします。その点でやや理論倒れといいますか、この
制度は先走り過ぎている、そういう印象はいなめないわけであります。もしこの
制度が当初の発想どおりに動かなかったとしたら――私はその公算はいまの
条件のもとにおいてはかなり強いというふうに考えます。かりにそういうふうになったといたしますと、これはおそらくこの
制度自身の問題というよりは、むしろそれを取り巻く農政全体のあり方のほうにより大きな責任があるのではないかというふうに考えております。
ごく簡単でありますが、以上で終わります。(拍手)