○竹本委員 私は、総理に三つ四つお伺いいたしたいと思いますが、まず最初にお伺いいたしたい点は、景気にあまり山をつくったり谷をつくったりしないように、
日本の経済を総理の言われる安定成長に持っていくべきであるということであります。ただしこの際、総理に御理解をいただきたい点は、安定成長ということば自体が非常に内容が矛盾しており、その点がいろいろな経済施策の面にあらわれてきておるのではないかと私は思いますので、若干、経済の安定的な成長、そういうことのために議論をしてみたいと思います。もちろん、今日は資本主義経済でございますし、私有財産であり、自由競争がたてまえになっておりますので、きちっと計画どおりにすべてを窮屈に縛っていくということはできません。それはよくわかっておりますけれ
ども、あまりにも
日本においては景気の山と谷があり過ぎるということであります。いつであったか忘れましたが、三十二年ごろでございますか、不景気になったときに、経済白書の中で、山高ければ谷深しといって、えらい文学的な表現で不景気を説明しておりました。文学としてはそれでいいけれ
ども、
政治はあまり景気の波に山があったり谷があったりしては困ると思うのです。そういう
意味で、総合計画ができないまでも総合調整はすべきであるという立場に立って、私は若干
意見を申し述べてみたいと思います。
そこで、
日本経済センターに招かれましたロンドン大学のプロフェッサー、ジョンソンが次のような講演をいたしております。「ポンド切り下げ後の国際経済」という演題で、次のようなことを言っておる。大体私が言いたいことが書いてありますので、時間の節約のためにその講演を読みます。
一、総需要を常に追加していくことによって、雇用を完全雇用に近づけられるという
考え方は、確かに革命的であったし、当時としては正しかった。しかし戦後の政策担当者
たちが、このケインズの伝統的な
考え方をそのまま引き伸ばすことによって経済成長を刺激しようと試みたときに、多少の破綻が生じたわけである。
二、彼らに従えば、経済に対し、非常に高い需要の圧力を恒常的に課すことによって、労働力の不足の
状態を引き起こし、これが企業家
たちの設備投資活動を高め、生産性を上昇させる。この結果、
一つには高度成長を実現できる。
二つには、国際競争力を持つことができる。
ジョンソン教授はそれだけしか言っておりません。私はそのほかに、生産力効果で物価もある時期が来れば引き下げ得ると思いますし、下村理論はそれを盛んに言っておるようであります。これまではいいのです。
三番目、しかしこれら成長派のエコノミストが見のがしているのは、高度の需要を長期間にわたって維持した場合、すなわち高度成長をやった場合には、これは番号はないのですが私がつけて、一、国内の価格及び賃金水準に必然的にあらわれてくる
影響、二、輸入に対する
影響、これが問題であるということを非常に指摘している。要するに、生産性の上昇より以前に物価が騰貴し、輸入需要が増加してしまうという悩みがあることで、事実英国はこの種の経験を何回も繰り返してきた、こういうことを講演されておる。
おおむね私は、池田さん以来の高度成長経済の理論の長所と短所をよくついておると思うのであります。
私は、経済成長については高度成長のメリットも十分認めております。それがあるがゆえに今日まで世界三番目の地位を獲得もできたし、あるいは国際競争力も増強せられたと思って認めておりますけれ
ども、それだからといって、高度の成長がいいものかどうか、その度合いが問題だと思います。設備投資にいたしましても、四十二年度あたりは大体一四・三%予定しておったのが、最後には二七・五%になって、予測したものの倍になっておる。財政の引き締めも、ことしは大いに硬直化とかいうことで引き締められましたけれ
ども、ほんとうならば、これは大蔵大臣に特に私は申し上げたいのだけれ
ども、去年あたりから本格的な引き締めに入るべきであった。私はそのことを言ったのだけれ
ども、大蔵大臣は聞かなかった。そういうことで、ああいう予算を組んで、九月に
——私はたしか去年の三月の
大蔵委員会でも、この予算は大き過ぎるということを言ったのです。九月になって初めて気がついて引き締めをやった、こういうような
状態でございまして、
日本の財政のふくれ方、あり方、設備投資のあり方というものにあまりにも計画性がないと思うのです。そういう
考え方が出てくる根本は、いわゆる安定成長といういささかあいまいなことばによって、安定に重点があるのか成長に重点があるのかわからない。安定ということはむしろ押えることであり、成長ということは伸びることである。この上りと下りの相反することばを
一つにして言っておるために、どうも
政治の指導理念の中に混乱がある。
そこで、私は先般ドイツの経済の安定及び成長の促進に関する
法律、一九六七年六月八日という
法律をちょっと読んでみました。これが非常に参考になるので私は申し上げるのです。
まず第一に驚きましたことは、安定成長というようなあいまいなことばは使ってなくて、この
法律では「スタビリテート・ウント・バクストゥーム」安定及び成長と書いてある。ドイツの経済の安定及び成長の促進に関する
法律、安定及び成長なんです。二つのことを
一つにして安定成長というような乱暴な言い方はしていないのみならず、安定が先に書いてある。安定及び成長である。私はこの
考え方は非常に正しい
考え方であり、これからの
日本経済に景気の山をつくったり谷をつくったりしないようにするためには、安定及び成長でなければならぬと思います。
特にこの
法律の第一条、これも簡単に読んでみますが、第一条、連邦及び州は経済財政政策上の措置を講じる場合、経済全体の均衡の必要性ということがうたってある。経済全体のグライヒゲビヒト、均衡の必要性を考慮しなければならない。これらの諸措置は市場経済秩序のワク内において
——これは
日本と同じです。資本主義的な市場経済秩序のワク内において安定した、かつ適度の経済成長のもとに、と書いてある。もとに物価水準の安定、高度の雇用水準及び対外経済均衡
——これは国際収支です。対外経済均衡に同時に寄与するように講じるものとする。これが第一条なんです。私はこの
考え方は実に正しいと思う。
それを受けて、財政運営のあり方についてもこういうことが書いてある。第五条に財政、予算が安定と成長のかぎであるという立場に立って、第一条の目的達成に必要な
限度において財政はなければならぬと書いてある。
第九条には、連邦の予算運営は五カ年計画を基礎とするものとしなければならぬということが書いてある。その中の初めのほうに、イとして、aですが、経済全体の給付能力の見込みに対する相互
関係において歳入歳出を説明しなさいと書いてある。すなわち全体の経済の給付能力、これが大事なんですね。給付能力、これを離れてとっぴなことを
考えてもだめだということがはっきり書いてあるし、さらにそれを受けて第十条には、財政計画の参考資料として、連邦大臣は、その所管行政に関し、多会計年度にわたる投資プログラムを策定し
提出しろ、こういうことが書いてある。
その他、言えばきりがありませんけれ
ども、私が申し上げたい点はこれで終わりますが、要するにドイツの経済の安定及び成長を促進する
法律、その中では長期五カ年計画を連邦予算の運営については
考えなければならぬといっておるし、経済全体の給付能力の見込みに対する相互
関係において財政の歳入歳出は
考えなければならぬと書いてあるし、さらにこれは各省だけの範囲かもしれませんけれ
ども、多会計年度にわたる投資プログラムをもって予算というものは
考えなければならぬということが書いてある。
日本の財政法のような規定を見ましても、全く違った行き方をしておる。
そこで、私はここで総理にお伺いしたいことは、
日本には
日本なりの経済安定法をつくれとは私申しません。しかし、つくるのが私は正しいと思いますが、少なくとも経済安定法をつくらない場合でも、経済運営についてはここに書いてあるような投資プログラムも必要でありましょうし、多会計年度にわたる総合的な見通しも必要でしょう。いずれにいたしましても、経済は安定成長といったようなばく然たる言い方でなくて、安定、そして成長、こういう
考え方にひとつ指導理念を明確にしていただきたいと思うのです。そういう
意味で総理に伺いたいことは、安定中心の
考え方にこの際
考え方を切りかえられる御意思はないか、またそれに従って経済並びに財政については、特に五ヵ年程度の長期計画を持たなければならぬと思いますが、いかがでございますか。