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堀江参考人 私もごく大まかなことを申し上げまして、
あと御質問いただいたら幸いであります。
本日、私
どもがまかり出ますにつきましていただきました御案内状に、激動する
国際情勢ということがございましたが、全くそういったことであろうと思うのであります。ことにこういった激動する
国際情勢の中で、
日本の
国際収支や、また皆さん方お伺いいただいておりまする
日本の
産業貿易、そういったことを考えるわけでございますから、私はごく簡単に
日本の置かれた
国際環境といったようなものを
お話し申し上げて、御参考に供したいのであります。
御案内のとおり、現在曲がりかどにきたといわれる
国際経済情勢でありまするが、大戦争が済んで二十三年も
たちましたわけでありますから、古い秩序とかあるいは古い指導権による
経済運営といったものが限度にきて、それがちょうど入れかわるような時期に立ち至っておるのではないか、そんなに思うのであります。しかし、そういった激動する
国際経済情勢でありますけれ
ども、しいて申しますなら、貨幣側面と申しまするいわば
国際金融、為替、
国際資本、この面に一挙に難問題が出てきたわけでありまして、貨幣側面以外の
経済実体面はそんなに私は悪くない、ことに一昨年、昨年にかけて
景気後退に見舞われておった国々も、
政策よろしきを得て
経済拡大のほうに向かっておりますから、たいしたことはない、そんなふうに思うわけであります。
日本の
国際収支は昨年来赤字を続けてきまして、多少心配されたのでありますが、ここ二カ月来だいぶ持ち直しておりますが、もともと
国際収支問題は、物価問題と並んで
わが国経済にとり最も重要な問題であります。そして
日本の
国際収支の置かれた
国際経済環境はどうかというわけでありますが、私、結論的に最初申したとおりであります。
御案内のとおり、貨幣側面では昨年十一月の英ポンド切り下げ以来
国際高金利が定着をしていくとか、為替相場が動揺するとか、あるいはたびたびのゴールドラッシュ等の
現象を経まして、ついに金プール
会議の結果、金の二重
価格制の出現があり、その後御案内のとおり、ストックホルムの十カ国蔵相
会議で曲がりなりにもSDRの発動を決定を見ましたし、また昨日十六日には、ワシントンで開かれましたIMFの
理事会で、その法制化、法文化そういったことを採択決定いたしたのでありまして、そういったことが反映して、ようやくしばらくの間小康状態を呈しておるように思われるのであります。しかし、
国際金融、為替市場の安定は、基本的にはまだ収拾されておりません。SDRそのものの結論も妥協の結果でありまするので、フランス的な要望やあるいは
アメリカの思惑、これらが妥協されたことになっておりますので、これが
現実に実際に実行されて、金やドルにかわる、ないしこれと同等のものになるかどうかについてもまだ問題があるのであります。問題は、やはり曲がりなりにも
国際通貨の役割りを果たしておりまするポンドとドルの防衛がどうなっていくか、ことに
アメリカのドル防衛がどうなるか、
アメリカの
国際収支がどうなるか。早い話が
アメリカの増税法案、昨年の八月に上程されていながら、まだ下院で通る確たる見通しもないといったようなことであるわけでありまして、これらの動向を見守りながら、模様見の中間安定といったふうに解釈していいのじゃないか。その
意味で
国際経済の貨幣的側面でありまする
金融、為替には、今後とも、非常に安心ができないといったことが実情のように思うのであります。
しかし、貨幣側面以外の実体
経済の面ではどうかと申しますと、
金融、為替面の不安、動揺のために従来期待されておりましたほどの
経済成長はないにしましても、
世界経済が昨年度よりは拡大
傾向にあるのは事実でありまするし、すなわち
アメリカも依然戦争
経済にあるとはいえ、実質
経済成長が四%以上を期待せられておりまして、一部には過熱を心配されておるのであります。また
西ドイツやフランスを中心にした
EEC全体も四%程度の成長と見られております。その上
EEC諸国では御案内のとおり、昨年までの
景気後退から立ち直るために、自分
たちのためでありますが、そのほかドル防衛にも協力するというようなために自国の
経済拡大
政策や刺激
政策を取り始めておりまして、あるいは多少
国際収支を犠牲にしてでも国内
景気振興策をとり始めておるのであります。これは
世界経済全体にも喜ばしいことと思われます。
世界貿易全体の伸びはポンド切り下げ以前の見通しに比べますと少し低くなっておりますが、それでもおおむね年率七%
世界貿易の拡大が予想されております。
英国の国立
経済社会研究所の見通しによりましても、大体七%くらいであろうと見ておって、昨年よりややいいのであります。ただし本年の
景気回復のにない手が主として
各国の
政府の
政府投資であって、民間設備投資の本格的な回復は
世界的にいまだしという状況のように思われます。
多少長期的に見ますると、過去五カ年間の
世界経済の平均成長率というものは大体五%前後、OECD諸国全体でありますが五%強でありましたが、
世界貿易の伸びでは八%といった
数字になっております。この
数字はこれから先五カ年間には、いろいろと問題が出てきておりまするので、それほど大きくは期待できない。しかしながら、これまた大きな問題としまして、御案内の一九三〇年代に資本主義が極端に縮小化して非常な困難になった苦いあの
時代に比べまして、現在の
世界経済の困難や問題は、はるかにまだ御しやすいと思うのであります。したがいまして、どうころんでも一九三〇年代の苦い経験を繰り返すことはあるまい。それは御
承知のとおり、戦後二十三年の
世界経済や
世界貿易をささえてまいりました
国際経済、
国際金融協力がしっかりしておるからかと思う次第であります。
そこで、
日本の問題を一、二申し上げまして、私の話を終わりたいと思うのであります。まず
国際収支のとらえ方であります。
国際収支の問題は、物価問題同様すこぶる重要な問題である。毎年
政府が行ないます次年度あるいは長期的な
経済見通しで予測する
国際収支見通しというのは、御案内のとおりしょっちゅう狂うことが多いのであります。これは
一つは
国際経済の状況そのものが急変するといった外的要因がありますし、ほかに
日本の
国際経済情勢の見通しの判断が不正確であること、また
一つには
国際収支を長期的全体的な視野で考えていないことのあらわれのように思うのであります。こうして
国際経済や
国際金融の情勢判断が不正確であることからときに時機を失する
対策をとり、
わが国経済の成長が阻害された事例も少なくなかったし、
日本の場合、外貨準備そのものは本来薄い上に、ときどきの情勢によって大幅に増減するという余裕のない
国際収支対策を続けてきたのが事実だと思うのであります。今日のように
国際金融、為替、資本市場が非常な動揺を続けており不安な情勢のときに、かつてのような高度の
経済成長
政策をとるよりも、むしろ安定成長をはかっていくことが必要である。そのために金保有の増大をも含めて適正な外貨準備、それは
わが国の場合やはり二十五億ドルないし三十億ドルは必要であると思われまするが、これをある期間、計画的に継続的に積み増ししていく、そういった
政策をとらなければならないと考えるわけであります。換言しますと、
国際情勢の曲がり角に来て、その変化に対応しながら、なおかつゆとりのある外貨準備を持つようにすることが重要である。また、いまや
日本経済のような大型
経済を運営するにあたりましては、単にドルだけに依存する、
貿易でも同様であって、主として
アメリカ経済に依存するといったようなことは、必ずしも妥当ではなく、適当な外貨
対策、また適当な
貿易の相手先といったものをあわせ開拓、促進することが必要であると思うのであります。そうして、
国際収支問題というのは国全体の問題でありまするので、
大蔵省なり
通産省なりといった一省のみの問題ではなく、また
経済企画庁のような、ああいった試行錯誤の試験的なやり方でなくて、
政府全体で長期的な総合的な視野を持って処理されていっていただきたい。先ほどお二人の話した問題と相通ずることでありますが、
世界経済の見通しでも、また
国際収支計画でも、そういう
立場から全体計画を総合的に樹立してほしいと思うのであります。
それから、もう
一つ申し上げますと、
日本の
国際収支の中で、いま一番弱点と申しますると、何といっても、
貿易外経常収支、特に海運収支であります。
数字は御案内のとおりでありまして、
貿易収支が本年せっかく悪くて十二億ドルの黒字であるのに対しまして、
貿易外収支は十二億五千万ドルといったような赤字を計上しておる。したがいまして、この
貿易外経常収支、特に海運収支を改善することが、今日の
わが国国際収支対策の重要課題であると思うのであります。御案内のとおり、外国船の
輸出につきましては、いろいろ
金融その他の便宜を与えながら、邦船建造に対しましては、それが必ずしも厚くなかった。これは過去において、歴史的ないろいろの
背景があったと思うのでありますけれ
ども、御案内のとおり、
日本の
貿易物資の積み取り比率は、
日本船がせいぜい四二%、それから外国船が五八%といったような
数字になっておりまして、
貿易が盛んになって、
輸出も
輸入も大きくなるほど、この海運の収支が赤くなるといったことは、はなはだ困ることでありまするので、その
意味からも、これは運輸省といった一省だけの問題でなくて、全体の国策としてお取り上げいただいて、早急に解決していただきたいと思うのであります。
最後に
一つ、私は昨年来改組発足しましたソ連東欧
貿易会といったものの会長をいたしておりまするので、その
立場からお願いいたしたいのであります。
世界経済が多極化に進んでいく、東西問題も南北問題も含めまして、だんだんそういう情勢に進みますことにかんがみまして、もろもろの
輸出対策なり、また
産業競争力の
対策もありますけれ
ども、その
一つとして、対社会主義圏の
貿易拡大にも大いに格段の見直しをしていただきたいと思うのであります。御
承知のとおり、最近締結されました日ソ通商
協定でも、年間六億数千万ドルといったような大きな
数字になって、
貿易そのものは相当程度順調にきておりまするが、次の段階としまして、やはり共産圏地域に対する
経済協力といった問題があるわけであります。御案内のシベリア開発な
ども、これはたいへんおもしろい問題でございまして、
日本は一億の人口の単一市場であり、単一
国民経済である。片一方で資本主義を最大限に発展させた
アメリカの
経済があり、またお隣に共産主義五十年の計画
経済をやって、ともかくも成功したソ連
経済がある。この間にあるわけでありますけれ
ども、いずれ
世界は紆余曲折を経ながら、やはり
一つのマーケットに進むというようなことを考えますと、東西交流問題についても
アメリカ自身があれほど前向きになっておる際でありますから、
日本の場合シベリアの安くていい
資源が簡単に手に入るといったようなことなら、開発
輸入その他大いに進めてしかるべきではないか。その際に、どうも西ヨーローッパ諸国で、
景気後退の関係もありましてか、近年クレジットその他の諸
条件がたいへんよくなっておる。
日本はそれができないというようなことでありますけれ
ども、せめて西欧諸国で提供し得るような、その程度のクレジットあるいはその他の諸
条件をつけていく、そしてせっかく近くにある重要な原材料
資源を
日本のために開発
輸入して、そして
輸出する。そうすることによって一億の人口が高度な生活ができるのであります。
大蔵省、
輸出入銀行その他この点については、はなはだしぶいのでありますが、その点
貿易振興策はたくさんあると思いますけれ
ども、これも
一つ重要な問題として、
経済協力の問題をひとつお取り上げ、お考え願いたいと思うのであります。
あと御質問に応じましてお答えいたしたいと思います。どうもありがとうございました。(拍手)