○千葉(佳)
委員 私は、
日本社会党を代表いたしまして、本案の採決にあたり、反対の意を表明するものであります。
あらためて言うまでもなく、いわゆる南北問題は、先進諸国と
発展途上国との間の格差の解消を目ざし、抑圧と不満から生ずる紛争を未然に防ぐという意味におきまして、二十世紀後半の世界
政治において最も重要な課題であります。昭和三十五年十二月に施行せられました本法に対しまして附帯決議を付して賛成したのも、この世界史の流れの中で、
わが国もその国力にふさわしい貢献をすることに心から賛意を送ったがためであります。しかしながら、今回の法改正は、特定の国を特定の国に肩がわりして行なおうとする点におきまして、その動機と
性格に、反世界史的、反国民的な誤りがあると思うのであります。すなわち、南北間の格差の解消は世界平和に通ずるがゆえに、先進諸国の理解と
協力を得た上での国連中心主義で行なわれるべきものであります。しかるに去る四十二年九月、
わが国がイニシアチブをとりましていわゆるコンソーシアムを結成し、同じく債権国であるはずのソ連、中国等を除外し、ひたすら現在のスハルト政権にてこ入れをする、こういうふうなことは、国際
協力による南北間の格差解消という世界史の流れに逆行すると
考えるものであります。
基金法の目ざす東南アジアの
開発と
援助を待つ国々は、ひとりインドネシアのみならず、インド、ビルマ、それにカンボジア、ラオス等、しかりであります。にもかかわらず、三十五年の施行以来、最大の貸付け国は
韓国と台湾であります。いままたさらにこれにインドネシアを加えるということは、中国を取り巻く反共
体制の確立を目ざしたもので、いわゆる佐藤・ジョンソン共同声明の中国敵視
政策と軌を一にすると
考えるものであります。ベトナム戦費の増大によるドルの不安、そしてそのドル防衛のための対外
経済援助費の削減、これがコンソーシアムという穴をくぐり抜けまして、
アメリカと同額の三分の一の重荷というものをわれわれに課せられているのであります。国民の税金が、インド、ビルマ、カンボジア、そしてインドネシア、こういうように真に
経済協力の目的にかなう使い方をすれば、これは格別でありますが、ベトナム戦争によるドル防衛の肩がわりというのでは、これは納税者である国民の
利益に相反すると思うのであります。
動機において反国民的であり、
性格において世界史の流れにさからうというこの改正に対しまして反対する第一の理由です。
振り返りまして、いまから十年前の一九五八年四月に発効した
賠償協定以来の
わが国とインドネシアの
関係を、主としていうところの
経済協力について見た場合はどうなっておるか。
賠償協定、
緊急援助の贈与、円借款、さらにリファイナンス合計が実に一千百九十八億にのぼっております。しかしこのような巨大な
援助にもかかわらず、
委員会の
審議でも取り上げられましたように、百メートルの多目的ダムが、建設が変更になりまして、六十メートルに変更を余儀なくされておる。これは単なる洪水調節用にすぎない事態になっておる。百九十隻の船が、喫水線が浅過ぎたり、故障を直す部品がなかったりして、百五十隻が岸壁につながれておる、ただひとりモニュメントやホテルだけがむなしく建っておる、しかもその裏側には数々のスキャンダルが見えつ隠れつしておるということは、国民衆知の事実であります。
おそらくスカルノ時代とは違う、スハルト政権に入った今後は期待できるとあるいは言いたいのでありましょうけれ
ども、これまでのどぶに捨てるようなものといわれた
援助の実態と、何よりもそれをささえる利権構造が根本的に変革し得るという保証が一体あるでありましょうか。
これまた
審議の過程で明らかになりましたが、昨年の六千万ドルの
援助に対するルピアの積み立て金の大半は、軍人を含む
政府職員の給料に充てられた事実、この法案の通過を待って直ちに正式契約されるであろうといわれておる八十億円にのぼるジープ、ステーションワゴン、救急車などの軍需品、これは、インフレを抑制し、民生を安定させることと一体何の
関係があるでありましょうか。これが今回改正の商品
援助という名のもとに行なわれることであり、少なくともこれまで、百メートルのダムがかりに六十メートルになっても、なおかつそのあとに残るものがあったのでありますが、これと比べまして、商品
援助ということは実にでたらめな時代逆行を物語るもの、このようにいわざるを得ないのであります。
さらに、焦げつき債権救済のリファイナンス、そこの商社からの
政治献金のことについては、すでに言及されておりますが、最近スマトラのランポン
開発に非常に期待を寄せられておるアラムレヤ将軍が参りまして、スハルト大統領の親書を携えてまいりましたが、これが外交ルートを飛び越えてきたということの事件が起こったのでありますが、これは従来のやり方、そしてまたその底にある利権構造というものが決して改まったものと思えない象徴的な事柄ではないか、このように
考えておるわけであります。
第三に
指摘しなければならないのは、
経済外交を唱えながら、はなはだ場当たり的であり、便宜的なまずさがあると思います。
スハルト大統領が初めての外国訪問に
日本を選びまして、
政治生命をかけて
援助の増額を申し入れたといわれておりながら、確答を得られないまま帰国したわけでありますが、先月末、セダ
大蔵大臣は、
経済的報復措置をとると語りまして、他国に例を見ない〇・四%の大使館査証料を
わが国から徴収することが通告されております。これはマニラにおける
日本商社の営業停止と並びまして、東南アジア各地における対日感情をいみじくもあらわしたものではなかろうかと私は思うのであります。
スハルト政権が新外資導入法をとりながら、旧宗主国であるオランダ等に対しまして接収財産の返還を進めて以来、将来の債務返済の原資となるべき銅、すず、ニッケル、ボーキサイトなどの資源は、資本間の冷厳な鉄則によりまして、現在
アメリカ、カナダ、西ドイツなどの巨大会社によって独占
開発権がもぎとられ、内水面宣言により
日本漁船の安全操業はいまだに確立されておらない状況でございます。これが、日米対等のパートナーシップで
アメリカと同額の三分の一を負担するという高価な代償の事実であろうと思います。
むろんアジアの唯一の
先進国であるというのも事実であろうかと思いますが、しかしながら、それと同時に、生産力においては世界第三位、しかし
国民所得においては第二十一位であるのも現実であります。私はあえて、この足らない社会資本とか、倒産する群小の会社、低所得に苦しむ諸階層、これを放置してまでなぜ出すのかという、多少次元の低いことは申すつもりはございません。しかしながら、
先進国の一員として、それにふさわしい
経済援助は、当然しかあるべきでございますが、唯一の返済の原資が食い荒らされ、次の金の出し方が渋いということで
経済的な報復を受けるのでは、国民は泣くにも泣けない状態ではなかろうか、このように思うわけであります。
この
海外経済協力基金は
大蔵省の予算に計上されておりますが、御
承知のように、監督は
経済企画庁、指導が
外務省、輸出のチェックが
通産省と、こういうわけで、
援助体制が非常に不備であり、今後再融資、再
援助、再々融資、こういうふうな悪循環がとめどなく続いていくのではないかと、第二の
賠償になる運命を私は非常におそれるものであります。
最後に申し述べたいのは、前にも言いましたように、予算どおりの六千万ドルが
経済援助に充てられるのか、アムステルダム
会議でIMFから明示された三億二千五百万ドルの三分の一である一億一千万ドルになるのか、これを値切って九千万ドルになるのか、こういう事実でありますが、
審議の過程でも、
相手のある交渉ごとであるからという理由でついに明らかにされなかったのでありますが、国会の予算
審議権を拒否する、これは
憲法上のゆゆしい問題ではなかろうかと
考えると同時に、これは今回のこの法改正が持つ暗く解きがたい
性格というものをあらわしておるのではなかろうか、私はこのように
考えるわけであります。
総じて、るる申し述べましたけれ
ども、この法改正の動機、その
性格、はたまた内容、いきさつ、そのねらい、これをいずれをとりましても、
経済援助の持つ本来的な
性格から見まして、世界平和、国際協調、善隣友好、国家
利益、国民の
利益、こういったものとは縁のないというふうに私は
考えまして、反対の討論を終わる次第であります。(拍手)