○中曽根国務大臣 日通は従来通運業法あるいは自動車運送事業法、
港湾運送事業法等のいわゆる事業法系統の監督を受けまして業務を運営してきたわけでございますが、資本主義社会においてその業法に基づく監督、監査というものをどの
程度行なうべきかという点について、必ずしも明確でなかったように思います。しかし、実際業務を正常に運行して収益もあげ、公共性、公益性も
考えてやっているという場合には、そういう特別の監査や監督は必要でないと思いますが、今日のような異常な事態が出てきた
状態におきましては、いままで以上にきびしい態度をとって、これらの業法を発動して厳格に監査し監督する必要があるように思います。それと同時に、
わが国の総合的輸送体系の中において通運事業、特に日通というものがどういう地位を占めることが正しいかということを根本的に再点検をする必要があると思います。一つの例を申し上げれば、食管関係の輸送の問題とか、防衛庁関係の輸送の問題とか、たばこの輸送の問題とか、ほとんど独占してやっている
状態でございますけれども、その独占の弊害が今日のような事態を呼び起こしたとも
考えられます。しかし、一方において、日通に対抗するような強い通運業の体制が別にないというのが非常に大きな欠陥であるように思うのであります。そういう面から急に阻止することはできないと思いますが、私は、競争原理を導入するようにするということだけではどうしても至急確立してやる必要があるし、そのために積極的に育成していくということも私は
考えなければならぬと思っております。
それから関連事業との関係でございますが、正直に申して、私たちもあの伊豆半島の稜線の上に日通何とかランドという大きな別荘みたいなレジャー地帯ができましたのを見まして、非常に奇異な
感じをいたしました。何かわれわれが
考えている日通のビジョンからは抵抗を感ずるものがあそこに出てきたということは事実であって、私も野におるころにはそういうことを人に話したこともあるのです。これはおそらく
日本じゅうの人がそういう感覚を持ったに違いないと思うのです。そういうふうに世人が何となしに抵抗を感ずるようなものが出てきたということは、やはり日通の本来の使命に対する国民の期待と申しますか、常識の線というものがあると思うのです。そういう常識の線に戻すということも、国の行政指導としてやるべきではないか。現在日通に約七十一ばかりの下請や関連企業がございますけれども、これらの事業法のもとで運営されている日通、それから戦争で国策で統合されて、そうして小さな業者がみんなのれんをささげて国家のために統一したあの日通というものが、戦後そのままその形態を維持し続けられているということは、全国の中小業者の大きな犠牲の上に成り立っておるわけでございますから、そういう因縁から
考えてみても、相当な道義性というものを経営の内容やその他について
考えていかなければならぬ要素があるのです。そういう面に対する道義の感覚というものが麻痺していたこともわれわれとしては指摘せざるを得ないと思うのでございまして、そういう面から関連企業その他との関係についても精密に監査いたしまして、不適当と思われるものはこれを排除するようにしていくべきであると思います。
それから経営陣につきましては、ともかくこのような事件が起きたということは、長い間の独占からくる弊害、あるいは内部における経営というものが必ずしも民主的に運営されていなかったということが露呈してこういうことになったと思いますので、今後の司法当局の処断を待ちまして、われわれとしてはそれらの問題についてそれが民主的に、正常に運行するように業務を実施させなければならぬと思っております。
全般的に申し上げますと、資本主義体制のもとにおいては、これらの業法のもとにどの
程度までこれらの企業に役所が干渉し、制肘を加えることができるか、非常にむずかしいところです。やはり自由企業の時代でありますから、自由なる企業を伸ばす、経営能力は十全に伸ばすという方向に持っていくのが正しいと思うのでありまして、その点について業法でどの
程度国家が指導をするかということは、これは研究すべき課題であって、日通のようなそういう特殊のものにつきましては、やはり特殊の体制を国家がとっていいようにも
考えられます。そういう点については、運輸省といたしましていま研究を開始するように命じたところでございます。そのほか、ただいま申し上げました全般の問題につきましても、日通の改革について相当思い切った処置を今後講じていきたいと思って、検討していきたいと思います。