○田畑金光君 私は、提案者を代表し、ただいま議題となりました
厚生大臣坊秀男君の
不信任決議案に関し、その趣旨説明を行なわんとするものであります。(拍手)
まず初めに、決議案を朗読いたしいます。
厚生大臣坊秀男君
不信任決議案
本院は、
厚生大臣坊秀男君を信任せず。
右決議する。
〔拍手〕
厚生大臣坊秀男君は、先輩、同僚の言によれば、人格高潔の人物とのことであります。しかるに、その人格者の不信任
動議の趣旨説明をやらなければならないめぐり合わせをまことに残念に思うのでありますが、これも、国権の最高機関たる国会に身を置く者の公人としての立場上、やむを得ざるものであることを御了承願わなければなりません。
私は、衆議院第一
議員会館の四階で坊
秀男君とはすぐ隣合わせに事務所を置く身であり、文字どおり隣組同士でありますだけに、個人としても苦痛を感ずるのであります。にもかかわらず、私はここに坊
秀男君を糾弾せざるを得ないゆえんは、今日のわが国の医療行政はあまりにも混乱を重ねておるがゆえであります。医療行政に秩序を与えることは、いまや一日もゆるがせにできない状態であります。すなわち、快刀乱麻を断つていのすぐれた実践力を持つ者でなければ、医療行政の現状を打破し、国民のための医療確立はできない状況にまできております。
坊
秀男君は、見られるように、芒洋としてつかみどころのない風貌の持ち主であり、りこう者か愚直者か判然としていないのであります。率直に申し上げまして、大人物には違いないが、天二物を与えずのたとえのとおり、政治家として最も必要な実行力に欠けているのであります。(拍手)
ことに、本院社会労働委員会における
健康保険法及び
船員保険法の
臨時特例に関する
法律案の審議経過を振り返ってみましても、提案理由の説明をやるのに、部屋の片すみで、あの大きなからだにも似合わぬ、半紙一枚をもそもそと読み上げて、もって足れりとするようなやり方、あくる日は、これを撤回して、趣旨説明をやり直すなど、これらの所業を総合的に判断いたしますとき、遺憾ながら坊
秀男君は大事を託し得る人物でないことを発見いたした次第であります。(拍手)
私が彼を信任できない最大の理由は、以上の点であります。
そもそも、今回の医療費引き上げは、明らかに政府・自民党の公約違反なのであります。去る一月総選挙の節、わが党の質問に対し、政府は、公共料金は本年中は原則として値上げしないことを文書をもって確約いたしたのであります。しかるに、選挙が終わると同時に、四十二年度予算においては、消費者米価、健康保険料など、最も基本的な公共料金の一連の値上げ措置を行なったのであります。
ことに、医療保険制度の改革は、ここ数年来の大きな政治的課題であるにかかわらず、政府は、そのなすべきことは何一つ実行しないまま、昨年もことしも医療保険の赤字をただ安易に被保険者や患者に転嫁せんとするのが、今回の法改正の実態であります。政府の言うように、抜本改正を四十三年度から実施するのが事実であるとするなら、なぜ本年度赤字くらいは
——幸い好況を反映し、税収自然増も相当金額見込まれる現状だけに、一般財源から補てんするぐらいの措置がとれないのか。かりに、この改悪法案が成立いたしたといたしましても、実施時期のおくれと一部手直しにより、本年度三百三十億余の赤字が出ることは明白です。四十二年度の赤字を埋めるという臨時応急措置は完全にくずれたことを銘記すべきであります。
また、坊
秀男君は、その
答弁の中でしばしば、今回の措置はあくまでも臨時応急の措置であり、四十三年度からは抜本策を実施すると言明を重ねてまいりましたが、抜本策の実施がしかく容易に実施できるでありましょうか。臨時措置だけでもこれだけの騒ぎを重ねなければならぬ実情を見ますときに、坊
秀男君の
答弁は、明らかに欺瞞であります。
坊
秀男君は、仄聞するに、かつて僧侶であったとか、いまなお僧籍にある身であるとか聞くのでありますが、もし事実とすれば、僧侶の身で人を欺くことは、神や仏を欺くも同然、天人ともに許さざる行為と申さなければなりません。(拍手)
これが彼を信任できない第二の理由であります。
御存じのように、昨年も
健康保険法等三法改正が強行され、今回の引き上げ措置と相まって、二年連続の医療費引き上げであります。本年四月、厚生大臣の諮問機関である社会保険審議会は、諮問に答えて、次のごとく政府に警告を発しております。
すなわち、今日、政府管掌健康保険及び船員保険は膨大な赤字をかかえ、診療報酬の支払い遅延さえも憂慮される最悪の事態に立ち至っているが、これは審議会の答申を無視した政府の積年にわたる医療行政の怠慢の結果であることを強く警告を発しております。
政府のやるべきことを何一つ実行せずに、被保険者や患者や医療担当者にのみその犠牲をしいようとするのが今回の法改正であり、断じて容認できないのであります。
第三に、私が
厚生大臣坊秀男君を信任できない理由は、
佐藤内閣の政治姿勢との関連においてであります。
佐藤内閣の政治姿勢は、政治資金規正法改正案をめぐる態度によって試験済みであり、公約違反などというなまやさしい問題ではないことは明らかであります。派閥あって党なく、党あって国民なしとの政治姿勢をもってして、一国の政治の健全な運営が期待できるでありましょうか。内閣は一体の責任であります。この内閣連帯責任の上に立って、坊
秀男君は、
佐藤内閣の政治姿勢を正すためにどのような努力を払ってまいりましたか。閣内にあって、
佐藤内閣の間違った政治を正すために、国務大臣としての職責を全うした形跡をうかがい知ることができないのであります。人がいいだけではつとまらないのが政治の世界です。
佐藤総理を差しおいて、坊
秀男君一人を責めることは私情としては忍びがたいものを感じますが、あえて糾弾せざるを得ないのであります。
そもそも、今日、口を開けば医療制度の抜本策を唱える声はちまたにあふれております。しかし、その内容に至っては、人さまざまであります。医療担当者と支払い側の言う抜本策には大きな開きがあります。事業主と雇用労働者との間に、保険者と被保険者との間にも大きな差異があるのが実情であります。臨時応急策の改定でこれだけの大騒ぎを見るときに、抜本策の確立に至っては国をあげてのたいへんな混乱が予想されるのであります。国民各層の異なる利害を調整し、多数の利益を追求するのが行政府の責任であると考えます。いまの
佐藤内閣にそれが期待できるでありましょうか。一内閣の寿命ぐらいはかけるぐらいの気概とリーダーシップがなければ、医療制度の抜本策などは、しょせんことばの遊戯に終わるでありましょう。
勇将のもとに弱卒なしということばがあります。上正しからずんば下これにならうのたとえがあります。
厚生大臣坊秀男君が適任、適材でないということは、しょせん
佐藤総理が総理の器でないという反映であろうと考えますが、国務大臣は担当行政について全責任を持つのがいまの内閣官制のたてまえであるにかんがみまして、この際、
佐藤内閣の医療行政の失敗に関し全責任をとられるよう強く要求するものであります。今回の法律改正は、政管健保を中心とする改正であります。ことに、政府管掌健保は、その対象が中小企業、零細企業の勤労者であるだけに、大企業を中心とする組合健保に比較しますると、四十二年度を例にとりますならば、すでに収入面だけで九千円の開きが出ております。これが両制度間における保険料率、保険給付の面に著しい格差を発生せしめている原因でありますが、今日まで、政府管掌健保のような低所得者層健保に対しましても、一律に保険の概念を固執し、保険財政の赤字を主として被保険者や患者にのみ転嫁してきたのが保守党内閣の医療行政でありますが、断じて容認できないのであります。わが党が、健保にも国庫の定率負担を導入すべきこと、特に低所得者層には保険料減免措置を要求するのも、かかる配慮なしには医療保障制度の確立ができないこと、人間尊重の政治も、風格ある社会建設もできないことをおもんばかるがゆえであります。
次に、私が指摘したいことは、わが国の社会保障における医療保障と所得保障間のアンバランスの問題であります。わが国の総医療費は国民所得に対し約五%に達しておりますが、欧米先進諸国に比べましても決して劣っておりません。ただ、社会保障費中に占める医療費の比率は、ヨーロッパ諸国は約二五%でありますが、日本は五〇%に達し、医療保険の占める比率は非常に高いのであります。四十二年度予算では、社会保障費は総額六千七百億でありますが、医療費はその半額、三千三百六十億に達しておるのであります。社会保障全体のバランスという点から検討の要があるでありましょう。
特に私が強調したいことは、医療費の中に薬剤費の占める割合が目立って高まっておるという現象です。医学、薬学の進歩に伴う医療内容の向上、医療機械の整備充実、国民の医療需要の変化が医療費の伸びにつながることは当然でありましょうが、ヨーロッパ諸国にあっては、医療費の中に占める薬剤費は二〇%前後であるのに比べ、わが国のそれは四〇%に達するのであります。これはわが国の医療保険制度と切り離しては考えられないことだと思います。
昭和四十年、社会保障制度審議会は、その答申の中で、「近年の保険財政悪化の最大の原因は、薬剤費の激増にあることは、数字的に証明されている。その主な原因は現行の医療費体系にある」と率直に指摘しておるのであります。
今日、
佐藤内閣や坊厚生大臣の態度の中には、このような基本的な問題に取り組む勇気と気魄を見受けるわけにはまいりません。坊
秀男君は、一生懸命やっておることを弁解されるかもしれません。まわりの壁が厚過ぎて、おれの力ではどうにもならぬのだということを訴えるかもしれません。しかし、それでは厚生大臣の責任を果たせないのでありまするから、自信がなければおやめなさったらどうかというのが、この勧告の趣旨なのであります。(拍手)
最後に、私が特に強調したいことは、今日わが国の医療制度をめぐる問題はあまりにも複雑、かつ多岐にわたっておるということであります。しかるに、今日まで保守党の歴代内閣は、その場限りの糊塗策にのみ終始してまいったのであります。
佐藤内閣もその例外でありません。いな、ますます禍根は積み重なるのみであります。今回の法改正に対する世論のきびしい批判も、国会におけるこの難航ぶりも、すべては政府の長きにわたる医療行政の失政に対し、責任追及ののろしにほかなりません。気の毒だが、坊
秀男君は、積年の失政の全責任をいま一身に負わされた形になっております。
佐藤内閣に一片の良心と責任をわきまえる気概があるならば、野に満つ批判の前に、すみやかにこれらの悪法を撤回されんことを要求するものであります。
それができないとすれば、
厚生大臣坊秀男君、せめて君が全責任を負われて、直ちに職を辞し、人心一新に寄与されるよう切に希望し、私の不一信任案の趣旨説明を終わることにいたします。(拍手)
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