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川又参考人 ただいま御
指名をいただきました
川又でございます。
本日は、
金融制度の
あり方につきまして、
産業界から
意見を述べよということでございますので、
資金の
借り手としての
立場から若干の所見を申し述べてみたいと思います。
私
ども産業界にある者の
立場からいたしますと、
金融に対する期待は、安定した低利の
資金を、豊富に
供給していただくということに尽きるわけでございますが、最近では、御存じのように
減価償却、
内部留保など、
内部資金でまかなう比率が上がってきておりますし、また、社債の
発行、あるいは
銀行からの
借り入れ等につきましては、
銀行の全面的な御
協力が得られる
状態でございまして、
資金調達の面からいたしますと、少なくとも量的には、まず円滑に行ない得る
状況でございます。このような
状態は、よほど強度の
金融引き締めか、あるいは不測の事態が生ずるということでもない限り、大きく
変化することはあるまいと思っております。
一方、
金利につきましては、
現状よりもっと下がってほしいと思いますし、実際われわれ
借り手にとりましては、低ければ低いほどよろしいわけでございますが、現在議論されておりますような
金融再
編成によって、直ちに
金利低下が実現するという保証は、私は必ずしもないと思っておるわしけであります。
このような
意味からいたしまして、
金融制度の
あり方なり、
金融機関の再
編成といった問題について、
産業界の私の
考えとしては、特にこうしてもらわなければ困るというような注文は、ここに申し上げるほど具体化したものは持っておらないのでございます。
もちろん、
わが国経済を取り巻く
内外の環境の
変化から、
産業界は一段と
効率化をはかることを迫られておりますし、
金融界もまたそのような
変化のらち外ではあり得ないわけでございまして、そのような
観点から現在の
金融の
あり方を見直してみることは意義があるかと思います。
申し上げるまでもないことでありますが、
わが国は、本年七月、
資本取引自由化の第一歩を踏み出したわけでございまして、
わが国産業は、
国際的競争場裏において、
ワールドエンタープライズと激しい
競争を展開しなければならなくなったわけでございます。また、特恵関税問題の進展もございまして、
軽工業品、
労働集約的商品の
分野におきましては、低
開発諸国との
競争も激化する見通しでございます。総じて
わが国産業をめぐる
市場条件は、格段にきびしさを加えていくものと覚悟しなければならないと思います。
他方、
供給条件につきましも、
市場の
巨大化と
技術進歩によりまして、
最小最適設備の
大型化が急速に進んでいる
現状でありますし、さらに
新規労働力化人口の著しい
増勢鈍化傾向などを
考え合わせますと、
わが国経済、
産業は、
戦略産業における
設備投資を
主導力として、
国際競争力を一段と強化し、
構造の
高度化をはかっていかねばならない時期に来ておると存じます。このような
事情でありますから、今後ますます
長期安定資金に対する
需要は根強いものがあろうと
考えております。
また、これは特に私
ども業界の経験でございますが、一台の
自動車をつくり上げますためには、実に多数の
下請企業の御
協力を必要とするのでありまして、こうした
企業の
設備が
近代化され、
技術水準が向上し、
コストが低下するのでなければ、私
どもといたしましても、
国際競争力を持った、品質のすぐれた
自動車をつくることはできないと
考えます。
これを一般的に申しますならば、
わが国産業の
国際競争力を強化いたしますためには、
中小企業の
合理化、
近代化が欠くべからざる
条件であるということでございます。そのためには、
中小企業分野に対する
資金供給を
円滑化する必要がございます。先日発表になりました
金融制度調査会答申におきましては、デパート化した同一の
金融機関が、大
企業から
小規模零細企業に至るまで、幅広く
金融を行なうことは、実際上無理があり、とかく
中小企業等に対する
金融に消極的になりがちであるというところから、
中小企業金融に関しまして、
専門機関の
必要性を是認しておられるように伺っておりますが、
長期産業金融についても
事情は似たものがあるのではないかと思うのであります。
金融市場というものは、私
ども詳細にわかりませんが、
信用機構の性質からいたしまして、なかなか
差別性の強いものであると思いますが、一国全体をカバーする
金融市場が成立していて、その中で自由に
資金が移動するというわけにはなかなかまいらないのではないかと思います。やはり
特定分野の
資金需要に対しては、
専門機関が
資金供給を行なうのが、
金融を
円滑化ならしめる上に効果があるのではないかと思います。特に、
借り手の
立場から
考えますと、
所要資金の性格も多様でございますので、それぞれの要請にマッチした
金融を受けられることのメリットは否定しがたいものがあると思います。このような
意味におきまして、これまでの
金融制度の理念、
職能分離、
専門化という方向には、十分
評価すべきものがあったと
考える次第でございます。
この点に関しましては、
専門化で
ワクをはめるとその中に安住しがちで、
金融機関の
経営が安易に流れるという
意見も聞きます。このようなことがあれば、これはまことに困ったことでございまして、実際激しい
競争の中に身を置いておりますわれわれ
産業界から見ますと、まだまだ
金融機関の
経営には、
効率化の余地があると思います。ただ、そのことと
金融の
円滑化のための
専門化の
必要性とは別個の問題ではないか、
専門の
土俵の上で、
経営の
効率化を極限まで追求することが望ましいのではないか、このように
考える次第でございます。
次に、
政策金融の
あり方につきまして、感じておりますところを若干申し述べてみたいと存じます。
御
承知のように、
資本取引の
自由化に対処して、
産業体制の整備をはかりますために、
日本開発銀行にはいわゆる
構造改善金融、体質改善ですから、そういった
意味の
資金ワクが設けられております。私
どもも本年度この融資を受けたわけでございますが、実を申しますと、この
金融につきましては、量的にはともかくといたしまして、
金利その他
条件面で、さしてメリットがないと申し上げて過言ではないかと思います。現在のような
条件でございますと、これは私
どもが
長期信用
銀行から受ける融資とあまり変わりがございません。国策として
資本取引自由化を推進し、その対応策として
産業体制の整備を促進するということでありますならば、これに要する
資金については、思い切った優遇措置を講ずる必要がある、そうでなければなかなか
合併、再
編成などは進むものではない、このように
考えております。一般的に申しまして、
政策金融の
あり方に関する認識が、不明確なのではないかという感じを持っております。戦後の絶対的な
資金不足
時代とは異なりまして、現在では
政策金融には量的補完の
意味はほとんどないと申してよいのではないかと思います。今日、われわれ
産業界の
政策金融に期待しますところは、質的補完であり、低利
資金の
供給ということでございます。もちろん、
財政資金には限りがあるでございましょうから、国策の戦略的ポイントに限定して低利融資を行なうことが、
政策金融の機能を有効に発揮させるゆえんではないかと思うわけでございます。
次に、若干今後の
企業金融の動向について
考えておりますところを述べたいと思います。
国債
発行によってマネーフローが変わり、
企業の手元流動性に余裕が生じ、自己
金融力が高まったというような話をよく耳にするのでございます。なぜ国債
発行によって
企業の手元に余裕が生ずるかというと、国債
発行によって、
企業はそれに相当する国の
財政支出による売り上げの増加という恩恵だけを受ける、これに対してはいわゆる
企業の負担による税金というものがない、こういうふうな説明をどこかで承ったのでございますが、われわれ
産業界にいる者の実感からいたしますと、よくわからないようなお話のような気がいたしております。
確かに、さきにも申しましたように、
企業の自己
金融力と申しますか、
設備資金調達の中に占める自己
資金の割合が、最近顕著に上昇していることは事実でございますが、これはわれわれの実感といたしましては、ここ数年間
経営体質の改善に
一つとめ、
設備投資在庫投資を控え目に合理的に行なってまいりました結果、若干余裕ができてきたのではないかと
考えております。
したがいまして、今後の自己
金融力の動向は、基本的には
設備投資の動向いかんによって左右されると思うのであります。この点につきましては、四十年代は、三十年代と違って、
安定成長の
時代であるというようなことがいわれております。確かに一二十年代前半のような超高度
成長が再現するとは
考えませんけれ
ども、しかし、
わが国産業の若々しい活力から
考えて、今後とも相当高い
成長を続けるでございましょうし、また、一人当たり所得水準がまだまだ低い
現状からすれば、高い
成長を続ける必要があると思います。加えて、先ほど来申し上げておりますように、
資本自由化に対処しての
設備の
合理化、
大型化、
労働力不足
傾向に対処しての
労働節約的投資など、投資誘因にはこと欠かない
状態でありまして、これらに要する
資金を、
企業の蓄積
資金のみでまかなうことはとうていできないと思います。
特に、私
どもの業界から見ておりまして、今後強い
資金需要としてあらわれてくると予想されますものの
一つは、割賦販売
金融のための
資金でございます。一般的に申しましても、流通機構の整備、
近代化のための
資金需要が大きくなるのではないかと
考えられます。流通機構の整備、
近代化につきましては、すでに以前からその
必要性は十分説かれているわけでございますけれ
ども、これに対する有効な具体策は、いまだ不十分な
状態でございまして、これに対する
金融の
円滑化をどのようにはかるか、今後の
金融の
あり方を
考えるにあたっての
一つの視点として要望申し上げたい点でございます。
いずれにいたしましても、今後の
資金需要は、依然として根強いものがあると思うわけでございまして、
企業としては、どうしても外部
資金にかなりの程度依存せざるを得ないと思います。外部
資金の中では、何と申しましても、安定性の見地からいたしまして、株式、社債が重視さるべきでございましょうが、
証券市場の現況、あるいは
国民の貯蓄形態の選好などからいたしまして、このルートによる
資金調達を一挙に拡大することは困難でございますし、
銀行借り入れ金ほど機動性を持っていないという点も、考慮すべきであろうと思います。
このように見てまいりますと、今後とも、
民間の
長期金融専門機関に期待するところはずいぶん大きいのではないかと
考えております。
民間の早期
金融機関の問題につきましては、最近、
長期信用
銀行の
資金調達が、困難な
状態にあるやにいわれておりますが、私は以前、いささか
銀行実務をやった経験がありました関係上、深い関心を持って見ておる次第でございます。このような
長期信用
銀行の
資金調達面での難局は、もちろん、
長期信用
銀行自身の努力によって打開さるべきことは当然のことでありますし、またその努力の余地は、決して小さくはないであろうと思うのでありますが、そのような
経営努力だけにまかせておいてよろしいかというと、そこには
一つ問題があるように思われます。
もっぱら
経済の
効率化とか、
金融の
効率化とかいう
観点に立ちますならば、個々の
金融機関の
経営努力に一切をまかせ、優勝劣敗の原則を貫徹させるのが最もよろしいという
考え方も成り立つことでございましょうが、
効率化というのは、言いかえれば徹頭徹尾、商売の原則に従って行動せよということにほかならないと思います。これは
経済を構成する単位のすべてが健全で、
経済が順調に動いております場合は、きわめて有効な行動原則であると思いますけれ
ども、
経済を構成する単位の中には、
保護を加えることが望ましいというものも当然存在いたします。いわゆる幼稚
産業はその一例でございましょうし、あるいはまた、優秀な
成長企業でございましても、たまたま不幸な
事情で業績が停滞することもあるかもしれないと思います。このような場合、
金融機関に対しましては、
長期的
観点に立った融資行動が期待されると存じます。特に、
長期の信用を供与する
金融機関の場合には、このような期待は、一そう大きいものがあるわけでございます。実際、戦前から今日に及ぶ長い歴史の中で、
長期信用
銀行が果たしてきた役割りは相当大きいものと存じます。以前はこれらの
資金ルートには、
資金運用部
資金の投入という支柱がございましたが、今日ではそういうものはなくなっておるわけでございます。この点、
長期信用
銀行の特殊な役割りを認識いたします場合、その
資金調達面では何らかの制度的なささえを
考えてやるということも望ましいのではあるまいかと
考える次第であります。
最後に一言、最近の
金融政策の
運営について申し上げますと、去る九月に公定歩合の引き上げが実施され、それと同時に、窓口規制が実施を見たわけでございますが、窓口規制というような量的規制が行なわれますと、どうしても全業種にわたって一律的な
資金供給制限が行なわれるという結果になりかねないように存じます。最近の国際収支の逆調
傾向からいたしまして、ここで景気調整策をとり、
経済全体の
成長をある程度スローダウンさせることはやむを得ないことであると思いますが、このような一律的な
資金供給の
制限は、将来に禍根を残すことになるのではないかとおそれるのでございます。やはり
国民経済の全体の
立場から見まして、戦略的に重要なポイント、たとえば輸出増進に大きな貢献を行なっている
企業、
産業に対しましては、特段の配慮が行なわれるような
金融政策の
運営を希望いたしたいと存じます。
以上、
産業界の
立場から
金融の諸問題につきまして若干申し上げましたが、要は、
金融制度論議にあたりましては、私
ども借り手の
立場を重視していただいて、
金融の
円滑化の
観点から現実的な論議を行なっていただきたいと切に希望する次第でございます。
以上をもちまして、私の公述を終わらせていただきます。ありがとうございました。