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中野文門君
鈴木理事と私
中野の両名は、去る十月二日から八日まで七日間、
愛知、三重及び奈良の三県における
教育、
学術及び
文化財保護の
実情について調査してまいりましたので、その結果を簡単に御
報告申し上げます。
まず、
愛知県におきましては、主として
中学校及び
同等学校における
職業教育、
文化財の
保護及び
大学の統合の
実情について調査いたしました。
最初に、
愛知県における
中学校及び
高等学校の
産業教育の
一般的状況を申し上げますと、
中学校における
職業教科の
選択状況は、
公立中学校二百九十八校中延べ四十九校で約一六%、
履修生徒数は千二百二十四名で、全
生徒数の〇・六%強でありまして、それぞれ
全国平均の二七%、一・五%に比べてきわめて低い
状況にあります。
中学校における
職業教科の
選択状況が、全国的に
就職希望者に対してきわめて低い
状況にあるのは、現在の
選択教科としての
職業教科のあり方に問題があるのではないかと存じます。
高等学校の
職業教育の
状況を見ますと、
公立高等学校における
普通科と
職業科の
生徒数の
割合は、ほぼ半々の比率であり、
全国平均に比べて
職業科の
生徒数がやや高い比率を示しており、この県の性格をあらわしております。
次に、
産業教育に関する
施設、
設備の
充実状況を見ますと、
中学校の
技術・
家庭科の
設備の
充実率も、
高等学校の
産業教育施設、
設備の
充実率も、
全国平均よりはかなり高いとはいえ、
基準の大体五〇%
程度と低い
現状であります。
産業教育振興法が
昭和二十六年に制定されて以来、
産業教育施設、
設備の
充実がはかられてきたところでありますが、いまだこのような
現状であります。申すまでもなく、
産業教育は
実験実習の
施設、
設備の完備なくしてその効果を十分に発揮することはできません。今後一そうの
振興策の
必要性を感じた次第であります。
愛知県庁において、
一般的状況の説明を聴取した後、
瀬戸市の
学校における窯業に関する
職業教育の
実情を調査いたしました。
まず、
瀬戸市立品野中学校でありますが、
本校は
昭和三十四年に
瀬戸市と合併した
瀬戸市の
東北部に位する
生徒数三百八十八名の八
学級編成の
中学校であります。
愛知県には、
選択教科として
工業科履修校が十七校ありますが、そのうち
本校のみが
窯業科を
設置しております。この地域は、
かま屋が人口の三分の一もあり、いわゆる窯業人口は三分の二の多数を占めております。
高校進学率は六九%、就職者のうち約二割が窯業
関係に進んでおります。したがいまして、
本校としても、
中学校教育の中に地域産業である窯業に関する
教育に積極的に取り組みたいとの意欲を持っているとのことでしたが、現在の
教育課程のもとでは十分に取り組むことができないとの悩みが述べられました。
では、どのように現在窯業に関する
教育が行なわれているかを申し上げますと、外国語にかわる選択科目の工業科として、三年生についてのみ週五時間、原料、工程、焼成等陶磁器ができるまでの知識と技能を習得させており、
履修生徒数はわずかに三名とのことであります。このほか
クラブ活動として、自由な創作活動を行なわせており、現在十八名が参加しておるとのことであります。このように
本校の
教育の中に、地域産業である窯業が取り上げられている面は、きわめて少ない
実情にあります。
技術・
家庭科の中で積極的に取り上げることができないとの疑問を提出いたしましたところ、「
技術・
家庭科の
教育課程は学習指導要領によって内容がきまっており、窯業
関係を自由に取り入れることができないため、上述のような
実情にとどまらざるを得ない。地域の
実情をもう少し加味できる方法が望ましい」との意見が述べられました。
地域の特殊性を加味した
教育を行なうことは、生きた
教育を行なうためにきわめて必要なことであり、そのような
教育が行なわれるようにしなければならないと感じた次第であります。また、さきにも述べたことでありますが、現在の外国語と組みとなった
職業教科のあり方もまた検討の要があると存じます。また、
本校の
技術・
家庭科の
施設もきわめて貧弱であり、その
設備の
充実率も四九%の低率でありました。
なお、
本校の
校舎は、六三制発足時の資材の最も乏しい時期に建設されたいわゆる六三建築でありまして、その老朽ぶりには
生徒、教職員に同情の念を禁じ得ないありさまでありました。
瀬戸市にはこのような
学校が二十数校あり、毎年一校ずつ改築されているとのことであります。どこに参りましても、県、
市町村等の庁舎はいずれもきわめてりっぱなものが新築されている反面、このような義務
教育施設が数多く放置されている
現状を見、抜本的対策の
必要性を痛感した次第であります。
次に、
愛知県立
瀬戸窯業
高等学校でありますが、
本校は明治二十八年に創立された全国でも数少ない窯業
高校の一つであります。現在は
窯業科のほかにデザイン科及び商業科が
設置されており、年々商業科の
生徒が増加しつつあるとのことであります。このように
窯業科の
生徒の減少傾向の中で
窯業科が沈滞していく傾向がありはしないかが危惧されたところでありましたが、校長からは、伝統のある
窯業科の
充実発展に一そう努力したいとの決意が述べられました。
卒業生の進路につきましては、一般
大学への
進学者がふえると同時に、名古屋等他の地域へ就職する者が年々増加して、地元の窯業
関係へ就職する者が減少の傾向にあり、地元窯業界としては地元への就職を強く希望しているとのことですが、地元との
関係がだんだん遊離しつつあるとのことでありました。これは産業構造、すなわち企業格差等にもよるものですが、また
生徒の一般学習の負担が大きいため
技術的に中途はんぱで、業界との接続が円滑にいかないことも理由であるとのことであります。いずれにいたしましても、現在
本校の窯業
教育は転換期にあり、
高専制度等についても検討中とのことでありました。現在
高校教育の多様化が強く言われておりますが、単に窯業
教育のみならず、
産業教育のあり方、具体的進め方等については今後研究すべきことの多いことを感じた次第であります。
次に、
文化財の
保護について申し上げます。
愛知県には現在国の指定
文化財が二百九十三件、県の指定
文化財が三百五十七件、遺跡が六千二百九十九件あり、全国都道府県の中で十指に数えられる
文化財の保有県であります。
文化財の管理、
保護対策としては、
文化財所有者に対する計画的管理指導の実施、指定
文化財の修理、
文化財の
防災施設の
整備等を実施しており、特に
防災施設の
整備はいまだ緒についたばかりで、必要件数の一五%
程度にすぎないとのことで、国の援助について
要望がありました。また、
埋蔵文化財の
保護については、遺跡台帳の
整備、開発者との事前協議、事前発掘調査等の対策を講じているとのことであります。
以上一般
状況の説明を聴取した後、国宝犬山城を視察いたしましたが、
昭和三十三年本
文教委員会が現地調査を行ないました際にはひどい破損が見られ、その早急な修理の
必要性が
報告されたところでありますが、その後三十六年から四十年にかけて解体修理が行なわれ、すっかり復元がなって、再び四百二十余年の歴史を秘めたわが国最古の美しい犬山城を見ることができましたことは大きな喜びでありました。また、自動消火器等
防災施設が完備されており、心強く感じた次第であります。
次に、
大学の
施設統合の
状況についてでありますが、まず名古屋
大学を訪れましたが、かつてタコの足
大学と称せられた本
大学がみごとに統合が完成して、学問の府として偉容を誇っている姿を目のあたり見て、きわめて心強く感じました。今後の課題は内容の
充実整備でありますが、
大学当局もその決意であり、成果を期待するものであります。なお、今後の研究所、薬
学部等の建設予定地も確保されていましたが、拡張の望ましい地域も見られ、その点、今後の努力が望ましいところであります。なお、環境
医学研究所を訪れた際、
欠員不補充措置に最も困っており、その救済策について強い
要望がありました。
次に、
愛知教育大学でありますが、長い間実現を見るに至らなかった統合問題も、ようやく昨年刈谷市に移転統合することに決定し、一応用地の買収が行なわれているところでありますが、ほぼ順調に進んでいるとのことであります。
大学関係者から長年の懸案が解決して希望に満ちた統合計画を聞くことができ、喜びにたえないところでありました。
大学当局からは土地値上がり等のため、不動産購入費の増額と
教育系
大学、
学部の建物
基準の
引き上げについて
要望がありました。特に、建物
基準につきましては、せっかく新しいものをつくる以上、十分将来を見通した内容のものであることが望ましいと思います。
なお、
愛知県当局からは、政令県に対する教職員給与費の最高限度額の
引き上げについて一そうの配慮を
要望されました。
次に、三重県について申し上げます。
三重県におきましては、四日市市における公害の
教育に与える影響、三重
大学工
学部の建設計画及び鳥羽商船
高等学校の
実情を調査いたしました。
まず、四日市市におきましては、市当局から一般
状況の説明を聴取した後、
小・中学校の
実情を視察いたしました。御承知のとおり、四日市市は工場と市街地が隣接しているため、早くから公害問題を惹起して全国的に注目を集めておるところであります。現在でも亜硫酸ガス等の大気汚染による健康阻害や、悪臭、騒音等による生活妨害があり、最近は特に悪臭の問題が深刻とのことであります。しかし、公害の
児童生徒に与えている影響については、今後の調査にまたなければならないとのことであります。公害の
状況は必ずしも目に見えるものではなく、そのときどきで様相を異にするものでありますので、私
どもの訪れました日は煙の排出も少なく、特に目立った特徴は見られませんでしたが、やはり多少の臭気と軽い頭痛に襲われ、公害問題の深刻さがある
程度感ぜられた次第であります。
四日市市が現在行なっている
教育関係の公害対策を紹介いたしますと、まず第一に、県と協力して市内すべての
学校に一名以上の養護
教員を配置しております。第二には、空気清浄装置を四
小学校、三幼稚園に
設置するとともに、一
体育館に空気清浄
施設を
設置しております。特に最近、外気導入型清浄装置を開発せしめて一そうの効果をあげているとのことであります。第三には、うがいを励行させていることであります。
さらに、四日市市公害医療審査会による認定患者に対しては医療費を四日市市が負担しておりますが、うち
児童、
生徒は八〇名とのことであります。
市当局からは、公害のため移転する
学校に対する移転費の国庫補助率の
引き上げ、公害防御
施設費に対する大幅な国庫補助、公害
学校に勤務する教職員の増員と待遇
改善について
要望がありました。
説明聴取の後、市当局と公害対策の
充実等について懇談したのでありますが、市当局からは、四日市市の公害問題がマスコミによって過大に報道されるため、中小企業への求人等にも多大の支障を来たしており、また問題となった当初よりも好転しつつあって、四日市市の公害問題は報道されるほどひどいものではないとの熱心な発言がありました。この発言にはある
程度同情できる点があるのでありますが、このことが今後の公害対策への取り組み方、
充実への熱意の不足にならねばと危惧の念を抱いた次第であります。
四日市市が公害対策のパイオニアとして空気清浄装直の
設置等他地区に先んじて行なわれたことには多大の敬意を表するものでありますが、精密な公害調査の実施、今後の公害対策の
充実等については遺憾ながらまだ十分とは感ぜられませんでした。また、市当局にのみこれを期待することは無理でありましょう。
文部省も来年度から積極的に公害対策に取り組むようでありますから、今後は国が積極的に調査を実施して対策を講ずべきものと存じます。
なお、四日市市では全国で初めて
学校教育の中に公害
教育を取り上げることに着手いたしましたが、種々の事情からまだ実施するに至っていないとのことであります。国が今後検討すべき課題と思います。
小・中学校の視察につきましては、まず幹線道路に面した納屋
小学校を訪れ、防音、換気を視察いたしましたが、基地周辺における防音
施設と同様、排気装直が不十分なため、炭酸ガスの増加と、夏季における暑さの悩みが述べられ、その対策が
要望されました。また、防音
設備も道路に面した教室にのみ
設置されているにすぎませんでした。
三浜
小学校においては、亜硫酸ガス等の自動記録装置と空気清浄装置及び冷房装置を施した保健室を視察いたしました。このような
施設は当然すべての公害
学校に
設置することが望ましいわけでありますが、経費の
関係上、
本校だけにしか
設置されていないとのことでありました。
塩浜
中学校は、重油タンクに八十五メートル、プロパンガスタンクに百三十五メートルと接近しているため、新潟地震を契機として、その危険性が認識され、他の公害の心配のない地域に国の援助のもとに移転が行なわれつつあります。
塩浜
小学校では、こうがい場と空気清浄
設備を施した
体育館を視察いたしました。この
体育館は、緊急の場合には地域住民の避難場所としての役割りを持って建設されたものであります。この
体育館の空気清浄
施設の
設置及び維持運営については、きわめて多額の経費を要するため、
本校にのみ
設置されているとのことでありました。
以上申し述べましたように、種々の
設備が設けられておりますが、公害
学校すべてに行き渡るに至っていない
実情であります。市だけの努力では限界があることを示しているものと言えると思います。
三重
大学工
学部の建設計画につきましては、その建設予定地を視察した後、三重
大学及び三重県当局から
昭和四十三年度設立について強い
要望を受けました。三重
大学は現在
大学の統合計画が進められており、その一環として工
学部建設予定地も確保されておりまして、その完成が期待されているところであります。工
学部建設の
必要性につきましては、本県が工業県として飛躍的な発展を遂げつつあるため、高度の若手
技術者の需要が年々増加しつつあるが、本県には
大学工
学部がないため県外にその需要を求めなければならないと同時に、県下の工
学部進学希望者は年々増加しつつあるが、県外へ進学するしか方法がないため、いろいろ支障を来たしているとのことであります。その熱意はきわめて強いものがあり、早急な実現を期待するものであります。
このほか、県当局から水産
学部及び
医学部を擁する三重県立
大学の
国立移管、
学校施設の公害対策に対する国庫助成、僻地
教育の推進及び僻地
教員の待遇
改善、人事院勧告の完全実施と地方財源の配慮について
要望がありました。次に、本年高等専門
学校に昇格いたしました鳥羽商船高等専門
学校を視察いたしましたが、
施設、
設備とも不十分で、土地については現在買収の予定とのことでありますが、
高専昇格を機会にその
充実をはかり、早急に
高専にふさわしい内容にすべきであると感じました。
学校当局から、次のような
要望が行なわれました。第一は、全寮制で、
中学校卒業者を入寮させるものであるから、その運営には困難な問題が多く、現在は
教官の兼任でその運営に当たっているため、種々支障を来たしているので、
定員増をはかられたい。第二、今後研究面を加える必要があるから、
教官の
充実をはかられたい。なお、現在の
高校の
教官の円滑な移行をはかられたい。第三には、運輸省所管の航海訓練所は
文部省関係に移して、一貫
教育が可能な体制をつくられたいというものであります。
最後に、奈良県におきましては、主として
埋蔵文化財の
保護状況と奈良女子
大学及び奈良
国立博物館の
実情を調査いたしました。
まず、奈良県における
埋蔵文化財の
状況を申し述べますと、最も重要度の高いAクラスのものが三百二十件で全国一位、Bクラスのものが四百十五件で全国六位、Cクラスのものが四千二百九十四件で第八位、合わせて五千二十九件で、全国第八番目の多きを数えております。そのうち九五%は古墳で、民有地が大半であり、調査済みのものは一〇%に満たない
現状であります。したがいまして、史跡に指定されているものもきわめて少ないのであります。
県当局から一般説明を聴取した後、唐古遺跡、特別史跡石舞台古墳、飛鳥遺跡、安倍寺あと、文殊院西古墳、大和歴史館、藤原宮跡、平城宮跡等の
埋蔵文化財を視察いたしましたが、特に本
委員会でも取り上げられ、目下問題となっております藤原宮跡と平城宮跡の問題について申し述べます。
まず、藤原宮跡の問題について申し述べますと、現在特別史跡に指定されておりますのは、戦前日本古代文化研究所が発掘調査を行なって明らかになった部分、つまり大極殿を正殿とする朝堂院の部分のみでありましたが、最近桜井市と大和高田市を結ぶ道路の交通緩和のため、宮跡の指定地の北部を東北から南西に通過する国道百六十五号線橿原バイパスの建設が計画され、用地の買収が行なわれるに至りました。しかし、さきの平城宮跡の発掘の経緯にかんがみ、バイパス建設予定地には内裏が存在するのではないかと考えられたため、奈良
県教育委員会が発掘調査をいたしましたところ、藤原宮跡の一部、すなわち内裏跡であることがほぼ確実となり、その保存が問題となっているものであります。現在バイパスの建設計画は一応中止され、発掘調査が行なわれつつありますが、その結果を待って最終的決定が行なわれることになっております。県当局も、すでに先行投資が行なわれており、その対策に苦慮しているとのことですが、平城宮跡に劣らないその文化的重要性にかんがみ、調査結果を待ってバイパス路線の変更等を行ない、本宮跡の保存をはかりたい方針のようであります。貴重な文化遺産が保存される見通しに意を強くした次第であります。しかし、県当局からは、保存の抜本的対策としては、やはり平城宮跡と同様、要保存地区を国有地化する以外に方法がないから、全額国庫で買い上げる方策を早急に立てられたいとの
要望がありました。この点、早急に検討すべきものと考えます。なお、このような問題が生じた原因としましては、当初バイパス建設計画の決定にあたって十分な事前協議が行なわれなかったことがあげられます。
次に、平城宮跡の問題について申し述べますと、奈良市内の交通混雑の緩和と奈良周辺の開発をはかるための国道二十四号線バイパスが、種々検討の結果、平城宮跡に東接して、旧東一坊大路を復元する形で建設することが決定され、その結果、近畿地方建設局長と奈良
県知事の事前調査を行なう協議に基づいて、奈良
国立文化財研究所が発掘調査を行なったところ、ある時期に東一坊大路が他に転用されていたことや、宮城が指定地よりさらに東に広がっていること、すなわちバイパス建設予定地が宮跡の一部であることが予想されるに至り、現在問題となっているところであります。調査は四十四年三月までに終わることになっております。県当局は、四十五年の万博を控え、現バイパス予定地への建設を強く希望しておりますが、これに対して奈良
国立文化財研究所等
関係者は、宮跡の一部であることが予想されるので強く保存を
要望しておりました。しかも、両者の間には十分な意思の疎通が行なわれていないように見え、今後の円満な解決の困難さが予想されるところであります。したがいまして、今後十分な発掘調査を急ぐとともに、
関係機関の間で連絡協議を密にして円満な解決をはかられるよう切望するものであります。調査が終わるまで早急な判断はできませんが、調査の結果、宿跡の一部として重要な文化的価値があるものと決定された場合には、従来の行きがかりを捨てて万全の保存対策が講ぜられることを希望するものであります。
なお、現地視察の際、路線の変更も必ずしも無理ではないのではないかとの印象を持ったことをつけ加えておきます。いずれにいたしましても、この問題が生じました原因の一つとしては、当初路線決定のための事前協議において、
文化財関係者も加わりながら、事前発掘調査を行なう前に、旧東一坊大路と推定して路線を決定したことにあると考えられます。
埋蔵文化財の場合、発掘調査前に推定によってその内容を決定することはきわめて危険であり、その点遺憾に思う次第であります。今後、このような場合には、慎重な態度こそ必要でありましょう。
以上、藤原宮跡及び平城宮跡の問題について申し上げましたが、今回の視察にあたっても、至るところに古墳が存在するのを目のあたり見て、保存と開発の調和の困難性を痛感いたしました。今後一そうの開発の進展に伴って、以上述べましたような問題はますます増加することが予想されます。このような問題の発生を避けるための方策を早急に確立する必要があろうと存じます。少なくともまず第一に、
埋蔵文化財の
状況とその価値を十分に調査して、その青写真を早急に作成し、その表示の徹底をはかることが最も重要と思われます。さきに述べましたように、奈良県でも調査済みは一〇%に満たない
現状であります。また、そのためには、調査のための専門家の養成確保につとめなければならないことは当然であります。次に、十分な事前協議が行なわれることがきわめて重要であります。事前協議の義務制等についても、早急に研究すべきであると思います。そのほか、現在の
文化財保護行政のあり方等についても、多くの検討すべき課題があることを感じた次第であります。
奈良県当局からも、
文化財保護行政の強化について、次のような
要望がありました。第一に、特に記念物指定対策、未指定埋蔵
文化財保護の徹底を期するため、
文化財保護法の改正を早急に推進すること。第二は、特に地方公共団体の発掘調査国庫補助率の
引き上げ、要保存地区の買収費等
関係予算の増額に必要な
財源措置を講ずること。第三に、
関係行政機関の組織機構を再検討すること。第四は、
文化財の修理、調査等に必要な
技術者の養成、確保のための対策を講ずること。第五には、
文化財の普及、啓蒙を期するため、
関係諸機関の協力を配慮することであります。このほか、平城宮跡を平城史跡公園として、そこに
国立歴史博物館を建設されたいとの強い
要望がありました。
次に、奈良女子
大学を訪れましたが、建物の老朽化ははなはだしいものであります。その七〇%は明治時代の木造建築で、
教育、研究に種々支障を来たしているとのことでありました。火災等災害の場合が思いやられる
状況であります。学内でも数年来他地域に移転するか現在地に改築するかを含めて検討が続けられておりましたが、近くほぼ現在地に改築するように結論が出されるとのことであります。早急に結論を出すべきであることを強調した次第でありますが、一日も早く改築が実現することを願うものであります。
最後に、奈良
国立博物館を訪れましたが、現存の建物は古くかつ狭いため新館の建設が計画され、すでに調査費も計上されているとのことでありましたが、これまたすみやかな実現を望むものであります。
以上御
報告申し上げます。