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1968-05-09 第58回国会 衆議院 社会労働委員会 第23号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十三年五月九日(木曜日)    午前十時十三分開議  出席委員    委員長 八田 貞義君    理事 小沢 辰男君 理事 佐々木義武君    理事 田川 誠一君 理事 橋本龍太郎君    理事 藤本 孝雄君 理事 河野  正君    理事 田邊  誠君 理事 田畑 金光君       大坪 保雄君    海部 俊樹君       倉石 忠雄君    佐藤 文生君       齋藤 邦吉君    澁谷 直藏君       世耕 政隆君    田中 正巳君       竹内 黎一君    中野 四郎君       西岡 武夫君    福永 一臣君       増岡 博之君   三ツ林弥太郎君       箕輪  登君    粟山  秀君       渡辺  肇君    枝村 要作君       加藤 万吉君    後藤 俊男君       島本 虎三君    平等 文成君       八木 一男君    山本 政弘君       受田 新吉君    本島百合子君       和田 耕作君    沖本 泰幸君  出席国務大臣         文 部 大 臣 灘尾 弘吉君         厚 生 大 臣 園田  直君         労 働 大 臣 小川 平二君  出席政府委員         内閣法制局第一         部長      真田 秀夫君         外務政務次官  藏内 修治君         厚生大臣官房長 戸澤 政方君         厚生省国立公園         局長      網野  智君         厚生省援護局長 実本 博次君         労働大臣官房長 石黒 拓爾君         労働省労働基準         局長      村上 茂利君         労働省職業安定         局長      有馬 元治君  委員外出席者         参議院議員   小平 芳平君         参議院社会労働         委員長代理   藤田藤太郎君         総理府恩給局恩         給問題審議室長 大屋敷行雄君         行政管理庁行政         管理局審議官  北山 恭治君         法務省刑事局参         事官      臼井 滋夫君         大蔵省主計局主         計官      辻  敬一君         大蔵省国有財産         局国有財産第三         課長      市川広太郎君         文部省初等中等         教育局職業教育         課長      望月哲太郎君         労働省労働基準         局賃金部長   渡辺 健二君         専  門  員 安中 忠雄君     ————————————— 五月八日  委員海部俊樹君、世耕政隆君及び三ツ林弥太郎  君辞任につき、その補欠として大平正芳君、広  川シズエ君及び有田喜一君が議長指名委員  に選任された。 同日  委員有田喜一君、大平正芳君及び広川シズエ君  辞任につき、その補欠として三ツ林弥太郎君、  海部俊樹君及び世耕政隆君が議長指名委員  に選任された。 同月九日  委員中山マサ君、福永一臣君、和田耕作君及び  伏木和雄辞任につき、その補欠として佐藤文  生君、西岡武夫君、受田新吉君及び沖本泰幸君  が議長指名委員に選任された。 同日  委員佐藤文生君及び受田新吉辞任につき、そ  の補欠として中山マサ君及び和田耕作君が議長  の指名委員に選任された。     ————————————— 五月九日  保健婦助産婦看護婦法の一部を改正する法律案  (藤原道子君外二名提出) は撤回された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  参考人出頭要求に関する件  最低賃金法の一部を改正する法律案内閣提出  第二号)  最低賃金法案河野正君外九名提出衆法第一  号)  最低賃金法案小平芳平君外一名提出参法第  九号)(予)  診療エックス線技師法の一部を改正する法律案  (参議院提出参法第一二号)  戦傷病者戦没者遺族等援護法等の一部を改正す  る法律案内閣提出第四六号)  労働関係基本施策に関する件(職業安定行政  に関する問題)      ————◇—————
  2. 八田貞義

    八田委員長 これより会議を開きます。  内閣提出最低賃金法の一部を改正する法律案河野正君外九名提出最低賃金法案、及び予備審査のため本委員会に付託されております小平芳平君外一名提出最低賃金法案の三案を議題とし、審査を進めます。  質疑の申し出がありますので、これを許します。田畑金光君。
  3. 田畑金光

    田畑委員 五十五特別国会から五十六臨時国会を経て、最賃法改正法案が不成立で今日に及んでいるわけです。(私語する者多し)ちょっと静粛にさせてください。
  4. 八田貞義

    八田委員長 静粛に願います。
  5. 田畑金光

    田畑委員 最賃行政は、この間停滞して、最賃の決定件数も激減しておる、こういう話を聞いておるわけでありますが、実情はどうなっておるのか、この点ひとつまず局長から明らかにしてもらいたい。   〔私語する者多し〕
  6. 八田貞義

    八田委員長 静粛にしてください。
  7. 村上茂利

    村上(茂)政府委員 最近の最低賃金実施状況概略を申し上げますと、本年三月三十一日現在におきまして最低賃金適用労働者数は、六百十一万一千人と相なっておるわけであります。労働省は、当初五百万労働者適用を目標にいたしまして進めてまいりましたが、その当初の計画から見ますと順調に進んでおる、かように存じております。ただ先生指摘のように、昨年の国会におきまして最低賃金法改正法案提出したといったような事情地方にも知れておるわけでございますので、そういった意味合いにおきまして多少の心理的な影響はあったかと存じますけれども、大体においてはいま申しましたような形で、適用労働者数はふえておる、こういう状況に相なっておるわけであります。特に最近の傾向としては、業者間協定方式よりも十六条方式による新設件数が伸びてきており、三十件に達しておるというような傾向がごく最近における傾向の特徴といえるかと存じます。
  8. 田畑金光

    田畑委員 そうしますと、この一年間と申しますか、法律を出してから未成立のままに今日に及んでおるわけでありますが、九条、十条方式に基づく、新しく出た件数はどれくらいに及んでおるのか。さらにいまお話を承りますと、この間十六条方式に基づい新たに三十件出てきた、こういうことでありますが、これは行政指導でそのような方向に指導してきたのか、それともいままでも十六条方式に基づく件数というのは、金属産業地下産業あるいはその他地域においても相当な件数にのぼっておりますが、特に行政指導に基づいてそのような件数がふえてきたのかどうか、その辺の事情を明らかにしてもらいたいと思うのであります。
  9. 渡辺健二

    渡辺説明員 ただいまお尋ねの、昨年五月以降の九条、十条の件数を申し上げますと、九条は昨年の五月以来ことしの三月までに百十件、十条は改定をいたしましたものを含めまして四十八件決定を見ておるわけでございます。十六条がその間に二十三件できております。それまでも十六条がなかったわけではございません。昨年の三月末までに約七件できておりまして、十六条がなかったわけではございませんが、昨年の改正法提出以後におきましては、十六条の件数がふえております。これにつきましては、中央最低賃金審議会からも、国会法案提出された以後におきましては、現行法運用にあたっては、昨年五月の審議会答申趣旨を、現行法の中でできるだけ生かして運用するようにという御意見もいただいておりますので、現行法の制約のもとではございますが、そのようにつとめました結果、十六条が従来よりはややふえてきておるという状況に相なっておるわけであります。
  10. 田畑金光

    田畑委員 なるほど昨年の五月以降、十六条方式に基づく新設件数が二十三件にのぼっておるということは、従前と比べると幾らかよくなってきたということは言えるかと思いますが、なおかつ九条方式に基づくものが百十件、十条方式に基づく件数が四十八件、こういうことを見ますと、法を出したたてまえに基づく行政指導というものが、十分なされていなかったということが指摘できょうと考えるわけです。この点は大いに基準局としても御反省を願いたい、こう考えております。  さて、今度の法律改正に基づいて、十六条方式に基づく最賃方式がとられんとしておるわけでありますが、その間、要するに二年間経過措置期間を置いておるわけです。ところで、この二年間、九条、十条方式に基づく最低賃金についてはどうするのかということです。昭和三十九年の十月並びに昭和四十一年の二月に、それぞれ最低賃金額目安改定なさって今日にきておるわけですね。だから、この点については、四十二年、四十三年、この間目安額改定については一体どうなるのか、どうするのか明らかにしてもらいたいと思います。
  11. 村上茂利

    村上(茂)政府委員 御指摘の点は確かに問題のある点でございまして、目安額改定は必要である、こういう判断に立っておるわけでございます。そして、具体的には中央最低賃金審議会におきまして、目下改定につきましていろいろ検討を進めておる状況でございます。  そこで、先生の御質問の前段にありました、二年間の経過期間中どうするかということでございますが、業者間協定方式新設は認められませんが、すでにありますもので金額の改定を必要とするものについては改定はなし得るわけです。そういう措置がございますが、目安改定という問題は非常に重大であり、重要な問題であると私も存じ、審議会における検討が終了いたしますことを待っておるわけでございます。
  12. 田畑金光

    田畑委員 四十二年五月の中央最低賃金審議会答申後か、あるいは前かと思いますが、十六条方式では全国一律最賃の制度確立を阻害する、こういう観点から一部の委員中央賃審議会に出席しない、このために中央賃審議会機能が一時停止されたような状態も経過してきたわけです。ところが、聞くところによれば、昨年の十二月から一部引き揚げていた中央賃審議会委員の諸君も復帰して、ここに中央最低賃金審議会機能が完全に遂行できるような体制になったということを私たちは聞いておるわけでありますが、昨年五月の中間答申を見ましても、将来の最低賃金制あり方についてはすみやかに結論が得られるよう引き続き検討するということを強くうたい、また指摘しておるわけですね。この意味は、今後本来の最低賃金あり方中央賃審議会としては精力的に追及していくものだ、こう判断するわけでありまするが、これは労働大臣に特に承りたいと思いますけれども、中央賃審議会の今後の動きと展望と申しますか、どういう状況下に今日運営されているのか、この点をひとつ明確に御答弁を願いたいと考えております。
  13. 小川平二

    小川国務大臣 ただいま仰せになりましたように、今回の答申中間答申でございます。今後のあり方については引き続き御検討願うことになっておるのでございまして、委員会が、精力的に作業を続行していただいております。昨年の秋には海外の実態調査を終わりまして、ことしに入りましてから問題点を整理された上で検討を続行しておる、こういう状況でございます。私どもといたしましては、できるだけ早く最終的な答申がなされることを切望しておるものでございます。
  14. 田畑金光

    田畑委員 中央賃審議会動きといういわば専門的な事項にもわたりますので、この際局長から、先ほど私が質問した、現在中央賃審議会はどういう運営状況になっておるのか、特に本格的最賃のあり方検討するというために、基本問題特別委員会というのか小委員会というのか知らぬが、そういうものを持って鋭意検討しておる、こう聞いておるわけでありますが、作業状況はいまどうなっているのか。いつごろをめどに答申が出される予測であるのか、その辺の事情を、もっと具体的にひとつ局長から承っておきたいと思うのです。
  15. 村上茂利

    村上(茂)政府委員 ただいま大臣から小委員会検討を進めておるというお話がございましたが、その小委員会最低賃金制基本問題特別小委員会という名称の小委員会でございまして、大臣仰せになりました、問題を整理して云々、この点をさらに私から申し上げますと、この特別小委員会におきましては、検討項目をおおむね五つに整理いたしましてその第一は、今後のわが国経済雇用賃金事情はどのように推移し、そのような状況の中で、最低賃金制役割りをどのように考えるかというのを一つ項目にし、次の項目といたしましては、最低賃金設定方式については次のようないろいろな姿が考えられるが、これをどうするか。その一は、全国産業一律制、地域別制産業別制職種別制、以上各方式の組み合わせといったような設定方式についてどのような姿が考えられるか、それをどうするかというのを第二の検討項目。それから第三の検討項目としては、前項の設定方式に基づく最低賃金内容についての基本的な諸問題をどうするか。たとえば最低賃金額決定基準の問題、一定の基準年齢について最低賃金額を定めることの可否、たとえば十六歳の年齢基準にするかどうするかというようなことでございます。そういった問題。第四の問題として、労働協約に基づく地域的最低賃金方式現行のままでよいかどうか。それから第五といたしましては、最低賃金制運用に当たる機関については次のような問題があるがこれをどうするか。たとえば中央最低賃金審議会地方最低賃金審議会及びそれぞれの専門部会について委員の数、その選任方法、任期、権限などは現行のままでよいか。中央地方機関関係現行のままでよいかといったような問題点を各側委員が一応了承いたしまして、そして検討を進めておるわけでございます。  しかし、いずれにいたしましてもこれらの問題は彼此関連いたしておりまして、この項目は一応分けておりますけれども、それぞれ入りまじっておりますので、この問題を検討するにつきましては、やはり相当多角的な立場で検討しなければならぬ、こういう事情にあるわけでございますから、すみやかに結論が得られることを期待いたしておりますけれども、問題の重要性複雑性から見まして、なお時日を要するであろうというふうに私ども考えられるわけでございます。
  16. 田畑金光

    田畑委員 五項目を中心に検討をこれからなされるというようなことでございますので、内外の事情調査なども手伝ってくるとすれば、相当な時間的な要素も必要ではあると思いますけれども、先般の質問に対する御答弁によれば、大臣は両三年というようなお答えがあったようにお聞きしました。両三年もこれは必要とするのかどうか。しかし、それにしてはあまりにも時間がかかり過ぎはせぬか、こう考えるわけです。私の感じとしてはそんなに時間がかかるものではなさそうだ。優秀なメンバーでしかも精力的に作業を進めておるわけでありますから、ここ一年前後のうちには答申も得られるであろう、こう私は私なりに見ておるわけでありますが、その答申が出た暁には、その答申に基づいて、政府としてはまた本格的な、最賃はこうあるんだという形で立法され、提案されるという御意思であるのかどうか、この辺を大臣からもう少し具体的に明確な見通しを、また政府大臣としての決意を承っておきたいと思うのです。
  17. 小川平二

    小川国務大臣 最終的な答申がなされました暁には当然のことでございますが、趣旨を十分尊重いたしまして、立法を要します場合には立法の手続に着手したい、このように考えております。
  18. 田畑金光

    田畑委員 先ほど局長からの御答弁の中にもありましたように、これからいろいろ検討する項目の中に出ておるわけではありますが、まあ有力な意見として、全国産業一律論という考え方もあるわけです。しかし現実的に業種別地域別あるいは年齢勤続等によって賃金格差がなお大きいというのも現状だ、こうも見ておるわけです。率直にお尋ねしますが、一律全国産業最低賃金決定しておる国、採用しておる国というのはどういうところが該当するのか、それをこの際ひとつお示しいただきたい、こう思うのです。
  19. 村上茂利

    村上(茂)政府委員 いろいろな見方もございますが、業種別によらずに、全国的に最低賃金をきめている国としては、アメリカ、 フランス及びフィリピン等の諸国があげられるわけでございます。しかしことばの厳密な意味における全国産業一律であるかどうかということについては問題もあるのではないかと思うわけであります。  たとえばアメリカ公正労働基準法適用を見ましても、その適用範囲は、州と州をまたがる州際産業に限られておる。しかも、特定の小売りサービス業などの労働者適用されていないという例外もあるわけでございます。  あるいはまた、フランスの例を見ましても、農業と非農業の二本立てになっております。そして地域別に二つの段階が設けられておるというように、厳密な意味で該当するのかどうかということについては問題があろうと思います。ただ姿としては、フランスの場合などはそういうふうな理解もなし得ないこともないわけでございまして、まあ、それらの点につきましては見方によるということも言えるかと思います。しかし厳密な意味で申しますと問題もあるのではないかと存ずるわけでございます。
  20. 田畑金光

    田畑委員 いまお話がありましたように、厳密な意味において全国産業一律最低賃金制というのは、アメリカの場合を見てもそうは言えないと思うのです。州際産業といっても、州際産業雇用労働者の何十%に相当するのかという問題もありましょうし、お話がありましたように、小売り商業サービス企業については適用されていないという問題もあるし、連邦法とあるいは州法との適用の問題の差異もあるわけで、またフランスについてもお話がありましたように、地域別の差が現存することもこれは実情であるわけです。まあ、それはその事実関係だけで明らかになればけっこうだ、こう考えておりますが、とにかくわが国現状を見た場合に、労働力需給関係は非常に逼迫しておる。若年労働者が不足してきた。したがって、新規学卒者なり若年労働者については、賃金水準というものがだんだん平準化しつつあるということもこれは現実だと見るわけであります。しかし産業別業種別地域制に見ますと、賃金格差が現存しているということもこれは事実であろうと見るわけであります。まあ大まかでよろしいが、わが国賃金格差というものは、いま申し上げた規模別から見ても、あるいは地域別から見ても、業種産業別から見ても相当な差がある、こう見るわけです。特に欧米の国に比べた場合に、わが国のそれはなお格差の面において大きなものがあるのではないか、こう私は見ておるわけでありますが、この点についてひとつ局長現状認識について承っておきたいと思うわけです。
  21. 村上茂利

    村上(茂)政府委員 わが国における賃金格差を申し上げますと、たとえば製造業につきましてはかなりの格差があることは御指摘のとおりでございます。しかし、この格差も漸次縮小してまいりましたが、ごく最近におきましてはやや停滞の状態にあるわけでございます。  その概略を申し上げますと、たとえば昭和三十五年におきましては、五百人以上の規模を一〇〇といたしまして、百人から四百九十九人の比率を見ますと七〇・七、三十人から九十九人の規模におきましては五八・九、五人から二十九人までの規模におきましては四六・三というように、相当な格差がございました。ところが、昭和四十年の時点で見ますと、百人から四百九十九人の規模では八〇・七というように一〇%以上も縮小してまいりました。それから三十人から九十九人までは七一・〇というように、これも一三%程度縮小してまいりました。五人から二十九人までは六三・二、これも相当な縮小を見ております。しかし昭和四十二年の状況を見ますと、百人から四百九十九人の規模は七九・六というような状態で、四十年よりやや差が、微小ではありますけれども開いておる。三十人から九十九人までは六七・七、こういうように四十年の時点から見ますと格差がわずかでございますがまた開いてきておる、このような状況を示しておるわけであります。  これを外国の例と比較いたしますれば、たとえばアメリカでは千人以上を一〇〇といたしました場合に、五十人から九十九人の規模では七四・三、十人から四十九人という零細規模におきましても七二・九というように、その幅が非常に少のうございます。同様な例は、イギリスについて見ましても七九・九というように、千人以上の規模の事業と比較しましてもかなり格差が少のうございます。西ドイツに至りましては、千人以上の規模の一〇〇に対しまして八七・八でございますから、もうほとんど差がない。こういう状況でございますから、わが国におきまして最近格差が縮小したとはいいながら、そういった先進国の例から見ますと、遺憾ながらなお相当の格差があるといわざるを得ないと存ずるわけでございます。
  22. 田畑金光

    田畑委員 その辺の事情は明らかになったわけでありますので、今後一そう経済の二重構造解消、あるいはまた最低賃金制度をもっと実のあるものにして、賃金格差解消に大いに機能させる必要があるであろうと判断するわけです。  これは労働基準局長にお尋ねしたほうが適切かどうか知りませんが、いまわが国賃金労働者労働組合組織率というものが一体何十%にのぼっておるのか、これを明らかにしてもらいたいと思うのです。
  23. 村上茂利

    村上(茂)政府委員 最近の調査によりますと、昭和四十二年におきましては、労働組合組合数五万五千三百二十一、組合員数千四十七万五千八百六十九、推定組織率は三四・九%、こういうふうに相なっております。
  24. 田畑金光

    田畑委員 ここまで経済が伸び、また経済構造がだんだん高度化されてきても、労働組合組織率というのが昭和四十二年三四・九%にとどまっておるということです。この点についてはいろいろ考えさせる面があろうかと私は思うわけです。ILO二十六号条約の第一条を読んでみますと、「労働協約その他の方法により賃金を有効に規制するいかなる措置も存在しておらず、かつ、賃金が例外的に低い若干の産業又は産業の部分において使用される労働者のため最低賃金率決定することができる制度を設立し、又は維持することを約束する。」とうたっておるわけです。このことは特に未組織労働者、あるいは中小企業零細企業における低賃金労働者の地位を向上させる、こういうのが言うならばILO二十六号条約趣旨だと見るわけでありまするが、特にわが国のようにまだ組織率が三四・九%前後で足踏みしておるという状況、これは諸外国に比べて組織率の面で高いか低いかという議論もまた出てまいるわけでありますが、とにかく労働組合も結成できぬというようなことは、反面から言うならば、労使関係の力というものが不均衡だということ。したがって、労働者賃金決定に参与する機会がそれだけ少ないということを反面意味するのじゃないか、私はこういう観察を下しておるわけです。そういう点から見ました場合、全国産業一律最低賃金方式というのは一つの見識であるにはいたしましても、一体わが国現状より見た場合、それは制度としてかりにできたとしても、どの程度効率があるのか、あるいは守られるのか、あるいは低い水準で押えられはしないか、私はこういう観察を持っておるわけであります。あるいはまた別の角度から言うならば、組織率も低いからして、法律の力で全国産業一律方式が必要なんだという反論も出てこようと考えておるわけでありまするが、しかし、ILO二十六号条約趣旨なり精神なり、あるいは条文の内容などを検討し、またわが国労働組合組織率実情などをかれこれ勘案した場合には、理想理想としてけっこうであるが、しかしわが国経済実情の面から見て、全国産業一律方式については疑問なしとしない、こういう感情を持つわけです。この点ひとつ労働大臣の所見を承っておきたいと考えるわけです。
  25. 小川平二

    小川国務大臣 全国産業一律最低賃金方式を、わが国に導入することが適切であるかいなかという問題を検討いたしまする際に、ただいま御指摘がございましたわが国においては産業別規模別、あるいは地域別賃金格差がなおきわめて大きいという点、あるいはまた、ただいま御指摘になりました点等は、確かに一つ問題点であろうかと存じます。ただこの問題につきましては、過般審議会に諮問をいたしました際に、全国産業一律最低賃金方式をも含めて、今後のあり方を御検討願いたい、かように要望申し上げておる次第もございますので、私どもといたしましては、この際全国産業一律最賃制について論評を加えることは、御遠慮申し上げなければならないと存じておるわけでございます。答申を待って、その趣旨に従いまして対処していきたい、このように考えておるわけであります。
  26. 田畑金光

    田畑委員 デリケートな問題ですから、検討にまつという答弁大臣は逃げたわけですけれども、それはそれでけっこうでしょう。やむを得ません。  現行賃法の第一条を見ますと、「労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び事業の公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与することを目的」としておるのがこの最低賃金制度であるわけです。したがって今回の法律改正も、この趣旨をより充実して生かしていこうというのが、法律自体のねらいであろうと考えておるわけであります。そしてまた同時に、従来の最賃方式の柱である業者間協定方式というものは、最賃制度あり方として、いま私があげました最賃法第一条の目的の趣旨から見ても沿わないんだ、これはもう行き詰まったんだ、こういう認識のもとで今度の法律改正が出されたものだ、こう私は判断しておりますが、その判断で間違いありませんね。
  27. 村上茂利

    村上(茂)政府委員 業者間協定の廃止という考え方を持つに至りましたにつきましては、いろいろな理由があろうかと思いますが、行政実務的に申し上げますと、諸般の情勢を基礎にいたしながら、鋭意努力してまいりましたが、その適用労働者数約五百万、業者間協定方式適用人員は約四百五十万程度でございます。この業者間協定方式が成立いたしますためには、ある程度業者がまとまりまして、協定をなし得るような条件が存在することが必要でございます。ところがなかなかそういう業者のグループが把握ができないというような場合には、業者間協定方式を成り立たしめることが、非常にむずかしいという経験を私ども積んだわけでございます。この方式を進めましてから四百五十万、この数にまで到達いたしましたけれども、さらにこれを拡大発展さすためには、いま申しましたように、業者グループの存在というものをどのようにしてつかみ得るか、こういう困難もあったわけであります。単に理念的な問題ではなくして、行政実務を通じまして得た経験からも、ある程度この方式には限界があるのではないかという考え方を持たざるを得ない。  一方におきまして、現行の十六条方式は、非常な制約がございます。業者間協定方式とか、労働協約拡張方式などを試みて、なおかつ困難または不適当という条件が整ったときに、初めて十六条による審議会方式が発動されるわけでございます。そのような非常な制約のある十六条方式でございます。一方においては業者間協定方式のこれ以上の拡大につきましては現実にいろいろな制約がある。一方においては、十六条方式も制限条項がたくさんつき過ぎまして、それ自体で十六条方式を拡張するというわけにはいかない、こういうような状態に立ち至ってきたのではないか、こういう見方もあるわけでございます。そのような考え方からいたしまして、理念的にもいろいろ問題があるわけでありますが、行政実務なり今日までの経験を通しまして、より有効適切な最低賃金制というものを考えます場合には、十六条方式それ自体が十分機能を発揮し得るような制度でなければならない、こういう考え方も持たれるわけであります。  以上申しましたような諸点がからみ合いまして、現行制度に対する批判、その結果今回の改正法案提出するという次第に至ったものと考えておるわけでございます。
  28. 田畑金光

    田畑委員 いまの局長の御答弁は、私はいささか形式的過ぎる答弁だと思うのです。九条方式とか十条方式ではいわゆる使用者のグループをつかむことが限界にきたのだ、こういう技術的な面からこの業者間協定方式を廃止することになったのだというような答え方でありますが、しかし先ほど申し上げたように、最賃法の第一条に、この制度の目的というのは、労働者の生活の安定であるとか、あるいは公正な企業の競争の確保であるとか、こういう問題を中心に最賃制度というものができておるわけで、この制度の目的から見ても業者間協定が行き詰まったのだ、こういうことはあなた方自身もはっきりと認められて今回業者間協定方式を廃止して、より実情に即するように、また第一条の目的に沿うためには、十六条方式が望ましいのだという実態的な面からこの法改正というものがなされたものだ、こう考えるわけです。現に労働大臣が最賃法の改正について中央賃審議会に対する諮問の趣旨説明を見た場合、業者間協定方式は、労働者代表がその賃金決定に参加できないという点に問題があるということをはっきり言っているわけです。あるいは第二に、業者間協定に基づく最賃は、もう行き詰まっておるのだということも認めていらっしゃるわけですね。また、これからの賃金の変化にも適応し得ないのだということも、はっきり労働大臣自身が認めておいでになるわけですね。そういうような点から振り返ってみた場合、いま局長お話のように、今回の法律改正というものは単に使用者のグループを把握するのにもう限界がきたのだという技術的な問題ではなしに、私が先ほど申し上げたように、労働者の生活安定であるとか、あるいはまた労働力の質的な向上とか、企業の公正な競争の確保とか、こういう条件からこの法律改正というものが提案されたものだ、こう判断するわけですが、この点についてはいま一度労働大臣からひとつ御答弁を願いたい、こう思うのです。
  29. 小川平二

    小川国務大臣 ただいま御指摘のとおりでございまして、第一条に規定してございますこの法律の目的、要するに労働者の生活の安定あるいは公正な競争の維持というこの目的を達成する手段としては、いまや不十分な手段となった、さような意味で限界あるいは飽和点に到達しておる、こういう認識から出発をいたしたわけでございます。
  30. 田畑金光

    田畑委員 そういたしますと、いまの大臣答弁で私はいいと思いますが、局長も先ほどいろいろ御答弁になっておいででしたが、私がいま指摘したような趣旨のもとでこの法律の提案はなされたのだ、このように理解してよろしいですね。
  31. 村上茂利

    村上(茂)政府委員 いま大臣からも御答弁ございましたが、仰せのとおりでございます。技術的な点を私申し上げたのですが、究極の目標はまさに先生指摘のとおりでございまして、労働者の生活の安定その他いろいろ御指摘になりましたその目的を達成するために、今回の法改正によりましてより有効適切な最低賃金制を展開したい、こういうことでございますから、御説のような考え方でございます。
  32. 田畑金光

    田畑委員 そこで私は、そのような前提をお認めになったわけでありまするからお尋ねをするわけでありまするが、今回のこの法律は、業者間協定方式を不適当として、そのためにこの改正というようなことになったわけでありまするが、ところが、二年間の経過措置期間を置いておるということですね。では二年の経過後はどうなるかといりと、二年経過後なお現存する業者間の最低賃金がある場合には、それは十六条の新方式に基づくものだとみなすような規定にこの附則でなっているわけですね。これはしかしおかしいじゃありませんか。もしそうだとするならば、附則でいま申し上げたように、二年経過後なおかつ業者間協定の賃金が廃止されなかった、改正されなかったら、そのまま生きて残っていた場合には、二年後には十六条方式に基づく賃金とみなすのだ、こういうふうにこれはなっておるわけです。この点については矛盾じゃありませんか。もしそうだとすれば——そうだとすればということは、私が冒頭に申し上げたように、最賃法のねらいというものが、現状労働力需給関係から見てもおかしいのだ、即応しないのだ、あるいはまた労使平等の参与のもとの賃金決定というILO条約の趣旨から見ても適応しないのだ、あるいはまた賃金の額から見ても非常に低く押えられて労働者の生活の安定に寄与しないのだ、こういう立場から今回の法律改正がなされたとすれば、二年経過後に残っていたならば十六条方式賃金でありますよということ自体がこれは矛盾じゃございませんか。ならば、この際二年の経過措置期間なんて置かぬで十六条方式に切りかえることこそ第一条の目的から見ても当然これは望ましいことじゃないか。
  33. 村上茂利

    村上(茂)政府委員 この法案の附則をごらんいただきますと、第二項では「この法律の施行後二年間は、旧法の規定は、なおその効力を有する。」というので、二年間生きておるわけでございます。ところが第四項では、「期間の満了の際現に効力を有する同項に規定する最低賃金は、その期間の満了後も、」云々「最低賃金としての効力を存する。」というように、いま先生指摘のような御懸念が生ずるかと思いますが、今度は第五項をごらんいただきますと、その最低賃金適用を受ける労働者が異議の申し立てができるように相なっております。その際は最低賃金審議会調査審議をもう一度するわけでありまして、そしてその適否を判断いたしまして、効力を存続さすかいなかという決定をするわけでありまして、端的に申しますと、一回審議会のスクリーンにかけまして、存続するか廃止するかを決定するわけです。ただ、無条件に存続さすという趣旨のものではないわけであります。
  34. 田畑金光

    田畑委員 その点は、確かにスクリーンを通すようになってはおりますよ。おりますが、元来、私が先ほど指摘したように、最賃の必要な対象というのは特に零細、中小企業、未組織の労働組合の職場だと思うのです。なるほどこの附則によれば、労働者が異議の申し立てができる、こうなっておるのです。しかし私は、こういう最賃を必要とする職場においては、労働組合があるのかないのかというのが第一の問題、かりに労働組合があるとしても、零細企業中小企業において、一体労働者が使用者の意思に反して異議の申し立てができるかどうか、こういうことも私は強く懸念をするわけです。それよりも何よりも、この最賃法改正法案は、二年間の経過措置を置いておるが、二年後は、業者間協定がそのまま残っておれば、これはそのまま新方式にみなすのだという形になっておるわけです。私は、それ自体に問題がある、こう思うのです。だから、私が言いたいことは、何も二年の経過措置を置かなくても、労働大臣が、昭和四十年に答申を出した段階において、すでにいまの制度についてはかくかくの問題点があるのだということを指摘され、そして、ようやく四十三年、かりにこの国会でこの法律が成立したとしても、労働大臣が諮問してからかれこれ足かけ三年を経過しておる。かりにこの国会でこの法律が成立したとしても、二年の経過措置期間を置かねばならぬ、こういうことを考えて見るならば、二年の経過措置期間などということでなくして直ちに新方式に切りかえるということが、制度本来の趣旨を生かす面から見ても、本来の最賃制に一歩近づくゆえんではないか、私はこう判断するわけでありますが、この点はどうでしょう。
  35. 村上茂利

    村上(茂)政府委員 法のたてまえといたしましては、労働者の異議の申し立てがありましたときに、審議会でもう一度ふるいにかけまして、存続さすかいなかをきめるのだ、こういうたてまえをとらざるを得ないのでありますが、あとは行政指導なり、実際の運用はどうなるかということであろうと存じます。二年間の存続期間しかない業者間協定を、これから新設するかどうかということになりますと、新設の勢いというものは非常に衰えてまいります。今度は存続したものを二年の間に改定せざるを得ない、つまり、冒頭に先生質問せられました目安改定の問題でございます。今度の改正は、問題が生じてまいります——それが二年の間に行なわれる、その際に十六条方式に乗りかえてしまうか、あるいは業者間協定方式として改定するか、いずれかの選択に迫られる、こういうことに相なります。そうして、もし先生御懸念のように、二年経過して依然として効力を存続するという場合におきましても、今後改定する場合には、従来の方式ではなくして、今度十六条方式改定をするということになりまして、おそかれ早かれ、いずれにしても、そのままほうっておかれましても、十六条方式で手直しをせざるを得ない、こういうことになるわけでございますから、万が一運用ないしは指導上二年間にいろいろ努力いたしまして、もし残存したものがございましても、その後の手直しは、審議会方式でいく。いわば主導権は従来と違いまして、積極的に大臣または都道府県労働基準局長が諮問いたしまして改正する、こういう措置が講ぜられるわけでありますから、万万一ごく小部分のものがそのまま見過ごされたとしても、そういう形で、十六条方式で今度は改定していく、こういうことに相なりますので、御懸念のような点はほとんどわずかなものではなかろうか。私ども、運用よろしきを得れば、ほとんどそういうことはないのではなかろうか、かように存じておる次第でございます。
  36. 田畑金光

    田畑委員 そこで私は、特に大臣並びに実務担当の局長に希望申し上げますが、附則を見ますと、私がいま質問したような疑点も残ってくるわけです。そこで、この二年間のうちには実質的には目安金額を改定する、あるいは業者間協定方式に基づいて現存する低い最低賃金については、十六条方式趣旨に基づいて、行政指導によって二年を待たずして実態的には十六条方式最低賃金制度化されるのだ、こういう形で行政指導を強力に推進することを明確にひとつ約束してもらいたいと思いますが、大臣並びに局長の明確な御答弁を願いたいと思います。
  37. 小川平二

    小川国務大臣 今後十六条方式を中心たらしめるために、積極的に行政指導を行なっていくつもりでございます。
  38. 田畑金光

    田畑委員 そこで局長労働者の生活の安定を目的とするということは先ほどお認めになったわけでありますが、現行最低賃金水準というのは、どう見ても、単身労働者の生活水準すら維持できるかできないかという、言うならば非常に低い基準なんですね。四十一年の目安額を見ましても、甲地域、乙地域、丙地域、それぞれございますが、最低四百十円から五百二十円の間、こういうことになっておるわけです。これは単身労働者の生活を維持するかしないかというぎりぎりの限度額ですね。一体ヨーロッパの国々で、最低賃金というものは何を基準にして考えておるのかということです。私は、むしろこの際、単身労働者の生活水準を維持するというような考え方ではなくして、平均家族構成の世帯を中心とする世帯別労働者最低賃金を確保するのだというような立場で最賃制という問題は考えるべきじゃないか、こういう感じを持つわけでありますが、ヨーロッパの国々などでは一体どういうところに最賃の基準を置いておるのか、その実情を少しく説明願いたいと思うのです。
  39. 渡辺健二

    渡辺説明員 ヨーロッパの国の最低賃金は、御承知のように、国によってかなり違っておりまして、それによりまして基準も必ずしも同一ではございません。たとえて申しますと、ドイツ等労働協約の拡張適用をやっておりますところは、当然労働協約をもとといたしまして、それによっておるわけでございます。イギリスのような、審議会によりまして業種別につくっておるところにおきましては、同種の業種であって、労働協約、団体交渉によって賃金がきめられておるものを基準に、未組織のものに対しまして、最低賃金をきめておる。フランスのような国におきましては、ある程度生計費指数というようなものを算定いたしまして、それを基準にしておるものと、協約拡張適用との組み合わせによるというふうに、国によりまして基準は必ずしも一様ではない、かように私どもは理解しております。
  40. 田畑金光

    田畑委員 国によっていろいろ基準も違うかもしれませんが、しかし、イギリスなどのように業種別最低賃金をきめておる、あるいはまた西独のように労働協約方式を中心として考えておる、こういう国々は、やはり私が先ほど指摘した単身労働者最低賃金あるいは最低生活を保障するという考え方ではなくして、その趣旨と精神においては、世帯別の生活をどう確保するかという立場に立つ最低賃金方式だ、そのように理解しておるわけでありますが、わが国最低賃金についても、そういう考え方に立って考えるべきじゃないかと思うのです。その点はどうなんですか。
  41. 渡辺健二

    渡辺説明員 ヨーロッパ等におきましては、賃金が、日本のように必ずしも年功序列等になっておりませんで、業種別あるいは職種別になっておりますので、一般の賃金が世帯別か単身かというようなことがあまり議論されておらないわけでございます。日本におきましては年功序列賃金が従来支配的でございまして、年齢が低い単身者は低い、年功を積み家族数もふえるころになると賃金は上がる、かように相なっておりますので、一つ業種あるいは地域等につきまして法律で強制する最低の賃金ということになりますと、どうしてもその地域で行なわれている一般の類似の労働者の方の賃金基準は、一体どうなっているかということが考慮に入ってくるわけであります。そういたしますと、年功序列との関係で、初任給あるいは若年者の賃金というようなことが考慮に入ってくるわけでございますが、ただし現在中央最低賃金審議会で基本的検討を行なっております中におきましては、将来の最低賃金決定基準を何に置くかというようなことも審議の対象になっておりますので、将来につきましてはその中央最低賃金審議会の御意見等も承りまして、それを尊重しながら考えてまいりたい、かように考えております。
  42. 田畑金光

    田畑委員 先ほど大臣の御答弁によれば、この二年の暫定措置期間においても、十六条方式による指導を現行の業者間協定の最賃についても進められるというようなお話でございましたから、これはこれとしてけっこうだと思いますが、十六条方式適用する要件というものは、これは一体どういう基準に基づいてやっていかれるのか、また十六条方式を採用するにあたって、こういう賃金決定でありますから、当然労使の意見を中心としてということが私はたてまえだと思うのです。審議会方式というと、いわば行政委員会というのか、行政機関意見が強く出てくるわけです。私は、賃金あり方決定というのは、やはり行政機関がイニシアをとるのじゃなくして、労使の意見反映ということが一番大事なことだと思うのですが、先ほどの大臣答弁によれば、この二年の暫定措置経過期間中にも、十六条方式を採用するというようなことを言っておられますが、十六条採用についての基準は一体どういうところに置かれるのか、あるいは労使の意見反映についてはどのように積極的にこれを吸収されようとするのか、この辺をひとつ承りたいと思うのです。
  43. 渡辺健二

    渡辺説明員 今回の改正によりますと、十六条に基づいて調査審議を行政官庁が求める場合には、従来のような制約を削除いたしまして、必要と認めるときには労働大臣または基準局長は調査審議を求めることができる、かように相なっているわけでございます。しかし、その必要と認めてどういう業種に十六条をもうけていくかということにつきましては、御指摘のように労使の意見を十分に審議会の中で聞きながらやっていくつもりでございまして、中央最低賃金審議会につきましても、今後の十六条の運営につきましては、各地方審議会におきましてあらかじめ労使を含めた小委員会等によって、どういう業種からやっていったらいいかというようなことを、十分意見を聞きながら行政官庁の権限を行使していくようにという御意見も最近いただいておりますので、労使の意見を十分承り、尊重いたしながら、どういう業種、どういう職種に十六条の適用をはかっていくかということを進めてまいりたい、かように存じております。
  44. 田畑金光

    田畑委員 そうしますと今度の十六条方式というのは、労使が自発的に積極的に意見を提案した場合は、それに基づいて労働大臣労働基準局長動き出すということも当然予想されておる、このようにこの条文は解釈してよろしいわけですね。その点どうですか。
  45. 村上茂利

    村上(茂)政府委員 従来の運用上も、労使のお話がございましたときには、労働大臣または都道府県労働基準局長は、関係方面ともはかりまして、諮問するかいなかその態度をきめてはかっておったわけであります。先ほど賃金部長答弁いたしましたが、今日までの運用の実際上の経験もございますので、法案にはそのことは明記しておりませんけれども、できるだけ労使の意見を尊重いたしまして処理いたしたいと考えておるわけでございます。
  46. 田畑金光

    田畑委員 この間も、加藤委員からの質問もあったかと思うのですけれども、私は正確には聞いておりませんが、最賃決定方式というものはILO二十六号条約の精神から見ても、またわが国の労働法の体系から見ても、労使の平等の参与による賃金決定方式というのが本来の姿であり、また望ましい姿ではないかと考えておるわけです。その意味では、十一条に基づく、労働協約に基づく最低賃金あるいは地域最低賃金、こういうのが最低賃金決定方式としてはより望ましい行き方じゃないかと考えておるわけですが、この点については大臣どのようにお考えでしょうか。
  47. 小川平二

    小川国務大臣 労働協約を拡張適用していくという方式についてお尋ねでございますか。——これはさきにも答弁を申し上げましたとおり、産業別労働協約が相当普及している国におきましては、現に協約を未組織の分野に拡張することによって最賃を設定するということが行なわれておる、あるいはかような方式が中心になっておる国もあるようでございます。わが国におきましては、一言にして申しますれば、こういう方式が実効をあげ得るための条件がまだ十分に成熟しておらないのではないか。労働協約はもっぱら企業別に締結されておるわけでございます。企業を越えた協約、賃金というようなものは、むしろ異例に属するのではないか。同時にまた企業間に非常に大きな規模格差があるという事情も存在をしております。そういう点からかような方式最低賃金の中心として運営していくということは、日本の場合にはなお困難ではなかろうか。確かにこれは一つあり方であろうと存じますし、御趣旨のほどは十分理解ができるわけでございますが、私どもはそのように考えておるわけでございます。
  48. 田畑金光

    田畑委員 専門的な事項にもわたるので、大臣の見解は見解として、趣旨は賛成なら賛成ということでけっこうですが、私がILO条約をよく読んでみても、また賃金決定についての現状あるいはわが国の労働法運用の面から見ても、労働協約に基づく賃金決定方式というのが、行政機関が介入してきめていく審議会方式よりももっと本来的なあり方ではないか、私はこういう見解を持っておるわけなんです。この点について局長はどのようにお考えですか。
  49. 村上茂利

    村上(茂)政府委員 大臣が御答弁になりましたように、趣旨といたしましては労使間対等の立場で結んだ協約、それを拡張適用していくということは望ましい姿でございます。ただ遺憾ながら、わが国においては産業別あるいは地域別のそういう最低賃金に関する労働協約そのものが存在することがまれである、こういうことからして、趣旨としては望ましいし期待される姿でありますけれども、現実にそういう協約が数少ないものですから、それをわが国最低賃金方式の中心に据えるかいなかと申しますと、先ほど御質問もございましたように、組織率も三五%何がしといったような諸点を考えますと、そこに期待はいたしましても、現実にある程度の制約があるということを大臣が申し上げたのだと私は考えておるわけでございまして、その点は先生も十分御承知のとおりでございます。したがいまして、今後の方向としてそういうものは望ましい、できるだけそういうものを拡大していくということについては、先ほど大臣の御答弁の最後に申し上げたとおりでございまして、私どもそのような考えを持って臨みたいと存じておるわけでございます。
  50. 田畑金光

    田畑委員 質問の時間もないので、大体これで終わりたいと思いますが、いまの点についてはもう少し議論を発展させたいわけでありますけれども、時間の制約もあるし、これはこの程度でとどめておきます。  ただ最後に、これは大臣に特に考えてもらいたいことは、最低賃金審議会というのは行政委員会ですか、どうですか。中労委とか地労委のような行政機関ではなくして、諮問機関であろう、こう思います。しかし、今後この最賃審議会の果たす役割り、これを考えてみた場合、中労委、地労委、これは重大な機関であるし、しかもそれだけにこれは特別公務員として給与の面でもそれ相応の報酬を受けておるわけですね。この中央最低賃金審議会とか、地方最低賃金審議会というのがございますが、一体これはどのような身分になっておるのか、また、これはどのような報酬なり、あるいはまた経費の支出を受けておるのか、そういう面においては処遇というものが不均衡であるよりも非常にお粗末ではないか、ぞんざいではないかという感じも持つわけですね。先ほど来議論されておるように、中央賃審議会がようやく中間答申をやった。これからさらに本格賃金あり方を求めて最低賃金審議会は精力的に活動しなければならぬ、こういうことになってこようと思うのですね。中央賃審議会においても、地方賃審議会においても、果たさなければならぬ役割り、分野というものは、多々ますます弁ずという状況に今日あると私は思うのです。ところが、私の知る限りにおいては、労働委員会委員の諸君と違って、この最賃審議会委員の諸君の身分なり待遇なり、あるいは役割りなり、性格なりという面に非常に不明確な点があると思うのですが、こういう問題こそ労働省基準行政をもっと充実し、強化していくためには一番大事な面ではなかろうか。しかも、これが今日まで忘れられていたようなきらいがないでもないと判断するわけでございます。この点について一体どのようなお考えをお持ちであるか、どんな方針であるか、これはひとつ大臣から特に承っておきたいと思います。  第二に、これは局長に承っておきますが、家内労働法の制定という問題が俎上にのぼって長年になるわけです。しかも家内労働審議会の審議の状況というものも、ときおり新聞などでわれわれは聞くわけでありますが、一体家内労働法を目ざして家内労働審議会は現在どのような運営がなされておるのか、今後の見通しなどについて、ひとつこの際明確にお答えを願っておきたいと考えるわけです。  特に前段については、これは大臣の政治力にまつところ非常に大きいものがございますので、この点今後の労働行政の一環として明確な大臣の所見を承っておきたいと思います。
  51. 小川平二

    小川国務大臣 審議会の果たしまする役割り機能が、今後ますます重きを加えていくという点は、まさしく御指摘のとおりでございます。しかるに、委員各位に対する処遇がきわめて不十分でありますことを、私自身もはなはだお恥ずかしく存じておるわけであります。これから鋭意努力いたしまして、いずれも大切なお仕事をなさっていただく方々であり、今後ますます御苦労願わねばならない方々でございますから、処遇の改善にはあとう限りの努力をしなければ相すまない、このように考えておる次第でございます。
  52. 村上茂利

    村上(茂)政府委員 家内労働問題につきましては、家内労働審議会で鋭意審議を進めておりますが、三月十九日の総会で家内労働法制検討上の問題点に関する報告が提出されました。家内労働法制定という問題が具体的に家内労働審議会検討されております。さらに起草委員会を設けまして、どのような事項についてどのような内容の法制が考えられるかということを鋭意検討いたしております。この審議会は、来年三月一ぱいで期限が切れる審議会でございますので、非常に精力的にいま検討を進めておる段階でございまして、近い将来の答申を期待いたしております。
  53. 田畑金光

    田畑委員 以上で終わります。
  54. 八田貞義

  55. 沖本泰幸

    沖本委員 質問に先立ちまして、参議院公明党の小平先生が参議院での用事がございますので、御退席の時間を考えまして、小平先生に先に御質問させていただきたいと思います。   〔委員長退席、佐々木(義)委員長代理着席〕  小平先生にお伺いいたしますが、現行法では最低賃金決定基準として、労働者の生計費、また類似の労働者賃金、あるいは企業の支払い能力等を考慮してきめることになっておりますが、これでは労働者の前向きの生活保障とはならないと考えられるわけでございますが、この点につきまして公明党としてはどういうふうにお考えになりますでしょうか。
  56. 小平芳平

    小平参議院議員 先日も当委員会で、加藤委員からの御質問のときにも申し上げましたので、概要を申し上げたいと思います。  最低賃金をきめる場合に、類似の労働者賃金水準あるいは事業の支払い能力ということを全く無視して最低賃金をきめよう、こういうような考えを持っておるわけではありません。しかしこの最低賃金そのものが、労働者保護の立法として世界各国で採用されている。しかも極貧労働者の救済、あるいは苦汗労働の禁止、こういうようなところから最低賃金制というものがとられてきた。したがってこの労働者の生活水準を維持し、向上し、生産性を向上していくという、これが最低賃金を考える基本でなくてはならない。わが国の場合は、特殊事情、特殊事情ということを盛んに言われますけれども、労働者保護の立法としては、労働時間の制限あるいは労働組合運動の保障、こういう点についてはすでにわが国でも実現しているのでありますから、最低賃金そのものも、いままでのように業者が相談してきめるとかそういうものでない、労働者の生活水準を基本として最低賃金をきめる、これは当然のことであろう、このように考えます。
  57. 沖本泰幸

    沖本委員 次にお伺いしますが、全国一律最低賃金といいながら、地域最低賃金をなぜ用いているか、こういう点疑問が出てくるわけでございます。  それと同時に全国一律最低賃金と、地域最低賃金との関係について御説明をいただきたいと思います。
  58. 小平芳平

    小平参議院議員 最低賃金制度は、先ほども政府側から答弁がありましたが、各国によっていろいろな制度をとられております。したがって、地域別にきめるか、産業別にきめるか、あるいは全国一律にきめるか、いろいろ方法としてはあり得るわけですが、わが国現状としては産業別地域別にきめかねている。ここでもって労働者の生活水準の向上という大きな目的を達成するためには、全国一律の最低基準をまずきめることが必要だ、このように考えるわけです。したがいまして、全国一律の最低賃金を実施することを目標としますが、ここでもって全国一律になった場合に、各国の例にも見られるように、適用労働者数がごく限られてきはしないか、ごく一部分の者が最低賃金水準の向上にあずかるだけであって、大多数の者はすでにそれ以上の賃金水準になっているというような線しか出てこないという懸念もあるわけであります。したがって、われわれとしては、全国平均の生活水準最低賃金といたしまして、それ以下のものは引き上げていく、そしてそれ以上のところができます。最近の生計費実態調査の結果では七、八%から一〇%くらい全国平均より高い指数のところが出ております。この調査自体も私たちはこれでいいとは考えませんが、現状調査においても相当の開きが出ている。そうした場合に、全国平均の最低賃金水準をきめても、一割ほども高いところをそのままにしておいたのでは、最低賃金制をしく意味が薄れてしまうので、中央最低賃金委員会決定した場合に、高いほうだけを地域別に考慮していくことができる。低いほうは引き上げるということは、地域差をいつまでも現状のままにしておくという考えでなしに、そうした開発のおくれている、あるいは近代産業のおくれている地域政府の施策としてこれを全体的に引き上げていく、こういう考えであります。
  59. 沖本泰幸

    沖本委員 次にお伺いしますが、三月二十六日の本会議で、わが党の松本君の質問労働大臣がお答えになっているわけです。生計費の問題につきまして、「生計費より賃金の上昇のほうが大きいような場合には、最賃の改善が一般賃金の改善よりおくれるという事態も生じてくる」、こういう御答弁があったわけでございますが、これに対してどういうふうにお考えでございましょうか。
  60. 小平芳平

    小平参議院議員 大臣の御趣旨はあとでまた大臣から御答弁があると思いますが、いまの表現だけで考えますと、最低賃金がまだ引き上げられないうちに一般賃金水準が上昇していく、これは十分あり得ることと思います。そして、これに対しては公明党案としては二つのことを考えております。  その一つは、一般賃金水準が向上し、生活内容がよくなっていく場合には、その改善された生活内容をもとにして新しい最低賃金をきめる、これは年一回やることを考えております。  もう一つの場合は、生計費が大幅に上がって、とても年一回の調査決定では間に合わないような場合、数カ月もするうちに生計費が五%も上昇してしまうというような場合には、スライド制を基本として当然に最低賃金改定していく、そのような考えのもとにでき上がった法案であります。
  61. 沖本泰幸

    沖本委員 小平先生のお時間の都合もありますから、小平先生に対する質問はこれで終わらしていただきます。たいへんありがとうございました。   〔佐々木(義)委員長代理退席、委員長着席〕  では、労働大臣にお伺いいたしますが、政府案では、生計費のほかに、類似の労働者賃金水準を考慮して最低賃金決定をすることになっておりますが、もし基準生計費よりも低い場合に、下に引っぱられて悪用される心配が出てくるわけです。したがって、厳正に基準生計費を算出して最低賃金をきめるべきだと考えるわけですが、労働大臣の見解をお伺いいたします。
  62. 小川平二

    小川国務大臣 最低賃金を設定いたします場合に、いま質疑応答のうちのおことばに出ております生計費は、確かに考慮さるべき一つの大切な要素であると存じます。同時に、実際の問題といたしまして、通常の企業の支払い能力も考慮されなければならないと思いますし、類似の労働者賃金水準も、これは当然考慮さるべき一つの要素だと考えております。たまたま類似の労働者賃金水準が若干低いという場合に、これに引きずられる、これにさや寄せするということは、これはあり得ることだと存じます。さような事例が全くないとは申せないと思います。
  63. 沖本泰幸

    沖本委員 また、政府案では、企業の支払い能力を考えるという規定がありますが、これは本来政府が別個に考えなくてはならないことであり、最低賃金法に企業の支払い能力を云々することは筋違いだ、こういうふうに思うのですが、この点はどうですか。
  64. 小川平二

    小川国務大臣 これは一個の実際問題でございまして、支払い能力をはるかに越える水準賃金決定されるというようなことでは、これは実効を上げ得ない、実行されがたい最低賃金ということになりましょうし、これを法律で強制するということになりますれば、経済に混乱を生ずるということは当然考えられるわけでございます。御参考までに申し上げますと、ILOに条約勧告適用専門家委員会というのがございますが、この一九五八年の報告の中で、たとえばこのように書いておるわけでございます。「最もしばしば見出される基準は」とこう書きまして、企業の支払い能力、一般的な経済状況、これと並べて「類似の職業において支払われる賃金率」云々ということを書いておりますので、これは御参考までにお耳に入れる次第でございます。
  65. 沖本泰幸

    沖本委員 最低賃金決定方式でありますが、現行最低賃金審議会答申を尊重して行なうといっても、もともと審議会委員労働大臣または都道府県の労働基準局長の任命によるものであり、そういうことで実質的には労使平等とか、対等の原則に欠けている、こう考えられるのです。この点に対して労働大臣はどういうふうにお考えになっていますか。
  66. 小川平二

    小川国務大臣 最低賃金決定は、おことばのとおり労働大臣あるいは都道府県の労働基準局長が行なうのでございますけれども、これを決定いたします際には、あらかじめ三者構成の賃金審議会に諮問をして、これを尊重するたてまえになっておることは御高承のとおりでございます。また、労働大臣ないし都道府県の労働基準局長審議会の出された結論によりがたい、かような判断をいたしました場合は、審議会に対してあらためて議案の審議を求める、再審議を求めなければならない、かような仕組みにもなっておるわけでございます。なお、この間に事実上労使双方の意見を十分聴取することになっておるわけでございますから、審議会意見を無視して一方的に賃金決定されるということはあり得ないと存じます。  また、委員会そのものが決定権を持っておるのでなければ、これが労使対等の原則に背反するものであるとは、私ども考えておらないわけでございまして、外国にもかような、同様の事例は数多く見られるところでございます。
  67. 沖本泰幸

    沖本委員 先ほど、参議院の小平先生に御質問したわけですが、三月二十六日の本会議の、わが党の松本君の質問に対する大臣答弁の生計費の問題で、もう一度繰り返して申し上げますが、「たとえば、生計費より賃金の上昇のほうが大きいような場合には、最賃の改善が一般賃金の改善よりおくれるという事態も生じてくる」、こういう御答弁があったわけです。   〔私語する者多し〕
  68. 八田貞義

    八田委員長 静粛に願います。
  69. 沖本泰幸

    沖本委員 この点に対して、もう一度大臣に御見解を承りたい。
  70. 小川平二

    小川国務大臣 これは、生計費と申しましても理論生計費、実態生計費、いかなる計算をするかにもよりますけれども、一般的な賃金の上昇率が生計費の上昇率を上回るということは、これは確かにあり得ることだと存じますし、実際にもそういう事例がフランス等ではあったと承知いたしております。その点につきましては、ただいま基準局長から御説明を申し上げさせます。   〔私語する者多し〕
  71. 八田貞義

    八田委員長 静粛に願います。
  72. 渡辺健二

    渡辺説明員 ただいま労働大臣からフランスの例を引かれましたが、フランスにおきましては、全職業最低保障賃金というのがございまして、これが生計費指数によってスライドされることに相なっておるわけでございます。ところが、一般賃金水準のほうは、生計費指数よりも上昇が高いために、初めて最低賃金ができました一九五〇年には、全労働者のうち百五十万人が最低賃金の金額を支給されておりましたものが、逐次一般賃金水準のほうが上昇が高いために、最低賃金そのままを支給されておる労働者の数が減ってまいりまして、一九六六年には、最低賃金のそのままの金額を受けている労働者は、全労働者のうち十万ないし十五万、パーセンテージにいたしますと一ないし一・五%にしかならないというように、非常に最低賃金の影響が小さくなったわけでございます。生計費指数だけを考えましても、一般賃金のほうが生計費指数よりも上昇が高い場合には、そのようになる場合もあるわけでございまして、生計費指数だけを考えればいいということではないのではないかということが、フランスの例からは  いえるのではないかと思います。
  73. 沖本泰幸

    沖本委員 以上で終わります。   〔「採決、採決」と呼び、その他発言する者多し〕
  74. 八田貞義

    八田委員長 この際暫時休憩いたします。    午前十一時四十七分休憩      ————◇—————    午後零時三分開議
  75. 八田貞義

    八田委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  質疑を続けます。加藤万吉君。
  76. 加藤万吉

    ○加藤(万)委員 一昨日の私の質問の過程で、非常に不規則発言が多くて議事が妨害をされたことを残念に思います。  私は、本法案が重要法案であるだけに、慎重に審議をし、さらに幾つかの問題点を究明をし、明らかにしなければならないと思っておる次第でありますが、審議の時間等の関係を見まして、本日は、いままで私が質問をしました点、並びにその後引き続き質問をしようとした各点を項目的にあげて、大臣答弁をいただきたいというふうに思います。  まず私は、法第三条の最低賃金額決定について、本法に規定されておる「通常の事業の賃金支払能力を考慮して」という問題について、本条はILO条約に抵触をするのではないか、むしろこれは第三条から削除すべきであるという意見を申し述べました。そうして、労働者の生計費、あるいは労働協約による協定賃金、あるいは周囲の労働者賃金状況を考慮して最低賃金額を設定することが正しいという主張を述べたのであります。そこで、もし本法が成立するとするならば、第三条の最低賃金額をいかに審議会決定をするかということがきわめて重要な問題になるわけであります。  そこで、お聞きしますが、最低賃金審議会最低賃金決定またはその改廃の決定をするにあたって、労使委員の話し合いを尊重し、公益委員は両者の意見に十分な考慮を払いながら、適切な最低賃金決定するよう努力すべきであるというように思いますが、大臣の所見はいかがでありましょう。
  77. 小川平二

    小川国務大臣 最低賃金審議会の運営にあたりまして、労使の話し合いを尊重すべきことは、これは当然でございます。審議会がそのように運営されるようにつとめてまいりたいと存じます。
  78. 加藤万吉

    ○加藤(万)委員 続いて第二の質問に入ります。  九条、十条は業者間協定による最低賃金方式でありまして、本条は本提案によって削除をされております。したがって、十一条、十六条方式が本法の中心になるわけでありますが、私は十一条の問題について、特に日本の労働運動あるいは国際的な最低賃金制の成立の経過から見て、いわゆる労使間の協定賃金が一般拡張適用されていく、いわゆる労使間によって賃金が定められ、しかも法制による最低賃金も労使間によって決定をされ、もしその意見がきわめて相違する場合において、初めて公益委員の存在があるということを主張してまいりました。特に第十一条では、労働者の大部分はもちろんでありますけれども、一方で使用者の大部分によって云々という条項が入っております。私は幾つかの例をあげて使用者の大部分が賛成をする十一条方式というものは、事実上今日のように中小企業が、過当競争が激しい中で、続々と、ときには倒れ、ときには起きてくるという条件の中では、使用者の大部分を、この十一条に定めている規定によってつくり上げていくことは困難ではないか、さらに審議会におきましても、あるいは私の質問に対します答弁におきましても、十一条の使用者の大部分という問題は、弾力的に考慮をしなければならないというふうに御答弁がありました。  そこで、法の第十一条について、さらに御確認を申し上げたいというふうに思います。法第十一条の労働協約地域的拡張方式については、現在その要件がきわめて厳格に過ぎるために活用されていないが、対象労働者の過半数が、一つ最低賃金に関する労働協約適用を受けた場合というごとく、適用の要件を緩和をしてその活用をはかるべきだというふうに考えますが、大臣の所見はいかがでしょうか。
  79. 小川平二

    小川国務大臣 御指摘をいただきました第十一条の最低賃金決定方式につきましては、実情に沿いますように要件の緩和をはかりまして、その活用につとめてまいりたい、かように存じております。
  80. 加藤万吉

    ○加藤(万)委員 第三に、公益委員の任命について実は質問を行ないました。また、公益委員の任命の条件について、もっと詳しく、一番重要な諸点でありますから討論を行ないたかったのでありますが、前に述べましたような状況で、一昨日は本問題を深く追及することができませんでした。  第二十九条の任命、すなわち公益委員の任命については、ILO勧告の三十号にあらわれておりますように、これは本来中立委員であります。公益と中立ということばの差については、いま少し厳格に吟味をしなければならないと私は思っているわけであります。本法では公益委員がいわゆる裁決権を持っております。しかし、ILO条約並びに勧告を一連をして考察をいたしますと、中立委員は、わが国における中央労働委員会、いわゆる中立委員的要素を持っているのであります。労使の意見の対立があるならば、その調整、橋渡しをするというのがILO条約の中に述べておる趣旨ではないかというように私は理解をいたします。同時にまた、勧告の二項の二号では、本中立委員は一名ないし二名以上というふうに規定をしておるところも、その性格をあらわしていることばではないかというように私は理解をするわけであります。  ところが、本法は労使、公益が同数であります。そして公益委員にその裁決権を持たしております。本法は労働組合法第十九条のいわゆる中央労働委員会の公益委員の選定に当たるような条件、すなわち、労働者側、使用者側の同意を得てその任命を行なうということがILO勧告に沿った本法の趣旨ではないかというふうに実は私は考えるわけでありますが、この際、私は、この公益委員の問題について大臣に所見を承っておきたいというふうに思います。  最低賃金審議会の公益委員の選任については、その公正を期するために、労使委員の同意を得、または協議の上に選任することが正しい、そういう考え方について大臣の所見を承りたいと思います。
  81. 小川平二

    小川国務大臣 最低賃金審議会の公益委員につきましては、労使委員と協議する等によりまして、その公正な選任につとめてまいりたいと存じます。
  82. 加藤万吉

    ○加藤(万)委員 第四の問題を御質問申し上げます。  枝村委員並びに私の質問ないしは大臣とのやりとりを通じまして、私は、全国一律最低賃金制の今日的意義を本委員会で述べてまいりました。またわが党は、全国一律最低賃金制を基本とする最低賃金法の提起をしているところであります。私どもこの問題を提起しておりますゆえんは、実は単に今日こつ然と本法を提起したのではありません。昭和三十二年に開催をされておりました当時の中央最低賃金審議会でも、私どもの委員を通して、わが国における最低賃金制は、全産業全国一律の最低賃金制こそが低賃金構造を打ち破り、しかも実効性のある最低賃金法案であるということを提起をしてまいりました。そして全国一律の最低賃金制については、当時の審議会はこういう答申をいたしているのであります。最低賃金制の基本的なあり方については、将来の問題としては全産業一律方式は望ましいものであるが、とこう言っているのであります。すなわち、いまから十年前、すでにわが国最低賃金制の基本的なあり方としては、全産業一律方式が正しいということを答申は述べているのであります。当時の経済的な、社会的な条件がありましたから、将来という疑問符はついております。しかし、十年たちますと、将来というものは消えているのであります。すなわち、三十二年に答申を受けた全国一律最低賃金制が望ましいというその中の将来ということばは、昭和四十三年に至っては、今日に直しても私は差しつかえないと思うのであります。しかも、高度成長期における諸点を私は申し述べまして、その中で高度成長期における池田内閣の労働大臣である大橋労働大臣は、労働者側の代表等を通して、あるいは国会でのいろいろな発言等を通して、それらをつなぎ合わせてみますると、若干の例外を除いては、一律制もわが国において可能であるという意味にとれる発言を幾たびかいだしておるのであります。そしてまたその話の中で、四十年春ごろからは改正の準備を始めて、来年度の通常国会にはその考え方に基づいて提出をしてもよろしいとまで、労働代表間の話では、言明をしているかに聞いておるのであります。だとするならば、全国一律最低賃金制は、昭和四十二年の段階で、国会の論議にならなければならなかったのでありましょうし、また賃金審議会答申等を見ましても、この時期に、すでに全国一律最低賃金制が可能であるということをいみじくも述べているわけでありますから、今日の改正にあたっては、当然私どもは全産業全国一律の最低賃金方式による法案が提起をされるものと期待をしておったのであります。  審議会の経過や政府の見解はこのとおりでありました。  一方、わが国経済条件はどうであったでしょう。三十二年ころから比べて、三十八年の高度成長期、所得倍増政策、わが国の鉱工業の生産水準は実に世界の第三位、しかも、国民所得の面では世界で二十一位前後というわけでありますから、この鉱工業生産の世界第三位と国民所得の二十一位との格差を埋めるのは、結局低賃金構造をどういう形で手直しをし、国民所得を、世界第三位にふさわしい所得に変えるかということが問題になっていかなければならないわけであります。すなわち、経済の面から見ましても、あるいは政策的な面から見ましても、今日全国一律の最低賃金制をつくることは、決して不可能な条件ではないという客観的な条件にあると私は思うのです。したがって、こういうことが結果的に、わが党の全国一律最低賃金制は実効性があり、しかも可能な条件を備えているというように今日の条件はつくってまいりましたし、またそれに伴って、たとえば公明党さんにおきましても、全国一律の最低賃金制を指向する、こういう法案が提起をされ、また民社党におきましても、大筋においては全国一律の最低賃金制について賛意を表せられているかのように私どもは承っているわけであります。  そこで、私はこの際、このような事実と経過の上に立って労働大臣にお聞きをいたしますが、全国産業一律の最低賃金制を基本とするよう、中央最低賃金審議会にあらためて諮問する考えはないかどうかお伺いをいたしたいと思います。
  83. 小川平二

    小川国務大臣 中央最低賃金審議会に対しましては、かねてから最低賃金制の基本的なあり方について、全国産業一律制、産業別地域別等、いろいろの考え方を含めて御検討願っているところでございますが、御質問の御趣旨も十分理解できまするし、私も何らかの形で全国産業労働者がひとしく最低賃金適用を受けることが望ましいと考えますので、この際、同審議会に対して、前述の諮問に対する答申に際しては、全国産業一律制を含めて御答申をいただくようお願いしたいと存じます。
  84. 加藤万吉

    ○加藤(万)委員 第五番目に質問をいたします。  私は、本法案が中賃の現段階における答申、それに基づく暫定的法案であるということを幾たびか質問をし、大臣もまたこれに対して暫定的法案であるという確認をいたしてまいりました。したがって、当然なことでありますが、ただいまの大臣答弁にもありましたように、全産業全国一律の最低賃金制を含めてこの際答申を受けるわけでありますから、その基本的な最低賃金制あり方についての答申を受けてから本法案内容をさらに充実することが必要だというように私は考えるわけであります。  そこで、全国産業一律の答申が出れば、当然法改正が必要と考えられます。したがって、最低賃金制の基本的なあり方について答申があったときは必要な措置を講ずると答弁がありましたが、必要な措置とは、法律改正意味するのか。またこの最終答申はいつを目途に考えているのか。来年の三月末までに答申が得られるように考えておられるかどうか、大臣の所信を伺いたいと思います。
  85. 小川平二

    小川国務大臣 必要な措置とは、法的措置を含みますことは当然であります。答申内容法律改正を必要とするものでありますときは、直ちに改正に必要な手続をいたす所存でございます。また答申の時期につきましては、中央最低賃金審議会が現在行なっております最低賃金制の基本的あり方に関する検討については、できるだけすみやかに御答申をいただきたいと考えております。私といたしましては、来年三月までに御答申をいただけるよう、審議会にお願いいたしたいと存じます。
  86. 加藤万吉

    ○加藤(万)委員 最後に、先ほども述べましたように、わが国の鉱工業生産は世界第三位といわれるようになりました。私は本最低賃金法案が、この世界の第三位にふさわしい最低賃金法案であることを強調してまいりましたし、また少なくともわが国最低賃金法が、後進国における指導標であるべきであるという所信も述べてまいりました。したがって、私はその最低の基準として、ILO条約の二十六号、同勧告の三十号を厳格にわが国が守り、その上に立って最低賃金法案がつくられるべきであるということを主張してまいったのであります。ILOに対して厳格にこれを守り、またそれに十分沿いたいという大臣の所信が表明されたこともこの討論を通じて明らかになりました。しかし、本法案は私は何回もあるいは各所で指摘をしてまいりましたように、このILO条約の二十六号ないしは同勧告三十号に必ずしも完全に沿っているとは言えないのであります。むしろ第三条を見ましても、あるいは第十一条の使用者の問題を見ましても、あるいは第十六条の内容等にいたしましても、ILO条約に沿うとするならば、もっと大胆に改正をする諸点があったと私は思うのであります。私はこの際、中央最低賃金審議会が来年三月末までに本最低賃金に対する基本的なあり方について答申をいただくという大臣からの答弁がある今日、その答申に基づいて、法改正後それに基づく法改正を行ない、そしてILO条約の批准を行なうことが、国際機構に対するわが国の持つ賢明な態度ではないかというように思うのであります。  そこで、大臣にお聞きしますが、政府は本改正法案が成立をしたら、ILO二十六号条約の批准についてどのような態度をとられるかいなか、お答えを願いたいと思います。
  87. 小川平二

    小川国務大臣 現在中央最低賃金審議会におきまして、最低賃金制の基本的あり方について御審議を願っているところでございます。その最終答申を待って、政府は所要の措置を講ずることといたしておりますので、ILO二十六号条約の批准問題につきましても、その結果を待って検討することといたしとう存じます。
  88. 加藤万吉

    ○加藤(万)委員 質問を終わります。
  89. 八田貞義

    八田委員長 これにて内閣提出最低賃金法の一部を改正する法律案に対する質疑は終局いたしました。     —————————————
  90. 八田貞義

    八田委員長 ただいま佐々木義武君から最低賃金法の一部を改正する法律案に対する修正案が提出されております。
  91. 八田貞義

    八田委員長 修正案の趣旨の説明を聴取いたします。佐々木義武君。
  92. 佐々木義武

    ○佐々木(義)委員 私は、自由民主党を代表して、最低賃金法の一部を改正する法律案に対する修正案を提案いたしたいと存じます。  その要旨は次のとおりであります。  その一は、審議会方式による最低賃金決定改廃の手続について関係労使の申し出の道を開くこととすること。その二は、中央最低賃金審議会最低賃金制の基本的あり方についての答申がなされたときは、これを尊重してすみやかに必要な措置をとるものとすることの二点であります。  何とぞ慎重御審議の上、御賛同あらんことをお願いいたします。
  93. 八田貞義

    八田委員長 この際、修正案についての御発言はありませんか。     —————————————
  94. 八田貞義

    八田委員長 御発言がなければ、これより内閣提出最低賃金法の一部を改正する法律案及びこれに対する修正案を一括して討論に付するのでありまするが、別に申し出もありませんので、直ちに採決いたします。  まず、佐々木義武提出の修正案について採決いたします。  本修正案に賛成の諸君の起立を求めます。   〔賛成者起立〕
  95. 八田貞義

    八田委員長 起立総員。よって、本修正案は可決いたしました。  次に、ただいまの修正部分を除く原案について採決いたします。  これに賛成の諸君の起立を求めます。   〔賛成者起立〕
  96. 八田貞義

    八田委員長 起立多数。よって、本案は佐々木義武提出の修正案のごとく修正議決すべきものと決しました。  ただいま議決いたしました本案に関する委員会報告書の作成につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  97. 八田貞義

    八田委員長 御異議なしと認め、さよう決しました。     —————————————   〔報告書は附録に掲載〕     —————————————
  98. 八田貞義

    八田委員長 次に、労働関係基本施策に関する件について調査を進めます。  質疑の申し出がありまするので、これを許します。田邊誠君。
  99. 田邊誠

    ○田邊委員 この委員会でもって質問をいたしました、群馬県下における職業安定所の職員が、職業あっせんにからんで、求人側から金品の贈与を受けたという汚職事件、収賄事件が起こったことは、すでに御案内のとおりであります。中小企業がいま非常に人不足で悩んでおるという、こういう事態の中で、それにつけ込むがごとく、職安の職員がこの種の汚職事件を起こしておることはきわめて遺憾でありまして、さきに労働大臣にその所信を明らかにしていただいたのであります。  私は、あとで労働大臣に対してもその後の行政上の措置についてお伺いをいたしたいと考えておるわけでありますけれども、ところが、この職安汚職事件というものが、今度は学校の教職員に飛び火をいたしました。飛び火をいたしたというよりも、いわば学校の教員の中で就職あっせんの仕事をやっておる担当教師に対して、前々から中小企業の側からする誘惑の手が差し伸べられておったようでございます。これと職安職員とがいわば一体となった形で、裏側でいろいろな収賄が行なわれたという事実があったわけでありまして、今度の事件はどうも学校に飛び火をするのではないかといううわさが前からあったのでありまして、私どもは非常に心配しておったのであります。しかし、世間的にも、あるいはまた学校の生徒からも、父兄からも、最も信頼さるべき立場にある学校の教師が、まさかこの種の事件に巻き込まれておるとは私どもも判断をしなかったのであります。まさかというふうに信じておったのであります。  ところが、残念ながら事実は学校までこれが及びまして、ついに先日校長を含む三人の教職員が、この事件に関連をして逮捕されるという事態にまで発展をいたしました。まことに憂慮すべきであります。私はこの種の質問をすることはきわめて残念でありまするし、非常に沈痛の思いで実はこの問題を取り上げておるのでありまするけれども、しかし事実がここまで発展をいたしました以上は、これに対してやはり責任ある立場の大臣が、これに対する相当の処置と決意を明らかにしなければいかぬ、こういうふうに私は考えておるわけでありまして、この職安汚職事件が学校の教師、特に現職の校長の逮捕にまで及んだことに対して、最高責任者の立場にある文部大臣としては一体どのように考えておるか、この際ひとつお考え方を明らかにしていただきたいと思います。
  100. 灘尾弘吉

    灘尾国務大臣 いやしくも教育の任に当たっております学校の教職員といたしましては、常にその身を持することきびしくなければならぬと思うのであります。いやしくも汚職とか、不正とか、こういうようなことでかれこれ批判を招くがごときことは、厳に戒めなければならぬことと存じておる次第でございます。  今回、私も実は新聞で群馬県下におきまして職業のあっせんと申しますか、そういう関係において学校長その他の者が収賄の容疑で取り調べを受けておるという事実を承知いたしまして、まことに残念千万に存じておる次第でございます。事件の内容につきまして、さっそく群馬県の教育委員会のほうに照会をいたしまして、その把握につとめたわけでございますけれども、ただいまのところまでは、まだ警察の取り調べ中でございますので、教育委員会としましても的確な事実を把握するところまで至っておらないようでございます。大体新聞紙上にあらわれている程度のことしかまだわかっておらないのでございますが、事のいかんを問わず、このような容疑をもって取り調べを受けるということ自体が、学校の教職員としてはまことに残念なことと私は思うのでございます。群馬県の教育委員会におきましても適正な措置を講ずることと存じますけれども、ひとり群馬県のみならず、全国にわたりましてかようなことが起こってはならないことでございますので、今後この方面の指導につきましては一そう徹底を期してまいりたい、そのような考えでおるわけでございます。
  101. 田邊誠

    ○田邊委員 私は、この種の問題は、群馬県の一地域にいわば突発的に起こった事件であるというふうに見るのは、これは間違いだと思うのであります。しかも、たとえば群馬県の一郡市にこれが集中的に起こっていることでもございませんし、一つの学校に限ってこれが発生をした事件でもないのであります。群馬県の吾妻郡あるいは前橋市等の各地においてこれが起こっておることが、今度の逮捕によって明らかにされたのであります。非常に残念であります。大臣、この種の問題で現職の教員がいままで逮捕をされて、取り調べを受けたという事例がございますか。
  102. 灘尾弘吉

    灘尾国務大臣 この種の事件について逮捕されたという事例はない、このように存じております。
  103. 田邊誠

    ○田邊委員 したがって、私は教育界にとっては非常に憂うべき事態だろうと思うのであります。しかも、さきの職安汚職事件といい、今回のいわば収賄の容疑といたしましても、まさに求人難のこの事態にいわばつけ込んでこれが行なわれているという、こういう容疑であるところに、私は非常に残念にたえないのであります。いわば人の売り買いというようなことが、そでの下を使って行なわれるような、こういうことというものは、近代国家として何としても許せない事態ではないかと私は思うのです。これを思うに、この種の問題が起こるその底には、どうも学校の管理なり、教職員の指導、管理の面で、やはり何らか欠除しておった点があるのではないか。そういった、いわばすきがあり、管理の不備があるからこういう事態に立ち至るのじゃないか、私はこういうふうに思っておるわけでありまするけれども、大臣いかがお考えですか。
  104. 灘尾弘吉

    灘尾国務大臣 学校において行なっております。職業指導の範囲を逸脱するようなことのないようにいたさなければならぬと思うのであります。いまお話しのとおりに、この種の犯罪もしありとするなら、これはほんとうに許しがたい問題であろうと思います。ことに、いまのように求人難のおりからでもありますだけに、一そう、そういうことについて、学校教職員は教職員らしいきれいな姿でもって、子供の進路に間違いのないように指導していかなければならぬと思うのであります。それが、このようなことで汚されるというふうなことは、いかにも残念なことであります。このような事実が起こります以上は、やはりどこかに欠陥があったと申さざるを得ないと思います。従来からも、職業指導の問題につきましては、本省としましても、いろいろ地方の教職員に対する指導につとめてはまいったと思うのでありまして、いまさらこのようなことが起こるとは思っていなかったのであります。先ほども申し上げましたように、ただ単にこの事件だけの問題ではないと存じます。広く全国にわたりまして、われわれとしましても、十分おのおのの指導のために努力してまいらなければならぬ。あらゆる機会を通じて努力いたしたいと考えております。
  105. 田邊誠

    ○田邊委員 したがって、この際やはりその原因にメスを入れて、その不備をただしていくという姿勢をぜひお願いしたいと思うのであります。  そこで、これは教員の定数の問題、配置の問題等にも、やはり適正を欠く点があったのではないか。特に、就職の指導をする教師が足らぬのじゃないかという気がするのであります。これは事務当局でけっこうですが、いま、中学校一校当たりに対して、就職指導にあたる担任の教師はどのくらい配置されていますか。
  106. 灘尾弘吉

    灘尾国務大臣 担当の課長からお答えいたさせます。
  107. 望月哲太郎

    ○望月説明員 現在、中学校の職業指導主事の設置状況を見てみますと、昭和四十二年五月一日現在の学校基本調査によりますと、全国で六千五百五十一名職業指導主事が設置されておりますが、中学校の学校総数との比率を見ますと五六・一%になっております。
  108. 田邊誠

    ○田邊委員 大臣、お聞きのとおり、これは配置が非常に少ないのであります。しかも、配置されておっても、学校一校当たり一人、こういう形になるのであります。この人が長く就職の指導に当たってきている。これはもちろん精通するという意味でいい面もございましょうけれども、この種の問題が起こってまいりますると、その一人にまかせっぱなしにしておくということは、やはり間違いを起こすもとになる、こういうことにもなろうかと私は思うのであります。したがって、この際、この就職の指導をする教師を、たとえば複数にする、あるいは校長や教頭などの、いわば責任者の立場にある者がこれに対してチェックする、これに対して常時関与する、そういう体制に切りかえていくということで、さらにそれの完ぺきを期する、私はこういう形にならなければならぬのじゃないかと思います。ただ単に、その人を責めるだけでなくして、そういった体制の整備というものが、この際急がれなければならぬ、こういうふうに私は思うのですが、いかがですか。
  109. 灘尾弘吉

    灘尾国務大臣 十分実情調査いたしまして、その問題の原因は、一体どうこれをつかむべきかということにつきましても、やってまいりたいと存じますが、いまおっしゃったように、これに関連して職員の数、確かに仰せのとおり十分とはいえないと思います。と同時に、また一人の人がそれだけやっておって、あなたまかせというような状態では、とかく間違いを起こすということも大いにあり得ることと思いますので、この問題を契機にいたしまして、これはひとつ前向きに十分検討させていただきたいと存じます。
  110. 田邊誠

    ○田邊委員 これはひとつ、おざなりだけでなく、こういう問題が起こったから、当座は口を濁すというような形でなくて、これから先の若年労働力不足の時代の中で、やはり学校卒業者が就職が円滑にいき、しかもそれが全産業、いろいろな職種に行き渡るように、こういう立場で検討してもらわなければならぬ。ぜひそういうふうにお願いしたいと思う。  それから、一般教職員の待遇全体の問題は、ここで論ずべきでありませんけれども、聞くところによりますと、あるいは手当、特に旅費等が不足をしておるというところに、どうも業者がつけ込むといいましょうか、実費弁償でもって出張する、これではもちろん足らぬ。それではどうですかというので、いわば出張先でもってそういう金品を受ける、こういう事態が今度の事件の中にも含まれておるというのであります。そういった、いわばいざないを受けるような要因をつくることは、たいへん実は間違いだと私は思う。もちろん最終的にはこれはモラルの問題であります。そんなことは問題になりません、こういうことになるのでございますけれども、しかし、やはりこの種の就職あっせんということが、現在非常に重要になってまいる、非常に数が多くなってまいっておるのでありますから、そういった点からも待遇の面、いろいろな処遇の面でもって、さらにやはり考えてやるべきではないか、こういうふうに私は思っておるわけでございますけれども、いかがでございましょう。
  111. 灘尾弘吉

    灘尾国務大臣 教師の処遇の問題につきましては、年来常に問題のあるところであります。文部省といたしましても、処遇の改善には微力を尽くしてきたわけでございますが、今日の状態がいつまでもこのままでよろしいというものでももちろんないと思います。やはり教師の処遇改善という問題につきましては、何と申しましても文部省が心配していかなければならぬ問題でございますので、今後とも努力はいたしたいと存じております。いま仰せになりましたようなことも、これは人間の性というものを考えました場合に、その処遇の問題と全く関係がないとも言い切れないものがもちろんあると思います。したがって、そういう意味におきましても、処遇の問題は考えていかなければならぬと存じますが、さりとて、またお話にもございましたけれども、やはり武士は食わねど高ようじとは申しませんけれども、やはり教師たる者は、いかなる場合においても身を持すること常に厳正でなければならぬというモラルだけは、どこまでも持ってもらいたいものだというふうな気持ちでおるわけでございます。お話の御趣旨につきましては、特にかれこれ異存を申すところは私はございません。
  112. 田邊誠

    ○田邊委員 私は待遇問題や手当の問題等、時間があればもちろんここで論ずるのでありますが、いま所管の文教委員会等でいろいろ論議をいたしておるようでありますから、あえてここで言及はいたしません。しかし、ひとつ教師が社会上もその地位を保っていくに足るだけの処遇がなされることが、この種の問題の発生に対して大きな予防になることは事実であります。どうかそういった点の措置を今後とも続けていただくことをお願いしたいと思うのであります。  最後に、この事件が一体今後どうなるかは司直の手を待つだけでございますけれども、聞くところによりますと、まだ数十人の教師が捜査線上にあがっているということでありますが、非常に残念でございます。しかし、私は、大臣に特にお願いをいたしたいのは、教師といっても、大多数の教師はまじめに仕事をしておることは間違いない事実であります。このことが発生したために、私どもの群馬県の地方新聞には、教師の信頼感というものが極度に落ちている、あの信頼しておった先生がそういうことをやるのか、あの校長先生が金をもらったのか、こういう幼い生徒のとまどった表情というものが報道されておるわけであります。私は非常に残念に思うのであります。したがって、この種の問題で大多数のまじめに働いておる教師まで含めてその信頼感が失墜する、こういうことがあっては私は非常に遺憾であると思うのでありまして、ぜひこれは信賞必罰の態度をもってこれに対応していただくように、該当県の教育委員会等についても文部省から督励をしていただくと同時に、教師全体の地位が、この種の問題によって失墜することのないような具体的な改善策を文部省としてもとるべきである、綱紀粛正の実をあげるべきである、こういうふうに考えておるわけでございますが、大臣、この際決意をもう一度確認をするためにお伺いしておきたいと思うのであります。
  113. 灘尾弘吉

    灘尾国務大臣 群馬県の現実の具体の問題につきましての処置については、群馬県の教育委員会におきましてすでに十分心配しておられるようであります。厳正な適正な処置をとられるものと考えますが、教師全般にわたりましていまお話しになりましたようなことを私も実はおそれるのであります。一般の方ないしは子供さんたちの教師に対する尊敬、信頼の念が失墜するようなことがあってはたいへんだと思います。したがって、処置はあくまでも厳正にやりますと同時に、全国の教職員の諸君が厳正なる綱紀のもとにまじめに働いている姿を文部省としましてはあくまでも助長していくというつもりで今後の行政に当たっていきたいと思っております。
  114. 田邊誠

    ○田邊委員 また、事態の推移を見ながら、文部省あるいは大臣の今後の手だてと決意をさらにお伺いをいたしたいと思います。きょうはお約束でございますから、この問題に対する質問は終わりたいと思います。  そこで、労働大臣、せんだっての委員会で私が質問をして以来、実はこの問題の終息を願っておったのでございますけれども、きわめて残念でありまするが、いまのように学校の教師にまでこの問題が実は移ってまいったのであります。非常に遺憾であります。しかし、いわばこのもとをつくったといいましょうか、これは何といっても職安の汚職事件が根源であります。私は、こういった問題が今後発生しないために、いろいろな手だてを講じておられると思いますけれども、学校の教師にまでこれが及んできたということになりますと——就職のあっせんの仕事は、あくまでも学校の教師は補助的な意味合いでございます。本来はこれは職安の職員がやるべきものであります。そういう法のたてまえからいいましても、やはり職安の職員がイニシアをとってきたことは間違いない事実であります。したがって、学校にこの種の業務をいわば委託をしていろいろとお願いする立場でございますならば、やはり学校との連絡をより緊密にしていかなければならぬのじゃないかと私は思うのです。何か学校の教師にまかせっぱなし、業者と直接じか取引というような形になりがちなところに、やはり今度の学校への事件の拡大があったのではないか、こういうふうに考えておるわけでございまして、やはり今後学校との間において、就職あっせんの業務に対しては十分連絡を密にしてもらう、こういうことが私は緊急ではないか、こういうように思っておるわけでございますけれども、いかがでございますか。
  115. 小川平二

    小川国務大臣 かねてから、職員の綱紀の維持には努力をいたしてきたのでございます。また、最近のような人手不足でありますから、とかく各種の誘惑におちいりやすいということも予測されましたので、不祥事件を起こしませんように、いろいろな機会に注意もしてまいったわけでございます。しかるにもかかわらず、このたびのような事態を生じましたことは、まことにお恥ずかしいことでございます。一点弁解の余地はないのでございまして、責任を痛感いたしておる次第でございます。これから先はこういう事例が再び起こりませんように、この種の事件の絶滅を期して綱紀の粛正につとめていきたいと考えております。ただいまおことばにございましたように、就職のあっせんに際しましては、何と申しましても生徒の能力、あるいは適性ということを知悉しておりますのは学校の先生でございますから、学校の先生の判断や意見にたよらざるを得ない場合がどうしても多くなるわけでございます。しかしながら、さりとていま御指摘をいただきましたように、学校の先生にまかせっぱなしということではいけないのでございまして、そこに反省を要する大きな問題があるということは、私も実は今回のことにかんがみまして考えておったところでございます。今後の問題といたしまして、職業安定機関と学校との仕事の区分をどのようにしたらよろしいか、これが実は一つの大きな問題でございます。この点を文部省とも連携をとりまして鋭意研究をしてまいりたい、かように考えておる次第でございます。
  116. 田邊誠

    ○田邊委員 いま申し上げたように、求人に対する責任はやはり労働省にあるわけでございますが、この事件を契機といたしまして、その機構の問題、人的配置の問題、特に停滞しがちな人の配置、これをさらに円滑にする、流動化する、こういうことも含めてお考えいただかなければならぬと思うのであります。あるいはまた管理体制についても私はこの前も触れましたけれども、やはり本省なりあるいは県の職安課の考え方なり、指示が、第一線の職安に通じてない、パイプが詰まっておる、こういう事態であります。したがって、ただ単に綱紀粛正の、いわばかけ声をかけるだけでなくて、こういった具体的な面に対しても、当然やはりその改善策をはかっていかなければならぬ、こういうように思っておるわけでございます。大臣質問いたしましたところが、この捜査が一段落いたしました時点で査察を強めて、具体的な監察をいたしましてこれに対応したいというのでありますけれども、職安の捜査はやや終息に近づいてきておるのではないかと私自身は思考いたすのであります。この際早急の機会に、具体的な監察をいたしまして、その結果をもって、私がいま申し上げたような管理体制の問題、人員配置の問題、これを含めて具体的な策を打ち出さなければ、ただ単に大臣がここで私に対して御答弁をいただき、かけ声をかけても、笛吹けども踊らないのではないかというような心配を私はいたすのでありまして、早急の機会にその実をあげてもらわなければならぬ、こういうように思っておるのであります。抽象的なおことばでなくて、この際やはりこれに対する具体的な方策がおありであればひとつ承っておきたいと思います。
  117. 小川平二

    小川国務大臣 近く労働省の本省と群馬県とで合同の監査を実行いたす予定にいたしております。その際、いま御指摘をいただいております管理体制の問題あるいは人の配置等の問題についても十分研究をしなければならない、このように考えております。
  118. 有馬元治

    ○有馬政府委員 ただいま大臣から御答弁ございました方針に基づきまして、群馬県との間には、自治法に基づきます異例といいますか最初のケースといたしまして、県の監査委員の監査請求をいたしまして、私どもの監察官と合同で、徹底的な事態の究明をいたすつもりでございます。その上で先ほど大臣からお答えがございましたような基本線に沿いまして、人事の問題、それからパイプが詰まっておるという問題、いろいろな角度から検討しなければいかぬと思いますが、これらについて具体的な措置を適確にとってまいる所存でございます。
  119. 田邊誠

    ○田邊委員 私がこの問題でもって、るる国会で取り上げてやることは、私は好まないのであります。ぜひこの種の問題が、早期に終息をいたしまして、いわば禍を転じて福となす形の中で、第一線の職安職員がみずからの本来の任務に向かって邁進でき、その職務が遂行できるような状態をつくってもらいたい、こういうように私は強く要望をいたすわけであります。どうかひとつこの種の問題でもって、再び私が委員会で取り上げることのないように、さっそくの改善策を講じていただくことをこの際大臣に強く要望いたしまして、質問を終わりたいと思います。      ————◇—————
  120. 八田貞義

    八田委員長 参議院提出診療エックス線技師法の一部を改正する法律案を議題とし、審査を進めます。
  121. 八田貞義

    八田委員長 まず提案理由の説明を聴取いたします。参議院社会労働委員長代理藤田藤太郎君。
  122. 藤田藤太郎

    ○藤田(藤)参議院議員 ただいま議題となりました診療エックス線技師法の一部を改正する法律案について、その提案理由を御説明申し上げます。  現在、放射線医療の分野における医師の協力者として、診療エックス線技師の制度が設けられております。その身分を規制する診療エックス線技師法が制定されましたのは、昭和二十六年でありました。  当時は、医療の重点が結核の防遏撲滅に注がれていた時期でありまして、その診断に必要なエックス線装置が、広く病院診療所を通じて設置利用されていたのであります。したがって、医療協力者としての診療エックス線技師の資格も、当時の二十万ないし三十万ボルトのエネルギーを操作する知識技能を基準として、考慮設定されたのでありました。  その後今日まで、十七年の時日が経過する間に、放射線医学は目ざましい進歩を続けたのであります。  エックス線にあっては、法制定当時には予想されなかったほどに高度の、エネルギー発生装置が開発されたほか、人体への照射方法にも大幅な改良が加えられました。また、人工ラジオアイソトープの量産に基づいて、大量のコバルト六〇など、ガンマ線源の利用が普及するに至りました。  さらに、原子力の開発によって、ガンマ線のほか、ベータ線、アルファ線、中性子線など、いろいろな種類の放射線源が医療分野に活用されるに至ったのであります。  このような放射線医療の進歩に即するためには、医療協力者の側においても、その資質を高めていく必要があると考えられるのであります。しかるところ、わが国の診療設備を有する医療機関には、病院のほかに、数多くの診療所が存在するという多様性があります。  そのため、新らしく開発されてきた放射線発生装置が、従前の装置にとってかわるには、なお若干の時日を要するのが現実の事態であります。このことは、医療協力者の資格についても二つの要請が並行するということになってまいります。  すなわち、一面において、進歩向上した装置の取り扱いに適応する体制を設置する必要があると同時に、他面において、従前の装置に対応する技術者の需要にも応ずる体制が、現実には必要であるということであります。  この二つの要請を調整するため、現在の診療エックス線技師の制度は一応そのまま存置することとし、新しく現行制度より修習課程を一年延長して、高校卒業後三年の修習課程による診療放射線技師の制度を創設することといたしました。  そして、新設の診療放射線技師は、医療用放射線のすべてに関する医療協力者とし、従来の診療エックス線技師は、百万電子ボルト未満のエネルギーを有するエックス線に関する医療協力者とすることといたします。  このように、二本立ての制度をつくることとはいたしますが、放射線医療の推移を洞察するときは、高度の資質を有する放射線技師のほうに、今後の養成目標の重点が置かれるべきであります。したがって、その養成目標がおそくとも七年以内で、しかもできるだけ早い時期に達成されるよう、政府の努力義務を明記することといたしました。また、現存のエックス線技師をして放射線技師たらしめるための教育及び試験についても、特別の配慮をすることにいたしているのであります。  以上、この法律案の提案理由を申し上げました。  何とぞ、御審議の上、すみやかに御可決あらんことをお願い申し上げます。(拍手)     —————————————
  123. 八田貞義

    八田委員長 別に質疑、討論の申し出もありませんので、直ちに採決いたします。  参議院提出診療エックス線技師法の一部を改正する法律案について採決いたします。  本案に賛成の諸君の起立を求めます。   〔賛成者起立〕
  124. 八田貞義

    八田委員長 起立総員。よって、本案は原案のとおり可決すべきものと決しました。  なお、ただいま議決いたしました本案に関する委員会報告書の作成等につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  125. 八田貞義

    八田委員長 御異議なしと認め、さよう決しました。     —————————————   〔報告書は附録に掲載〕      ————◇—————
  126. 八田貞義

    八田委員長 この際、参考人出頭要求に関する件についておはかりいたします。  社会福祉事業振興会法の一部を改正する法律案審査のため、社会福祉事業振興会会長葛西嘉資君に参考人として御出席願い、意見を聴取いたしたいと存じますが、御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  127. 八田貞義

    八田委員長 御異議なしと認め、さよう決しました。  なお、日時等については委員長に御一任願いたいと存じます。      ————◇—————
  128. 八田貞義

    八田委員長 内閣提出戦傷病者戦没者遺族等援護法等の一部を改正する法律案を議題とし、審査を進めます。  質疑の申し出がありますので、これを許します。橋本龍太郎君。
  129. 橋本龍太郎

    ○橋本(龍)委員 時間も限られておりますことですから、端的にお尋ねいたします。  今回、恩給法の改正に対して、恩給審議会からの答申が出ました。この中には、現在の援護法にそのまま引き移される事項もずいぶん多くあります。私、まず第一に大臣にお答えをいただきたいことは、恩給審議会答申に伴い援護法で当然修正されるべき諸点、これについて、援護法自体の審議会の動向とは別にお取り上げになる意思があるかどうか。
  130. 園田直

    ○園田国務大臣 御指摘の点は、私しばしば御意見を承っておりますし、ただいま懇談会のほうで検討をしていただいておりますが、これは当然取り上げてそれぞれ措置すべきものと考えております。
  131. 橋本龍太郎

    ○橋本(龍)委員 そのとおりにぜひ御実現を願いたいと思います。  また、援護法自体の問題で、今日非常に問題になっております点で、動員学徒をはじめ準軍属の方が、実際上の状況においてはむしろ軍人、軍属の方々よりもきびしい条件に置かれた場合もしばしばあったやに聞いております。援護法に基づく処遇の面については、なお軍人、軍属に比して、準軍属の処遇には開きがあります。これに関して、何ゆえこうした格差をつけなければならないものなのか、なぜ軍人、軍属と準軍属とを一致させてはいけないのか、厚生省としてこの点を早急に是正される意思があるかどうか、この点をお答えいただきたい。
  132. 園田直

    ○園田国務大臣 御指摘のとおりに、軍人、軍属にかかる年金と、準軍属にかかる年金とが、その額において一〇対七の比率になっておりますが、これは終戦前における両者の身分関係、勤務の態様等に差があったために、国家補償の精神に基づく援護にもみずから差があってしかるべきという考え方からこうなったものであると考えます。しかしながら、法制定後年を経るに従って、逐次他の分野に対する処遇の改善が行なわれ、またこのような処遇上の差を設けることに対する国民感情にも変化を生じてきていることなどから、四十一年にはこの差を縮小する方向で法改正を行なったところであります。したがって、なお現在再びこの差を縮小すべき時期に至ったとは考えていませんが、将来右に述べたような諸条件に著しい変化があれば、当然その時点で再検討すべきであると考えております。
  133. 橋本龍太郎

    ○橋本(龍)委員 いまの大臣の御答弁、私は多少納得が参りませんのは、先年長崎医大における医学生の被爆者に対して、国は特例を設けて処遇をいたしました。本来、現在の法体系の上で、特別の処遇に値するものであったかどうかは状況等にかんがみて疑問であります。これに対して、国として十分な配慮をする必要がありと認められ、わざわざ特別な法律をもってこれらの犠牲者に対しての処遇を講ぜられた。こうした今日の状況から考えて、準軍属に対して、動員学徒をはじめとして非常に苦労してこられたこの方々、軍人、軍属と何ら変わりがない勤務状態に置かれた方々に対して処遇に差があるということは、私どもとしてはどうしても納得のいかぬことであります。厚生省として十分な御検討を願いたい。ただいまの大臣の御答弁に対して私は非常に不満であります。この点を申し上げておきます。  なお、これに関連して、現在の法制上取り上げようのない問題ではありますが、ひとつ大臣の御考慮をわずらわしたい点があります。  昭和二十年八月十五日、日本が戦いに敗れ、その後、軍が解体しました後に、米軍の命によりまして、あるいは瀬戸内海、あるいは日本海、太平洋沿岸、宗谷海峡、多くの場所におきまして、戦時中敷設せられた機雷あるいは航空機より投下された機雷を撤去するために、戦時中の軍の掃海作業と何ら変わらない作業に多くの方々が従事をせられた事態がございます。これは戦争が終了したとはいえ、戦時と同様な勤務体系、戦時と同じ危険をおかしながら当たられた作業でありましたが、相当多くの触雷事件が起こり、その触雷事故による死没者をも出したわけであります。今日海上保安庁の手によって慰霊碑のみ建立はされております。これらの方々に対しては、実は国として何らの配慮もなされておりません。しかし、戦時における機雷敷設また浮遊機雷の撤去に当たった方々に対し、触雷、沈没、そのために溺死せられた方々の状態というものは、戦時における海軍独自の掃海作業と実は何ら変わるものではない。これが今日現行の法制のもとでは何ら処遇の対象になりません。これは今後の問題であります。お取り上げをいただいて十分御検討をいただく価値のあるものと私は信じます。大臣としてこの点についてどのような見解をお持ちか、でき得ればこうした方々に対して何らかの国の感謝の意を表する処置があってしかりと思いますが、この点に対して御所見を伺いたいと思います。
  134. 園田直

    ○園田国務大臣 先ほどの準軍属の処遇改善については、御意見十分わかりましたから、あらためて御意見をもとにして検討したいと考えます。  なお、いまの終戦直後の掃海作業に従事した方々の死亡は、終戦後の混乱と、当時においては身分が低かったということで落ちておったのだと推定をいたしますが、御意見のとおりに、これは戦争中の業務よりももっと大事な仕事であって、しかも、あの時期におけるこういう業務に従事をせられた方々は、公に奉ずるという気持ちにおいてもそれ以上のものがありまするので、あるいは海上自衛隊等にもこの面の書類とかその他が参っておると思いますが、関係の各省と相談をし、直ちに検討したいと考えております。したがいまして、ただいまの法体制の中で困難であるかもしれないと考えますが、その結果、またあらためてそれぞれのことをお願いをいたします。
  135. 実本博次

    ○実本政府委員 ただいまの、終戦直後掃海作業に従事中死亡された作業員の方々の問題は、いま大臣からお答え願ったとおりでございますが、なお、私から蛇足とは思いますが、そういう人たちの問題についていままでわれわれのほうで——この問題は援護法の対象としては直ちに処遇されないものでございますから、副次的にこういう問題について若干資料を持ち合わせておりましたので、それをもとに申し上げますと、先生いまおっしゃいましたように、海上保安庁になってからの人と、それからその前に復員省にとりあえずそういう事務が引き継がれて、復員省時代にそういう作業中に事故にあわれたという方々と二通りあるようでございます。復員省の時代にこういう事故にあわれた方々につきましては、こういう作業員の身分が例の旧令共済の中に合わない、任官してない方々ばかりだったものでございますから、そのままになっておるということで、実はこれは直接には大蔵省のほうとの問題だと考えておりますが、ただいずれにしましても、それは復員省時代の問題でございますから、その事務を引き継ぎました厚生省援護局のほうといたしましては、大臣からいま御答弁申し上げましたように、大蔵当局とよくその問題について共同で検討してまいりたい、かように考えております。
  136. 橋本龍太郎

    ○橋本(龍)委員 ただいまの大臣の御答弁並びにそれを補足した援護局長答弁で、厚生省としてこうした問題についても今後配慮をしていただく余地があるということを承りました。これは本日はこの程度にしておきます。それで後日この問題について厚生省として十分な御検討を願いたい。この点をあわせてお願いをいたしておきます。  なお、大臣にもう一点お尋ねをいたしたいのは、実は遺骨収集についてであります。現在、満州あるいは中国大陸を除きまして、大半の陸上における代表的な御遺骨の収集は一応終わったように厚生省としては今日まで答えてこられました。しかし、陸上の遺骨収集に対して私どもはなお申したい点が多々あります。しかしそれよりも、今日なお放置されたままに、国として何ら実は処置をしておらない海中に没した多くの遺骨の収集の問題があります。国としてこれらの放置せられた遺骨の収集に対して、今日まで何ゆえこうした状況を続けてきたか。今後一体海没遺体の引き揚げはどうするつもりか、この点について厚生大臣の所見をお尋ねをいたしたい。先年航空機の事故が相次いだときには、わずか数十名、とうとい人命ではあります。しかし、わずか数十名の人員に対して非常に大きな労力と費用とを費やし、この遺体の収集に努力された政府当局、戦時中、あれだけ多くの犠牲者を出しました日本として、海中に没したままになっております遺骨の収集が今日なお、なおざりにされておりまして、国としてこれは当然御反省を願わなければならぬ点であります。この点に関して、大臣、はっきりした厚生省の方針というもの、政府としての方針というものをお示しをいただきたい。
  137. 実本博次

    ○実本政府委員 海外戦没者の遺骨収集につきましては、先生の御意見のように、占領行政が解かれまして、二十八年から、厚生省といたしましては大体五カ年をもちまして、主要戦場につきまして、現地慰霊並びにその遺骨収集を行なったわけでございますが、その後、海外との交通なり行き来が非常に開けてまいりまして、特に昭和四十年以降におきましては、そういう海外との交信なり交通が激しくなりまして、いまだやはり主要戦場等を中心にいたしました昔の戦場に、遺骨、わが英霊のむなしい姿が散見できるというふうなことが、そういう交通が開けてまいりますにつれてはっきりいたしてまいりましたので、政府といたしましては、さきに行ないました遺骨収集というものを、もう一度手直し的に、最終的に行なおうということで、四十二年度から年次計画を立てまして、目下その計画に従いまして、まず一番大きな戦没者を出しましたフィリピン地区を中心にいまこの遺骨収集の事業を進めてまいっておるわけでございます。  その場合に、先生指摘のように、海上というか海中に海没した戦没者の遺骨というものについては、何ら政府としては手を打ってないではないかという御指摘でございましたが、まさしくおっしゃるとおりなかなか、いろいろな制約がございまして、この問題につきましては陸上の場合と変わった形でやってまいっておるという姿になっております。大体海没遺骨を収集いたします場合には、陸上と違いまして、やはり沈没艦船の中にこの遺骨が眠っておられるわけでございますが、これを収集するためには、まずその船艦をサルベージして揚げなければならない、そのサルベージの技術が大体いまのところ三十メートルから四十メートル、せいぜい深いところで五十メートルまでしかサルベージの技術が伸びないというふうなこともございまして、この海没遺骨の大部分が五百メートルとか千メートルとかいった、いまのサルベージ技術ではなかなか及びもつかないような非常に深いところに眠っておられる方が大部分なものでございまして、いずれにいたしましてもそういう技術の制約がある関係上、サルベージが可能な部分について行なってまいるということにしておるわけでございます。  現実に、どういうふうなやり方をやっておるかは先生も御存じだと思いますが、結局海没船艦をスクラップとして利用しようという物資の活用、それから航路を開発していくというふうな必要上から、そういう艦船の引き揚げ可能なものについて、民間業者の計画と並行してやっていこう、そういう艦船の引き揚げ解体が実施されます場合に、そこに残存しております海没遺骨につきまして、そういう業者に対し、丁重にこれを取り扱って、完全に収容した上、国に引き渡すというふうな条件のもとで、その海没している艦船の引き揚げをやらせる。それは、いまの艦船はみな国有財産になっておりますので、国有財産の払い下げというふうな形をとりまして、そういう業者にそういう条件を付しまして引き揚げを行なっていく、こういうかっこうで進めてまいったわけでございます。  現在までに内地の沿岸ではこういうかっこうで約二千三百六十体を揚げてまいったわけでございます。なお、外地におきましては約九百六十体の遺体を収容いたしておるわけでございます。そういう状況で、海没遺骨につきましては、陸上の場合と同様なテンポで、同様な規模で進めてまいるというわけにまいらないわけで、非常に残念には思いますが、現在そういうふうな状況になっておる次第でございます。
  138. 橋本龍太郎

    ○橋本(龍)委員 大臣、よくお聞きいただきたいのですが、いまの答弁、私ははなはだ不満足です。援護局長、あなたの言っていることは、それはうそだ。国有財産になっていると言いますけれども、南方方面の商船、海軍艦艇、これらを含めて、日本国政府ではなくて外国政府が、サルベージ業者に対してくず鉄として払い下げをし、引き揚げの権利を売り渡している例は、実際に幾つもあります。またそうした結果、外国の業者が海上に引き揚げて、中にある御遺骨あるいは遺品というものを、全部海洋投棄してしまって、くず鉄として処分した例も、今日まですでに幾つもあります。また日本の政府が管理権を主張して、日本のサルベージ業者にまかせたものの中でも、そうした例は今日までも幾つかありました。それこそ小説にさえ書かれている実例が幾つかあります。私は、時間わずかな間に、そうした実例まで申し上げようとは思いませんけれども、あなたのいま言ったことはそれはうそだ、それは取り消してもらいたいです。  それと同時に、能力として五十メートル前後までと言われましたが、現在、アクアラングのみで海中にもぐっている人々の最高記録というものは、海面下二百メートルまで入っています。アクアラングをつけて、常時一定時間以上の作業のできる水域というものも五十メートル前後、完全な潜水具をつけて潜水した場合にはそれ以上の距離にもぐれます。その点は、あなたのいまのお話は取り消していただかなければならない。間違っています。第一、それ以上に、その五十メートル以内の日本の近海の浅い部分だけでも、実はずいぶん多くの船がなお沈んでいるのです。  現在私はここに「海軍艦艇の沈没位置図」、「日本商船隊沈没位置図」、両方ともそろえております。試みに横須賀近海だけを取り上げてみても、潜水艦の伊号三七二、あるいは練習艦の富士、春日、あるいは標的艦の矢風、海四、海四五、これらの船が現在なお沈んでいます。呉軍港及び軍港を中心とした海域、これあたりは、地図を見ればずっと浅いのです。その中に陸奥があり、伊勢が沈んでいる。日向が沈んでいる。空母の天城が沈んでいる。大淀があり、青葉、出雲、磐手、摂洋、北上、棒名、利根、伊号四〇四、輸送艦一五三、駆逐艦梨、これらの船がすでに沈んでいる。あるいは関門海峡だけで、駆逐艦の楢があり、朝顔があり、海六九号。紀伊水道には敷設艦の浮島があり、伊予灘には、伊号一五四、同じく伊号一五五、呂号六二、呂号六三。舞鶴軍港の周辺には、初梅があり、榎があり、初霜があり、沖縄があり、海二号があり、特設艦の戸島があり、海二二号、海四七号、これらがある。わずかにこれだけの軍港の周辺だけを拾っても、いずれもこれは日本近海の非常に浅いところであります。これらの船が沈んでいる場所は、現在の日本のサルベージ能力で揚げられない場所ではありません。揚げられるのです。それを費用の点かあるいは努力の点か、何を惜しまれているのか知らないが、今日なお揚げられ、浮上させ、中の遺品、遺骨をを収集しようとしていないのです。  私は、これ以上文句を言う意思はありませんけれども、最後にちょっと大臣に一点だけお尋ねしたい。先ほど援護局長答弁にあったように、国有財産として民間業者等に払い下げをしておる。そしてその払い下げをした業者は、くず鉄相場が上がったときだけこの引き揚げの権利を行使して、付属として中にいまだに眠っている遺骨、遺品というものが引き揚げられておる現状をお聞きになって、歴戦の勇士である厚生大臣として、どのようなお感じを持たれますか。私はまさかこうした問題を、今後ともに放置されるような大臣だとは思いませんが、この点だけはぜひ大臣御自身の口からお答えを願いたいと思います。
  139. 園田直

    ○園田国務大臣 陸上のほうは、いま申しましたとおりに年次計画をつくってやっておりまするが、海没のほうは御指摘のとおりであって、いままで言われた中にも、若干は揚がった艦もありまするし、あるいはごくわずかは遺骨をお迎えしておりまするが、それも遺骨収集の目的でやったのではなくて、結局民間に払い下げて、それを揚げたものの中に御遺骨があったということであって、海没に対する遺骨の収集があるいは陸上に比べれば技術的に困難であることや、あるいは費用の面等で、正直に申し上げまして手がついていないことはまことに申しわけないことで、しかも、なまなましい日本列島周辺の近海、しかも、国民の方々がどこに何が沈んでおるかほとんどおわかりである艦や船がいっぱいございまするが、それらについて計画的にこれに着手をしなかったことはまことに申しわけないことだと存じて、本委員会を通じておわびを申し上げますが、さっそく関係各省事務当局とも相談をしまして、これに対する検討、計画に着手をしたいと思います。
  140. 橋本龍太郎

    ○橋本(龍)委員 ただいま私読み上げましたのは、実は「海軍艦艇の沈没位置図」、「日本商船隊沈没位置図」、また陸上における「終戦時の各地兵力数及び戦没者数」、この三つを合わせて、ある篤志家が今日まで非常に苦労してつくられた図面でございます。本日私は大臣にこの図面を贈呈いたします。よくごらんをいただいて今後十分な御検討を願いたい。  それこそ最近の世相の中で、不十分とはいいながら、物質的な面ではずいぶん遺族各位に対しての援護の手も手厚くはなってきました。不十分な点はなおありますけれども、ずいぶん改善はなされてきました。しかし、人というものは物質だけすべてを与えられても、それで満足できるものではないのです。それこそ海軍に御家族を送り、そしてなお今日まで遺骨を手にしておられない遺族というものがどれだけこの国の中にあるか。陸軍に御家族を送りながら、海上において商船が沈没したがために、なお遺骨を手にしておらない遺族がどれだけ国内におるか。そうした方々の心のさみしさは一体どうするか。国として当然お考えをいただかなければなりません。国有財産として払い下げをして、サルベージ業者が揚げてそれで済むなどというのはとんでもない間違いです。そうした考えは捨てていただいて、現在の日本の能力において浮上せしむることのできるものは、業者が採算が合わなかろうが、国の手でおやりをいただきたい。そしてその遺骨、遺品というものは故国に戻してあげていただきたい。これを心から私はお願いをし、厚生省の先刻の事務当局の答弁を取り消していただくと同時に、大臣の御答弁のとおり、そうした方面に対して国の配慮がなお及ぶように切望いたしまして質問を終わります。
  141. 八田貞義

    八田委員長 この際、委員長からも一言申し添えます。  橋本委員の動員学徒等の準軍属の死没者、障害者に対し、援護法の完全適用を行なうべきであるとの発言並びに終戦直後掃海作業に従事したためによる死没者及びいまなお未収集の海没する遺骨の収集につきましては、関係政府当局において十分検討の上、善処されんことを要望しておきます。
  142. 園田直

    ○園田国務大臣 ただいまの御意見並びに委員長の御発言は、十分配慮いたしまして、ただいままでの問題をおわび申し上げるとともに、今後早急に検討し、御厚志に従うよう努力いたします。  なお、事務当局の発言中、遺骨をお迎えをして故国に帰すという心がまえの問題について、いささか誤解があるような点がありましたことは、私から深くおわびを申し上げて取り消させていただきます。
  143. 八田貞義

    八田委員長 本会議散会後まで休憩いたします。    午後一時五十一分休憩      ————◇—————    午後三時三十二分開議
  144. 八田貞義

    八田委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  質疑を続行いたします。河野正君。
  145. 河野正

    河野(正)委員 先般来審議が続行されております戦傷病者戦没者遺族等援護法についての質問を行なうわけでございますが、今日まで約二十次にわたる改正が行なわれて、今日の現況に至っておるわけでございます。しかしながら、その給付内容の点から見て、それが今日の一般国民の生活水準の向上に見合っておるのかどうか、あるいはまた、物価の動向に応じておるのかどうか、こういうような問題点がございますし、また一方におきましては、それならば、はたしてこの援護法なるものが一切の戦争犠牲者にあまねく行き届いておるのかどうか、こういうような諸点を残しておるわけでございますが、いずれにいたしましても、結論的に申し上げますと、なお今後検討しなければならぬ点が多々あるであろうということになると思います。  そこで私は、自後の質問を続けてまいる前提として、今後、政府としてこれらの戦争犠牲者に対する処遇の改善についてどういう姿勢でおられるのか、その基本的な見解についてまずお伺いを申し上げておきたいと思います。
  146. 園田直

    ○園田国務大臣 恩給審議会でもそのような御意見でございまするし、なおまた厚生省としても、援護問題懇談会等において検討をしていただいておりまするので、この両者の御意見と相まって、御指摘のような方向で逐次検討してまいらなければならぬと考えております。
  147. 河野正

    河野(正)委員 そこで、厚生省の発表いたしました昭和四十一年度の厚生白書をひとつ検討してまいりたいと思います。  この厚生白書によりますると、まあその一部でございますが、その一部には次のようなことが掲載されておるわけでございます。「援護の対象としては、二十八年のいわゆる旧軍人恩給の復活が行なわれ、軍人の大部分が恩給法により処遇されることになって激減したが、軍属については船舶運営会船員、軍属と同様の状態にあった満鉄職員等及び満州、台湾で勤務していた有給軍属などが加えられ、準軍属については、満州開拓青年義勇隊員、内地等の有給軍属及び満州等における動員学徒などを加えた。」というように記載されておるわけでございます。このいま私が一読をいたしました文章から判断する限りにおきましては、軍人、軍属、準軍属における援護というものがすべて対象になったというふうに理解をせざるを得ないような記載がなされておるわけでございますが、そのような理解に立ってよろしいものかどうか、この点について御見解を承りたい。
  148. 実本博次

    ○実本政府委員 先生いまお話しの点でございますが、援護法におきましては、一応、軍人、軍属あるいは準軍属というものの定義的な規定を掲げておりまして、それが現実に援護法で規定されております年金の給付の対象になるとか、あるいは弔慰金の対象になるとかいう場合には、そういう掲げてあります者が、たとえば在職期間中にあるいは公務上の事由によりというふうな条件に該当する場合に、現実に法律に規定いたしております給付が行なわれる、こういうことになっておりまして、先生が御指摘になられましたように、厚生白書に書いてあります表現というものは、そこの条件をこまごまと書きませんで、定義的に書いた部分について表現を変えたものでございまして、確かにこの表現といたしましては、そういう在職期間、たとえば支那事変以降の期間をいうのか、あるいは戦地、事変地であるということをいうのか、その辺のことが書いてございませんので、全部すっかりここに書いてあるものがそのままこれに当てはまるというふうな誤解を招く表現になっておりますが、正確には、そういう在職期間内に公務上の事由によるという条件がついたものを現実に給付の対象にいたしておるわけでございます。
  149. 河野正

    河野(正)委員 そこで、私が冒頭にお尋ねしたように、一切の援護というものがあまねく適用されておるのかという点と、いまの厚生白書に示された文言とが関連を持ってくるわけです。そこで、少なくとも政府が発表した厚生白書ですから、私はもう少し国民に対して親切であるべきだと思うのです。この援護法そのものが、戦争犠牲者に対する一つの親切心から、人道的立場から出てまいっておるわけですから、厚生白書に盛り込む援護問題については、やはりもう少し親切な態度で臨むべきではないかというふうに考えるわけです。  それから、もう一つ私どもが不満でございますのは、なるほどこういうふうな表現が行なわれておるし、また、それは定義的だというようなお答えでもございましたが、しかし、たとえば前国会でも指摘をいたしたわけでございますけれども、満州開拓義勇隊、こういう義勇隊は、ソ連が参戦した以降については援護法の適用が受けられるようになっておりますけれども、ソ連参戦以前においては全然援護法の適用外という冷たい処置を受けておる。それならば、いま局長がおっしゃったように、それは公務上云々ということでそういう一線が画されるのかどうか。ソ連参戦前においても、当時匪賊がどんどん出てきたし、実際には銃砲を持って、そうして国の使命を負って開拓業務に従事したという経緯があることは、御存じのとおりでございます。ですから、内地で国策に即応してやっているということと違って、いつ匪賊の兇弾で倒れるかわからぬという悪い環境のもとに置かれて、そしてしかも政府の要請にこたえておるわけですからね。ですから、単に、ソ連が参戦して以降は適用になり、その以前は公務上と解釈しがたいという理屈にはならぬだろうと思うのです。そういう意味で、私どもはこの厚生白書に示された表現のしかたにも不満でございますけれども、なおまた、いま局長が説明をされたそういう理由についても、私どもはきわめて不満であると言わざるを得ない。これは先般新聞を見て承知したわけですけれども、厚生大臣は、何か近い将来においてこの満州開拓義勇団の援護処置については法制化を考えたいというようなことも、われわれは仄聞をいたしておるわけですが、こういう点について、現在大臣はどのようにお考えになっていらっしゃいますか、お聞きをしたい。
  150. 園田直

    ○園田国務大臣 援護の対象については、厚生白書あるいはその他に書いてあることにかかわらず、戦後から、逐次、この解釈についても、あるいはこれに付随する財政上の問題からも、変わってきておると思います。戦後においても、戦争中の惰性と申しますか、あるいは感情というものが、あってはならぬことでありますが、やはり残っておりまして、軍人と軍族の差であるとか、あるいは軍族と準軍族の差であるとか、そういうものが非常に対照になってきておりましたが、そうではなくて、実質的に国家のために公の仕事に従事し、あるいは戦争のために被害を受けたというふうに、逐次拡大して対象を広げていくべきだ。あるいは現法下においても、これはそのように解釈していくべきだと考えております。したがって、いまの満州開拓青年義勇隊の隊員は、いままでは、御指摘のとおりに、二十年の八月九日以後の死亡者、負傷者は、実際軍の後方勤務に従事をして保全をやったからという解釈でやっておりますが、それ以前に死亡した者あるいは負傷した者も、御意見のとおりに、単なるあれで行ったのではなくて、閣議決定による国策を背景にして、いわばこれを広義に解釈しますると、国の命令で出ていって、国の一つの任務を負担したわけでありますから、これはやはりソ連参戦後の方々と同様の方向に検討すべきである、私はかように考えて、事務当局にはそのように準備を命じておるわけでございます。
  151. 河野正

    河野(正)委員 この点は、御承知のように、昨年の援護法改正案が成立する際におきましても、附帯決議としてこの決議をされておる点でございます。そこで、いま大臣がお答えになったような見解が述べられることは当然のことであって、問題はいつから実施するかということだと思うのです。ですから、いま大臣からも非常に前向きの御見解がございましたし、また、昨年の国会におきまする援護法改正案成立の際においても、決議をされたところでございます。したがって、すみやかにこの問題の解決の処置をはかってもらわなければならぬ。そういう意味では、次の国会においてはそういう処置が行なわれるのかどうか、この点もあわせて伺っておきたいと思います。
  152. 実本博次

    ○実本政府委員 先生指摘のとおり、この問題につきましては、当委員会での昨年の援護法改正に際しましての附帯決議もいただいておりますし、その趣旨に沿いまして、大臣からいま御答弁がありましたように、われわれ事務当局といたしましては、ほかにいろいろまだ未処遇問題がございますが、そのうちでも、この問題につきましては特に優先的に検討しておりまして、なるべく早く、できれば来国会あたりを目標にして、当委員会の決議の趣旨に沿ってまいりたい、かように考えておる次第であります。
  153. 河野正

    河野(正)委員 時間の制約がございますから、引き続き質問するにあたって、特に未帰還者援護を重点的にお尋ねをしてまいりたい、こういうふうに思います。  今度の戦争が終結いたしました当時におきましては、海外におりました軍人、軍属その他同胞は約六百万以上であった、こういうふうにいわれておるわけであります。そうして戦後二十数年にたるわけですが、この間に引き揚げ促進のための夫帰還者の調査、整理、こういうものが積極的に行なわれてきたわけでございますが、昭和四十二年三月三十一日現在におきましては、なお四千八百八十四人の未帰還者が残っておるということになっておるわけでございます。御承知のように、戦後だんだん年が経過いたしますとともに、一方におきましてはだんだん一般国民の関心というものは薄れていく。ところが一方におきましては、直接関係いたします遺家族にとってはそれだけ心情は切なるものがあろうかというふうに考えるわけでございます。そこでこの問題は、一方においては国民の世論もだんだん薄れていくわけですが、一方においては、だんだん年数が経ますと、家族あるいは関係者にとってみれば、ますます深刻な気持ちになる、こういうふうなきわめて複雑な問題でございますので、この問題はやはり早急に解決をしなければならぬ問題だ、こういうふうに思うわけですが、その終結をどのように考えられておるのか、この点について御見解を承りたい。
  154. 実本博次

    ○実本政府委員 お示しのように、未帰還者の調査の問題につきましては、未帰還者の留守家族援護法におきましても、その調査については国、都道府県等の責任としてはっきり明示しておるところでございまして、特に未帰還者の遺族の心情に立ちますと、これは終戦後年がたてばたつほどその心情はますます悲壮なものがあるわけでございまして、われわれのほうといたしましても、鋭意そういう調査の問題につきましては努力してまいっておるわけでございます。  ちなみに、四十三年、ことしの三月一日現在の未帰還者の数が全体で四千五百四十四名というふうになっておりまして、先生いまおっしゃいました昨年の三月三十一日現在の数から、やはり少しずつ未帰還者の数が落ちてまいっております。  その内訳を申しますと、ソ連地域につきましては四百三十八名、それから北鮮地域が百三十二名、中共地域が三千六百四十八名。中共地区が非常に多いわけでございます。南方諸地域が三百二十六名というふうな数字になっております。これらの未帰還者のうち、過去七年以内に生存しておる資料のある方々が二千九十四名ということでございまして、こういう人たちは大体現在生存しておるんじゃないかというふうに考えておりますが、その残りの二千四百五十人という方々につきましては、諸般の状況から見て、生存の希望が持てないんじゃないかというふうな見通しでございます。  こういうふうに、未帰還者の数は年々減少しておりまして、先生のいまの御心配のように、未帰還者問題に対する一般の関心も日とともに薄れてきつつあるようでございますが、やはり本問題は、先ほど申し上げましたように、留守家族のことを考えますと、今後もやはり引き続いて、厚生省、都道府県におきまして不断の努力を重ねてまいりまして、あらゆる手段を尽くして処理いたしたい所存でございます。特に消息の明らかでない方々の調査究明は、帰還者を対象といたしまして行ないます国内調査のほか、在外公館あるいは赤十字ルート等を通ずる国外調査をさらに推進するというふうなことで進めてまいりたいので、とにかく、できるだけ終結を考えるべきかもしれませんが、まだやれる余地のあるものについてはどこまでも続けてまいりたい、こういうふうな考え方をいたしておるわけでございます。
  155. 河野正

    河野(正)委員 厚生白書によりますと、四十二年三月三十一日現在の未帰還者数は四千八百八十四、それから四十三年の三月一日では四千五百四十四ということですから、どのような内容かわかりませんが、三百四十名が片づいたというようなことのようでございます。  それで、それがどのような解決をしたのかわかりませんが、たとえば三十九年の十月にソ連に対して未帰還者の調査を依頼した、そうして四十一年の五月にその結果が来ておるのでございます。ところが、その調査結果が報告されたわけですけれども、必ずしもその報告内容というものが的確な内容であったかどうかということについては、これは疑問がある。たとえば二百十名が死亡したと言われたけれども、死亡した場所とか原因とかいうことが明確でなかったり、あるいは七十八名はもうすでにこの日本に帰ってきたことになっておるけれども、それは同姓同名の異人であったとか、こういうようないろいろ不明確な点があったというのがその内容でございます。なるほどいろいろ数字合わせみたいに数字を合わされても、そういうようなちぐはぐな内容であっては困るのであって、やはり数字上の解決というものは、内容的にも解決したということにならなければならぬと思うのです。そこで、そういうこともあって、四十一年の十一月にはソ連に対して再調査を依頼したということになっておるようですが、その結果はどういうことになっておるのか、この点についてお伺いをいたしたい。
  156. 実本博次

    ○実本政府委員 御指摘のように、こちらから四十一年の九月に再調査を依頼いたしましたが、その結果につきましては、いまだ回答をいたしてまいってきておりません。これはいろいろ外交ルートその他を通じて話を促進するようにいたしておりますが、いまだ回答が参っておりません。
  157. 河野正

    河野(正)委員 四十一年の十一月に再調査を依頼して、今日は四十三年の五月の半ばにならんといたしておるわけです。約一年半ですね。その一年半どういう処置をとられたか。来ないなら来ないで、当然外交ルートなら外交ルートを通じて促進方をはかるとか、これはもう未帰還者の問題は、先ほど申し上げましたように、一般の国民の関心というものは薄らいでくる。しかし遺家族の身になってみれば、年がたつごとにまことに切なるものがある。こういうことですから、やはり遺家族、関係者にとっては、一日千秋の思いでその消息を知りたがっておるわけですから、一年半も回答がないからということで放任をされておるということについては、いささか誠意がなさ過ぎるのじゃないか、こういう感じがするのです。この点について、その間どういう方法をおとりになったか。もし措置をおとりになっておれば、どういう方法をとったかということを明らかにしてもらわぬと、遺家族は納得できぬと思うのですね、一年半もほうっておかれて。
  158. 実本博次

    ○実本政府委員 四十二年の四月に重ねて、そういう未帰還者のこちらから照会いたしました回答の促進をソ連政府に申し入れてございます。また、四十二年の五月にソビエトを訪問されました川島特使からも、そういった方々の問題につきまして、再度回答をいただきたいという申し入れをいたしておるわけでございますが、ただいまのところまだ回答がいただけないというふうなことで推移いたしておりまして、その点われわれといたしましても、機会あるたびごとにそういった申し入れを重ねてまいってきておるのでございますが、残念ながらいまだその回答をいただいていないというような推移に終わっておるわけでございます。
  159. 河野正

    河野(正)委員 機会あるごとにとおっしゃっても、四十一年の十一月に再調査を依頼をして、四十二年の五月でしょう。それから一年ですよ。ですから、機会あるごとになんと言っても、それは全く機械的なお答えであって、機会あるごとだったら、四十二年五月のみならず、四十二年の秋にはまた、どうだと言って促進方を依頼するとか、あるいは四十二年に解決しなければ四十三年には——今年ももう半分がくるわけですからね。いま五月でしょう。すぐ六月になってくる。そうすると、四十三年もまさに半ばに至らんとしておるわけです。しかも、先ほど機会あるごとにとおっしゃったけれども、あとのお話は四十二年の五月でしょう。今日四十三年の五月ですから、もう一年ですよ。そういうことをとらえて機会あるごとになんと言ったって、遺家族は、機会あるごとに政府は努力されたというふうには理解せぬと思うのです。ですから、悪かったら悪かったでそうおっしゃって、今後はそういう御注意もありましたのでさらに一そう努力いたします、こういうことにならぬと、ただちょこちょことやって、それで機会あるごとに努力いたしましたなんと言ったって、それは私どもも納得できぬが、このことを聞いた遺家族は、これは憤激いたしますよ。
  160. 実本博次

    ○実本政府委員 おっしゃるとおりでありまして、とにかく政府といたしまして、これは外務省も一緒になって考えていただいておるところでございますが、そういう特使が行かれるというふうな機会はもちろんのがさないようにし、それから政府といたしましても、重ねてこういうふうな方々の措置については、お示しのような線で努力してまいりたい、かように考える次第でございます。
  161. 河野正

    河野(正)委員 そこで、どうもそういうふうな熱意が欠除しておるし、それからまたいろんな報告等を点検してもちぐはぐがあって、数字の上では解決した部面があっても、内容的にはなかなか納得はできぬ点が非常に多い。  そこでまた、私は次のことについてお答えを願いたいと思うわけですが、未帰還者の中でも、調査究明の結果、死亡の日時、場所、死亡の原因等が明らかになったものは、これは戸籍法八十九条の規定によって死亡を確定する。いま一つは、死亡したことは具体的に確認できないけれども、その消息を断った時期や場所等から総合的に判断して死亡したものと認められる者に対しましては、いわゆる未帰還者に関する特別措置法によって戦時死亡宣告が行なわれる、こういうたてまえになっているわけです。そこで、私どもが案じますのは、なるほどたてまえとしては、いまのようなかっこうで死亡宣告をする、あるいは死亡確定をするということになっておるわけですけれども、実際にもう少し掘り下げて情報を収集したり、あるいはまた調査をもう少しきめこまかにやったならば、その消息がもう少し明らかになるのじゃなかろうか。そういうことをやらぬで、ただ単に機械的に死亡宣告をやってもらったり、戸籍法八十九条の規定によって戸籍を抹消されるという軽々な、取り扱いでは困るのであります。  というのは、二、三日前の新聞を見てまいりましても、二十五年ぶりに沖縄に元日本兵が帰ってきておるのですね。この人は太平洋戦争で出征して、カンボジアで終戦を迎え、今日までベトナムに在住をしておった。これは二十五年ぶりに日本に帰ってきた。それから先日もテレビで報道されておった事例もございますし、それから、私どもがまた東南アジアあたりを回ってみますと、確かに日本人だと思われる人が現実におられるのですね。本人は日本人だとおっしゃらぬけれども、日本人だと思われる方がおられる。こういう実態がどういうふうに把握されておるのか。単なる数字だけをいじって、これだけ解決いたしました——先ほど申し上げますように、四十二年から四十三年の一年間については、三百四十名が数字の上においては解決したということであっても、一体実態はどうだろうかという心配をするのです。それは論より証拠に、二、三日前の新聞に、二十五年ぶりにベトナムから沖縄に元気で帰ってきたという事例がある。ですから、そういう実態が一体どういう形で把握されつつあるのか、私どももそういう点を心配せざるを得ぬが、これは遺族の立場に立てばわらをもつかむ気持ちですから、そういう気持ちが私は強いと思う。そういう意味でひとつ御親切なお答えを願いたい。
  162. 実本博次

    ○実本政府委員 ただいまやっております方法といたしましては、まず、未帰還者の方が帰ってこられる、あるいは引き揚げてこられるというふうな人がありますれば、必ずその人を囲みましてその地域におきます情報をつぶさに聞き取るために、都道府県あるいは市町村を動員しまして、厚生省からも当該引き揚げ者の帰りましたところに出かけてまいりまして聞き取り調査をやる、それが主になっておるわけでございます。あとは、国交のない国等におきましては、赤十字社等を通じまして、いろいろ赤十字社同士の間でそういったこちらの質問事項をつけて、回答をもらいたいというふうなことで進めてまいっておるわけでございますが、とにかく当該地区から帰ってこられた方の聞き取りということが、残された唯一の最も大きな方法でございますので、それを中心にいたしまして、当該都道府県、市町村との間ではそういう方法を進めておるという現状でございます。それ以外に方法がありますればと思っていろいろ考えておるわけでございますが、特に国交のない国からの情報というものはとりにくい。それから、いま先生がお示しのように、日本人とおぼしき方々がまだ海外に残っておられるというふうなことも、よく報道されたり聞かされたりいたしておるわけでございます。そういうことで、こちらのほうに調査ができるチャンスというものが見つかり次第、そういった方々を囲んでの聞き取り調査ということも定期的に続けてまいる、この方法で推し進んでまいっております。
  163. 河野正

    河野(正)委員 局長も非常に気恥ずかしいような思いでお答えになっていると思うのですが、未帰還者に対する対策というものは、文字どおり全くお粗末、おざなりなものだろうと思うのです。しかも私は、これまた厚生白書を引用するわけですが、非常に認識が浅いと思うのです。これは与党の方がおられますから一緒に聞いてもらいたいと思うわけですが、四十一年度の厚生白書によりますと、戦没者に対する「今後の課題」という項目でこういうふうに書いてある。「海外戦没者の遺骨の収集・現地慰霊については、現在では中共地域(特に旧満州地域)及び北朝鮮地域を除いておおむね終ったかたちになっている」。これはさっき橋本委員からもいろいろ非難されたところでございますけれども、厚生白書では、中共地域と朝鮮地域を除いては遺骨収集とか慰霊というのは終わった、こういう記載のしかたがしてあるのですね。少々おこがましいと私は思うのですよ。こういう認識だから、なお未帰還者問題についてはきびしい国民の批判が生まれてくるし、また私どもも、いろいろここで答弁を承っても、せっかくの答弁ですけれども納得できぬ面が出てくると思うのです。大体こういう認識でいいのでしょうか。いかがでしょうか。
  164. 実本博次

    ○実本政府委員 この厚生白書の「今後の課題」のところで確かにそういう表現になっておりますが、そのあとに「しかし従来政府が実施した遺骨収集は、広汎な地域に対して限られた人員と日数をもって行なわれたことであり、その後山野に未処理の遺骨が発見されたという事例も見受けられるところである。」ということになっております。これは四十一年度におきます現状認識ということで、しかしその時点におきましても、一応占領行政が解除されましてから五カ年計画でやりました遺骨収集のことを、さっき先生がお読みになりましたような表現でもって書いてあるわけでございます。ただその後の現状認識が、それではどうにも申しわけないということを認識いたしましたので、四十二年度から年次計画を立てまして、海外戦没者の遺骨収集につきまして、さきに行ないました手直し的な、あるいはもう総じまい的な意味で大々的と申しますか、計画的に遺骨収集を行なうということにいたして、現在も実施しておるわけでございます。ですから、今後もその線に沿いまして、この表現にあるようなことを現実に行なってまいりたいという心がまえで現在やっておりますところでございます。
  165. 河野正

    河野(正)委員 私は現状認識というものはやはり正しくあらわさなければいかぬと思うのです。それを中共地域と朝鮮地域を除いてはおおむね終わったのだというようなことを前提にして、四十二年においてはなおやらなければならぬことがあるから計画をやるのだ、こういう厚生白書というのは全く不見識だと思うのですよ。国民を欺く厚生白書だと思う。これは白書じゃありませんよ。白書は全く清潔ですけれども、いまのような文章では厚生黒書……(「青書」と呼ぶ者あり)青書まではいいけれども、黒書ですよ。コクも黒い場合もありますけれども、残酷のコクもあります。  そこでさらに、そういうあまりあつかましいことをお書きになっておるから、大臣のお耳にもひとつここで入れておきたいと思うのですが、比島のごときは、六十三万の将兵が当時比島の山野に駐留した。そのうち四十七万が現地で戦没しておるのです。約六十三万のうち四十七万が現地で戦没しておる。厚生大臣はどこで終戦を迎えたかわかりませんけれども、そういう現状です。しかも、政府が最初やった集骨は昭和三十三年一月ですけれども、その際は二千五百六十一体なんです。それから昨年も集骨団がおいでになった。集骨団は、私は非常に御苦労だったと思うのです。ですけれども、そういった何回かの集骨団に御苦労をかけましたけれども、総計いたしましても、私の数字では一万六千二百四十六体。ですから大体その前後だと思うのです、若干の違いはあっても。とにかく四十七万の戦没者があって、それはもちろん最初の場合は遺骨として内地へ送還されたものもありましょう。それはあります。ですから、全部が現地に残っておる遺骨であるというふうに理解することは早計ですけれども。ところが、私も現地で終戦を迎えたわけですから承知をしておりますけれども、これは非常に膨大な数の将兵が現地で死没して、そうして遺骨が現に残されておるということは想像にかたからざるところです。しかも、そのうちの一万六千か一万七千の集骨が行なわれて、そうしてそれが厚生白書のほうでは、大体済んだ、こういう表現では、私は遺家族はとても聞くにたえないと思うのです。ですから、まあ時間の都合もございますし、それから外務次官も三十分には用事があるということでございますから、はしょって申し上げますが、要するに結論的に申し上げますと、国はもっとこの集骨事業に力を入れるべきだというのが国民の要望であり、また私は今日まで何年間この問題を取り上げてまいりましたが、私の要望でもあるわけです。要するに、この集骨事業についての国の熱意というものが——それはあなた方も一生懸命でしょう。でしょうけれども、なお足りないというのが結論でございます。  そこで、こういう厚生白書のように、結局中共地域と朝鮮地域とを除いて終わったのだという認識ではなくて、いま申し上げましたように、フィリピンだけでもばく大な遺骨が残っておるわけですから、まあ橋本委員からは海底で眠っておる遺骨の問題の御指摘もございましたが、いずれにいたしましても未解決の遺骨が非常に多いということは、これは何人も否定することはできないと思うのです。そういう意味で、国民も私どもも、もっと集骨事業には力を入れろ、熱意を持ちなさいというのが要望でございますので、ひとつこの際、厚生大臣もかつてたくさんな将兵と一緒に御苦労された経験もあるわけですから、園田厚生大臣のもとでもっと前向きで熱意ある施策を実行してもらいますように、この点はお願いを申し上げたいと思います。
  166. 園田直

    ○園田国務大臣 遺骨の収集につきましては、年次計画をつくって逐次やっておるところではございますが、御指摘のとおりに、地域の制限を受けるとか、あるいは対国交の関係とか、あるいはまた、一回実施いたしまして終わったと思っておりまするところでも、各所で死没されました関係などで不十分なところもございますから、さらに御意見のとおりに、十分重点を置きまして迅速にこれを実施するよう、計画の再検討も行ないたいと考えております。
  167. 河野正

    河野(正)委員 これはよほど力を入れていただきませんと、この政府の遺骨収集というものがはかばかしく進まない。そこで、これは非常に善意ですけれども、政府の集骨作業というものがなかなかはかばかしく進まないということで、今度は一般の民間の方々が集骨に従事する、あるいはまた遺族会の方々が慰霊団を編成して慰霊かたがた集骨に従事するとか、こういうような傾向というものが非常に強くなっておるのですね。ところが、これは一つは、政府のそういう努力というものが非常に欠如しておるから、この民間なり遺族会なり有志なりというものがそういう方法をとらなければならぬということになっておると私は思う。ところがそのためにいろいろな弊害が出てきておるわけですね。ですから、実際、一般の国民の方々、あるいは遺族の方々、あるいはまた遺族会の方々のやられたことは善意ですけれども、そういうために非常に弊害が出てまいっております。ですから、私はやはりそういう意味でも、政府が、いま大臣も言われたわけですけれども、この集骨作業については、積極的にしかもすみやかにやってもらわなければならぬというふうに思うわけです。  そこで、これまた時間の制約がございますから引き続いて申し上げますが、この弊害の一つを具体的な事例として申し上げるわけですけれども、たとえばフィリピンに対して政府の集骨団が昨年派遣をされましたが、民間の方も戦跡巡拝団とかというような形で次々に現地をたずねられた。そうしてこういう方々が、とにかくできるだけ遺骨を収集しようという熱意のためだと思いますけれども、それを原地人が逆用して、遺骨だと言って骨を持ってきて日本人に売る、こういう事件も出てまいっておるようでございます。しかも中には、私どもが新聞記者の諸君に聞いてみますると、これは遺骨だと言って水牛の骨を持ってきて売った、という事例もあるというふうに私どもは聞いております。しかも今度は逆に、せっかく善意で現地に行かれて、そして遺骨を慰霊しよう、あるいはまた遺骨を収集しようということでおいでになったが、現地人はそういう認識ですから、そういう慰霊団に対して彼らは、骨を買うグループだ、骨買いに来ているんだというような非常に誤った観念を持っておるという事例も私ども承っておるのです。ですから、水牛の骨を買わされ、現地人から、骨買いグループが骨を買いに来ているんだというような汚名をこうむらしめるような事件が起こったりする。やはり政府が積極的に収骨作業をやっておれば、わざわざ金を使って、遺族の方や、あるいはまた遺族会の方や慰霊団が行く必要はない。といっても、いまのような弊害が出てくることは、私は非常に悲しむべきことだと思う。  そこで、政府としても、そういう意味からも、こういう事態を解決するためには、前向きで積極的に集骨作業に取り組んでいただかなければならぬので、私はやはりこういう点について、政府としての態度というものをきちっと確立する必要があるだろうと思うのです。そういう意味で、この点は、外務政務次官御出席ですから、ひとつ御見解を承りたいし、大臣からも、いまもろもろの弊害が出てまいっておりますから、その弊害をいかにして防止するか、そしていかにして遺族の方に対してお答えをするかという意味での御発言をお願いしたい、こう思います。
  168. 園田直

    ○園田国務大臣 遺骨収集のために民間団体の方が非常に御熱心のあまり行かれることは、その善意並びに気持ちはありがたいことではございますが、現地におきましても、あるいは団を編成されるについても、遺骨を持って帰られてからも、いろいろの問題を起こしております。また、そうではなくても、これはあくまで御指摘のとおりに政府の責任においてやるべきことであることは当然でありますので、政府としては、民間団体の方々の慰霊祭であるとか、あるいは現地の慰霊であるとかいうことは別でございますが、遺骨の収集についてはお断わりをして、これは全部政府にまかせてもらうということにしておるわけでございます。  したがいまして、また一面から言うと、御指摘のとおりに、そういう民間の方々が、手ぬるいからわれわれが行こうというような気持ちが起きないように、さらに推進をしなければなりませんが、そのほかに考えてみまして、計画も一元的ではなくてもっと検討すべきことはないか、こういうことも考えます。たとえば外務省と折衝を——外交関係も逐次友好のほうに移ってくる時期でもありますし、あるいは現地の宗教団体の御協力をかりるとか、そういう場所場所に適した計画を立てなければならぬ。もう一つは、いまの計画についても費用等もさらに準備をしてやらなければならぬ。厚生省が遺骨の収集をやっておりますのは、実は特殊な職員がおりまして、かつて陸海軍で御奉公しておった者が、自分の生涯や職業を捨ててこの収集に生涯をかけているようなわけで、行く者も迎える者も、ともに泣きながらやっているわけでございますから、この職員の気持ちがもっと効果があがって徹底するように、私のほうでもさらに検討して推進をしたいと考えております。
  169. 藏内修治

    ○藏内政府委員 民間人による遺骨収集事業が若干の弊害を発生しておることは、御指摘のとおりであろうかと思います。遺骨収集事業というものが本来法律、規則等で認められておりますのは、厚生省の設置法の中に一項目があるだけでございまして、民間人による遺骨収集というものを規制する法律は何にもございません。外務省といたしましても、海外に渡航する人間が、観光であるとかその他の目的を持って海外に出ていかれましても、これが遺骨収集をするのかどうかということを、単なる手続上判別する方法がございません。しかしながら、ただ一つ方法といたしましては、渡航地が旧戦争の地域であるというような場合には、これらの渡航目的をさらに具体的にと申しますか、詳細に説明を求める等の行政指導方法によりまして、これら別途の旅券を持って海外渡航する者が遺骨収集等を行なわないような行政指導を行ないたいと思います。民間による遺骨収集が、かえって英霊の尊厳を傷つけ、あるいはまた外国との対外折衝において摩擦を生ずるようなおそれがございまするから、これらの点については十分配慮を加えて指導してまいりたいと思っております。
  170. 河野正

    河野(正)委員 これは善意で起こったことでございますけれども、結果的にはいま申し上げますようないろいろな弊害が出てまいっております。  それからもう一つ、これは現状認識の点についてお尋ねをしておきたいと思うわけでございますが、昨年の暮れ、神戸の青年がニューギニアにおける父親の遺骨の収集をしたいということで、現地に出向いていった。ところが、昨年の暮れ、日本を出発するに際して、厚生省の係官から、日本人の遺骨というものはニューギニアのジャングルの中にはもうないんだ、こういうふうに言われた。しかし、父恋しさのあまりニューギニアに行って、とうとう認識票と一緒に父親の遺骨を発見した、こういう全く涙ぐましい事件があったわけでございます。  そこで、個人でせっかく父親の遺骨にめぐり会ったわけですから、個人的には非常にけっこうなことだと思うのです。しかし、そういう各人がそれぞれ外国に出向いていって遺骨をさがすということについても問題があろうし、先ほど申しましたように、いろいろな弊害が起きております。それからもう一つは、現状認識の点で、ニューギニアのジャングルの中にはもう日本人の遺骨はないんだと言ったがあった。しかも、この神戸の青年のことばによりますと、まあ俗なことばで言えば、ごろごろしておった。こういう現状認識の非常に誤った点についての指摘も承っております。しかも、その人は約千体の遺骨を船で日本に送っておるということも言っておられる。そうしますと、御本人が一人で行って父親の遺骨にめぐり会った、それから千体の遺骨も収集をして船便で日本に送り返してきた。ところが、厚生省のほうでは、いや、ないんだ、現にあったじゃないかということで、非常に憤慨されているということを私ども承っております。ですから、その弊害は別としても、やはりいまのような認識では困るのであって、やはりあるものはある。何も厚生省はその責任を回避する必要はないんで、それは、できないについては、できないいろいろな事情があったんでしょうから、そういう事情を申し述べて、そして御本人の納得をいただくということが望ましいのであって、たくさん残っているということになっても、何だか自分たちが誤った責任感を感じて、残ってない、こういうことでは困るのであって、私はやはりもう少し遺骨というものについて親身を持って対処していただきたい。やはり遺家族と同じような気持ちで遺骨に向かって対処していただきたい、こういうことを特に私は要望しておきたいと思いますが、この点についても、大臣からひとつ指導上それの強い指導をやってもらわなければならぬと思うのですが、そういう意味大臣のお考えをこの際承っておきたい。
  171. 園田直

    ○園田国務大臣 いまの遺骨の収集については、特にこれは精神上の問題であるとか、感情の問題であるとか、いろいろ含んでおりますので、一般の業務のごとく、計画が済んだところはあとは全然ないのだとか、あるいはこれであたりまえだとか、こういうものの考え方というものは、遺骨を収集する者の心がまえが問題になってくると思います。御指摘のとおりに、さらに計画を敏速にやらなければなりませんが、それをやるにつきましても、戦場のことでございますから、わからないところでなくなられた方だとか、あるいは気づかないところでなくなられた方々とか、こういう方々や家族の方々のお気持ちも十分心に持ちながら計画を進めていくということについては、十分注意して指導していくつもりでございます。
  172. 河野正

    河野(正)委員 私に与えられた時間はあと五分ですから、五分の間にまとめてまいりたいと思いますが、この遺骨の収集については、いま申し上げますように、遺家族にとっては深刻な問題です。それが結果的にはいろいろな弊害を生むということもある。いろいろ複雑な事情というものも出てまいっておると思います。ただ、私が心配しますのは、遺家族や関係者というものは、非常に善意でやられるわけですけれども、結果的にはそれが非常に問題を起こすような場面も出てまいっておると思うのです。  その一つとして、これは善意でございますから、私は悪意で取り上げるわけではございません。将来そういうことをぜひ防いでまいりたいという意味で取り上げてまいりたいと思いますけれども、鹿児島の遺骨収集期成会においては、収集した遺骨を分骨されておるわけですね。先ほど外務次官からは、遺骨の問題については規制する方法はないと言われましたけれども、これはへたするとやはり刑法に触れるおそれがあると私は思うのです。これは非常に善意から発足したわけでございますけれども、しかし事と次第によってはやはり刑法に触れるような問題も出てくる。これは法務省からおいでになっておりますから見解を聞いてみたいと思いますけれども、刑法百九十条によりますと、「死体、遺骨、遺髪又ハ棺内ニ蔵置シタル物ヲ損壊、遺棄又ハ領得シタル者ハ三年以下ノ徴役ニ処ス」ということで、この遺骨を損壊したり、遺棄したり、または領得したる者については、そういうような刑法に触れるという規定もあるわけですから、へたするとやはり刑法に触れるような問題も出てこぬともいえない。ところが、悪意からやったわけではなくて、善意からやったわけですけれども、結果的にそういう結果になりますので、私どもも、この分骨の問題等については、慎重な態度をとるべきではないかというような感じがするわけですが、この点について、参考のためにぜひ法務省からも見解を聞かしていただきたいし、また厚生大臣もこの問題については重大な関心を持っていただきたい、そういう意味でそれぞれお答えをいただきたい。
  173. 臼井滋夫

    ○臼井説明員 私、法務省刑事局参事官の臼井でございますが、ただいま御指摘のございました遺骨収集と刑法の規定との関係につきまして、具体的な事実関係その他でなく、一般論としてお答え申し上げたいと存じますが、この罪は、申すまでもなく善良かつ健全な社会秩序、社会風俗としての一般国民の宗教感情、特にまた遺族の祖先、死者に対する尊崇の念、そういったものを保護しよう、こういうことで設けられておる罪でございます。遺骨は、申すまでもなく死者の祭祀、祈念のために遺族がそれを保存し、または保存しようとする人骨でございます。したがいまして、遺骨収集の問題は、御指摘のとおり刑法百九十条との関係が問題になり得ようと思います。  ただ、これにつきましては、法律上、技術上の問題がございますが、ごくかいつまんで申し上げますと、この百九十条の罪は、ただいま申しましたように、死者を冒涜するような行為というものを処罰の対象にしようとするわけでございますから、民間の方が善意で海外に遺骨を収集しにいらっしゃいましてこういうことをおやりになりましても、これは刑法の百九十条には触れてまいらないと思うわけでございます。ただ、そういう遺骨収集に藉口いたしまして、死者を冒涜するような行為があるといたしますれば、これはこの罪に触れる可能性もあるわけでございます。  ただこの罪は、国内で行なわれた場合だけを処罰するわけでございまして、日本国内、すなわち日本の主権の及ぶ範囲内で行なわれた場合につきましては比較的軽い罪であるということと、もう一つは、これは日本国内のそういう宗教感情、社会的な宗教風俗というものを保護しようという罪でございますから、国外におけるこの種の行為は処罰されていないわけでございます。そういうことで、国外でそういうことが行なわれましても、これは善意、悪意を問わず処罰することができないということになろうと思います。  もう一つ、何と申しましても、罰則を適用するにつきましては事実関係の確定ということが非常に重要でございます。したがいまして、問題のそのお骨が、わが戦死者、戦没者の遺骨であるということが、捜査の結果はっきり証拠上確定されなければならないわけでございますが、原則といたしましては、日本の捜査権の及ぶ範囲は日本国内に限られますので、そういった事実上の証拠収集上の難点というような問題もあるわけでございます。  概略一般論としてそのようにお答えいたしたいと思います。
  174. 河野正

    河野(正)委員 私が申し上げたのは、何も処罰してくれと言っているわけじゃないのですから、一般論としてはそれでけっこうです。ただ、もしそういうことがあったときにはたいへんだということでここで指摘しているわけですから、それはけっこうですが、ただ心配いたしますのは、熊本と鹿児島が行ったのは、収集して持って来て分骨しておるわけですが、それは分骨しているわけですから、自分の肉親だとかなんとかじゃない。国内でそういうことをやったら道義的には問題があることは明らかなんです。だれの骨かわからないのをかってに分骨するのですから。けれども、もし法の拡大解釈によって、そういう場合には刑法に触れるのだということになれば、これは遺家族にとってはたいへんなことですから、私どもは、これを取り上げてどうしてくださいと言っているわけじゃない。もし結果的にそういうことになったらたいへんだということで、老婆心からここで質疑を重ねておるわけです。  ただ私が心配いたしますのは、外地でそういうことをやった場合には、国内法ですから国外には及ばないが、内地に持ってきて、そして適当に分骨するということが実際許されるかどうか。その人の肉親の骨なら、あなたの肉親の骨を持ってきましたよ、これはいいと思います。これは当然だと思うのです。ただ収集してきたものを分骨するようなことが問題を起こさぬのかどうか。私どもは、そうやりなさいというのではなくて、これは非常に慎重に、もしそういう場合にひょっと刑法にひっかかったらたいへんなことですよという意味でここでやっているわけですから、この点はあまり気をつかわないで親切に答えてもらったほうがいいと思うのです。いま申し上げたように、持ってきて分骨する、こういうことはひっかかりませんか。
  175. 臼井滋夫

    ○臼井説明員 先ほどお答えが不十分でございまして、申しわけございませんでした。  国内に持ち帰ってからのことでございますが、国内に持ち帰りましてから、先ほども申し上げましたように、死者を冒涜するような行為、たとえば持って帰ったものを捨てるとか、あるいはこれを何か飾りにするとか、そういうような死者を冒涜するような行為がございますれば、これは遺棄とか領得とか損壊ということになり得ると思うのでございますけれども、たとえ自分の父親あるいは兄弟、そういう方のお骨でなくとも、日本国の戦死者、戦没者のお骨をねんごろに葬るという趣旨で、分骨しておともらいをしてその気持ちをあらわすというような行為でございますれば、これは刑法上の問題には全く触れないというふうに考えます。
  176. 河野正

    河野(正)委員 どうも私ちょっとすっきりしないのですけれども、自分の肉親の遺骨等については、それはもう問題ないと思うのですね。ただ、どなたの遺骨かわからぬものを民間でかってに分骨することがいいのかどうか、ちょっと私どもひっかかる点があるのです。せっかくあなたのほうで刑法に触れぬのだとおっしゃるからけっこうなことだと思うのですが、事と次第がどうもその辺すっきりしないのですね。そういうことになりますと、侮辱さえしなければ、骨を持ってきてどういうことをやってもいいのかという議論にも通じていくと思うのですよ。そういうことが実際許されるのかどうか。若干これは道義的に問題があると思うのです。  ただ私どもおそれているのは、もしそういうことが刑法にひっかかるというようなことになった場合にはたいへんだから、そういうことのないようにここで警告の意味でやっておるわけだから、この点はあまりいろいろお考えにならぬでお答えをいただいたほうがよかろうと思うのです。私ども言っておるのは善意で言っておるわけですから。ちょっと納得いきませんけれども、まあそのとおりだとおっしゃれば、私どもはそれはそのとおり受け取っておきます。しかし、いずれにしても道義的にちょっと抵抗を感じますよ、率直に言って。ですからその点ひとつ大臣から。
  177. 園田直

    ○園田国務大臣 遺骨の収集を民間にまかせましたところ、いろいろな問題が起こりました。一つの大きな問題はいまの問題でございます。そこでこれは第一に、民間の方が出発される場合に、ややもすると、いろいろな寄付をもらわれたり、あるいは中には遺族の方から費用を徴収したりするようなおそれもございます。それからまた、帰りましてからは、遺骨は全部政府がちょうだいをして、そして千鳥ケ淵に国家の行事としてお納めをして、これはあとで靖国神社にお祭りするわけでございますから、遺族の方はそれで十分でございますが、これを私のほうでは認めていないのに、非公式といいますか、こっそりといいますか、骨を持って帰って各所で慰霊祭をされることは、遺族の方の感情は、中には非常に喜ばれる方もありますが、現地では、聞きますと、それでは自分がいま祭っている墓の骨はだれの骨だという声もありますし、それからまた、遺族の方が、先ほど新聞のことを言われたが、夜な夜な父親のことを思い出してお迎えに行ったのとはだいぶ違いまして、骨を持って帰ってそこで慰霊祭をやった場合に、ややもすると、道義的に私が抵抗を感じますのは、それはむしろ遺族の者が慰霊をするのではなくて、行った人が、自分たちが遺骨を持って帰ったのだという、何かこう宣伝的というか、そういうことにおちいりやすい弊害が非常にあるわけでございます。それがひいては今度はいろいろな選挙であるとかあるいはその他のことに使われる可能性もございますから、この点については十分注意していたところでございますが、今後とも十分注意をしてそのようなことがないように行政指導を強力にしたい、こう考えております。
  178. 八田貞義

  179. 受田新吉

    ○受田委員 限られた時間に盛りだくさんなお尋ねをしようと思います。端的に御答弁を願い、端的に質問をいたします。  この戦傷病者戦没者遺族等援護法が昭和二十七年の四月以来十六年にわたって、大東亜戦争、支那事変という、その規模があまりにも広大で、その大き過ぎた犠牲を受けられた方々に対する処遇として、非常に人道的な立場で貢献をしたことを私たちは心から感謝しております。同時に、この法律の制定以後一年たちまして恩給法がスタートをして、援護法の中に含まれていたおもな人々が、あるいはみたまが、恩給法の適用へかわっていった。そこから恩給法と援護法の……   〔「定足数が足らぬ、ちょっと待て」と呼び、その他発言する者あり〕
  180. 八田貞義

    八田委員長 静粛に願います。
  181. 受田新吉

    ○受田委員 それでは質問を続行いたします。  この恩給法が復活いたしましてから、援護法の中から分離された、しかも基本的な立場の方々が恩給法で救われることになりましてから、逆に問題は援護法と恩給法の間にアンバランスができてきたわけです。スタートのときは全く同じであった。それが恩給法に移管することによってその間にアンバランスができたということは、一方が恩給法というきびしい制約のもとにスタートしたその規定を適用される人は優遇せられ、援護法に残っている人々は、他の公的年金制度その他とのバランスのほうへ常に目が向けられる。国家の至上命令によってなくなられあるいは傷ついた方々が、恩給法と援護法の中でアンバランスというかっこうになってきた。これはひとつ大臣も十分御承知いただかなければならない。私がここで指摘したいのは、この戦傷病者援護法と恩給法、いずれもが国家の至上命令でそのとうとい生命をなくしあるいは傷ついた人であるということ、この点では全く同じである。その根拠法が違うばかりにその差別ができたということをひとつお考えいただいて、国家の至上命令で動いた方々の生命、そしてその遺族の処遇、こういうものはできるだけ公平なかっこうでひとつお扱い願いたいということを私はまず提唱したい。  そこで、具体的な例を申し上げますと、私、毎年これを指摘して、一向改めておられない。ただ、いささか前進をしておられるということは言えるのでございますけれども、公務扶助料で支給せられる金額と、同じ戦没された方々の援護法の遺族年金との金額が、兵の階級においてなぜ異なっておるか。これは私としてはたびたび申し上げているが、一向改まっていないだけに非常に残念なんです。今度改正された金額にいたしましても、新しい年齢別な差等がつけられた。兵、七十歳以上は、恩給法の公務扶助料は十二万六千百四十四円、そして援護法の遺族年金は十二万五千五百円、その差六百四十四円。まことに接近した金額でありますけれども、三十三年の改正の時点では、三万五千円というあの時点では全く同じであったものが、その後の改正でなぜ差がつけられたかをしばしば私ここで指摘して、それが幾ぶん圧縮されておっても、まだここに厳然たる差がついているということの理解に苦しんでおるわけです。この法の審査にあたって、基本的な問題としてこの差がなぜついているかの御答弁を願いたいと思います。
  182. 実本博次

    ○実本政府委員 この点につきましては、前回の本委員会におきましても、援護法の改正に際しまして先生からお尋ねいただきまして、また激励されたわけでございます。今回のベースアップもその問題を解決する方向で考えてまいっておったわけですが、今回のベースアップが、全く主として四十二年度のアップ率を調整するという方法によって算出されたために、兵の公務扶助料と遺族年金の額との差が、御指摘のような一番少ないところでも六百四十四円というのが残ってしまったわけでございまして、その点につきましては、根本的にそういった差を解決することができなかったことを非常に遺憾に思っております。ただこれにつきましては、先生お示しのこの差額を解消する方向で努力してまいりたい、かように考えておるわけでございます。
  183. 受田新吉

    ○受田委員 厚生省としては、これを解決しようという形で予算要求はされたことがあるのですか。
  184. 実本博次

    ○実本政府委員 四十三年度の予算要求といたしましては、それを計上いたしました。
  185. 受田新吉

    ○受田委員 大蔵省の方は来ておられますか。——大蔵省へひとつ……。  この援護法の障害年金の一項症から六項症まで、そして三款症まで、これは恩給法の同じ関係項目と金額が一致しているわけです。傷病者の分は完全に金額が一致している。ところが、なくなられた方の遺族に対しては、小なりといえどもなぜ差がついているのか。厚生省は予算要求されたと言っておられる。障害年金関係では全く同じにし、遺族年金でなぜ差をつけたか。要求されたことと、それを削られた大蔵省の立場、両方を勘案して理解に苦しむ点があるのですが、大蔵省としてこれを押えられた理由を御説明願いたいと思います。
  186. 辻敬一

    ○辻説明員 恩給法の対象といたしております軍人と、援護法の対象といたしております主として軍属につきましては、身分関係なり勤務の態様が必ずしも同一でないという観点もございますので、その間の処遇をどういうようにすべきか、いろいろ議論のあるところであると思います。先ほど厚生省からお答え申し上げましたとおり、今回の改正案につきましては、前年の引き上げ率を基準といたしまして調整をはかったという関係上、若干の差が従来どおり残ったような次第でございます。
  187. 受田新吉

    ○受田委員 ちょっと御説明に理解に苦しむ点があるのです。恩給法に規定してある軍人と、援護法に規定してある主として軍属——援護法の中にも軍人があるわけですが、軍人、軍属で、そしてその勤務形態も全く同じです。大東亜戦争の規模から言って、全く同じような形でなくなっていかれた方々、その遺族に、その勤務の内容が違っているというようなことを申し上げると、靖国の神となっておられる神さま御自身が悲しまれることだと思うのです。この点につきまして、障害者、傷病の身となられた方に対しては同じ金額にした理由と、なくなられた遺族に対する金額に差がある理由、その間の関係は一体どうなっているのか、御答弁を願いたいのです。
  188. 辻敬一

    ○辻説明員 先ほど申し上げましたとおり、軍人と、それから主として軍属との間の処遇をどうすべきかにつきましては、いろいろ御議論のあるところであると存じます。したがいまして、今回の改正案におきましては、去年の引き上げ率を基準として調整した関係上、従来どおり若干の差がある、こういうことでございます。
  189. 受田新吉

    ○受田委員 増加恩給に掲げてある項症に対する手当と、こちらの援護法に掲げてある障害年金の手当とは全く同額です。これは平等だとごらんになった理由はどこにあるのですか。
  190. 実本博次

    ○実本政府委員 恩給法のたてまえは、いま恩給局から見えておられますが、増加恩給につきましては、障害の程度が第一項症であるとか第三項症であるとかいうことだけについて基本額をきめていくということになっておるわけで、これは先生御承知と思いますが、ただ公務扶助料のほうは、やはりなくなられた方の仮定俸給と申しますか、身分ですね、将官なり士官なり下士官なりというふうなことで算定額が違っておるので、それを一緒にすることはできなかったのじゃないか、こういうふうにわれわれ考えられるところでございます。  ただし、そういった問題とは別に、この問題につきましては、先生お話がありますように、こちらでも軍人が入っております。もちろん軍属、準軍属が大多数でございますが、軍人も入っておりますし、向こうと同じ額にしていただくことについては、厚生省としては年来の願望でございまして、いずれのときにかはこれは解消していただくというふうに考えておるわけでございます。
  191. 受田新吉

    ○受田委員 厚生省は、軍人、軍属と準軍属と差をつけておると思うのです。それから、準軍属が多いからというなら、準軍属はさらに冷遇されておる。それを準軍属も一緒に含めて同じ金額にしておるというのなら、私は局長のお説にある程度耳を傾けざるを得ないかもしれませんが、準軍属が大半と言うて、いま指摘された準軍属ははるかかなたに追いやられておるわけです。動員学徒のごとき、同じ軍人、軍属として十分の十で見ていただきたいという、遺族から見たらほんとうに切な希望がある。それが十分の五から十分の六、やっとこさで十分の七というようなところで、依然として差がつけられておる。これも私、十分の十に目標を置いて、そこへ努力をされるというお気持ちがなければならぬと思うのですが、ちょっとそのことをお聞きしたい。
  192. 実本博次

    ○実本政府委員 私の御説明がちょっと正確を欠いたかと思いますが、準軍属の問題は、先生指摘のごとく、援護法の中で十対七というふうな差がございまして、それは勤務の態様とか身分関係ということで、やっと昨年の改正で十分の七になったわけでございます。問題は、援護法の軍人、軍属の遺族年金の額の関係と、恩給法におきます公務扶助料の兵の額の関係は、先生指摘のように、詰めていくべきじゃないかというふうに考えておるわけでございます。準軍属の問題は、先生指摘のとおりでございまして、これはまた別途の問題といたしまして、この処遇の問題については将来検討していかなければならぬと考えておるところでございます。
  193. 受田新吉

    ○受田委員 援護法の中に二つの関係があるものですから、差別を受けている援護法の中で、さらに準軍属は軍人、軍属よりも差別を受けておる。二様のかまえがあるわけです。その第一のかまえのほうで、昭和三十三年には公務扶助料の最下位と遺族年金とは同額であったのです。三万五千二百四十五円でしたか、そのときは全く同じであった。同じであったときのが間違っておったということになるのかどうか。同じであったものが、だんだんと改正されて五万三千円になったときに、そこで二千円くらいの差をつけられた。それから累次の改正で一向これが改まらない。今度、金額は狭まっておりますけれども、その差が依然としてついておる。三十三年では公務扶助料の最下位と遺族年金は全く同額であったことを厚生省は御存じでなければならぬ。大蔵省もそれをお認めになっておって、途中でこれを差をつけたということを、私ははなはだ不愉快に感じておった。このあたりでこれをすかっと一本にすべきである。増加恩給と障害年金は項症の度に応じて全く同額にしておるものを、その遺族に支給する年金だけが差があるということは筋が違っている。主計官、どうですか、私の切なる気持ちはおわかりでございましょう。おわかりならおわかりと、ひとつ言っていただきたい。
  194. 辻敬一

    ○辻説明員 ただいま御指摘の問題につきましては、今後諸般の事情を勘案しながら慎重に検討してまいりたい、かように考えております。
  195. 受田新吉

    ○受田委員 諸般の事情の中には——ちょっと私も、それをお尋ねすると時間がかかりますから、慎重にやるということに期待して、きょうはその問題は一応おきましょう。この次からはそれをひとつ一本にすべく厚生省も猛烈にがんばる。大蔵省も十分私の説をお聞き取りいただいたから、主計官殿が何かの決意を表明されると思います。  そこで、準軍属の十分の七、これは若くして散れる青年、われわれにしてみれば痛ましい思い出でございますが、いまごろ生存しておられるなら、さぞ国家社会のために偉大な貢献をされたであろう若人、花と散っていかれたその方々に対しての十分の七という、一歩ずつ前進をしたけれども、これをひとつ軍人、軍属に近づけていく。十分の十まで、これは一ぺんではなかなかならぬと思いますけれども、十分の八、十分の九と前進をして近づけていくという努力を厚生省は考えていただけるかどうか、政府の意向を伺いたい。
  196. 実本博次

    ○実本政府委員 先生指摘のように、軍人、軍属にかかる年金と準軍属にかかります年金と、その額において十対七というふうな現状になっておるわけでございます。これは、終戦前におきます両者の身分関係、勤務の態様等に差があったために、国家補償の精神に基づく援護にもおのずから差があってしかるべきであるという考え方に立って、こういうふうな規定のされ方になったということでございますが、法制定後、年を経るに従いまして、逐次他の分野におきます処遇の改善が行なわれてまいりますし、また、このような処遇の差を設けることに対する国民感情にも変化を生じてきておるというふうなことから、昭和四十一年には、このような差を縮小する方向でこの処遇改善の法律改正が行なわれたわけでございます。その際にも、三十二年十一月に、やはり恩給法、援護法の問題で各方面からの権威者を集めました臨時恩給等調査会の報告——これはたしか先生もその中にお入りになっていただいたと思いますが、その報告書の意見を尊重いたしまして、特に六割ないし七割というふうなことが書いてございました最高をとりまして、現在の七割まで持っていったというふうな改正が行なわれたわけでございます。したがいまして、現在再びこの差をすぐまた縮小するというふうな時期に至っておるとは考えてございませんが、しかし、先生いまのお話の向きもございます。   〔私語する者あり〕
  197. 八田貞義

    八田委員長 静粛に願います。
  198. 実本博次

    ○実本政府委員 将来そういった諸条件に著しい変化が出てまいりますことは明らかでございますから、当然そういう時点検討さしていただきたい、かように考えておるわけでございます。
  199. 受田新吉

    ○受田委員 その方向にひとつ努力してみたいという御答弁と了解してよろしいですね。いいですね、大臣
  200. 園田直

    ○園田国務大臣 そのとおりでございます。
  201. 受田新吉

    ○受田委員 大臣からも言明がありましたので、御期待を申し上げておきます。  同時に局長さん、いまの増加恩給と傷病年金に対応する障害年金——現行では増加恩給は七項症まで、それかも四款症まである。このほうは六項症、三款症、この差がある。同じと私が申し上げたのは、大半が同じであって、こちらのほうに欠けたのがある。これはどうでしょうか、欠けたほうは。
  202. 実本博次

    ○実本政府委員 お示しのように、確かにいわゆる軍人恩給におきましては、新で第五款症以上の者が処遇されておるのに対しまして、援護法では、新第三款症以上でなければ障害年金が支給されないというふうなことになっておるのでございます。しかしながら、いまこの差を解消するかどうかという問題になりますと、恩給法で行なっております新第四款症、第五款症というものは、たとえば五款症は小指が一本ないというふうな程度のものでございますが、そういった軽度の関係の方々は、一般に労働能力にさほどの制限がなくて、恩給法のように、完全な国家補償、コンペンセーションというたてまえでできている場合は別といたしまして、遺族援護法のように、援護をする精神は国家補償の精神でございますが、援護をするということになりますと、そういう軽度の障害者につきまして援護の必要性が非常に薄いのじゃないかというふうに考えられておるのでございます。それともう一つは、他の一般的な社会保障制度、たとえば厚生年金の場合につきましても、そういった軽度のものにつきましての取り扱いはやっておりませんので、この際援護法におきましては、新第三款症の現状をいますぐに改めようというふうには考えておらないということでございます。
  203. 受田新吉

    ○受田委員 小指の先がちょっとぐらい欠けたという程度といえども、国家の至上命令でこれは欠けた。自分で誤って欠けたんじゃないのです。その点においては国家に献げた身体の一部である。それを無価値のような評価をされることは、大東亜戦争、支那事変という戦争の性格からいって、たとえそれがもし身体のささやかな一部であっても、これを害してはならぬと私は思いますが、御所見を伺いたいと思います。
  204. 実本博次

    ○実本政府委員 確かに先生のおっしゃるような意味では軽視はできないと思いまして、戦傷病者のそういった面での援護の配慮をいたしまして、遺族年金、障害年金を差し上げる遺族援護法における処遇とは別に、戦傷病者特別援護法という法律がございまして、それには、先生がおっしゃいます第五款症以下第二目症まで戦傷病者手帳を差し上げまして、そこで所要な援護と申しますか、国としての処遇を考えておるわけでございまして、いまのところそういうことで敬意を表していきたいと考えておる次第でございます。
  205. 受田新吉

    ○受田委員 戦傷病者特別援護法で手帳を差し上げ、それで所得税その他の減免措置が身体障害者並みになるとかいう特典が一つ書いてある。そこで救われるからいいじゃないかという問題でなくて、目症度の方にはごくわずかでも年金を差し上げてはどうかという意見もある段階において、そういう目症度の方々が救われるという段階になれば、当然障害年金の対象の方々も範囲を広げられるという措置をしていただけますね。
  206. 実本博次

    ○実本政府委員 この問題に限りませず、先ほど軍人、軍属と準軍属の処遇の調整の問題で申し上げましたように、この分野におきまする処遇の飛躍的な改善が行なわれてまいります事態になってまいりますと、もちろんそういうふうな意味での前向きの努力はしてまいりたい、かように考えておりまして、この障害の程度の低い方々に対します処遇につきましても、その一環として、前向きで考えてまいりたいと考えておる次第でございます。   〔私語する者多し〕
  207. 受田新吉

    ○受田委員 騒々しくて、発言が皆さんに聞こえないし、答弁が聞き取れない。大事なことをお尋ねしておるのですから、新聞社の皆さまにもよく聞き取っていただくように、場内を整理していただきたい。
  208. 八田貞義

    八田委員長 一切私語を禁じます。御静粛に願います。
  209. 受田新吉

    ○受田委員 では質問を続けます。  私はこの機会に、この恩給法関係で関連したお尋ねをしなければなりません。それは今度症状等差の報告書が委員会から出ておるのでございますが、その扱いについて、五項症から一款症に、たとえば一眼の失明程度にまでなった人が格下げされるという方がある、その方には既得権を侵害しないという意味答弁は一応いただいておるのでありますが、その答弁の既得権の中には、たとえば項症の場合には普通恩給を併給されておるのでありますから、その普通恩給という制度を含む既得権、年金額、制度等を十分考えた既得権確保という意味であるかどうか。そういう前向きの御検討をいただいてあるかどうかを、この機会に恩給局当局から御答弁お願いいたします。
  210. 大屋敷行雄

    ○大屋敷説明員 症状等差調査会の報告をそのまま実行いたしますと、先生が御指摘になっておりますように、症状等差が上がるものと、当然その反面下がるものが出るわけでございます。問題になりますのは、現在恩給を受給しておる方でその症状等差が下がる場合、その場合にどういう措置をとるかということが、一番実行する場合に問題になると思います。現在恩給を受給しておる方の既街権を保障するということは、法律上当然やらなければならぬと考えております。しかしながら、この場合、先ほど先生が御指摘になりましたように、増加恩給には普通恩給が併給される。その増加恩給受給者が死亡した場合には、その遺族に扶助料がいくという制度になっておりますので、この問題につきましては、非常に困難な点があるわけでございます。現在の段階といたしましては、そういうような制度的な点も含めまして、既得権を尊重することができるかどうかというような方向で検討を進めております。
  211. 受田新吉

    ○受田委員 そうしますと、既得権の中には制度的なものも含めて検討しておると了解してよろしゅうございますか。
  212. 大屋敷行雄

    ○大屋敷説明員 当然そういう問題が出ますので、それを含めて検討しておる状況でございます。
  213. 受田新吉

    ○受田委員 援護法のほうについても同様のことが言えるわけでございます。既得権の尊重は憲法二十九条の精神で当然お考えになっておられると思いますが、同様でございますか。
  214. 実本博次

    ○実本政府委員 そのとおりでございます。
  215. 受田新吉

    ○受田委員 援護局長にひとつお尋ねしたいのですが、既得権といいますと、その中にはすでに得た権利もあるし、将来また当然他のものと一緒に期待される期待権というのがあるわけです。その期待権の侵害も既得権の侵害かどうか。これは法制局おられますか。ちょっと期待権は既得権の範疇に入るかどうか御答弁願いたいと思います。
  216. 真田秀夫

    ○真田政府委員 お答え申し上げます。厳密な意味で申し上げますと、期待権はいわゆる財産権ではございませんので、必ず保障しなければ憲法違反になるという性質のものではないというふうに考えております。
  217. 受田新吉

    ○受田委員 厳密には期待権は入らない。しかしこれをおおらかに見れば既得権の権利の一つという、つまり概念的には期待権も既得権の中に入れる場合もある、こういう裏づけが一方にあるのかどうか。
  218. 真田秀夫

    ○真田政府委員 重ねて申し上げますが、厳密な意味では期待権は財産権それ自体ではございませんから、憲法でじかに保障している対象とは言えない。しかし、非常に期待の度が強くて、非常に尊重するに値する立法政策上の問題として、これを保護し尊重するという立法は一般に行なわれております。
  219. 受田新吉

    ○受田委員 そういう意味で、ひとつ厚生省も恩給局も、その既得権を十分尊重し、また他の同じ立場の皆さんが処遇を改善されるときには、その期待権を含むような意味でもひとつ御検討を願わなければならない。  私は実は、今度症状等差委員会の報告に伴う格上げの分はけっこうでございますけれども、格下げの分については、この法律ができ上がって後に未帰還などで戻ってこられた方の場合に適用するのであって、これまでにこちらにおってこの権利のもとに手当をいただいておった方々は、この法律では従来のとおりに守っていくというのが本筋だと私は思っておるのでございまするが、そういうことも含めて、ひとつ法律施行後における——たとえば未帰還の方々の場合には、新しく権利を取得される方であるから新法の適用を受けるとかいうような、その意味での御検討も、恩給局及び援護局、両方ともで願いたい。御注文を申し上げておきます。  さて、時間があまりないことになりましたから、ここで掘り下げた具体的な問題を一、二拾ってお尋ねをさしていただきます。  わが国でなくなられた英霊を祭る機関に靖国神社と千鳥ケ淵墓苑とがあります。千鳥ケ淵墓苑のほうは、大東亜戦争でなくなられた英霊の遺骨の象徴であるという御説明を聞いておるのでございまするが、これは国費でおまかないを申し上げておる。また、靖国神社に神として祭られておる英霊の方々に対しては、国家護持という立場の声がまだ具体化されていない。具体化されていないということは、法律となってあらわれていないということでございまするが、この間の関係についてお尋ねしたいのですが、これは厚生大臣に直接伺いたいと思います。補助説明の必要があれば援護局長から御答弁をいただきたいと思いますが、千鳥ケ淵の墓苑は、厚生省が国立公園局に管理せしめておる。ここにお祭りしてある、お墓にお納めしてある英霊のお骨というものは、だれのお骨かわからないけれども英霊のお骨である、こうなっておる。これは英霊のお骨の象徴ということは、単に遺骨というだけでなくして、一つの感謝の気持ちを持った精神的な面が入っておるのではないかと思うのですが、ただ単に国家に生命をささげられたとうといみたまがそこに残っておると見るのか。厚生大臣の所管事項でございますので、それを一つと、それから、靖国神社にお祭りしてある英霊は、精神的なものとして、神として、国家に奉仕された方をおたたえ申し上げ、感謝申し上げる、こういう意味の神社である。こういうことになりますと、その間どちらにも一つの精神的な要素が入っているようにも思えるのでございますが、いま二つのみたまを祭ってある機関がございますので、それに対する説明をちょっとしていただきたいのです。
  220. 園田直

    ○園田国務大臣 千鳥ケ淵は、いまおっしゃいましたとおり墓苑でありまして、戦死をされた方々あるいは戦争中なくられた方々の、無名の戦士といいますか、お遺骨をお納めしておる墓苑でございます。墓苑といいましても、お骨だけが分離されたものではなくて、当然ここには、日本古来からの習慣であるみたまに対する感謝の念も含めて、厚生省がお祭りをするものでございます。靖国神社のほうは、これは慣例に従いまして、戦死された方々のみたまをお祭りして感謝するということであります。
  221. 受田新吉

    ○受田委員 この千鳥ケ淵墓苑は国費でおまかない申し上げておるが、英霊のほうについては国の関与することがない、こういう形になっている。これは片手落ちじゃありませんか。
  222. 園田直

    ○園田国務大臣 これは当然、感情から申しますると、特に遺族の感情及び戦争でなくなられた方に対する感謝の気持ちから言えば、これは両者相通ずるものである、同じものであると思いますが、しかしながら、現実には靖国神社は、宗教法人法の適用を受けて運営されておる宗教団体になっております。したがいまして、このままの体制では、国が経費を支出をしたり、あるいは維持管理の衝に当たるということは、憲法二十条と、また八十九条の規定に抵触することになりまするので、ここに問題があるとは思いまするが、現実はその点に問題があるわけでありまして、いまのままで国家がこれを護持するというのは、気持ちの上では別でございまするが、できない。しかしながら、いまおっしゃいましたような国民の心情、遺族の感情等も十分理解されるところでございまして、目下、遺族の関係の方々やあるいは自民党のほうで、これに対する解決について検討しているようでございますし、政府としてはその成り行きを見守っておるところでございます。
  223. 受田新吉

    ○受田委員 政府の命令で第一線でなくなられた方々に対して国がお祭りをしてあげようということに対しては、政府自身が法案をお出しになって国会の御賛同を求めるという形をとるのが、私は筋合いではなかったかと思う。国会のほうでいろいろ動いておるようであるからそれにまかせるというのは、政府としては職務怠慢ではないか。お考えを承りたい。
  224. 園田直

    ○園田国務大臣 政府としてはそういうことでございまするから、全国の戦死者の方々の追悼式とかあるいは慰霊祭等を実施をしておるわけであります。
  225. 受田新吉

    ○受田委員 そうしますと、靖国神社の名称、宗教行事等の問題を解決しながら、憲法に抵触しないように改正しながら、法案政府自身がお出しになる気持ちがあるのかどうか、ひとつ伺いたいです。
  226. 園田直

    ○園田国務大臣 先ほどから申し上げますとおり、宗教法人法の適用を受けておる現在では、靖国神社が宗教団体になっておりまするから、いかようにもしかたがございませんけれども、国民感情なり遺族の方々の感情もありまするから、これをどのようにやるか。と申しましても、靖国神社を政府の力で宗教法人からはずすとか、あるいは宗教団体からはずすということは、なかなか困難な問題でございますので、十分検討したいと考えております。
  227. 受田新吉

    ○受田委員 法制局の御答弁を願いたいのですが、この問題は、憲法違反と思われる内容を変えて、国家の祭祀という形に切りかえるということは可能とお考えかどうか、法制局の御見解をただしたい。
  228. 真田秀夫

    ○真田政府委員 憲法第二十条第三項、それから第八十九条の規定がございますので、宗教法人である限りにおいては、国としてこれを護持し、ないしは国費を支出するというわけにはまいらないわけでございまするので、問題は靖国神社の実体にかかわることでございまして、その実体がいまの宗教性をなくしたものに形が変わってまいりますれば、当然憲法上支障がなく立法化することができるわけでございますので、そういうことはどこの所管になるか、ちょっとむずかしい問題でございますけれども、しかるべき所管部局においてそういう立案の作業をお始めになれば、私たちとしては当然審査をして、憲法に抵触しない形の立法をつくりあげるということは当然でございます。
  229. 受田新吉

    ○受田委員 憲法に抵触しない法律案をつくることは可能であるという法制局の見解もあったわけでございますから、いま国会内でその動きのあることが、そういう意味において、これが実を結ぶことを私は期待を申し上げておきます。  同時に、いまお尋ねした中でちょっと関連する問題を取り残しておりましたので、一言だけお尋ねしたいのですが、戦傷病者特別援護法で、症状の高い方には十二枚の鉄道の無賃乗車証が交付されているが、症状の低い方で、逆に御主人にかわって奥さんが会合に出たり、あるいは御主人の仕事の代理をしたりする場合に、この無賃乗車証は、長期にわたって御苦労されて、御主人の身体の欠陥をお助けする大事な役を果たす奥さんのほうへ、ひとつ共同使用できるような道を開いてあげてはどうかと私は思うのです。都合によれば、限られた枚数を二人して使うことを許して、御夫婦そろって行動ができるような愛情ある措置も、私、必要であると思うのですが、この無賃乗車証の使用について、夫人に対する乗車証配分という私の熱願は、いかようにおはからい願えるか。むずかしいことでございましょうけれども、国鉄当局でなくして、援護局長としてでけっこうです。戦傷病者特別援護法の御所管の厚生省として、無賃乗車証の夫人への流用と言っては何ですが、共同使用、むずかしゅうございますか。
  230. 実本博次

    ○実本政府委員 これは先生も御承知と思いますが、重度の方々には介護者ということで、介護者にも無賃乗車証が行っておるわけでございますが、先生お話しのように、比較的障害の軽い方については本人だけ、こういうことになっておるのでございますが、その点いま介護者にも出しております症状等差をもう少し下へ延ばしてくれという線で、われわれのほうも運輸省当局と交渉してみたい、かように考えております。
  231. 受田新吉

    ○受田委員 下に広げると同時に、夫人の立場を考えてあげる。夫婦そろうて御苦労しておられる、それはうるわしいことだと思うのです。御夫人に二枚くらい年間に支給して、傷ついた御主人を助ける奥さんとともに御夫婦で旅行されるくらいの愛情はあっていいと私は思う。厚生大臣、これは非常に善政の一つだと思うのでございますが、いかがですか。
  232. 園田直

    ○園田国務大臣 非常に御貴重な御意見でございますから、その御意見に従って検討してみたいと考えます。
  233. 受田新吉

    ○受田委員 それでは、もう時間は迫っておりますが、もう二点だけ簡単な問題をお尋ねします。ごく簡単に御答弁願いたい。  未帰還者の問題は、いま河野さんからお尋ねになっておられたから重複を避けます。ただ、いまだ帰らざる方々のために、政府としては非常な努力をしていただかなければならない。いま地域の問題も出てきた。外務省としてお考えを願いたいことが一つある。それはいまだ帰らざる方々の中に、もう死亡がほとんど確定している方には、すでに戦時死亡宣告の処置がとられておる。けれども、はっきり生きておられることがわかっておられる方に、これ以上長期にわたって海外に御苦労願うことがないように、何らかの方法で、すみやかな外交措置によってこれをすみやかに帰還させる。戦後二十三年もたっておるのだ。それに対する見通しをちょっと伺いたい。
  234. 実本博次

    ○実本政府委員 いま外務省ちょっとお見えになりませんが、厚生省といたしましては、先ほど河野先生のときにも申し上げましたように、未帰還者の留守家族の心情を思いまして、あらゆる機会をつかまえまして、その方向で進んでまいりたいと考えております。
  235. 受田新吉

    ○受田委員 それでは、お許しをいただいたから急いで質問しますが、私が非常に心配していることで未帰還公務員という立場の方があるのです。特に外務省に大量におられる。朝鮮、樺太、台湾、関東局などにおられた方々、この方々がまだ帰られない立場でその御家族に支給されている留守家族援護手当、この金額は指摘のとおり非常に少額です。これは公務員の給与を基準にして、あちらに行かれたときの二十一年当時の給与を基準に置いて措置がされておるのでございまするが、現に生存されておられて、もし日本におられたら五万か十万かのサラリーマンには少なくともなっておられるような方がごっそりおられるわけです。現職の公務員であられるのですから、もう少し高額な措置が必要ではないか。  それからもう一つ、この未帰還者の数は、もう数十名と思いますけれども、外務省に片寄って、他の省はもうほとんど帰っておられる。にもかかわらず、国家行政組織法の全面改正をされた昭和三十六年に、各省設置法の中の定員の規定の末尾に「未帰還職員に関する取扱いについては、なお従前の例による」といわれて、各省別にこれは分散された。ところが、もう全部帰還してしまっている役所が大半であるにかかわらず、この規定が残っているということは、はなはだ変なんです。死文をいつまでも法律に残しておる。これは行管としては各省設置法の末尾にあるこの規定を削除すべきでないか、こういうことを強く感ずるのでございますが、この二つの点についてそれぞれの担当者から御説明願いたい。
  236. 実本博次

    ○実本政府委員 先生お示しのように、未帰還公務員で残っております者は、私のほうで調査いたしましたところ、現在外務省に四十六名の方がおられますだけでございまして、その以外の各省はございませんので、この四十六名の処遇の問題につきましては、先生お話のようなことも考えながら、処遇の改善を外務省と話し合っていきたいと思っております。  それから、あとの設置法の問題につきましては、行管ともよく相談いたしまして、そういう実績がないものであるといたしますれば、先生お話のような方向で整備してまいるべきだと考えております。
  237. 北山恭治

    ○北山説明員 いまお話のございました設置法の規定の件は、御意見のとおりでございます。未帰還者が全部なくなったことがはっきりした場合は、規定を削除いたしたいと思います。
  238. 受田新吉

    ○受田委員 はっきりしましたから、それではおしまいに、英霊の損壊をしないで遺体の引き揚げをしようという、沈船あるいは沈艦の引き揚げについて私は毎年指摘したのでございますが、ここで解決の御答弁を願いたいと思いまするので、御質問いたします。  英霊となって日本近海並びに南方諸地域で戦後二十数年も海底に眠っておられる英霊を早くお引き揚げ申し上げて、御遺族のお手元に帰してあげたい、これは国民的念願だと思います。その一つに、山口県大島沖に沈んでいる軍艦陸奥、この当時の大戦艦は、かつてあるサルベージが、その財物を騙取するための措置でたいへんな批判を受けて、遺体が損壊された事件がある。その後、大蔵省に対しても厚生省に対しても私から御要望申し上げた、遺体を損壊しないでこの軍艦を引き揚げていただきたいという要望に対して、大蔵省からも誠意ある答弁をいただき、厚生省からも熱意ある答弁をいただいておる。いよいよこの軍艦陸奥の引き揚げにあたって、深田サルベージからも金額を指摘してその誠意ある引き揚げを要望しておられるはずでございます。いま大蔵省及び厚生省が承っておられる、この陸奥引き揚げについての現時点の見通しをお答え願いたいと思います。
  239. 実本博次

    ○実本政府委員 いま先生お話しの陸奥の関係の問題でございますが、これにつきましては、戦艦陸奥引揚促進期成会というものが結成されまして、有力なサルベージ会社の協力を得まして、遺体収容のための船体引き揚げを企画しておるところでございますが、目下のところ、この計画樹立の基礎をなす現状実態調査の準備のため、技術、資金計画、それから漁業補償の問題等につきまして突っ込んだ検討が行なわれておりまして、また、地元の漁業関係者との間の話し合いが進んでおるということを仄聞いたしておりますが、厚生省といたしましては、その調査結果を基礎として、その計画が具体化されまして、関係各方面の協力を得て引き揚げが実現することを期待いたしておるところでございます。
  240. 受田新吉

    ○受田委員 そこで厚生省は、この遺体処理の経費とその他の英霊の処置に伴う経費は、一切負担する決意をお持ちかどうか、お答え願いたいと思います。
  241. 実本博次

    ○実本政府委員 これは、従来の方向といたしましては、そういう国有財産の払い下げに伴います条件といたしまして、そちらのほうで負担していただくというふうなことを考えておる次第でございます。
  242. 受田新吉

    ○受田委員 その遺体処理についてはどこが負担するのですか。
  243. 実本博次

    ○実本政府委員 厚生省といたしまして、あがりました以後、あがりました遺体の処理につきましては厚生省が全部負担をしてまいる。あげるまでの関係につきましては、国有財産の払い下げの条件の中に、その者の負担ということで、あがりましてからは国で全部処理をする、こういうふうなたてまえをとっておるわけでございます。
  244. 受田新吉

    ○受田委員 大蔵省にちょっと御答弁願いたいのですが、国有財産にいまなっておるこれを引き揚げることについて、漁業補償の問題はもう地元で話し合いはついておる。解決済みです。そうして大きな魚礁が四つある。その超大型魚礁の四カ所に対する六千万円程度の国庫負担を願いたいという気持ちもあるようである。こういうことを含めて、この陸奥引き揚げに対する具体策を一言お聞きして質問を終わりたいと思います。
  245. 市川広太郎

    ○市川説明員 漁業補償の件につきましては、支払われることが確実でありますれば、その金額の適正な範囲内におきまして、陸奥の売り払い代金から控除いたすということを考えております。  それから、第二の代替魚礁の設置、これにつきましては、私、実は国有財産局の担当官でありまして、所管外でございますので、お答えいたしかねます。
  246. 受田新吉

    ○受田委員 この引き揚げについては、賀屋さん、保科さんたちが責任者になっておられる。また現地には田中という責任者が非常に熱心にこれを推定しておるわけですけれども、深田サルベージという熱心な提唱をしている業者に対する大蔵省の態度はどうなっておるのか。もう一つは、陸奥の主砲の一つをちゃんと沈没した地域の丘に永久に残して陸奥をしのびたいという遺族の気持ちにこたえる意味で、主砲の一つは地元へ寄付する決意があるかないか、これもひとつあわせて御答弁願いたい。
  247. 市川広太郎

    ○市川説明員 現在、大蔵省に対しまして深田サルベージは別に意思表示を示したわけではありませんで、期成会のほうで現況調査の承認申請というのをいたしております。それに対しまして、私どものほうで幾つかの条件を出しまして、その条件を成就するという見込みがありますれば承認をいたすというつもりでございます。  それから、砲塔を寄付するかどうかということでございますが、それは、実はそのような希望を承っておりませんので、今後の問題といたしまして検討いたしたいと思っております。
  248. 受田新吉

    ○受田委員 これで終わります。  私、最後に厚生大臣の一言をいただけば、皆さんにお待ち願った御協力に対して深く感謝しながら質問を終わりますが、園田先生、海外でいまの沈船その他のことを含めて、英霊が永久に眠っておられるその地域に何らの記念碑もなければ、墓碑もない。私、東南アジア各国を歩いて、アメリカその他はばかにりっぱなお墓をつくっておるのに、日本の英霊をお祭りしてある何らの記念碑もないというさびしさを感じております。この意味において、外交交渉において、できるだけ、多数の日本軍人がなくなられた地域にその霊を祭る記念碑を建てて、何らかの形のお墓を建てて、そこに眠っておられるみたまを安んじ奉るという気持ちを、ぜひ厚生大臣は閣内で主張していただき、外務大臣とも御相談されて、諸外国に負けないりっぱなお墓を建てる。硫黄島の例を見てもわかるとおり、外国はばかにりっぱなお墓をつくっておる。われわれの同胞が血を流した地域にみたまを祭る記念碑を建てるように、そしてそこにお墓をつくって祭ってあげるという、こういう愛情のある政治を、外交とあわせて厚生大臣の御手で実現さしていただきたいと思います。これをもって私の質問を終わりますが、御答弁をお願いしたい。
  249. 園田直

    ○園田国務大臣 陸上においては、遺骨収集をいたしました際に、その中心地に記念碑または顕彰碑、墓碑を建てておりますが、海没者の方々のみたまに対してはそういうことをいままでやっていないと存じておりますので、陸上においての記念碑等もさらに検討しますと同時に、海上の主要なる地点に海没されたみたまの碑をつくることについては、御意見のとおりに関係方面とも相談をしてみたい、こう考えております。
  250. 八田貞義

    八田委員長 これにて本案に対する質疑は終局いたしました。     —————————————
  251. 八田貞義

    八田委員長 ただいま委員長の手元に、戦傷病者戦没者遺族等援護法等の一部を改正する法律案に対し、田川誠一君、田邊誠君、田畑金光君及び沖本泰幸君から修正案が提出されております。
  252. 八田貞義

    八田委員長 修正案の趣旨の説明を聴取いたします。田川誠一君。
  253. 田川誠一

    ○田川委員 私は、自由民主党、日本社会党、民主社会党及び公明党を代表して、ただいま議題となっております戦傷病者戦没者遺族等援護法等の一部を改正する法律案に対する修正案につきまして、その提案の理由を御説明申し上げます。  お手元に修正案が配付してありますので、朗読は省略いたします。  戦傷病者戦没者遺族等援護法等の一部を改正する法律案中、戦傷病者特別援護法の改正規定の施行期日は昭和四十三年四月一日と予定されていたのでありますが、本法案審議の経緯にかんがみまして、この規定を公布の日から施行し、昭和四十三年四月一日から適用しようとするのが本修正案提案の理由であります。  何とぞ委員各位の御賛同をお願い申し上げます。
  254. 八田貞義

    八田委員長 本修正案に対し御発言はありませんか。     —————————————
  255. 八田貞義

    八田委員長 御発言がなければ、原案並びに修正案を一括して討論に入るのでありますが、別に申し出もありませんので、これより採決いたします。  まず、戦傷病者戦没者遺族等援護法等の一部を改正する法律案に対する修正案について採決いたします。  本修正案に賛成の諸君の起立を求めます。   〔賛成者起立〕
  256. 八田貞義

    八田委員長 起立総員。よって、田川君外三名提出の本修正案は可決いたしました。  次に、ただいまの修正部分を除く原案について採決いたします。  これに賛成の諸君の起立を求めます。   〔賛成者起立〕
  257. 八田貞義

    八田委員長 起立総員。よって、戦傷病者戦没者遺族等援護法等の一部を改正する法律案は、田川誠一君外三名提出の修正案のごとく修正議決すべきものと決しました。     —————————————
  258. 八田貞義

    八田委員長 この際、藤本孝雄君、後藤俊男君、田畑金光君及び沖本泰幸君から、戦傷病者戦没者遺族等援護法等の一部を改正する法律案について附帯決議を付すべしとの動議が提出されております。  その趣旨の説明を求めます。後藤俊男君。
  259. 後藤俊男

    ○後藤委員 私は、自由民主党、日本社会党、民主社会党及び公明党を代表いたしまして、戦傷病者戦没者遺族等援護法等の一部を改正する法律案に対し附帯決議を付するの動議について、御説明申し上げます。  その案文を朗読し、説明にかえさせていただきます。    戦傷病者戦没者遺族等援護法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議   政府は、左記事項につき、格段の努力を払うべきである。           記  一、今日の経済実情にかんがみ援護の最低基準を引き上げ、公平な援護措置が行なわれるよう努力すること。  二、未帰還者の調査については、さらに真剣にとり組むとともに、その実態の把握に万遺憾なきを期すること。  三、遺骨の収集が遅れている現況にかんがみ、さらに積極的に推進すること。  四、戦時中における満鉄職員に対する援護法上の取り扱いについては、その適用について弾力ある措置を行なうこと。  五、動員学徒等準軍属の処遇につき、その改善に努めること。 以上であります。(拍手)
  260. 八田貞義

    八田委員長 本動議について採決いたします。  本動議のごとく決するに賛成の諸君の起立を求めます。   〔賛成者起立〕
  261. 八田貞義

    八田委員長 起立総員。よって、本案については、藤本孝雄君外三名提出の動議のごとく附帯決議を付することに決しました。  この際、厚生大臣から発言を求められておりますので、これを許します。厚生大臣園田直君。
  262. 園田直

    ○園田国務大臣 ただいま法律案の可決に際しましてなされました決議につきましては、その御趣旨を十分尊重いたし、努力いたす所存であります。     —————————————
  263. 八田貞義

    八田委員長 ただいま議決いたしました本案に対する委員会報告書の作成等につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  264. 八田貞義

    八田委員長 御異議なしと認め、さよう決しました。     —————————————   〔報告書は附録に掲載〕     —————————————
  265. 八田貞義

    八田委員長 次回は明十日午前十時委員会を開会することとし、本日はこれにて散会いたします。    午後五時五十五分散会