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1968-05-07 第58回国会 衆議院 社会労働委員会 第22号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和四十三年五月七月(火曜日)    午前十時二十一分開議  出席委員    委員長 八田 貞義君    理事 小沢 辰男君 理事 佐々木義武君    理事 田川 誠一君 理事 橋本龍太郎君    理事 藤本 孝雄君 理事 河野  正君    理事 田邊  誠君 理事 田畑 金光君       大坪 保雄君    海部 俊樹君       亀山 孝一君    倉石 忠雄君       河野 洋平君    齋藤 邦吉君       澁谷 直藏君    世耕 政隆君       田中 正巳君    竹内 黎一君       中野 四郎君    中山 マサ君       増岡 博之君   三ツ林弥太郎君       箕輪  登君    渡辺  肇君       枝村 要作君    加藤 万吉君       後藤 俊男君    西風  勲君       八木 一男君    山田 耻目君       山本 政弘君    本島百合子君       和田 耕作君    伏木 和雄君  出席国務大臣         労 働 大 臣 小川 平二君  出席政府委員         労働大臣官房長 石黒 拓爾君         労働省労働基準         局長      村上 茂利君  委員外出席者         議     員 久保 三郎君         議     員 加藤 万吉君         参議院議員   小平 芳平君         労働省労働基準         局賃金部長   渡辺 健二君         専  門  員 安中 忠雄君     ————————————— 四月二十七日  委員箕輪登辞任につき、その補欠として広川  シズエ君が議長指名委員に選任された。 同日  委員広川シズエ辞任につき、その補欠として  箕輪登君が議長指名委員に選任された。 五月七日  委員福永一臣君及び渡辺肇辞任につき、その  補欠として亀山孝一君及び河野洋平君が議長の  指名委員に選任された。 同日  委員亀山孝一君及び河野洋平辞任につき、そ  の補欠として福永一臣君及び渡辺肇君が議長の  指名委員に選任された。     ————————————— 四月二十六日  診療エックス線技師法の一部を改正する法律案  (社会労働委員長提出参法第一二号)(予)  労働基準法の一部を改正する法律案河野正君  外四名提出衆法第三四号)  診療エックス線技師法の一部を改正する法律案  (参議院提出参法第一二号) 同月二十七日  保健婦助産婦看護婦法の一部を改正する法律案  (藤原道子君外二名提出参法第十三号)(  予) 同月三十日  労働者災害補償保険法の一部を改正する法律案  (加藤万吉君外十一名提出衆法第三七号) 同日  ソ連長期抑留者処遇に関する請願廣瀬正雄  君紹介)(第四九六九号) 五月二日  観光開発に対する自然保護施策の強化に関する  請願増田甲子七君紹介)(第四九七八号)  原水爆被害者援護法制定等に関する請願(井出  一太郎君紹介)(第五〇四〇号)  原爆被害者援護法制定に関する請願吉川久衛  君紹介)(第五〇四一号)  同(下平正一紹介)(第五〇四二号)  同(中澤茂一紹介)(第五〇四三号)  同(羽田武嗣郎紹介)(第五〇四四号)  同(原茂紹介)(第五〇四五号)  同(平等文成紹介)(第五〇四六号)  各種福祉年金併給限度撤廃に関する請願(齋  藤邦吉紹介)(第五〇六八号)  ソ連長期抑留者処遇に関する請願外一件(黒  金泰美紹介)(第五〇六九号)  同外二件(小坂善太郎紹介)(第五〇七〇  号)  同外一件(松澤雄藏紹介)(第五〇七一号)  戦争犯罪裁判関係者見舞金支給に関する請願  (羽田武嗣郎紹介)(第五一〇七号)  医師、看護婦増員に関する請願八田貞義君  紹介)(第五一〇八号)  医療保険制度改革試案反対に関する請願加藤  勘十君紹介)(第五一八三号)  引揚医師の免許及び試験の特例に関する請願(  田畑金光紹介)(第五一八四号) は本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  労働基準法の一部を改正する法律案河野正君  外四名提出衆法第三四号)  労働者災害補償保険法の一部を改正する法律案  (加藤万吉君外十一名提出衆法第三七号)  最低賃金法の一部を改正する法律案内閣提出  第二号)  最低賃金法案河野正君外九名提出衆法第一  号)  最低賃金法案小平芳平君外一名提出参法第  九号)(予)      ————◇—————
  2. 八田貞義

    八田委員長 これより会議を開きます。  河野正君外四名提出労働基準法の一部を改正する法律案、及び加藤万吉君外十一名提出労働者災害補償保険法の一部を改正する法律案の両案を議題とし、審査を進めます。
  3. 八田貞義

    八田委員長 提案理由説明を聴取いたします。まず、久保三郎君。
  4. 久保三郎

    久保議員 労働基準法の一部を改正する法律案提案理由及びその趣旨を説明いたします。  近時、交通事故国民生活一大脅威を与えており、これに対処する総合的施策制定と、これを強力に推進する体制をつくる必要があります。そのため、日本社会党は、交通安全基本法案を別途提案いたし、総合的施策の目標の幾つかを明示しておりますが、その中で、交通安全を確保する直接的な施策として、交通安全施設を整備すること、車両舶船及び航空機安全性確保すること、そして運転者等の側から安全な運行及び航行確保をはかることの三つを強調してきたのであります。  本法律案は、その一つである運転者等の側からの安全性確保をはかろうとするものであることは言うまでもありません。もちろん運転者等の側からの安全性確保するためには、交通安全基本法案の中で明示いたしておりますように、運転者等労働条件の改善と適性の確保指導訓練の充実及び資格要件等制度合理化をはかる必要があります。本法案はその中でも当面解決を迫られております運転者等労働条件を改善し、交通の安全を確保しようとするものであります。  交通事故幾つかが運転者等の不注意あるいは取り扱いの誤りとして処理されておりますが、真に原因過労であり、労働条件劣悪からくるものが多いことは事実であります。  事故原因となる劣悪労働条件は、交通企業の無政府的な競争、人命尊重安全性を押しつぶす企業性の追求からくるものでありますから、基本的には総合的交通政策によってその根源を除去する必要があります。しかし、直接車両等運転する者が、いつでも安全運転安全航行をなし得る条件を極力確保することは、交通安全上緊要なことであり、運転者等労働条件労働基準法にいう原則的立場から改善するにとどまらず、交通安全の側からも考慮し改善する必要があり、ここに本法案提出した次第であります。  次に、本法案内容について説明をいたします。  まず、第一に本法案でその対象とするものは、汽車、電車、気動車、原動機付自転車以外の自動車、総トン数五トン未満船舶、湖川または港内のみを航行する船舶、及び航空機運転あるいは操縦する者に限定いたしており、たとえば航空管制の仕事に従事する者のように直接航空機操縦はしないが、安全の上からはこれと同様な条件下にあります者については、別途措置する考えであります。  第二は、労働時間でありますが、一日六時間四十分、一週間四十時間とし、緊張した労働環境にある運転者等労働時間を短縮することによって緊張とこれに伴う疲労を軽減し、安全性確保しようとするものであります。しかし、特殊な場合は超過労働を許容するが、一日一時間を限度とするきびしい規制をいたそうとするものであります。  第三は、労働日から次の労働日に至る間隔についてであります。始業時刻は直前の労働日終業時刻から少なくとも八時間以上の間隔をとった時刻とし、休養最低限八時間をとらせ、この面からの安全性確保しようとするものです。  第四は、割り増し出来高払い賃金制を禁止することです。いわゆる刺激給運転者過労を強要し、安全性を度外視させる原因となっておりますので、この制度からくる弊害を取り除き、賃金制度の面からも安全性確保しようとするものであります。  なお、単純な歩合給についても、逐次固定給に移行させるための措置を講じ、この制度の全廃を企図することは言うまでもありませんが、さしあたりの措置として、割り増し出来高払い制度だけは、やめさせようとするものです。  第五は、運転者等に対しての適用除外についてであります。すなわち労働時間については、本法案第六十八条の三によって特別な規定をいたしましたので、労働基準法第三十二条第二項の規定適用しないこととし、また休日の規定であります労働基準法第三十五条第二項の休日付与の特別扱い適用せず、運転者等の休日は同法第一項にのみよることとし、毎週一回の休日を与えさせ、労働休養のバランスをくずさせないことによって安全度を向上させようとするものであります。  また、安全の観点から、時間外労働及び休日労働原則として認めないこととし、労働基準法第四十条に規定されております労働時間及び休憩特例適用を除外し、労働基準法第六十一条で規定されております女子の時間外及び休日労働についても、これが適用を除外し、運転者等に対する本法案原則である過労原因を排除する方針を貫くことにいたした次第であります。  さらに、年少者労働時間の特例についても、これを認めない立場をとり、労働基準法第六十条第三項の条項は年少運転者等適用させないこととし、かつ本法案第六十八条の四の時間外労働をも認めないことといたしたのであります。  第六は、非専業車両等運転者、すなわち主としては車両等運転に従事しない者については、少なくとも運転時間についてはこれを規制することとし、一日六時間四十分、一週間について四十時間を限度としようとするものです。  第七は、継続運転時間の規制によって安全運転確保しようとすることです。すなわち非専業運転者を含め継続運転は四時間を限度とし、その後継続して一時間以上の休憩を与えない限り引き続いての運転を認めないものとし、長時間継続運転による疲労注意力散漫等からくる交通事故をなくそうとするものです。  ただし、国際航空に従事する航空機操縦者に関しては、その特殊性から、許可を受けた場合は限定された範囲内で四時間以上にわたる継続運転を認めようとするものです。  第八は、災害その他避けることができない場合の労働時間の延長等規定した労働基準法第三十三条は、本法案第六十八条の八、すなわち非専業者運転時間及び同じく第六十八条の九による継続運転時間については、事柄の性質上やむを得ず、その準用を認めることとしたものであります。  第九は、以上の労働時間等を厳格に守らせるため、車両運転時間台帳の制度をつくり、その実効をあげようとすることです。  以上で内容説明を終わりますが、何とぞ慎重審議の上御賛同をお願いします。(拍手
  5. 八田貞義

    八田委員長 次に、加藤万吉君。
  6. 加藤万吉

    加藤(万)議員 私は提案者を代表いたしまして、ただいま議題となりました労働者災害補償保険法の一部を改正する法律案につきまして、その提案理由内容について御説明申し上げます。  労働省の調査したところによりますと、去る四十一年の労働災害による死亡者数は六千三百三人、休業一日以上の負傷者数は六十八万六千人にのぼると伝えられているのであります。そのうち三人以上の死傷者を出すところのいわゆる重大災害は、前年の二百七十六件に対し三百八十七件、それに伴う死傷者は前年の千四百六十二人に対して二千八十九人と、それぞれ前年に比較して四〇%近い増加を見せ、労働災害が年々大規模化する傾向を示しているのであります。  特に最近の特徴として注目すべきことは、動力運転による災害の比率が高まり、また職業病発生も四十一年は二万五千六十三件と前年に比べて七・六%もの増加を見ていることであります。これらの傾向は新しい技術の導入や新原材料の採用といった生産体制の急激な変化にもかかわらず、保安対策労働条件などについての対策がきわめて立ちおくれているところに最大の原因があると言わねばなりません。  このため労働基準法に基づいて実施される定期健康診断によりますと、四十一年に診断を受けた九百四十六万人のうち、五十九万人が何らかの疾病があると報告されているのであります。疾病による労働日数の損失については、いまだに正確な統計は得られていないのでありますが、明らかにされております調査結果から類推いたしますと、全労働者の約二%が毎日休業していることになるわけでありますから、日数年間二億日、その賃金額は三千五百億円にのぼると推定されています。  これに対して、政府労働災害対策はきわめて不十分かつ不満足と言わねばなりません。労働省はこれまでも昭和三十四年以来、第一次、第二次の産業災害防止五カ年計画を策定し、安全対策の推進をはかってまいったのでありますが、その基本はあくまでも安全運動安全期間といったいわば労働者精神主義に立脚した啓蒙活動中心であって、最も必要とされている監督行政安全確保のための施策が全く欠けているのであります。一例をあげますれば、かねてより強く要求されております基準監督官増員にいたしましても、一向にそれが実現されず、現在二百四十万に達するといわれている労働基準法適用事業所数に対して、監督官はわずかに二千七百人にも満たず、労働省みずからが十年か十二年に一度の監督よりできないと指摘しているのであります。しかも最近の労働災害発生件数の約七〇%以上は、百人未満規模中小零細企業発生しているといわれ、これは保安面安全施設に投ずる余力が大企業に比較して乏しいということもありますが、国の監督行政がそこまで行き届いていないことにも大きな原因があると考えるものであります。  しかも、現行労災保険による補償は、全く不十分というほかありません。本来、労働災害職業病負傷したり病気になった労働者は、療養期間中の賃金はもとより、その生活が完全に保障されねばならぬはずであります。労働災害原因が、かかって企業の怠慢による安全対策の不備に由来するものである以上、労働者が働くことができなくなった場合には、その労働能力の減退に応じて、正常な生活水準を維持し得るに足る補償がなされなければならぬことは、言うまでもありません。もし、不幸にして労働者死亡した場合には、家族はもとより、その他の被扶養者に対しましても、これらの人々が正常な生活をし得るような補償がなされねばなりません。  しかるに現行労災法によりますと、たとえば不幸にして死亡災害にあった場合、月給三万円の人であれば、妻一人の場合は約十一万円、妻子五人の場合でさえわずかに約十八万円の年金より支給されないのであります。また、両親が五十五才以下の独身の労働者である場合には、年金ではなく、わずか四百日分の一時金が支給されるのみであります。それとても両親、兄弟がいなければ支給されないという驚くべき実情に置かれているのであります。  交通事故による自動車賠償保険でも三百万円、航空機事故におきましてもすでに八百万円という補償が行なわれている事実を見るまでもなく、労働災害による補償金額は全く劣悪そのものと言わねばなりません。加えて現行労災法がいわゆるメリット制を採用しているため、企業はできるだけ災害件数を減らしたがる傾向にあり、業務上の災害でさえ私病として扱われるケースがきわだって多くなる傾向にあると伝えられています。また、通勤途上における交通事故による災害認定についても、すでに約二十カ国にのぼる諸外国で労災適用範囲に含まれているのでありますが、わが国におきましてはまだそれが法的に明確にされていないのであります。労災認定にあたっては当然、通勤途上災害も含まれるべきだと考えるのであります。  以上のような実情にかんがみ、この際労働災害防止に対して、国がより積極的な施策を講ずることはもとより、さしあたり労災保険給付額を改善し、被災労働者生活を保障することは、国家の急務と考えるものであります。以上が本法律案提出する理由であります。  以下、この法律案の概要について御説明申し上げます。  まず第一に、労働基準法適用を受ける全事業所に本法を全面的に適用することといたしました。  第二に、労働者業務上の負傷または疾病による休業に伴って支給される休業補償給付は、現行の六〇%から一〇〇%に引き上げることといたしました。  第三に、障害補償給付はすべてに障害補償年金及び障害補償一時金を支給することとし、障害等級第一級の場合は給付基礎日額の二千日分の一時金と三百六十五日分の年金最高に、十四級の場合の給付基礎日額の百日分の一時金と三十日分の年金最低とし、それぞれ障害等級に応じて引き上げることといたしました。  第四に、現行長期傷病給付制度を廃止するとともに、業務災害の場合の解雇制限期間を、現行三年から五年に延長することといたしました。  第五に、死亡に伴う遺族補償給付は、遺族補償一時金と年金を併給することとし、遺族補償一時金の額を現行給付基礎日額四百日分に三百万円を加えた額、また遺族補償年金給付基礎日額現行最低三〇%を六〇%、現行最高五〇%を八〇%にそれぞれ引き上げることといたしました。  第六に、休業補償給付及び障害補償年金遺族補償年金の場合、平均給与額年間五%の変動があったときには、それに応じて年金額をスライドさせることといたしました。  以上が本法律案提案理由とその主たる内容であります。何とぞ慎重審議の上、すみやかに御賛同あらんことをお願い申し上げます。(拍手)      ————◇—————
  7. 八田貞義

    八田委員長 次に、内閣提出最低賃金法の一部を改正する法律案、及び河野正君外九名提出最低賃金法案、及び予備審査のため本委員会に付託されております小平芳平君外一名提出最低賃金法案の三案を議題とし、審査を進めます。  質疑の申し出がありますので、これを許します。加藤万吉君。
  8. 加藤万吉

    加藤(万)委員 最初に、私は本法案を審議するにあたって、大臣の本法案に対する基本的な姿勢といいましょうか、政治的な態度についてお伺いを申し上げたいと思うのです。  実は、現行賃法が施行されて今まで実行段階にあるわけですが、今度提出される法案が、第十六条を中心とするいわゆる審議会方式中心改正をされる。しかもこの十六条は、法案で見ても明らかなように、大臣や都道府県における基準局長がその提案権を持っておるという、きわめて、私どもの立場からしまするならば、官僚的なにおいが非常に強いわけであります。したがって、政府施策いかんによって、あるいは大臣政治姿勢いかんによって、本問題が、せっかくの改正の機会にもかかわらず、現在まで実施をされておりまする現行賃法、すなわち業者間協定中心とする最賃法引き延ばし的要素を実は持つわけでありまして、現行の最賃法が、業者間協定によるということが基礎である限り、これの行き詰まりからきた本法案改正という観点から見ますると、この政治的な姿勢がきわめて重要なる意義を将来にわたって持つようになるわけであります。  そこで、私は多少現在まで至った経過の中身を申し上げて、池田内閣以来続いた本法案に対する政府態度幾つかの間違った点、あるいはときには屈折をした点、こういう角度経過的に申し上げて、一体その経過の中で、労働大臣はどの角度から本法案をこれからかりに可決された場合に実施をしていくのか、そういう態度をお聞きしたいと思うわけであります。  大臣も御承知でしょうが、業者問方式というのは、当時労働省関係のある役人が、当時の中小企業のあまりにも劣悪賃金状態を何とか改善する方法はないかということで、例の静岡かん詰めによる業者間協定がその発足であったわけであります。ところが、この限りにおいては善意意味に私は実は業者間協定理解をし、また、その運営をはかっておられたというふうに理解をしておるわけです。ところが、この静岡かん詰めあるいは伊予のミカンのかん詰め等々が、業者間協定として拡大をされ、それが最低賃金法というふうになったところに第一の問題点があったわけであります。いわゆる業者問が、中小零細企業に働く労働者賃金を多少でも引き上げようという意味で、善意意味で当時の労働基準局が取り上げたのに、いわゆる最低賃金制のないために起きたソシアルダンピングの国際的なそしりを——この業間者協定をもって最低賃金制とする、そこの態度をきめたところに、実は善意であった業者間協定が、いわば最低賃金法とは似ても似つかない形になって、日本のいわゆる最賃法というふうに言われるようになったわけであります。  そこで、問題になりますのは、この業者問協定による最低賃金ができまして実施をされる段階で、実は一つ変化があったのであります。すなわち当初は、日本高度成長も、中小企業零細下請という場には、あまり影響力といいましょうか、なかったのでありますが、日本高度成長独占の集中という段階に入りまして、中小企業がそれぞれの支持を持たない、あるいは中小企業独自がそれぞれのシェアを持ち、あるいは独立的な経営を営むそういう方向がだんだんとなくなりました。特に昭和三十八年以降の高度成長政策というものは、中小企業下請系列の分野に実は巻き込んでいったのであります。したがって、地場産業あるいは中小企業が、独自の市場と独自の採算制を持つ独立性というものが非常に阻害をされてまいりました。私は、いわゆる高度成長期のこの段階は、日本寡占化体制が進む第一歩であったというように理解をするわけです。そこに当初起きた善意業者問協定による賃金の引き上げ、それが最低賃金法として組み込まれたところに実は問題が出たのであります。すなわち日本独占がより蓄積を高めなければならない、そのためには日本の二重構造あるいは経済賃金の二重構造そのままの状態をより温存するために実は最低賃金制が利用されるという経過になったのであります。ここにまず第一の問題がありました。したがって、業者間協定がどのような外面をつくろうとも、それがいわゆるILOが指摘をする最低賃金制あるいは国際的に見て最低賃金制であるというふうに理解されるには至らなかった理由があったろうと私は思う。  そこで、大橋大臣のときにそういう傾向に対して、高度成長政策所得倍増計画が実は並行的に実施をされたのであります。私は、池田内閣のときの業者間協定扱いは、その高度成長政策所得倍増政策を、ある意味においては有機的に結びつけたと思うのです。たとえば当時大橋大臣が、最低賃金制あり方について付言をされたことは大臣御案内のとおりです。大臣審議会でこういう発言をされております。ある程度例外的な条件を除けば全国一律も無理ではない、最賃制あり方については、労働者側の意見と経済政策を調和させて定めていきたい、こういうように実は述べたのであります。そこで私は、大臣、ここは明確にひとつ御記憶を願いたいと思うのですが、この池田内閣所得倍増政策高度成長政策、この中に中小企業の位置づけが実は出ておったのであります。すなわち、大橋さんが、全国一律制を敷くことも一部を除いては無理ではないと言った観点というものは、全国一律制の賃金を敷くことによって、中小企業近代化あるいは大企業寡占化体制独占化体制にあまりにものみ込まれている中小企業シェア市場、そういうものを最低賃金全国一律をてこにして直そうという気があったような気が実はするのであります。政策の中に、そういう観点があったような気がします。高度成長政策は、大資本ももちろん拡大するけれども、同時に、日本の二重構造の、しかも底辺をささえる中小企業の分野もそれなりに拡大し、それなりに、そこに働く労働者にも所得倍増政策の恩恵を受けさせよう、そういう経済政策、政治政策の面に変化があって、実はいまのことばになってあらわれたというふうに私は理解するわけであります。  したがって、最低賃金制を、今日までたくさん審議会で論議してまいりましたが、最低賃金制日本でどうつくるかということについて、私は五つの観点があったと見ております。  一つは、日本の低賃金構造を打破しよう、いわゆる二重構造といわれているこの中小企業の低賃金構造を打破しよう、そのためには、全国一律制でなければならないという思想が一つありました。いま一つの考え方は、これは諸外国に見られる形でありますが、いわゆる最低賃金というものは労使協定を中心にして進めていこう、そして、労使協定の中の賃金の協定化、それが業種であれ、あるいは産業であれ、あるいは地域であれ、その労使間協定の賃金を一般に普遍化する、そういう最低賃金制あり方を求めていこうというのが一つでありました。全国一律というものと、いま言いましたように、最低賃金を目ざすものとしては、労使間協定の一般拡張適用、この二つの角度で進めていこうというのが最低賃金制をつくる一つ角度の意見としてあったわけです。あとの討論をしやすくするために、私は、これを第一と第二というふうに名づけてみました。  それから第三には、池田内閣当時とられた、いわゆる最低賃金規制し、中小企業近代化をはかろう、そして中小企業の低い生産性を引き上げることによって、最低賃金額をもっと引き上げていこう、こういう考え方がありました。これを私は第三の発想というふうにいっているわけであります。そして、大橋さんのときに、全国一律の最低賃金制も一部を除いては考えられないこともないと発想したのは、実は、二と三の結合の意見だったというふうに思うわけです。  なお、加えて大臣は、先ほども申し上げましたように、いわゆる経済の発展と調和というものをそこに加味していけば、そういう方向も考えてもいいという発想、意見を実は言われたのであります。したがって、私は、大橋大臣池田内閣当時といっていいでしょうけれども、当時は、二と三が一つの指標になって、一つには労使間協定によって一般拡張適用していこう、同時にそれに伴うためには中小企業近代化をしよう、そのためには最低賃金制をくさびに打ち込んでいく、そういうものが結合して、大橋労働大臣の発言になってきた、こういうふうに実は理解しているわけであります。  第四番目の発想は、先ほどの、高度成長期段階に、独占の関係大資本が、低賃金あるいは経済の二重構造を温存し、その蓄積の中で高度成長をはかろうとした、その発想であります。私はこれを日経連の発想とよく言っているのであります。日本経営者連盟が考えておった発想は、高度成長というか、所得倍増というか、池田内閣当時の発想をどこでなしとげていくのか、それには、いままである日本経済の二重構造賃金の二重構造、そういうものを温存して、その蓄積の中で独占の飛躍をはかろう、そのために必要な最低賃金制とはどういうものだ、そういう発想がありました。これが一つあったわけであります。これを私は、第四の発想、こういっております。  それから第五の発想は、これは中小企業の側から見た発想であります。それは、高度成長で大企業がどんどん拡大しましたから、若年労働力が不足してまいりました。不足してきましたから、中小企業の分野には、若年労働力の不足から賃金の競争が当然行なわれてきたのであります。企業が、近代化はしないけれども、若年労働力は何としてもとらなければいけない。その競争のあおりが大企業の初任給の引き上げ、あるいは中小企業間の初任給の引き上げとなってあらわれてまいりました。大企業の初任給にくさびを打つわけにまいりませんから、中小企業の方々は、やむを得ず、それでは業者問の協定によって、この辺で労働力を確保しようではないかというのが、いわゆる業者問協定となってあらわれたというように私は思うわけであります。  以上、五つの観点最低賃金制の今日までの発想の経過の中には、紆余曲折、あるいは時には非常に屈折点を設けてあったと思うのです。そして、それでは現在業者間協定によるどういう最低賃金制実施されているかと申しますと、いま言った四と五とが結合して、すなわち、大企業の低賃金政策による資本の蓄積、五の、中小企業の初任給のワクはめによる労働力の確保——この四と五が結合して、業者間協定による最低賃金という方向になっていると思うのです。  大臣、これは最低賃金の答申がありました幾つかの年代を追ってみますと、そのことが実は明らかになるのです。たとえば、最初は業者問協定でありました。その次は目安賃金と地域の賃金、その次は、目安賃金の場合に、地域だけにして、業種のことを削除いたしました。そして、この次にきたのは、実は審議会方式による今度の最低賃金法提案理由になっているわけです。  そこで、問題は、こういう経過をずっと見てまいりますと、最低賃金制というのが、いわば、業者間によるものと、それから基準局ないしは政府中心とする視点と、どこをつかんでいくかという、そういう観点からながめて、今日の業者間協定による最低賃金制が行き詰まったというように私は実は理解をいたしておるのであります。  そこで、私は大臣にお聞きします。当初申し上げましたように、本法案は、いわゆる十六条を中心とする新しい角度のものを求めようとしているわけであります。私は多少そこに期待がないわけではありません。ところが、冒頭に述べましたように、いままでのプロセスをずっと見てまいりますと、時の内閣、時の大臣、あるいは時の経済政策によってものすごい屈折点があるわけです。大橋大臣のときと石田博英大臣のときとは、私どもに言わせれば、九十度ぐらい最低賃金に対する角度が曲がったと見ているわけであります。そこで、いま私は五つの観点からの最賃法の発想を言いましたけれども、大臣は、本法案を提起するにあたって、この五つの観点のうち、どこから本法案についての態度、政治姿勢をお持ちになるか、まずお聞きをしておきたいというように思うわけであります。
  9. 小川平二

    ○小川国務大臣 ただいま、るる御高教をいただいたわけでありますが、もっぱら業者間協定中心に運営されてまいりました最低賃金制だが、おことばのように、大資本の要請に応じて二重構造の温存をはかろうというような意図のもとに運営されたものだとは私は考えておりませんし、この制度が現実に規模別格差の解消、したがって二重構造の解消に役立ってきておる、このように考えておるのでございます。  いま、この最低賃金制に関連をして、五つほどの観点があるというおことばでございました。第一は、最低賃金制度なるものは、低賃金を打破して二重構造の解消に役立つべきものである、かようなお考えであったと存じます。もちろん異存はございませんし、今後もこの方向で運営されてしかるべきものだと考えております。  また、この労使間の協定を中心として、これを未組織の分野に及ぼしていくという考え方が正しい、かようなおことばもあったかと存じます。これは確かに一つの考え方でございましょうし、むしろこれが、労使の自主的な交渉によってきまった賃金が拡張適用されるという考え方は望ましいことであると言えるかもしれないと思います。ただ、さような形の最低賃金が実効をあげるための前提がわが国においてはまだ十分整っておらないのではないか。産業別協約が普及しております諸外国、ドイツ等もそうであると聞いておりますが、かような国におきましては、協約が未組織の中小企業等に拡張適用される、現実にそのような方式が中心になっておる、かように聞いておりますが、わが国におきましては、労働協約はもっぱら企業別に行なわれておる。個々の企業を越えて、産業別に協約が行なわれるという事例にはなお乏しいようでございまするし、また、企業間にもなお大きな格差が存在している、かような状況のもとにおいては、この公式が十分な効果をあげ得る前提が欠けておるのではないかという感じがいたしております。考え方といたしましては、おことばにあらわれております趣旨を否定するつもりはございません。  それから、最低賃金なるものは、近代化をはかり、生産性を向上させるためのものであるというおことばがございました。これまた全く御同感でございます。合理的な賃金が設定されるということは、近代化あるいは生産性向上の契機になる、かように考えておるわけでございまして、現にそのような方向で、今日までの最低賃金制度というものが役立ってきておると私は考えておるわけでございます。  この五つの問題点がそれぞれ関連をいたしておると思いますが、第四番目に仰せになりましたのは、寡占、独占体制を推進するために、二重構造を温存させる日経連的な考え方のもとに最低賃金制が運営されてきておるのではないかというおことばでございますが、私どもは、そうではない、現にこの二重構造の解消に不十分だという御批判はあるかもしれませんが、現実に役立ってきておると考えておるわけでございます。  それから最後に、最近における若年労働力の不足、これに伴う中小企業における初任給の上昇という事実を御指摘になりました。確かに今日まで行なわれてまいりました業者問協定が、中小企業にとってはさような事態に対処するための自衛手段であった一面があると存じます。この点を決して否定いたすわけではございません。  要するに、御指摘になりました五つの点につきましては、私も全く同感でございます。そして、かような方向に背反するような姿で最賃制が運営されてきたとは考えておらないわけでございます。大橋大臣のことばも引用なさいましたが、労働者側の意見を十分尊重して、経済政策と調和せしめるような姿でやれ、こういう趣旨のことばであったという仰せでございますが、これまた私、全く同感でございます。これから先もそういう心がまえで運営がなされるべきものだと信じております。  なお、この法案提出いたしました理由については、かねて提案理由でお耳に入れたとおりでございます。いろいろただいま御高教をいただいたわけでございまして、答弁として不十分であるか存じませんが、またお尋ねがございましたならば、それに応じて申し上げさしていただきます。
  10. 加藤万吉

    加藤(万)委員 大臣中小企業賃金を上昇させて格差を解消させるというのは、最低賃金の本来的意義じゃ私はないと思うのです。当初、一番初めに申し上げましたように、静岡かん詰めで、業者間協定でもって基準局の人が非常に骨を折られた。その骨を折られたというのは、その人の発想は最低賃金ではなかったのですね。少なくとも当初は、これではあまりにも賃金が低過ぎるじゃないか、したがって、業者問で幾らかでも引き上げて最賃を詰めていけ、そういう意味で、私は格差解消、低賃金を多少でも引き上げていこうという意図のいわゆる業者問協定だったと思うのです。私はその限りにおいては、大臣が言われる業者問協定最低賃金が実効をあげたということはわかるのです。しかし、最低賃金制度といういわゆる国内の政治制度として設けた場合に、それが本来持つ最低賃金の意義というものと中小企業労働者賃金を引き上げるという作用とは違った要素を持つと思うのです。たとえば御承知のように最低賃金制がしかれて、もしも一定額がきまれば、米価にも、あるいは社会保障の生活保護基準にも、それぞれが引用されることは間違いありませんね。ですから、中小企業の低賃金を引き上げるというだけであるならば、業者問協定による行政指導でよかったわけです。私はこの政府が出されておる提案理由を見まして、今日、適用者は六百何万かになってきた、そのことはこの最低賃金制が実効があったという取り上げ方はどうも合点がいかない。それは中小企業労働者賃金を引き上げることに役立ったけれども、最低賃金制としての本来的機能を果たしたかといえば、これは否定的態度をとらざるを得ない、私はそう思う。したがって、大臣が言われるように、前段の意味で今日の業者問協定が実効的役割りを果たしました、確かに私は賃金格差が是正されたことも認めます。しかし、格差が縮小されたということは業者問協定によってできたことであって、最低賃金制によってできたかどうか、実は疑問符を打たざるを得ないわけです。したがって、もしそれによって賃金格差が縮小したとするならば、それは業者問協定の行政指導でよかったのです。それを強めれば、今日六百万ぐらいのものはできたでしょう。十六条とか十一は除いて、九条、十条によってできたと私は思います。したがって、それが上がったから、現行の最賃法が有効、実効性があったのだという、最低賃金制度としてあったということについては、私はどうもうなずくわけにはいかないのですが、そこら辺の見解は大臣、どうお持ちになりますか。
  11. 小川平二

    ○小川国務大臣 ただいまの御発言の点が御質疑の眼目ではなかろうかと思うのですが、私がはなはだのみ込みが悪いために——これは皮肉を申しておるわけでも何でもないのでして、もう一度ひとつお聞かせをいただきたい。
  12. 加藤万吉

    加藤(万)委員 大臣のいまの答弁では、いわゆる業者間協定中心とする最低賃金制の普及によって中小企業の格差は是正されたじゃないか、したがって、実効があったのだ、こういま言わたわけです。したがって、私が言うように、現行までの最低賃金法が、独占の蓄積や何か、そういう役割りではないかということを否定されたわけですね、大臣。ところが、中小企業賃金の格差を縮める、いわば中小企業労働者賃金を引き上げるだけの作用ならば、それは最低賃金制という制度でなくても、各業者間協定を行政指導すればできるわけです。最低賃金制というものは政治的制度でありますから、単なる賃金を引き上げるための行政指導的役割りでないわけですね。ですから、前段の意味だけだったら、私は大臣の言うことを理解しますけれども、最低賃金制としてこれが実効があり、しかも逆に言えば最低賃金制にしたから賃金の格差の是正があったのだということは、これは少し現行まであった最低賃金制を買いかぶり過ぎたか、あるいは本来行政指導でやられる面を最低賃金制という形で擬装されたかどっちかではないか、こういうように実は言っておるわけです。
  13. 小川平二

    ○小川国務大臣 私は、的をはずれた御答弁になるかもしれませんが、間違っておりましたらまた御指摘をいただきとうございますが、業者間協定は、拘束力を持ち、罰則を伴う一つ制度、すなわち最低賃金制度であることに間違いはないと存じます。この制度が存在することによって現実に賃金の格差が縮小してきておる、ここのところまでは言ってよろしいことじゃなかろうか、こう思います。
  14. 加藤万吉

    加藤(万)委員 いわゆる業者間協定は、法的拘束力を持つから、それで上がったんだ、今度はこう言われましたね。確かに法的拘束力を持ったところに最低賃金制と名づけたところが政府側に言わせればあると思うのです。しかし、私どもの考え方を言えば、業者者協定を行政指導されて、たとえばマグロのかん詰めの業者が集まって、どうだ、ことしは地場賃金が少し高くなったから、この際あまり過当的に賃金を上昇させずにここでひとつきめようじゃないか、このきめた中のある業者にそれを逸脱をした行為があったならばアウトサイダーにするぞ、それで事実上その経営者に対して制裁措置を加えていけば、法的措置がなくても可能になる条件があるわけです。ですから、私は、業者間協定による行政指導その他が賃金を引き上げたということは認めます。しかし、それが最低賃金制という制度によってなされたというのは、少し買いかぶり過ぎじゃないか、いわばその行き詰まりが今度の審議会方式による改正にあらわれてきたんじゃないかということを聞きたいわけなんですよ。
  15. 村上茂利

    ○村上(茂)政府委員 技術的観点から申し上げますと、最低賃金制と一口に申しますけれども、その内容とするところは、その最低賃金をどのようなきめ方をするか、きめ方の問題、それからどういう機関がきめるかという機関の問題、それからきめる場合に何人がイニシアチブをとるかという手続の問題、それから具体的な額の決定の問題そういう要素があるのではなかろうかというふう一に存じます。  この四つの観点からの組み合わせを見ますと、外国の例を見ましてもいろいろな組み合わせをしておるわけでございます 現行のわが国の最低賃金法は、主として業者間協定という業者が発議したものと、それから労働協約という労使の意見が合致したものと、それから審議会労働大臣または都道府県労働基準局長が諮問をした場合という、その形を中心にしたきめ方をしておるわけであります。そういう観点から申しますと、だれが事実上の発議をするか、あるいは法律上有効な発議をするかという観点からの場で考えますと、いろいろな型があるんじゃないか。たまたま現行賃法がそういう形になっておりますから、加藤先生はこの方面に従来からタッチしておられまして非常にお詳しいわけでございますので、経過をたどりながら業者問協定方式の問題点を指摘されたわけでありますけれども、現在改正法案として提出いたしておりますものは、むしろその方式を審議会中心の方式に変えるということでございまして、いま申しました形としては、その点においてはかなりの変化を見せるのじゃなかろうか、こう思うわけでございます。  なお、四つの要素があるのではないかという見解を述べましたが、きめ方の問題として全国一律がいいか、産業別、職種別がいいか、地域別がいいかという問題、機関として審議会中心、それだけでいいのか、労働協約という方式を交えるか、主として中心機関は審議会だというのでいいのか、額はどうするといった問題があるわけでございますが、そういった機能の組み合わせが、冒頭に加藤先生いろいろ見解をお述べになりましたいろいろな考え方があると思いますが、そういった点につきましては、そのときにおける経済情勢なり経済政策とかみ合わせましていろいろなきめ方が考えられるのじゃないかというふうに存じておる次第でございます。
  16. 加藤万吉

    加藤(万)委員 村上さん、私はだから言っているのです。イニシアチブと組み合わせというのはいろんな方式があるわけです。業者間できめて、それを一般労働協約に拡張できるようにすればいい。そういう行政指導をすれば——それは最低賃金制じゃない、協約賃金でありますけれども、協約賃金でも中小企業賃金は上昇させることができた。問題は、労働省がどういう指導体制中小企業労働者に向かってとるかということが一番の問題です。私は、中小企業労働者賃金を引き上げるということと、最低賃金制としてある制度というものと、ここには一つの壁といってはおかしいが、制度としてあるものと賃金を引き上げるというものとは別個な問題じゃないかと思う。もちろん最終的には業者問協定によっても賃金が上がったことは事実です。しかし、組み合わせ、イニシアチブを労働基準局がとって、そこに労働組合をつくらせ、その地域の労働者に一般労働協約を適用して、それを一般拡張して、いわゆる十一条によって適用していくということになると、業者間協定による最低賃金制度がなくても、中小企業労働者賃金は上がったはずだと言っているのです。ですから、業者問協定による最低賃金制度があったから格差が縮小し中小企業労働者賃金が上がったという見方、取り上げ方はあまりにも過大評価ではありませんかということを実は私は言っているのです。どうでしょう、専門的な話ですから基準局長に聞いたほうがいい。
  17. 村上茂利

    ○村上(茂)政府委員 私ども、過去数年間におきます最低賃金額のきめられた額の上昇の率と、一般賃金の上昇率を比較いたしますと、実は上昇率としては、業者間協定方式ではありますけれども、最低賃金額の上昇率のほうが高くなっておるようなのが実情であります。ただ、この点を私は特に強調しようとは思わないのでございまして、業者問協定の持つわれわれの期待した意義というものは、最低賃金制度にわが国の労使関係者がなじんでおらなかったというのが過去の事実ではなかろうかと思います。もしそれが、産業別労働協約が相当ございまして、その拡張方式を用いることによって、わが国の最低賃金方式が考えられるという実態がございましたら、そのような角度からアプローチするということも考えられるかとも存じます。しかし、先ほど大臣がお答えいたしましたように、個別企業を越える産業別なり職種別の労働協約というものは、わが国で少なかったという事実がございますし、そして企業間に規模別に賃金の格差があっというのも事実でございます。  そのような環境、条件の中で、最低賃金制というものをどのように取り上げ、なじませていくかという政策的配慮をいたしましたときに、いろいろ問題はあろうが、業者間協定方式というものが取り上げられ、いまや六百万の労働者適用されるという制度に展開してきた。そして最低賃金というものによって拘束を受けるという、そういった  一つの経験がいま現実に見られるわけであります。そのような意味で、業者間協定方式がわが国の最低賃金制の普及拡大に役立った功績というものは、単に賃金額の引き上げということのみならず、そういった面においても大きな意義があったのではなかろうか、かように存ずるわけであります。
  18. 加藤万吉

    加藤(万)委員 これは、ここでこの論議をやったら運動論と結びついてたいへんな議論ですから、専門家的な議論になってしまいますから申し上げませんけれども、一つだけいまの答弁の中で指摘をしますと、確かに一般の賃金の上昇よりも、業者間協定によって賃金のアップ率が高くなった。たとえば目安賃金をきめて、あれは二年後、甲地域では一六%くらいになりましたでしょうか、確かに上がっている。それでは大企業の初任給の上昇率と最底賃金の上昇率と比べればどうなりますか。大企業の初任給の上昇率のほうが高いですよ。業者間協定によって中小企業賃金のアップ率が一般の賃金のアップ率よりも高くなったというのではなくて、若年労働力の不足からくる、需要供給からくる最低初任給の引き上げが、逆にいえば中小企業の若年労働力の初任給を引き上げたといっても過言でない。ですから、最低賃金ですから、平均賃金のアップ率と片一方の中小企業賃金のアップ率で比較するのが妥当かもしれませんが、実際にある業者間協定による最低賃金というのは、実は若年労働力の最低初任給になっているわけです。所によっては多少違いましょうけれども、おおむねはそうです。そうなりますと、大企業の初任給のアップ率と中小企業の初任給のアップ率とを比較して、どっちがより高い伸び率を示しているかというと、率直に言って同額かむしろ大企業が少し上じゃないか。それに追いつこうとするために、中小企業業者間協定の額を次から次に上げていかなければいけない。そういう現象があったのじゃないでしょうか。  ですから私が言いたいのは、業者間協定による最低賃金中小企業と大企業賃金格差を縮小したというのは、制度として縮小されたのじゃなくて、一方には労働力の需要供給の関係、一方には、本来業者間がそういう形で上げなければ労働力の確保ができないという関係等々から生まれたというのが五〇%以上の比重を占めるのであって、業者間協定によって引き上げられたという観点は、その意味からいえば一〇〇のうち四〇になりますかあるいは五〇になりますか、そういうふうに見るべきではないかということを言っているわけです。というのは、あとで実はこの業者間協定が二年間さらに延長するということがあるものですから、相当私はこの部分が気にかかっているところなんです。私はそういう見方を実はしているわけです。したがってこの点については、あとでもし答弁があればいただきたいと思いますが、さほどいわゆる論争になるところではないのです。  ただ、私はここで大臣にいま一ぺん念を押すように聞きますけれども、私が一、二、三、四、五とあげましたうちの四の、中小企業の低賃金経済賃金の二重構造の温存によって独占の蓄積をはかろうとしての意図、そういう意味業者間協定をつくったのではない、あるいはそういう意味に今後も持っていこうとはしていないとおっしゃられました。そして一と二と三と、最後の中小企業の初任給の引き上げを多少カバーをするために業者間協定があったということは多少なりともお認めになったのですけれども、そうなりますと、大臣のこの問題に対する基本的な姿勢は、いわば一つ日本の低賃金をこれで早くなくそうという意図。いま一つは、できれば、そういう土壌ができるならば、労使間協定の一般拡張適用を拡大して、労使間によって賃金をきめていくということが正しい。ただそういう土壌がないから、残念ながらいまのところはできないとしても、そういう方向が正しい。それからいま一つは、最低賃金がある意味においては中小企業近代化に役立ち、日本中小企業の生産性を高めて、それによって労働者賃金が引き上がっていくという、そういう展望も持ちたい。この三つは、これから大臣審議会方式によって当たっていく場合にも考える視点であるかどうかを、いま一ぺん確認しておきたいと思います。
  19. 小川平二

    ○小川国務大臣 先ほども申し上げましたように、いまおことばにありましたような視点に立って運営をしていく、これはもう当然のことだと考えます。
  20. 加藤万吉

    加藤(万)委員 そうしますと、やや私と共通の場ができているわけですが、私は先ほど四と五によって業者間協定が今日まで運営されてきて、いわゆる大企業の資本蓄積を二重構造の中でそれを活用しようとした資本の日経連方式、とこう簡単に言いましたけれども、それと中小企業の初任給の大幅なアップあるいはそこにおける競争、それを阻止するために業者間協定がその役割りを果たしてきた。その二つを結合した中で今日まで運営されてきたのではないかというふうに私は推定をしているわけです。私はこの二つを結合したものをかりに日経連方式と、こう言いましょう。そうではなくして、四のことは、最後の中小企業の問題は多少ひっかかるにしても、一と二と三、いわば大橋大臣が述べられた程度の、たとえばある程度の例外を除けば全国一律最低賃金制ということを考慮しても、討議の対象にしてもいいのだとか、ことばは忘れましたが、あるいは最賃制あり方は、労働者側の意見と経済政策とを一致し、調和させて、そして定めたいという意見、まあこれをかりに池田方式と、こう私は名づけてみましょう。そうすると、どちらに比重が高いかといえば、今度の、といってはおかしいが、今度の労働大臣は池田方式に立って審議会方式中心的な運営をされる。いま一度、念を押すようですが、こういうふりに理解してよろしいでしょうか。
  21. 小川平二

    ○小川国務大臣 労働者側の意見は十分尊重して、これを経済政策と調和せしめるという方向は、これは疑いもなく正しい方向である、かように考えております。
  22. 加藤万吉

    加藤(万)委員 私の言っているのは、労働者側の意見を聞くというだけではなくして、最低賃金制がわが国に実施をされる土壌といいましょうか、基礎となる政治的角度ということを実は問題にしているのです。いわゆる最低賃金制というものは、業者間で提起をして審議会できめる方式はもうだめなんだ。いわば、労働省審議会にも諮問されているように、これではILO二十六号条約に抵触する部分が多くてというようなことばがあったようですが、これではいけないのだ。したがって、最低賃金制というものはいわば労使間の賃金の設定、これは協約化される場合もあるでしょう、あるいは審議会で、労使間でこの額がいいという額をきめる場合もあるでしょう、それを審議会という角度できめる場合もあるでしょう。いわば業者間によってやるのではなくして、労使間の賃金をきめるという、平等の原則の上に立った賃金をきめるという、その角度からこれからは日本最低賃金制をつくっていくのだ。そういう政治的角度大臣はお取り組みになるのかどうかということを私、実は聞きたいわけです。
  23. 小川平二

    ○小川国務大臣 方向といたしましては仰せのとおりだと存じます。労使双方の意見を十分取り入れて運営していくべきだと考えております。
  24. 加藤万吉

    加藤(万)委員 少し角度を変えますが、本法は中賃の答申に基づいて法の改正をされ、今国会に提起をされた、こういうふうに理解してよろしゅうございましょうか。
  25. 小川平二

    ○小川国務大臣 そのとおりでございます。
  26. 加藤万吉

    加藤(万)委員 この中賃の答申は、御承知のように冒頭に「現段階における最低賃金制の取扱いについて」と、こう書いてある。一体この現段階というのはどういうように理解したらいいのでしょうか。私はこの中を、あるいは審議会経過を見ますると、基本的な問題あるいは根本的な問題はまだまだ討議をする余地がある。したがって、当面、いわゆる現段階ですね。現段階では、こういう最低賃金制の取り扱いがいいのではないかといういわゆる中間答申、こういうふうに見ておりますけれども、こういう見方、そしてそれに基づく法案提出、こういうことでよろしゅうございましょうか。
  27. 小川平二

    ○小川国務大臣 おことばのとおりでございまして、最低賃金制の今後の望ましいあり方がどのようなものであるべきかという点につきましては、先ほど御指摘のありました全国全産業一律最賃方式をも含めて御検討願っておるわけでございます。今回の答申は、文字どおり中間答申でございまして、最低賃金制の最終的なあり方がいかようなものになろうとも、そこに至る過程において少なくともこの点だけは改めなければならない、そういう趣旨の答申である、こう理解しておるわけであります。
  28. 加藤万吉

    加藤(万)委員 これは後ほどたいへん重要な問題にかかってまいりますから、いま一ぺん確認をしますが、基本的な根本的な改正については、最終的なあり方が将来は浮かんでくるだろう。しかし、当面はこの部分だけの改正が必要である。そういう審議会の意向に基づいて、法案内容も、当面はという、そういう全体の理解をしてもよろしいのでしょうか。審議会の答申は大臣が言われたとおりだと思う。ただ、法案内容は、当面は、現段階ではということばで表現される角度法案も提起をされている、こういうふうに理解してよろしゅうございますか。
  29. 小川平二

    ○小川国務大臣 中間的な答申に基づいた当面の措置と御理解いただいてけっこうでございます。
  30. 加藤万吉

    加藤(万)委員 この答申には、法案でもそうですか、いわゆる現行業者間協定を二年間併存する、そして併存する過程の中で十六条方式に移行する、そういうように私は理解をしているのですが、これは間違いないでしょうか。
  31. 小川平二

    ○小川国務大臣 経過期間中においては、二つの方式が並んで存在をしていくわけであります。
  32. 加藤万吉

    加藤(万)委員 業者間協定の二カ年間のいわゆる併存ということと、根本的あるいは基本改正をする審議との関係はどうですか。
  33. 村上茂利

    ○村上(茂)政府委員 ちょっと私から答申の趣旨と関連することでございますから申し上げます。  経過期間の二カ年間併存するということばの使い方でございますけれども、新設ができないという意味では、十六条方式とは同じ状態にはないわけでございます。新設されますのは十六条方式でございます。ただ、従来の業者間協定賃金を引き上げるための改定、その他引き上げる機能だけでございます。同じく生きておると申しましても、金額を引き上げるために改正をするというだけの意味しかないわけでございますから、制度的には十六条方式が中心になったというふうにも言えるわけでございます。若干のことばのニュアンスの問題でございますので、私から申し上げたいと存じます。
  34. 加藤万吉

    加藤(万)委員 大臣、私の質問に答えてないわけです。私は、二カ年間業者間協定の延長、それは併存でもいいし、あるいは新設——新しい業者間における申請の額の引き上げだけがその間に行なわれる。これは多少技術的、というより扱い上の問題ですから私は言いませんが、私は、二カ年間そういう形であるということと、審議会の十六条方式によって生まれてくるものを新設していきますということと、そうしていま一つ大臣が言われた、これは当面の段階のものである、中間的なものである。したがって、基本的、抜本的な改正は当然あるわけですね。わが国の最終的な案というのはある。その案が、この期間の関係からいってどうなりますか。それでは、いつごろ基本的な、抜本的な改正というのが本国会に提起をされるか。あるいは審議会の討議の目安はいつごろつけられるか。
  35. 小川平二

    ○小川国務大臣 ただいまの御質問は、審議会における状況がどうなっておるか、最終的な答申が出るのはいつごろか、こういう御質問であろうかと存じますが、審議の状況につきましては、ただいま基準局長から申し上げます。
  36. 村上茂利

    ○村上(茂)政府委員 審議会からございました答申の趣旨とするところは、最低賃金方式の廃止ということは、これは決定的な意見であるわけでございます。したがいまして、この措置は暫定であるとか、当分とかということではないわけでございます。——失礼いたしました。業者問協定に基づく最低賃金方式の廃止ということは、これは当分の間ではございません。最終的な意見として出てきておるわけでございます。したがいまして、その部分を受けております今回の改正法の部分は、当分の間という趣旨のものじゃない。業者問協定に基づく最低賃金方式の廃止、これは永久的なものとなるわけでございますが、その他将来の最低賃金制度のあり方においてどうするかという点については、できるだけすみやかに結論を得られるよう引き続いて検討を行なうという意向を、審議会そのものが答申の中で表明されておるわけでございます。  そこで、今後得られます結論がどのようになりますか、いま予測はできませんが、先ほど私が申し上げましたように、一口に最低賃金制と申しましても、きめ方の方式の問題をどうするとか、いろいろあるわけでございます。そのようなものをどのように考えるかという問題があるわけでございます。したがいまして、今後審議会で慎重に検討されるわけでありますが、それが法律改正という形でどのようにあらわれるかということについては、いま直ちに予見をすることは困難でございますが、少なくとも最低賃金審議会が昨年五月の段階で答申をいたしましたその答申の趣旨におきましては、業者間協定に基づく最低賃金方式の廃止ということも明確に打ち出し、基本的問題については引き続き検討を行なう、こういう態度をとっておりますので、それを政府として受け止めるかという点については、先ほど大臣がお答えを申し上げましたとおり、これは中間的なものと考える、こういう態度で臨んでおるわけであります。
  37. 加藤万吉

    加藤(万)委員 大臣、実はいまたいへんなことが発言されておるわけです。業者問協定による移行措置は二年間認めるわけですね。そうして十六条方式に移行するわけですね。十六条方式によるものは永久的にといま言われたのですが、——いまの発言では、審議会あり方については永久的なものにして、その問において抜本的と、こういうふうに発言されたような気がするのですが…。
  38. 村上茂利

    ○村上(茂)政府委員 私が答弁申し上げましたのは、業者間協定に基づく最低賃金方式の廃止ということは、これは当分の間じゃございません。これは恒久的な廃止でございますということを申し上げたので、審議会方式云々ということを、私、申した記憶がないのでございますが、もしそのようにおとりいただきますと多少の誤解があると存じます。
  39. 加藤万吉

    加藤(万)委員 私の誤解は解けました。  問題は、二年間業者間協定の移行措置を行ない、今度十六条に移行する。そうして移行したあと、その間にも中賃の基本問題小委員会では進められているわけですね。これは三十八回の審議会の議事録、有沢会長がこの問題を最終的に締めくくる際に、いろいろ申し述べられた点が幾つかあります。たとえば全国一律最賃の問題にしても、あるいは地域別最賃の問題にしても、あるいは業種別、産業別、それらの組み合わせ等、いろいろな問題が出ておるわけです。いわゆる中間答申の経過の中でも実は出ているのです。したがって、これは答申にありますように、できる限り早く基本問題小委員会で討議しましょう、こう言っておるわけですね。そうすると私は、四十二年に答申をされ——その前に目安賃金のワクを一時はずし、その次は審議会方式になってきた。この二年以内ないしは一年半か二年半でございますが、その方式の経過からいって、本法の暫定的処置というものは答申があってから二年ないしは三年、そういうように見ていくのが過去の経過から見て正しいように思うのですが、大臣どうでしょう。
  40. 小川平二

    ○小川国務大臣 どうもいまお読み聞かせくださった点は、ちょっと開き漏らしておるかもしれませんけれども、そのお読みになった中に二年あるいは三年というものがあるのかどうか存じませんけれども、これは必ずしも二年と限定しなければならないとは考えておりません。最終的な答申が、いかなる形でなされますか、なされた場合には、その答申の線に沿ってさらにまた法律の改正ということを考えなければならないと存じますけれども、それがいまから二年以内でなければならない、三年以内でなければならないとは考えておりません。
  41. 加藤万吉

    加藤(万)委員 いや、そういう考えるとかなんとかじゃなくて、この審議の経過からいって、そのくらいが目安になるんじゃないですか。したがって、当面の措置である、暫定の措置であるというふうになってこなければ、政府側の提案の論旨が合わないんじゃないですか、こう言っているわけです。
  42. 小川平二

    ○小川国務大臣 非常にむずかしい御質問でございます。審議会においてはむろん鋭意、きわめて精力的に審議をなさっていただいておるわけでございますから、最終的な答申が出るのはあまり遠い将来であろうとは考えておりませんけれども、さりとて、これが二年以内でなされるかどうか、そういう保証もないわけでございまして、遠からざる将来に答申がいただけるものというふうにまあ理解するほかはないと思います。
  43. 加藤万吉

    加藤(万)委員 いわゆる暫定的であるということは、これは確認されたわけですね、当面の暫定的な問題だと。だとするならば、政府側は、次に出てくる基本的な最賃制期間についていつごろまでに期待をするか、ないしは目安をつけるかということは当然あってしかるべきじゃないですか。先ほど大臣のこの問題に対する政治姿勢を実は聞きましたけれども、その政治姿勢というのは、本来あるべき日本最低賃金制確保について、大臣がかわるたびに屈折するようなことでは困りますよ。したがって、当面はこの法案を出すにしても、大臣が次に期待する答申案、あるいは大臣が持たれる最低賃金制に対する政治姿勢角度からくる答申は、いつごろまでに期待されるか、このことを聞きたい。
  44. 小川平二

    ○小川国務大臣 これは審議会の答申そのものも、将来の最低賃金制あり方については、その間においてできる限りすみやかに結論を得られるよう引き続き検討を行なうことが適当だと言っておられるわけでございます。したがいまして、ただいまこの時点である程度明確に、大体二年後とか、三年後とか申し上げるわけに実際のところいきかねるわけでございます。私どもといたしましては、何ぶんこれは根本問題を御審議いただくわけでございますけれども、ただいまのところ、両三年後には答申がいただけるもの、このように期待をいたしております。
  45. 加藤万吉

    加藤(万)委員 各条について多少触れていかなければいけませんからまいりますが、昭和四十一年の十月に山手大臣が中賃の答申を受けるに当たって所信の表明をされました。その際に、ILO二十六号条約に適合する答申をぜひひとつ出していただきたいと言われたわけです。前回枝村委員が本問題について多少質問をしました。その際に、村上基準局長から疑わしい点があるので、今回の改正でこれらの部分は削除しましたこういう答弁がありましたが、これは基準局長から確認したほうがよろしいと思いますが、基準局長は疑わしい点があるので、今回の改正でこれらの部分は削除した、とこうこの前の枝村委員の質問に答弁をされたのでございますが、これは確認してよろしゅうございますか。
  46. 村上茂利

    ○村上(茂)政府委員 その前後をちょっと……。
  47. 加藤万吉

    加藤(万)委員 ILO二十六号条約について、これに適合する答申をお願いをしたいということを山手大臣が申し上げまして、それが中賃の答申になってまいりました。その答申の結果を経て今回の法案提出には、疑わしい点があった分は、今回の改正でこれらの部分は削除しましたというふうにあなたが答弁されておるのですが、これは確認してよろしゅうございますかと聞いているのですが……。
  48. 村上茂利

    ○村上(茂)政府委員 あるいは私の前にいたしました答弁が十分意を尽くさなかった点があったのかもしれませんが、ちょっと私も明確に思い出しませんけれども、四十一年二月の段階でILO二十六号条約に関する問題を追加諮問をいたしました。その際に政府としましては、「海外における最低賃金制の現状等広い視野から御検討いただくようお願いしたところであり、ILO第二六号条約との関係についても、これに含め検討されるものと存じておりますが、この際、これを明確にする意味で、最低賃金法が同条約に適合するよう、答申をたまわりたく、」と、こういうふうに申し上げておるのでありまして、その疑義がある云々の点を指摘されましたが、おそらく「これを明確にする意味で、」というその追加諮問のことばに相応する部分に、そういう疑義のあるということばになったかと存じまするが、なお答弁の趣旨は、十分理解していないかもしれませんので、さらに御質問を承りまして答弁したいと思います。
  49. 加藤万吉

    加藤(万)委員 その点はそれでいいのですよ。  そこで大臣にお聞きしますが、ILO条約は御承知のように各国における労働基準について最低を条約化し、あるところは勧告をしているわけでありますね。私は、ほかの委員会でも申し上げましたけれども、わが国のように世界第三位の鉱工業生産力を持つ国が、ILOの最低基準に合致をするということは、いわば最低条件であって、もし望むならば、世界第三位にふさわしいような、後進国に対して指導標を与えるようなわが国の立法が必要ではないか、こういうふうに実は考えるわけです。そういう意味では最低の基準をおとりになるという場合でも、ILO条約の二十六号なり、あるいは勧告三十号をきわめて厳格にとらえる必要があると思うのでありますが、この点について大臣はどういう所信でしょうか。
  50. 小川平二

    ○小川国務大臣 御趣旨のほどはよくわかるのでございますが、いま御指摘の三十号勧告は、支払い能力云々ということには触れておらない……(加藤(万)委員「そこまでは言われなくてもいいですよ。」と呼ぶ)いや、その御質問であろうと承っておりましたので申し上げるわけですが、御趣旨は仰せのとおりだと思います。
  51. 加藤万吉

    加藤(万)委員 私は、労働大臣として、世界第三位を誇る工業国の日本として、ILO条約は批准をする、ないしは勧告に沿うというならば、当然の措置として先進国的役割りを指導標としてお求めになることが必要ではないか、そういう意味では今回のこの問題が、ILO条約を批准するということが、非常に重要な部分になっているだけに、厳格にその部分をおくみ取りになって法文化する必要があったのではないかというふうに思うわけです。それに対する大臣の所信をお聞きしたいわけです。
  52. 小川平二

    ○小川国務大臣 その点は仰せのとおりでありまして、条約のみならず、勧告の趣旨をも、実情に即してあとう限り取り入れる、こういう態度で臨むべきだと存じます。
  53. 加藤万吉

    加藤(万)委員 先回りをされてしまいましたけれども、そこでいわゆる第三条の問題になるわけです。  第三条は、もう私が指摘するまでもなく、ILO条約が、現行第三条の最低賃金原則ですね。「労働者の生計費、類似の労働者賃金及び」いわゆる「賃金支払能力を考慮して」とありますが、一体賃金の支払い能力というものを、どういうようにこのILO条約から見て対比をされるのか、お聞きをしたいと思うのです。賃金の支払い能力をなぜここに挿入しなければならなかったのか、あるいはそれがILO条約に抵触しはしないか、この点をお聞きしたいと思うのです。
  54. 小川平二

    ○小川国務大臣 やはり最低賃金を決定いたしまする場合に、ほかのもろもろの原則とともに、通常の企業の一般的な支払い能力というものは考慮すべきであろうと考えております。そうでありませんと、通常の企業の支払い能力をはるかに越えたところで最低賃金が設定されるということでは、産業経済に混乱を生ずることにもなる、かように考えております。  またILOとの関連では、一九五八年ILOの条約勧告適用専門家委員会というものの報告によりますと、この報告では、適当な生活水準の維持ということのほかに、このように書いております。「最もしばしば見出される基準は、定められた賃金率を支払う企業の能力、一般的な経済状態、類似の職業において支払われる賃金率および仕事の性質である、」このように述べてもおるわけでございまして、ILOの条約、勧告をも含めました最賃に関する基本的な考え方と必ずしも矛盾してはおらない、こういうふうに理解をしておるわけであります。
  55. 加藤万吉

    加藤(万)委員 公明党さんにちょっとお聞きをいたします。  公明党さんの出されている最賃法案第三条は、やはり最低賃金の決定について定義をされておるわけです。公明党さんの案は、第三条で基準生計費、十八歳の労働者が健康で文化的な、いわゆる憲法に保障されている最低生活に必要な賃金をここに挿入されているわけです。そこで、いま大臣の所信が明らかになりましたように、ILO条約は、御承知のように、いわゆる一つは生計費、いま一つは条約による一般拡張賃金、いま一つは類似の労働者賃金、こういうふうになっているわけですね。したがって、公明党さんの第三条は、いま政府が提案されている第三条の企業の支払い能力という面については全然触れておられないし、大臣が答弁になった分とはおよそ意見が違うわけです。そこで、公明党さんの、第三条の基準生計費を最低賃金に持ってこられた理由と見解をこの際お聞きをしておきたいと思います。
  56. 小平芳平

    小平参議院議員 お答え申し上げます。  一般的通常の企業賃金支払い能力が、賃金を決定する場合の一つの要素になるということは、私たちも十分考慮に入れて論議をいたしましたが、しかし、国が最低賃金を法的に強制する、きめるという場合に、かつては極貧労働者あるいは苦汗労働の禁止というふうなところから、最低賃金制度というものが一般的にとられるようになったという経緯、あるいはまた、現状において労働者最低生活水準確保できる労働者最低賃金をきめるという、こうした国の政策的な見地からきめる賃金でありますから、ここでいま大臣が申されましたような、では通常の企業賃金支払い能力をどう判断しきめるかということは、実際問題として抽象的にきめようがないというふうに私たちは考えました。現に、その最低賃金制度が行なわれていない企業でも、中小企業が空前の倒産をしているという現状から考えても、支払い能力がないために最低賃金実施するのが困難と目されるその中小企業を守るという政策は、単に最低賃金をきめる場合に、それを考慮に入れるなら倒産しないで済むが、それを考慮に入れなければ続々倒産していくということとは別個の問題として、もっと中小企業に対する政府政策が——現状においても倒産に次ぐ倒産で、ある地方では企業の蒸発というのが流行語になっているような現状、こういう点は、やはり中小企業対策は、そういう面からもっと力を入れていただきたいというふうに考えております。
  57. 加藤万吉

    加藤(万)委員 そうしますと、中小企業近代化政策なり、あるいは中小企業の育成政策が行なわれれば、やはり公明党さんが言われている第三条、生活費を可能にする条件はわが国では存在する、そういうふうに見てよろしゅうございましょうか。
  58. 小平芳平

    小平参議院議員 先ほども、委員から指摘されておられましたように、国民総生産はすでに四十一兆をこえて世界第三位であるというだけの工業力を持ち生産力を持っておりながら、しかも労働者賃金だけは低く押えられ、一人当たりの国民所得は二十何番目前後というような現状は、もっともっと十分に改善する余地があるというように考えまして、私たちとしても、類似労働者賃金あるいは通常の企業の支払い能力を全く無視して、架空な最低賃金制をきめろという考えは毛頭ありませんが、しかしながら、最低賃金法の趣旨は、そういうような企業の支払い能力がいいか悪いかというところに趣旨があるのではなくて、労働者生活水準の向上、生活可能な最低賃金がいま十分支払われていないという現状から見て、第一に必要なことは労働者の基準生計費の保障である、このように考えておる次第であります。
  59. 加藤万吉

    加藤(万)委員 いまの御趣旨の限りにおいては、わが党が求めている最低賃金の額の決定方法とは相違がないというように実は判断いたしました。そこで、通常の企業の支払い能力とは一体どういう条件のことを言うのでしょうか。私は最低賃金の払えないような企業、逆に言うならば、通常の企業の支出能力——通常の企業といえば、最低賃金の支払われる企業というように私は理解しますが、この点はどうでしょうか。通常のという意味は一体どういう意味でしょうか。
  60. 村上茂利

    ○村上(茂)政府委員 法的な意味においてはまさに通常でございますから、社会通念に従いまして、そのときその状態における平均的な状態を考えるわけでございます。しかし、これはそのときどきに調査をいたしまして、当該最低賃金を決定する際の調査の際にこれもあわせ行なって判断するということになるわけでございます。年々経済情勢の変化によりまして具体的な標準というのは変わるわけでありますから、調査によって判断せざるを得ないということに相なろうかと存じます。
  61. 加藤万吉

    加藤(万)委員 それでは第一の原則ですね。労働者の生計費、その次に類似の労働者賃金をきめていって一定の額が出たとき、通常の企業の支払い能力がないことによってその賃金は下げられますか、下がりますか。
  62. 村上茂利

    ○村上(茂)政府委員 一つの基準としては、通常支払われる賃金という考え方が出てまいりますが、それは当該最低賃金をきめる際に関係する業種なり産業におきまして、どのような賃金が払われておるかということが、現実の問題として調査の対象になるわけでございます。したがいまして、それとの関連において最低賃金の額をきめる限りにおいては、支払われるかどうかという点についての疑念も解消するということになろうと思います。
  63. 加藤万吉

    加藤(万)委員 そうすると、生計費、類似の労働者賃金ですよ。これは払われておるわけですから、さらにそれによって決定された額が通常の企業の支払い能力によって減額されるというのは一体どういうことですか。そんなことはあり得ることではないじゃないですか。
  64. 村上茂利

    ○村上(茂)政府委員 法の定める条件としては、御指摘のように生計費とか、通常の賃金とか、支払い能力となっておりますが、それは個別的に孤立したものではなくて、要するにそれを総合して判断するというのが法の精神であろうと存じます。したがって、実際の賃金額を決定するにあたりましても、いろいろな消費者物価指数であるとか、あるいは家計費調査であるとか、そういうものを用いますし、それから賃金額については、いろいろな調査をしましてそれによる。それからまた、支払い能力の点につきましても、たとえば地域最賃でございますと、その地域における最近の産地の状況調査をするといったような調査をいたしまして、総合的に勘案して額をきめる、こういうことにいたしております。
  65. 加藤万吉

    加藤(万)委員 だから、そういうことを判断する、そういうものが支払われる企業はいわゆる通常の企業でしょう。そういう周囲の賃金状況とか、あるいは地場の賃金相場とかいうのは、それは通常の企業の支払いでしょう。通常の企業が支払えるわけでしょう。だとするならば、それは通常の企業の支払い能力が問題じゃなくて、周囲の労働者賃金環境が問題なんですよ。ですから、生計費と周囲における労働者賃金、それによって最低賃金額をきめても、周囲の労働者賃金の要素には、当然通常の企業の支払い能力というものが含まれているわけですから、そうすれば、わざわざ第三項の通常の企業の支払い能力というものを挿入する必要は何もないじゃないですか。
  66. 村上茂利

    ○村上(茂)政府委員 お説のような状態でございますと、最低賃金を若干高目にきめました場合に、それ以下のものがどれくらいの人数あるいは率であらわれるかという判断をいたしました際に、それが相当ひっかかるということになりますれば、個別企業にとっては賃金支払いは……
  67. 加藤万吉

    加藤(万)委員 それはおかしいですよ。考えてみなさいよ。それ以下の人がないから——それ以下よりうんと下がる、いわゆる周囲の平均以下の人が多くあったら、この地域の賃金は、通常なる企業の支払い能力以上に払っているわけでしょう、通常の企業は。もしこの層が——ここにきめようと思ったけれども、この下の層が多かったというならば、ここの地域の最低賃金はこの下にきまるべきでしょう。きまるべきですよ、これが周囲の賃金の状況ですから。周囲の労働者賃金の状況というのは、いわばそこの地域、あるいは業種なら業種のいわゆる平均的な要素になるわけです。どうしたって平均的な要素になりますよ。こっちの下が多くて、ここの上が少なくて、ここにきまったというようなことは、周囲の労働者賃金一つの対象にする限りは、そんなことは起きませんよ。どうですか。
  68. 村上茂利

    ○村上(茂)政府委員 マクロ的な議論とミクロ的な議論があると思うのですが、額をきめまして、その適用を受ける労働者なり使用者の範囲がどれくらいに及ぶかという場合に、ある企業にとっては、その最低賃金額以下の賃金が支払われている労働者がかなり多いという場合に、引き上げた場合に、経営としてどのような影響を持つかということはやはり問題たり得るわけであります。しかしそのウエートが、最低賃金額をきめる際の最も重要な要件であるかどうかという点につきましては、そういう要素も考えて総合的に判断するのだというふうに冒頭に申し上げたとおりでございますので、そういう趣旨から判断すべきだと思います。
  69. 加藤万吉

    加藤(万)委員 結局、局長、あなたの考えの中には、そこにおる労働者の平均的な賃金一つの基準にしてではなくて、そこにある企業の平均的な基準になるのですよ。たとえば五十人の企業が五つあって、五百人の企業が五つあったとしますと、この平均はそのまん中ですね。ところが片一方の労働者は二千五百人ですよ。片一方は五十人ですから二百五十人しかいないわけです。だから、労働者の平均ということですと、企業の平均的な支払い能力とは違うのですよ。あなたの考えは、企業の平均的な支払い能力を頭に置いているから、労働者賃金を、その地域では平均的なところを押えようとしても、この企業がつぶれてしまいはしないか、そういうものが下に多くできる可能性があるわけです。企業の数としては多くできる可能性がありますよ。私は、このあと問題になります例の「大部分」の問題、十一条方式の拡張の場合に、大部分は一体労働者をとるのか、企業をとるのか、これは大問題になると思うのです。最低賃金をきめるときに、周囲の環境としては、その地域の企業の平均的な賃金をとったら、こちらの賃金は一万五千円、向こうは五万円、たとえば平均してみたら二万五千円だということになってしまう。ところが労働者の平均的賃金、五万円の労働者が二千五百人、一万五千円の労働者が二百五十人いるのとは違うのですよ。あなたの考え方でいくと、そういう発想になっていくから、あとの十一条のときにも企業の大部分がというようなことが入ってきてしまうわけです。これは十一条を扱う場合にもこの問題が非常に出てきますよ。どうですか。私は局長に聞きますけれども、労働者の数をもって平均的ないわゆる周囲の環境の賃金の基準としますか、いかがですか。
  70. 村上茂利

    ○村上(茂)政府委員 私が申し上げておりましたのは、最低賃金額の決定のときの問題であったわけですが、それが十一条まで展開されましたので、観点をどこに合わせますか問題でございますが、平均的な問題と、それから現実にその地域内に分布しておる各企業なり労働者賃金分布というものがどういうものであるかということをつかまざるを得ない、最低賃金額をきめまして拘束力を持たして従わせるという場合に、引き上げて直さなければいけない企業なり労働者がどのように分布しておるかということで判断せざるを得ない、その際に企業の支払い能力という考え方が生きてきはしないかということを申し上げておるのでありまして、それを最重点に考えるという思想ではございません。したがいまして、十六条方式の運営にあたりまして、労働組合と使用者が同列に扱われておるその考え方は、そのような、先ほど申しましたことと関連して扱われているのではないかという点については、私は必ずしもそうは思っていないわけでございます。
  71. 加藤万吉

    加藤(万)委員 それでは、大臣にお聞きします。いわゆる生計費、それから周囲の労働者賃金、これが私は主だと思うのですよ。そうして企業の支払い能力というものは、通常の企業の支払い能力ですから、当然第二項に実は含まれておる、通常の企業の支払っている賃金が、その周囲の労働者賃金のいわゆる平均賃金になるというのですから、標準賃金になるわけですからこれが含まれている、こういうふうに私は理解する。したがって、第一、第二が主であって、もしかりに認めるとしても、第三の要素は従である。いま局長は、これは三つのことをまとめて平均的に見る、こういう答弁ですけれども、私の言うのはそうじゃなくて、これとこれとが主で、公明党さんも答弁がありましたように、生計費あるいは文化生活を営む条件、あるいは周囲の労働者の環境、あるいは賃金、そういうものが主であって、そしてそれが遂行できるかできないかは次の角度として企業の支払い能力の問題を見ていくべきである、こういうふうに私は理解し、この法案の三条についてもそういうふうに理解しておりますが、もし間違いであったらひとつ指摘をしていただきたいと思います。それでよろしゅうございましょうか。
  72. 小川平二

    ○小川国務大臣 これはこの三つの指標のうちのどれに重点を置くべきかという問題ではなくて、そのときどきの状況に従いまして総合的に判断すべきであると考えております。
  73. 加藤万吉

    加藤(万)委員 大臣、ILO条約は、それを総合的に見ろとはいっていないのですよ。たまたま大臣が先ほど説明されたことは、生計費と周囲の一般労働協約、その拡張適用賃金、そしてもしそれがなかった場合には周囲の労働者賃金状況、そしてそれを判断する従的な問題として、先ほど来大臣が答弁されたことを実は規定しておるのですよ。ですから大臣が、それは同じですと、こう言われたのでは、これは最低賃金額の決定の基礎ですからたいへんなことになってしまうわけです。
  74. 小川平二

    ○小川国務大臣 ILO条約というおことばですけれども、先ほどお耳に入れました条約勧告適用専門家委員会の報告におきましても、「最もしばしば見出される基準は」として、最初に「定められた賃金率を支払う企業の能力」、これを一番先に出しておるわけであります。これは必ずしも順位を付しておるわけではなかろうと思います。これと並んで「一般的な経済状態」とか、「類似の職業において支払われる賃金率」云々と、こう書いてあります。ILOそのものは、どの基準に最も重点を置かなければならないというような考え方をとっておるわけではないと存じます。
  75. 加藤万吉

    加藤(万)委員 理事間の話があるそうですから、ここで少し休憩いたします。
  76. 八田貞義

    八田委員長 この際、午後一時まで休憩いたします。    午後零時十分休憩      ————◇—————    午後一時十二分開議
  77. 八田貞義

    八田委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  質疑を続けます。加藤万吉君。
  78. 加藤万吉

    加藤(万)委員 先ほど、最賃法第三条について、特に「生計費」、「類似の労働者賃金」、そして「通常の事業の賃金支払能力を考慮して」という問題について、いろいろな角度から質問をしました。おそらく大臣はお聞きの過程でおわかりになったと思いますが、「通常の事業の賃金支払能力」ということを入れる必要が主観的にも客観的にもないと私は思いますので、本文は、本来的にこの第三条から削除すべきが至当だろうというふうに思います。  そこで、さらに各条について御質問を申し上げます。  まず最低賃金法の十一条、すなわち、労働協約に基づく最低賃金の決定について、幾点かを御質問申し上げたいというふうに思いますが、この十一条は、私は実はこういうふうに考えるのであります。フランスにおける最低賃金制の発展の経過、あるいはヨーロッパの先進的な諸国はそうでありますが、労使間のいわば協約化された賃金が、地域別であれ産業別であれ、その賃金を主体にして最低賃金制という土壌ができたことは、大臣も御案内のとおりであります。わが国においては、先ほども御指摘になりましたように、いわゆる労使間協定によって最低賃金が定められるというのは、二つの問題点から非常に困難な条件があるわけです。一つ日本労働運動がきわめて浅いということであります。それから第二の条件は、いわゆる中小企業中小企業自体の分野を持っていない、たとえば大企業の系列であるとか下請であるとかという関係、さらに中小企業がきわめて零細化をしているという関係で、そこに労働組合が組織でき得ない。したがって、そういう条件が十一条による最低賃金額を策定することを非常に困難にしているわけですが、私は、本来日本最低賃金は十一条方式によってあるべきだという考え方を、実は持っているわけです。全国一律の最低賃金制は、日本の低賃金構造をなくすという側面と、いま一つの側面は、いわゆる産業別なり地域別なりによって、労使間協定による一般拡張適用、こういう形にその二つが相まって、日本のいわゆる最低賃金制による低賃金構造の改革という面が行なわれるのが本来的なあり方だということを、私は思っているわけです。これは前段に私が大臣に質問を申し上げたとおりであります。  そこで、そういう角度から問題をながめてまいりますと、この十一条の中に「同種の労働者及びこれを使用する使用者の大部分が賃金最低額に関する定を含む」云々とあります。いわゆる「使用する使用者の大部分」という定義は、最低賃金制をつくる場合、一般拡張適用する場合に、きわめて問題になるところであります。そこで私は、本法と同一的な要素、要件を持っております労働組合法の第十八条、すなわち地域的な一般的拘束力との関係を見まして、おそらく十一条は、労組法十八条のさらに最低賃金をきめるための拡張的法則であるというふうに理解をしておりますがゆえに、十八条は「使用者の大部分」が含まれていないにかかわらず、十一条で「使用者の大部分」という問題が含まれている、この変化は一体どういう関係で生まれてきたかということを、ひとつお聞きしたいと思います。
  79. 小川平二

    ○小川国務大臣 労働協約を拡張適用する方式が望ましいという御趣旨の御質問が冒頭にございまして、これに対しては、先刻御答弁を申し上げたとおり、一言にして申しますれば、おことばにございますとおり、この方式がなおわが国の土壌に適しておらない。その理由は、これまたおことばにございましたように、一つ労働組合運動の歴史が浅いということと、もう一つは、要するに日本経済の後進性ということに帰着するということでございましょう。しかし、その考え方そのものを決して否定しておるわけでもないことは、これまた先ほど申し上げたとおりでございます。  そこで、ただいまの御質問は、この最賃法十一条の方式による最賃の問題であったと存じますが、これを労働組合法十八条によって労働協約を拡張適用していく場合と対比しての御論議であったと存じます。これは一方では罰則をもって使用者を義務づけるという問題でありまするし、労働組合法十八条のほうは、かりにこれに違反しました場合にも民事法的な問題にとどまるわけでございましょうから、これを直接に対比して議論をすることが必ずしも適切であるかどうか。同じでなければならないという理由は必ずしもないのではなかろうかと考えております。おりますが、今日までこの十一条方式による最賃法適用が非常に少ないということは、確かにただいま御指摘のあった点にも関連があると存じます。この要件、しぼり方があまりきつ過ぎるという点にも若干の関連があるのではなかろうかという感じを、私もまた抱いておるわけでございます。この点につきましては、ただいま御審議を願っておる審議会で特にひとつ御検討願って、改善の余地があれば改善をすべき問題ではなかろうか、このように考えておるわけでございます。
  80. 加藤万吉

    加藤(万)委員 いま大臣が言われたように、本問題については、もう山手労働大臣のときに、その諮問の趣旨に関して発言を行なっておるわけですね。「現行賃法第十一条の労働協約に基づく地域的最低賃金は、これまでの運用の結果から見て、その決定の要件が制限的に過ぎるのではないか」、こう実は言われておるわけであります。そうしますと、山手大臣の発言は四十一年ですね。大臣は四十一年から今日まで、四十二年の答申を受けて法を改正するまでの二年間、実は同じことを言われているわけです。現大臣も山手大臣も実は同じことを言われているわけです。私はこの文は、これはだれが見てもおかしいことなんで、当時もう大臣が指摘をしておるわけですから、本法の改正にあたっては、この部分は少なくとも削除されていかなければいけない問題だろうと思うのです。特に私は、業者間協定による延長という形に今度審議会が見られないためにも、いわゆる十六条方式による形が従来の業者間協定の延長ではないということを区切りをつける意味でも、十一条のこの部分をなくして、十一条方式による一般拡張による地域別的な最低賃金を一方では拡大をしていく、そういう姿に、正しい方向に法文は改正をされてしかるべきではなかったかと私は思うのですが、いかがでしょう。
  81. 小川平二

    ○小川国務大臣 確かに一つ問題点であると考えておりますことは、ただいま申し上げたとおりでございますが、山手労働大臣審議会に諮問をいたしますに際して、特にこの点に触れておるわけでございます。「その決定の要件が制限的に過ぎるのではないか等」云々と書いて、「検討を要すると思われる問題もあります」ので特に審議会の御検討をわずらわしたい、という趣旨で諮問をいたしておりますので、私どもといたしましては、審議の結果答申がなされた上で改正に着手するということであるならば着手しよう、こういう考え方をとっております。
  82. 加藤万吉

    加藤(万)委員 私は抜本改正まで待つ必要は全然ないと思うのです。いわゆる現段階における改正の時点でも——そこが問題だということは、当時の大臣も指摘され、現大臣も指摘されておるわけですから、だとするならば、本改正について、いわゆる諮問事項でなければ——この面については特別に諮問しているのですから、中賃のほうはどういう見解とどういう答申をいただけるでしょうかという、いわば、催促と言ってはおかしいですけれども、そういう態度であってしかるべきではなかったかと思うのです。それが今回の場合にはないわけですね。ですから、どうしても法全体の体系、改正案の体系から見ますと、業者問協定の延長として審議会方式だけが、いわゆる九条、十条がなくなって審議会方式だけがとられたということであって、審議会方式をとるということは労使間の平等の場をつくったということなんですから、だとすれば、十一条の一般拡張の適用による地域的な拡張を労使間の協定賃金として拡大をするという方向に労働行政の指導標があってよかったと思うのです。いかがでしょう。
  83. 村上茂利

    ○村上(茂)政府委員 内容が技術的な問題もございますので、私から御答弁申し上げますが、現行法の十一条があまりにも制限的でありまして、いろいろの問題があるということは御指摘があったとおりでございますが、これを技術的に見ますと幾つかの内容があるわけでございます。一つには、御指摘のような「使用者の大部分が」と、「大部分」という使用者に関する条件が入っております。それからまた、改定などをいたしました場合に「全部の合意による申請」がある。その「合意」を、たとえば判をとりまして確認するとか、こういう手続がございます。それからまた、改正をします際に、経営者側ないしは労働組合側に組織変更がございましたときに、従来の関係労使をどのように解するかという問題があるわけでございます。  そこで、十一条については問題があるということは、ほぼ労使双方共通した認識であると申して差しつかえないと思いますが、具体的に、たとえば改定をする前に組織変更がございまして、従来の当事者を改正する場合にどのように扱うかなど、いろいろ技術的に固める必要がある問題がございます。そういった問題もございますので、現に中央最低賃金審議会におきましては、基本的な検討項目の中に取り入れまして、鋭意検討を進めておるような次第でございます。気持ちといたしましては、できるだけ早く答申をいただけるように期待いたしておりますが、何ぶんにもそういった問題につきましてまだ結論を得てない、いろいろ御意見が戦わされておる、こういう段階でございますので、御了承をいただきたいと思います。
  84. 加藤万吉

    加藤(万)委員 経過についてはわかります。  そこで大臣に、これはまたあらためてお聞きしますが、結局いまの局長の話ですと、いわゆる労組法十八条による一般拡張適用、それと十一条の一般拡張に対しては、労使間にそれほどの意見の相違がないということです。労組法上規定している一般拡張の適用のいわゆる「使用者の大部分」という問題ですね。これについては、最賃法の十一条についてもそれほど労使間に異論がないとなりますと、先ほど大臣が答弁されておりますように、労組法では民事上の制限があるだけであるが、最賃法ではいわゆる罰則上の問題があるから、そういうたてまえからいって使用者の同意を求める部分を拡大するのだという理論的根拠は薄いわけです。いわゆる法の規定する罰則、民事という、そういう観点から見ると十八条と十一条とは違いがあるのだというのではなくて、十一条、十八条はその趣旨においては大体同一だ、しかもその同一の趣旨は労使間が認めているのだ、こうなりますと、問題は改正の時期をいつにするかという問題だけであって、民事上あるいは罰則上起きる課題ではないのでありますが、大臣、どうでしょう。
  85. 小川平二

    ○小川国務大臣 罰則を伴うかいなかという点に関連をして、私が先ほど申し上げましたことは、一応そういうことも言えるのではなかろうかという意味で申し上げたので、これは決定的な問題だとは必ずしも考えておらないわけでございます。また、この点に問題があるという点について、労使その他関係者の考え方、方向としてはほぼ一致しておるということも、ただいま局長からお耳に入れたとおりでございます。ただ、特にこの点を指摘して御審議をお願いした経緯もございますし、内容的には技術的にいろいろ問題があって、現に研究を続けていただいておる、こういうことでございますから、答申がなされるに先立ってこれの改正を企てるということは遠慮しなければならない、かように考えております。
  86. 加藤万吉

    加藤(万)委員 これは基準局長にお伺いをしますが、かつて、たとえば滋賀の亜炭、それから高知の石炭、あるいは秋田の木材、北海道の木造船、こういうところで十八条に基づく一般拡張適用がありましたね。私は、あの運動、あの協定下の労使間のあり方は、日本のこれからの中小企業におけるいわば労使間の平和的土壌といいましょうか、そういうものをつくるいい慣行だというふうに実は理解しておったわけです。そしてあの行為が、たとえばその中には賃金部門もありますし、ときには愛媛のように、愛媛のあれは新居浜の金属機械でしょうか、あの場合には労働協約的要素も持っておりましたけれども、いずれにしてもああいう形で運動が進められ、労使間が安定していくということが、日本中小企業近代化運動のためには非常によろしい、そういうふうに私は考えておったわけです。ところが今度十一条にそれがやや吸収されたわけですね。吸収されたというのは、少なくとも賃金部分については十一条方式が優先的になりますから、一般的労働協約の面よりも——労働協約の中で賃金の部面が非常に多いのですから、その部面が吸収されて十一条に行った結果、一般拡張適用がきわめて少なくなった。この資料にもありますように、総人員が十六万人ですか、地域的のやつは。業態で六業態ですか。きわめて少ないですね。一体この変化基準局長はどういうふうにお考えになりますか。特に私は、前段の十八条の拡張適用によって起きた労働者数と、その後十一条によって起きた労働者数あるいは協約締結の数字、これが少ないと思うのです。すなわち、そういう断層はどこから起きたと  いうふうにお考えになりますか。
  87. 村上茂利

    ○村上(茂)政府委員 御指摘のように、労働組合法第十八条によります労働協約の地域的拡張の例は、従来も五件ほどございましたが、そういう形で最低賃金が普及されるということは、これは諸外国の例に徴しましても、姿としては望ましいことであるわけでありますが、現行賃法の十一条の具体的な運用を見ますると、現在まで七つ奈良県の例がございますが、何ぶんにも法定条件がかなり厳格でございますから、当初期待いたしましたような増加を見ておらないわけでございます。これには、労働協約の拡張適用をなし得るような土壌と申しますか、基礎条件がさらに成熟することを私どもは期待いたしたいのでありますが、一方におきましては、この法定条件が厳格に過ぎやしないかという点にもあるわけであります。  そこでこの問題は、過去の経験に徴しまして、是正すべきは是正する必要があろうと私どもも思いますが、ただ労働組合法第十八条と全く同じでいいかどうかという点になりますと、労働組合法十八条のほうは、たとえば修正権を委員会に認めておる。それから先ほど大臣が申しましたように、最賃法の十一条のほうは罰則の適用がある。そういった異なる点があるわけでございます。そういうものを同じ条件にするか、あるいは依然として罰則の適用というものを考えつつニュアンスを異にする性格にするか、ここらは議論のあるところでございまして、問題があるということを意識いたしておりますが、しからばどういう形にしたらよいかという点については、なお論議を進めなければならない、このように考えておる次第でございます。
  88. 加藤万吉

    加藤(万)委員 私の言うのは、十八条そのまま持ってこいなんということを言っているのではない。いわゆる考え方としては、そういうあり方が正しいと思われるならば、この際私は、使用者の大部分であるとか、協約締結者の使用者あるいは労働組合の全部の合意であるとかという問題は、法律上の文章は削除されるのが至当ではないかと思われるのです。労働組合法十八条で五つができ、私の手元の資料では、十一条では六つ、十六万人しかありませんけれども、この片方の業者問協定の普及率があれだけ高くて、片方が件数では六件しかないなんというのは、やはり災いしているのは「使用者の大部分」の問題だろうと思うのです。たとえば、この間局長にもお願いしましたけれども、兵庫県の尼崎の塗料の場合を見ても明らかですね。業態としては大中企業を含めて五つ、それから小で四つ、人員は片方が約二千名以上ですね。いわゆる十一条の一般適用を受けようというのは二千名以上です。ところが片方は八十人しかいないのですよ。ところが、使用者の区分で見ると、片方が五つで片方が四つですから、これは「使用者の大部分」にならないわけです。その結果、申請をしましても、「使用者の大部分が」ということにひっかかって、事実上十一条の適用ができない。そこで私は、先ほども論議しましたように、労働者の大部分でとらえるのか、あるいは企業の大部分でとらえるのかどうか、この十一条の場合がきわめて重要な要素になってくるのですから、そういう事実からいっても、十一条適用労働者がここで一番望ましいといいながら、十一条による一般拡張適用が少ないということで、いまの部面がきわめて大きな災いをしているのではなかろうか。したがって、今後の方式が十一条、十六条方式でいくとすれば、十一条部門を相当拡大をするということが一方では考えられていかなくてはいけない。一方では中小企業の助成策もあるでしょう。あるいは近代化政策もあるでしょう。しかし、十一条を相当の部分日本労働運動の中に誘導的に持っていかなければならないという労働行政があるとするならば、少なくとも十一条の「使用者の大部分」であるとか「全部の合意」であるとかいう法案の文体は除かれるのが至当ではないかというように私は思うのですが、いま一ぺん、検討中というのではなくて、はっきりした結論をお下し願いたい、こう思います。
  89. 村上茂利

    ○村上(茂)政府委員 現行法は「大部分の使用者」、こうなっておるわけでありますが、その「大部分」が四分の三という考え方をわれわれとっておりますが、それがいいのかどうか。かりに法を直ちに改正できないとしましても、運用上これをどう考えたらいいのかという問題があり得るわけでございます。私どもは、この運用につきまして、たとえば御指摘の尼崎の塗料製造業の最低賃金などの例を見ましても、労働者の率から見ますと八〇%が適用を受けておる、使用者のほうが五六%である、こういう形になっておりますものをどういうふうに考えたらよいのか、当面現実に問題が出てきておるわけであります。こういった問題につきまして、何らか運用面において考えられないか。いま検討いたしておるわけでありますが、ただ何ぶんにも中央最低賃金審議会で検討しておるといういきさつもございますので、最終的な判断は審議会の結論にまたなければなりませんが、何らか運用上緩和の方法はないかといったような点について、目下検討いたしておる次第でございます。
  90. 加藤万吉

    加藤(万)委員 この論争はこれ以上やりませんが、大臣お聞きのように、第三条のときにも、実は私は使用者の事業場の数を問題にしたわけです。ここでも使用者の大部分という問題を実は提起したわけです。このことが、実は最賃法全体を通して、いわゆる業者、資本、その立場を擁護した法律ではないかという労働者側の疑心暗鬼の目で見られている。したがって、いま局長のほうから、運用上配慮する点があればやるというお答えでありますから、この面は十分省内で検討していただいて、いわゆる労働者の大部分によってすべてが成立をしていく、そういう方向にぜひとも御検討願いたいと思います。  問題の中心であります審議会中心とする十六条について、幾つかお尋ねをしてみたいと思います。  いま、十六条方式に基づいて実際に実施されている業態あるいは件数は、何件ありましょうか。
  91. 渡辺健二

    渡辺説明員 件数で申しますと、ただいま三十件でございます。
  92. 加藤万吉

    加藤(万)委員 これには十六件しかないが…。
  93. 渡辺健二

    渡辺説明員 三月末で三十件でございます。今年に入りましてから、かなりまた新しく十六条方式に基づきます最低賃金の決定がなされております。
  94. 加藤万吉

    加藤(万)委員 これは十二月三十一日ですよ。三カ月の間に十四ふえたのですか。どういう業態ですか。
  95. 村上茂利

    ○村上(茂)政府委員 十四件は、四十三年に入りましてできたものでございまして、どういう業態かと言われますと、ちょっとお答えしづらいのでございますけれども、昨年、明けて一昨年でございますが、四十一年六月に千葉で初めて十六条方式の最低賃金が設定されたわけでございますが、その後山口、滋賀北海道等に四十一年中に十六条方式の最賃が設定されたわけです。当初、いわゆる十六条方式は職権決定方式で、これによってはたして実際に即した適切な最賃設定が可能であるかどうか、いろいろな見方もあったわけでございます。運用いたしてみますると、この後四十二年中に、かなりの件数、約十件ほどが設定された、そうして、本年に入りましてまだ三カ月しかたたぬのですけれども、十四件が設定された、こういうことになっておりますが、この理由は、一つには、十六条が発動する要件として、業者間協定方式の最低賃金が設定された、しかしなおかつ「困難又は不適当と認める」という、十六条で定めております条件が満たされる例がかなりふえてきた。こういう状況にかんがみまして、十六条方式がだんだん設定されまして、かなりスピードがついてきたというのが実情でございます。   〔発言する者あり〕
  96. 八田貞義

    八田委員長 静粛に願います。
  97. 村上茂利

    ○村上(茂)政府委員 したがいまして、十六条方式による運用の客観情勢がだんだん熟してきた、かように考えてよろしいかと存じます。
  98. 加藤万吉

    加藤(万)委員 十六条の代表的な例は炭鉱ですね。それから全鉱、化繊にあるわけです。いま金属鉱山のもの、その状況はどうなっておりますか。
  99. 村上茂利

    ○村上(茂)政府委員 金属鉱業の最低賃金につきましては、目下中央最低賃金審議会改正の諮問をいたして、いま検討中でございます。   〔発言する者多し〕
  100. 八田貞義

    八田委員長 静粛に願います。   〔「議事進行」と呼び、その他発言する者多し〕
  101. 村上茂利

    ○村上(茂)政府委員 十六条方式につきましては、ただいま御答弁申し上げたとおりでございますが、要するに現行賃法十六条は、一定の事業、職業または地域について、賃金の低廉な労働者労働条件の改善をはかるため必要があると認める場合において、第九条第一項、第十条、第十一条などの規定によって最低賃金を決定することが「困難又は不適当」だという場合に初めて発動できるものでございますので、十六条が発動されますために、九条方式、十条、十一条方式がある程度つくられて、そうして「困難又は不適当」という判断が必要であったわけでございます。そこで業者間協定の普及に伴いまして「困難又は不適当」というふうに判断できる条件が整ってきた、その条件も見のがすことのできない一つの大きな基本的な問題だろうと思います。
  102. 加藤万吉

    加藤(万)委員 いまの私が言ったのは、そこを聞いているのじゃなくて、九条、十条がここで削除されるわけですね。削除されて、いわゆる賃金審議会方式によってすべてが行なわれるようになるわけですね。その際に、従来の十六条によって適用されている件数が、一体有効な機能を果たしたか果たさないかが、これから審議会中心とする討論の中で非常に重要になってくるわけです。そこで、一つの例を言えば、炭鉱の場合でも、全鉱の場合でも、あるいは繊維の場合でも、十六条方式が実効的な価値があったのだろうかということが問題になるわけです。そこで私は、たとえば石炭の場合、炭鉱の場合には、この十六条による決定がおりたあと、一体炭鉱労働者は、これで事実上最低限を引き上げられるものが、たとえば全産業の中の一〇%なり一五%あったものだろうか。あるいは金属鉱山の場合に、その人員があって最低賃金額が上がったものだろうかどうだろうか、こうお聞きしているわけです。
  103. 村上茂利

    ○村上(茂)政府委員 十六条方式によりますところの最低賃金の実効性の問題ですが、これは新しく設定されたときと、その後数年を経過したときと、それかどのような実効性を持つかという二つの問題があるわけです。十六条方式で最低賃金が設定されましたときには、その影響率というものは、それ以下の労働者がどの程度引き上げられるかという点は十分調査して設定いたしますので、これが有効な機能を持つことは当然でございますが、その後賃金上昇との関連において具体的に機能しなくなるのではないかという御懸念があろうかと思います。これはいかに有効適切にその改定を行なうかということにかかっておるわけでありまして、そういう点を考慮して運用の結果を判断しなければならぬと考えております。
  104. 加藤万吉

    加藤(万)委員 問題は発議権ですよ。   〔発言する者多し〕
  105. 八田貞義

    八田委員長 静粛に願います。速記がとれませんから、静粛に願います。
  106. 加藤万吉

    加藤(万)委員 実効性があったかどうかということが、いま基準局長の発言でも、その次の賃上げの段階賃金が引き上げられてくれば、実効性があらわれない部面があったわけですね。特に全鉱の場合なんか、今日改定要求をしていますけれども、この改定要求がもしも二年後あるいは十年後に起きた場合に、現実に起きている賃金引き上げによって、この実効性が失われてくる場合が非常に多いわけです。今度の十六条は、御承知のように、労働大臣基準局長、発議権が、そこしかないわけです。だとするならば、十六条方式によってやるにしても、労働大臣と都道府県基準局長がどの地点でどの時期に行なうかによって、実効性が何もないという結果が生まれるわけですよ。したがって私どもは、十六条方式の中で、発議権という問題は労働大臣に限るべきではない、基準局長だけに限るべきではない、むしろ発議権というものは、法人格である労働組合あるいは労働者側委員にもそういう方向がとられてしかるべきではないか、でなければ、審議会の構成が平等で進むというILOの三十号勧告に対しても抵触するのではないか、こう言っているのですが、この点はどうですか。
  107. 村上茂利

    ○村上(茂)政府委員 石炭、金属鉱業にいたしましても、現にあります最低賃金の決定の経験から申しましても、それぞれ労働組合なり関係者がいろいろ御意見を提出されまして、それを受けて審議会で審議をした、こういう経験から見まして、法的にはいわゆる申し立て権というものは明らかに定めておりませんけれども、過去にそういう経験を積んでおります。したがいまして、法律上の形式は、労働大臣または都道府県労働基準局長が諮問する、こうなっておりますけれども、十分労使の意見を伺いまして、その希望を反映する取り扱いを過去においてなしてきたのでありますし、今後におきましても、法の運用にあたりましては、労使の御意向を一そう反映するようにつとめてまいりたい、かように考えております。
  108. 加藤万吉

    加藤(万)委員 問題は実効性があるかどうかですよ。労働組合が問題の提起をしましたけれども、問題はその影響率が実際に反映されているかどうかです。   〔発言する者多し〕
  109. 八田貞義

    八田委員長 静粛に願います。
  110. 加藤万吉

    加藤(万)委員 たとえば炭鉱の場合に、労働者側の要求は、下請組夫についてもその影響力を拡大しろ、こう言っておるわけでしょう。ところが実際に下請は、掘進もやっておるところは削除される。あるいは下請関係は削除されておる。実際に石炭の十六条方式による最低賃金の影響率はゼロにひとしかったと言ってもいいのじゃないですか。問題は、労使間の意見を聞いたけれどもその実効性があらわれないところに、私どもは建議権に対して疑義を持っているわけですよ。したがって私の言いたいのは、十六条方式を中心とする場合には、労働大臣基準局長発議権もさることながら、同時に労働組合が発議をし……。   〔「委員長、議事進行」と呼び、その他発言する者多し〕
  111. 八田貞義

    八田委員長 速記にとれないから、静粛に願います。
  112. 加藤万吉

    加藤(万)委員 これが審議会の場で、その方向というものがILO条約から見てもあってしかるべきじゃないかというのが、私の質問の内容なんです。これは大臣に答弁してもらいたい。
  113. 小川平二

    ○小川国務大臣 審議会に調査、審議を求めますのは行政官庁でございますが、従来とも、その権限の行使に際しましては、労使双方の要求、主張に十分耳を傾けてきておるわけでございます。また審議会はこの最低賃金の改善等について建議を行なうこともできるわけでございます。建議が行なわれました際には、政府として当然これを尊重しなければならないこと、これも申すまでもないことでございます。また、ILOは労使対等参加の原則を定めておりますけれども、十六条方式はこの原則に背反するものだとは考えておらないわけでございます。   〔「質疑終了」と呼び、その他発言する者多し〕
  114. 加藤万吉

    加藤(万)委員 私は、いまのような、現在まで行なわれてきた十六条の適用の事例ですね、それを見ても、実効性があり、あるいは影響率が高ければ、問題は相当前進的に見ることはできるのです。ところが、もしもその実効性が非常に低いという場合には、労働大臣とか基準局長の職権による賃金の抑制策に結果的にはなってしまうのではないか。結果的にはまたなっているのじゃないか。したがって、そういう疑問を持っている労働者側に、十六条方式が今後中心になってやっていきますよという、その確信を得させる条件というものを幾つか整備をしなくてはいけないのではないか、こういうように思うのです。  そこで、これは質問をいたしますが、本法の二十七条に、労働者側の建議の問題があるわけです。ところが、この二十七条の建議権は、いわゆる提案権ではないわけです。いわばいままであった業者間協定の決定に対していろいろ建議をする、あるいは業者間協定に対しても労働者側の不利益な部面を進言する、こういう意味の権限であって、法人格を持つ産業別労働組合あるいは地域の一般協定によってできている労働組合が建議をするという趣旨とは、二十七条は違うわけですね。したがって、審議会の正常なる運営をはかるためにも、二十七条の権限をより拡大あるいは改正を提起をすべきではないかというのが私の見解ですが、これは大臣でも基準局長でもいいから御答弁願います。   〔「質問が長過ぎる」「まじめな質問をしているのに何だ」と呼び、その他発言する者多し〕
  115. 八田貞義

    八田委員長 この際、暫時休憩いたします。    午後一時五十七分休憩      ————◇—————   〔休憩後は会議を開くに至らなかった〕