○春日一幸君 私は、民社党を代表し、
佐藤総理の
所信表明に対し、本
臨時国会の主要課題とおぼしき次の諸点について
政府の
見解をただしたいと存じます。
私は、まず最初に、
政治資金規正法案に関連し、
佐藤総理の
政治姿勢について
質問いたします。
総理、私は、このほど、元官吏と称する富山市在住の七十四歳の未知の人から、次のような書簡を受けました。
すなわち、その書簡は
政治資金規正法案に対するあなたの
政治責任を筆をきわめて論難糾弾して、これを次のように述べられております。朗読をいたしますが、「ここに最も重大な問題は、一国の
総理が
公約をじゅうりんして、てんとして恥を知らず、何ら
責任を感じようとしないこの一事です。これは
わが国の
政治、
わが国の国運にとって、決して軽視できない重大事です。一国の
総理が
政治道義を守らず、
政治責任を感じないということは、これは
日本政治の危機であります。私の最も憂慮することは、このことが一億
国民の世道人心に及ぼす影響です。
佐藤内閣は一日も早く葬るべきです。いまの一億
国民はだれしも私と同じ気持ちだと思います。」云々とあるのでございまして、この手紙は、さらに切々とあなたに対するきびしいせっかんを加えておるのであります。
昨日来の野党
質問に答えられる
総理の言動から判断いたしまするに、このような
国民の憤激について、あなたはいまだに十分なる御認識を持たれていない様子であります。したがいまして、私は、ここにあらためて本問題のいきさつをつまびらかにし、あなたの御反省を促したいと存じます。
総理、まことにあなたは、
政治資金規正法案の扱いについて、実に二重、三重の
政治悪を積み重ねられました。
すなわち、この
法案の
策定にあたって、あなたは、選挙
制度審議会の
答申を換骨奪胎して、これをはなはだしくゆがめてしまいました。およそ、民主
政治は、それぞれの機関の意思が尊重されてこそ初めて成り立つ
政治であるといわれておりますのに、あれでは、何のためにあの選挙
制度審議会を設置したものやら、また、その
審議会は何のためにあのような激しい検討、論議を重ねてきたものやら、おそらく、
国民の大多数は、民主
主義という名の権力
主義者のあのようなかって気ままな独壇場に、やる方ない憤りを抱いていることでありましょう。(
拍手)これが、本
法案に対しあなたがおかした最初の
政治悪であります。
次いで、そのようにして提出された
政府原案は、こともあろうに、あなたが総裁として統括されるあなたの党によって、その
審議は、まるでおもちゃのようにもてあそばれ、そして結局は、こわれたおもちゃのように、特別
国会の幕切れのどさくさの中に投げ捨てられたのであります。これは議院
内閣制における
政府と与党との
責任一体の鉄則を踏みにじり、議会制民主
政治の本義を破壊した前代未聞の暴挙であります。これが、あなたによって積み重ねられた二重の
政治悪であります。
かくて、ここに第五十六
臨時国会が召集されましたが、これは
実質上、前
国会の再延長
国会にほかなりません。したがいまして、
佐藤総理にして、もし、この
政治資金規正法案の不
成立について、
総理、総裁として
責任を感ずるところありとするなら、すべからくその
法案をここに再提出し、今度こそは
政府と与党が翻然悔悟してその
成立につとむべきは当然のことでありました。しかるに、
政府も自民党にも何らの反省なく、したがって、いまだその
提案はなされておりません。これが第三重の
政治悪であります。
ここに、
昭和二十三年一月の第二
国会において、時の片山
内閣は、その補正予算案が与党の一部の反乱によって撤回動議が
成立したとき、片山
総理はその
政治責任を痛感し、憲政の常道に従って厳然として総辞職を決行いたされました。まことに、
政治資金規正法案こそは、昨秋来政界に立ち込めた黒い霧を晴らすためのこの出直し
国会において、まさに政界粛正の中心的
使命をになう最重要
法案であったことにかんがみまして、この
法案のかかる結末について、
政府も与党も何らの
責任をとらないということは、決して許されることではないでありましょう。(
拍手)かつて片山
内閣における補正予算案不
成立に基づく
内閣総辞職の前例をあわせ
考えられて、私はこの際、とくと
佐藤総理の猛省を求めてやみません。
以上、私は、
政治資金規正法案の扱いに対する一般
国民の憤激をありのままにお伝え申し上げ、あわせてわが党の
見解を申し述べました。これに対する
総理の御所見はいかがでありますか、この際、あわせて次の諸点について
総理の御方針を明らかにいたされたいと存じます。
そこで、この
政治資金規正法案は、以上申し述べた理由により、
政府はその
責任において最もすみやかに
成立をはかるべきであると思うが、現に自民党のあのような猛反対の実情にかんがみて、はたしてそのことが
佐藤内閣で可能でありましょうか。また一方、
総理は自民党の総裁として、まず、みずからの党の体制を調整される必要がおありであろうが、はたしてその御意思をお持ちであられますか、これらの点について今後
総理はどのように対処される方針か、この際、その真意のほどを
国民の前に明らかにいたされたいと存じます。(
拍手)
次に、
政府がこの
法案の早期
成立の意思をお持ちでありとするならば、
政府がこの
臨時国会にその
法案を提出しないことは、何人もとうてい納得できることではありません。現に
国会は、公職選挙法改正特別
委員会を衆参両院に設置して、それを
審議する体制を整えております。かりにこの
臨時国会が特に
健保特例法案の
審議を求めたものであったといたしましても、そのことは、選挙法改正特別
委員会の
審議能力をいささかも阻害するものではありません。また、この
政治資金規正法案に与野党とも疑義や問題がありとするなら、なおさらのこと、この
臨時国会の貴重な時間を活用して
審議を進め、それら疑義の氷解をはかるべきではありませんか。幸いに、本日はいまだこの会期の初頭にあります。
総理は、
国民世論の
動向と野党の
主張に対し、あらためて胸襟を開き、この際、
答申を尊重したあの
法案を再提出し、与野党の合意を求めて、その
成立の方向に向かって努力せらるべきであると思うが、
総理の御
見解はいかがでありますか。また、もしこの
法案を本
臨時国会に提出しないとするなら、今後、いつ、どのようにして
提案される御所存か、また、その
提案には、自民党の一部に
主張されているような、たとえば選挙区制の変更など、新しく別個の条件が並列されてからむ形になるのであるか、この際、その
見通しをも加えて
総理の御方針をお示し願いたいのであります。
次に、外交問題について
質問いたします。
いまや、
わが国をめぐる国際情勢は、拡大の一途をたどるベトナム紛争、中国の水爆並びに中距離弾道弾による本格的核武装の進展、米ソが背景国となる中近東の紛争の混迷、そしてさらに、核拡散防止条約の締結をめぐる米ソ間並びに核保有国と非核国との対立など、その様相はきわめて複雑で、かつ、流動性を加えつつあるのであります。この中にあって、
わが国は、みずからの安全確保と、アジアにおける平和の積極的創造のために、一体何をなさんとするものであるか。これが今日
佐藤内閣に問われておる外交上の課題であります。このような見地に立ち、以下、当面する重要なる諸問題について、佐藤外交の核心についてお
伺いをいたしたいと存じます。
質問の第一は、ベトナム和平に対する
日本政府の具体的行動についてであります。
本日、ベトナム和平の唯一のきっかけとなるものは、まず北爆の停止であります。それはウ・タント国連事務総長の言にまつまでもなく、もはや
世界世論の定説となっておるところであります。本日、米国は、北ベトナムの南方浸透停止の保障が得られないことを理由に、北爆継続やむなしとして、その戦闘を進めておりますが、これでは、ベトナムの和平は、日とともに危険な階段をのぼりつつ、逆の方向に向かって遠ざかるばかりでありましょう。したがいまして、ベトナム和平に対する
日本政府の当面の努力対象は、一方において、米国に対し、北爆中止の強い要請を行なうことであり、他方において、対ソ折衝を進めて、これに見合う北ベトナムの南方浸透停止の約束を取りつけること、ここに焦点をしぼって努力をすべきものと
考えられます。しかるに、
佐藤総理は、べトナム和平のかぎが、このようにして対米、対ソ外交の機微に秘められておるさなかに、大胆にも、この九月、戦争の一方当事国たる南ベトナムを訪問されるとの趣でありますが、人情と勢いのおもむくところ、これは期せずして南にあなたの心を傾けさせ、それが北への刺激要因となって、その結果は、全体としてベトナム和平に対する
わが国の説得力をそこねることになりませんか。私
どもはこのことを率直に憂うるものであります。
総理は、一昨日、山花議員の
質問に答えられて、もしそのことがベトナム和平に大きく役立つならば、また北越を訪問するにやぶさかではないと答えられましたが、ここにベトナム和平の方途を達観すれば、
現実の問題として、南越、北越の政権だけではそれを
解決し得る客観条件はすでに乏しきものと見るべきでありましょう。したがいまして、私
どもは、
佐藤総理が、真にアジアの指導国の首相たるの自負を持って、ここに和平の道を求めて南越を訪問されたといたしましても、しょせんはその効果は少なく、かえってその逆効果の多からんことをおもんばかるものであります。(
拍手)
総理は、この際、
勇断をもって南越訪問を思いとどまり、その情熱をひっさげて米ソにおもむき、北爆の率先停止と、それにこたえる南浸停止を強力に働きかけられるべきであると思うが、この点に対しまして、
総理の御
見解と御方針をできるだけ具体的にお示し願いたいと存じます。(
拍手)
次に、対ソ外交について
質問をいたします。
去る七月二十七日、某新聞の報道によれば、コスイギン首相は、三木外相との会談の席上で、もし条件さえ整えば、中国と絶縁してもベトナム
解決に踏み切ってもよいとの意思表示があったやに伝えております。
従来、われわれの
常識的
見解では、中国を除外してベトナム問題の
解決はあり得ないというのが、本日までの一般的観察でありました。したがって、ソ連が今回特に中共を除外したベトナム
問題解決の決意を表明したことは、画期的なできごととして刮目したのでありますが、その後、ポーランドよりの報道によりますと、このコスイギン発言は、三木外相によってまっこうから否定されたようであります。しかしながら、問題の重大性にかんがみ、私
どもはこの間に何らかの事情が伏在しているように感じられてなりません。まことに、このコスイギン発言として伝えられたものは、それがベトナム戦争
解決のかぎを握ると目されるソ連の底意を示すものとして、
わが国民の関心は絶大なものがあります。よって、この際、あのようなコスイギン発言は、実際に事実無根のものであったかどうか、
政府よりできるだけ明確にそのいきさつと真相を御説明願いたいと存じます。
次に、今回の日ソ定期協議に際し、特に三木・コスイギン会談で、懸案の領土問題と平和条約問題について話し合いが行なわれ、今後この二つの問題について日ソ両国がさらに話し合う道を切り開いたとの趣でありますが、これは、まさしく日ソ定期協議のもたらした一個の成果であり、率直に敬意を表します。しかしながら、それらの問題をめぐる話し合いの中身がどのようなものであったかは、必ずしもいまだ明確ではありません。伝えられるところによれば、コスイギン首相は、何らかの中間的なものをつくる可能性を示唆したといわれておりますが、一体それはどのような方式のものでありましょうか。特に、平和条約締結の根本問題たる領土問題について、この際、
政府の厳然たる態度をあらためて伺っておきたいと存じます。
これまで、
政府は、北方領土については、南千島の返還をあくまで
要求する
立場を堅持してまいりましたが、かりに、平和条約の締結問題が今後具体化する場合、
政府はこの既定方針を一貫して堅持する決意かどうか。一部には、歯舞、色丹さえ返れば、あとの領土についてはこれをペンディングのまま平和条約を結んでもよいとの議論もありますが、これほど平和条約の本来の性格をわきまえず、かつ、
わが国の領土問題を軽視した議論はありません。この問題に対する
佐藤総理の御
所信のほどを、この際
国民の前に厳然と明らかにしておいていただきたいと存じます。(
拍手)
次は、沖繩問題について
質問いたします。
沖繩は、母国
日本の施政から離れてすでに二十二年を経過いたしました。沖繩百万同胞の悲願がかかる長期にまたがって握りつぶされてきたことは、まさに
わが国政治の無能と貧困を如実に物語るものであります。
しかしながら、昨今情勢はとみに
変化のきざしをあらわし、特に先般の佐藤・ハンフリー会談を契機に、沖繩、小笠原の返還問題が今秋の日米首脳会談の主題になろうとしていることはまことに歓迎すべき事態であります。すなわち、
日本政府の強い決意と
提案内容のいかんによっては、沖繩、小笠原の施政権返還を実現することは、もはや必ずしも不可能なことではない情勢にありと思われます。
しかるに、ここに沖繩返還に対する従来の
政府の態度は、
総理府筋の教育権分離論、下田駐米大使の核基地つき返還論、与党内の地域的分離論、
政府筋のばく然たる全面返還論など、雑然として定まるところのないことは、まことに遺憾きわまるところでありまして、もはやこのような無定見な態度は許されません。
佐藤総理は、来たるべき日米首脳会談において、沖繩、小笠原の施政権返還をジョンソン大統領に対して明確に
要求談判すべきであると思うが、
総理の御決意はいかがでありますか。
またその際、当然その返還について
日本側から具体的な方式を
提案しなければならないが、これに備える
政府の具体案はどのようなものか。この際、
総理より沖縄返還に対する
政府の明確な態度、方針を明らかにいたされたいと存じます。(
拍手)
最後に、
健保特例法案について
質問いたします。
ここに、
医療保険財政に、
現行制度のたてまえでは、年間七、八百億の
赤字が出るとするなら、
政府はその管掌
責任者として、それに対する
対策を根本的に講ずべきは当然の責務でありましょう。かくて、
政府は、そのような根本策の
提案について、ここ二、三年来しばしば
国会でその約束、言明を重ねながら、いまだにそれを実行しておりません。これはまことに驚くべき
政府の怠慢であります。ここに、先
国会以来問題にされておる
健保特例法案は、依然として臨時的な、部分的な応急
措置であって、それは何ら
現行制度の根本的
改善に寄与するものではありません。
わが党がこの
法案に反対する理由は、このようなびほう策を安易に次々と積み重ねていては、それによって本来の
保険制度が次第にかたわにされていくおそれがあるからであります。
政府筋では、この
法案が
成立しないと
医療保険制度を崩壊させる心配があると大ぎょうに言いふらされておりますが、もしもそのような心配があるならば、それは当然
政府の
責任においてその不安を取り除くべきでありましょう。たとえば、現に今回の改正案においても、
政府はすでに二百二十五億の国庫補助を計上しているのでありますから、ここに本年度の税収の
自然増加は三千億ないし五千億と見込まれておることにかんがみまして、この際、この二百二十五億の
国庫負担の当初計画を七百四十五億の
国庫負担に増額すれば、当面する
保険財政のつじつまはそれで十分に均衡をはかることができるのであります。
元来、
医療保険というものは、それが
社会保障政策である限り、その財政経理は
保険の概念と
社会政策の概念との配合によって
措置すべきものでありまして、したがって、その当面の
赤字が国の支出によって補てんされるということは、決して異様なことでもなく、相手が日の丸というようなばかげたものでもございません。
健保問題解決の道は、まずもって
政府がその言明に従い、
健保制度に対する根本的
改善策を
策定し、これを
国会に提出されることであります。
そこで、あらためてお
伺いいたしますが、
健保問題については論じ尽くされたこのようないきさつがあり、かつ、
健保制度そのものの欠陥が現に日とともに拡大の傾向にあるにもかかわらず、
政府がいまなおその
改善のための根本
対策を
国会に提出しないのは、一体いかなる事情によるものであるのか。また、そのためにしばしば
健保特例法案の提出をめぐって
国会は混乱におちいるのであるが、厚生省当局はその
政治責任を一体どのように理解しておるのであるか。さらに、
政府は、その根本的
改善策を四十三年をめどに立法作業を急いでおると言われておるが、はたしてその四十三年には、
政府はそれを確実に
国会に
提案することができるのであるか、必ずできるというのであれば、その保証は一体何か、この際、
総理並びに厚相より
責任ある御答弁をお願いいたしまして、私の
質問を終わります。(
拍手)
〔
内閣総理大臣佐藤榮作君
登壇〕