○伊藤顕道君 私は、
日本社会党を代表して、ただいま議題となりました
防衛庁設置法及び
自衛隊法の一部を改正する
法律案につきまして、
総理並びに防衛庁長官に対し若干の
質問を行ない、この質疑を通じて、この
法律案がいかに不合理であるか、また、
自衛隊の実情がいかに憲法を空洞化しているかを
国民の前に明らかにせんとするものであります。(
拍手)
総理に対する
質問の第一点は、この法案は即刻撤回されたほうが
日本のためになると確信いたしますが、
総理にこの法案を撤回されようとする意思がおありかどうかという点でございます。周知の
ごとく、この
法律案は三年越しのものでありまして、
昭和四十年以来、審議未了、廃案という運命を繰り返してまいりました。にもかかわらず、またまた提案してくるということは、ただ単に執念深いということだけではなく、国会軽視のそしりは免れないと思うのであります。
本法案は、自衛官四千二百七十八名、予備自衛官六千人の増員をその主たる内容とするものでありますが、
自衛隊は、現在約二万の自衛官の欠員をかかえているのであります。このような欠員をかかえながら、なおかつ、四千名からの増員を要求すること自体、まことに筋が通りません。
政府は、一方では欠員を充足することの無理なことは認めて、欠員の分は初めから
予算も組んでいないのであります。にもかかわらず、増員を要求してくる、これは一体どういうわけでありましょうか。陸上
自衛隊十八万の定員というこの看板をおろしたくないからであろうかと思います。長い間引き続いて十四、五万人しか集まらない。自衛官募集は、いまや限界に来ておるのであります。にもかかわらず、十八万という看板をなお改めないということは、まことに不可解千万というほかございません。この十八万人というのは、
自衛隊発足前、池田・ロバートソン会談で、
日本がアメリカに請け負ったその数であります。それ以来、この十八万人という目標を後生大事に守っているところを見ますると、日米安保体制という美名のもと、実はアメリカ
政府に唯々諾々の
措置としか解し得ないのであります。
政府は、真に自衛官の増員を必要とすると考えるのであるならば、このような増員の法案は即時撤回して、この法案成立に費やしておる
政府の努力を、現在の
自衛隊の欠員充足に結集する、このことこそが最も賢明な方策だと考えますので、
総理みずから、上野駅頭の自衛官募集の先頭にお立ちになってはいかがでありましよう。
質問の第二点は、
総理は、国の安全保障という問題をいかに考え、いかに理解されておるかという点であります。
国民の生活と自由を守り、国家の安全を確保するということは、
政治の要諦であり、これが世界平和維持の前提条件であることは、私がいまさらここで申し上げる必要もございません。問題は、この先、すなわち、いかにして国家の安全を確保するか、その方策いかんということであります。現在世界の
政治家、いや、世界のすべての人々は、軍備によって安全を守り得るなどと考えておりません。その証拠に、もっぱら軍事的な意味に重点の置かれた「国を守る」「国防」、こういう用語が好んで用いられたのは、一時代前のことであって、現在においては、「国防」という
ことばよりは、「安全保障」という用語が使われるのが、世界の通例であります。これは単に用語上の問題として片づけることのできない、重大な必然性を含んでおるのであります。兵器体系の革命的進歩によって、戦争の性格、戦争の様相が一変してまいりました。原水爆、大陸間弾道弾、超音速ジェット機などの現出、いまや宇宙兵器すら夢ではありません。ソ連の核ロケット攻撃に対してアメリカですら自国を守ることはできないという状態であります。世界の核貯蔵量は高性能爆薬三百億トンに相当すると言われ、それは地球上に住む人間一人当たり高性能爆薬約十トンにひとしいのであります。過日お隣の中共が、今度は水爆実験に成功し、世界第四番目の水爆保有国になったとの報道は御承知のとおりであります。
このような時代においては、戦前のような国防といった純軍事的な狭い考え方が通用しないことは当然であります。そこにおいて安全保障という外交を中心とした
政治、
経済、思想まで含めた広い視野に立つ考え方が必要となってくるのであります。
しかるに、わが国においては、防衛
計画の作成過程を例にとってみても、いまだ軍事偏重の考え方が歴然としておるのであります。過去二十年間
日本の
国民が平和に
経済の復興に専念できたのは、核兵器の発達によってお互いにオーバーキルの状態となり、そこに恐怖の均衡状態が生まれ出て維持されてきた、このことが第一点、われわれ
日本国民が憲法前文において崇高な平和主義の決意を宣明したこと、このことが第二点、この二つの理由によるものといわなければなりません。
すなわち、戦争抑止力は日米安保条約ではなくて、
日本の平和憲法であり、この平和憲法を守っていこうとする
日本国民のかたい意思の力であります。(
拍手)
総理に対する
質問の第三点は、日米安保体制についてであります。
政府は一九七〇年の安保条約
改定期を前にして、すでに長期固定化の意向を明確にしておられる。そうして一方では、最近、自主防衛ということも言っておられますけれども、安保条約で
日本の自衛力増強が事実上義務づけられている以上、自主防衛ということはあり得ないのであります。
国民的共感を得るための一種のまやかしにすぎません。最近における幾つかの事例報道は、日米安保体制に対する
国民の不安をますます高めております。南ベトナムでの
日本人LST船員の負傷事件、
日本の学会への米陸軍極東開発局からの広範な委託研究、建設省国土地理院の軍用地図作製問題、過日外相公邸で秘密裏に開かれた日米両国の軍事専門
会議、さらには佐藤
総理の韓国訪問の際行なわれた日米韓台四ヵ国首脳会談等々の報道は、
国民をして安保条約の危険性を身近に感ぜしめるに十分でありました。
安保条約の
実施という形でベトナム戦争の片棒をかつぐ羽目に立ち至っている
日本の姿を見まするとき、日米安保体制が戦争の抑止力であるどころか、かえって
日本を戦争に巻き込む張
本人だと断定せざるを得ないのであります。このような観点から、一九七〇年の安保
改定期には、あらためて
国民に安保条約の是非善悪を問うて、その上で決着をつけるべきだと思いますが、
総理の御
所信をお伺いしておきたいのであります。
総理に対する
質問の第四点は、防衛力
整備計画についてであります。
政府は、防衛
計画策定について、明確な防衛構想を持っているのかどうか、まことにあいまいであります。少なくとも、
国民には知らされておりません。
国民は、
自衛隊は一たん有事の場合、どれほどの抵抗能力があるのか、はたして役に立つのかと、素朴な疑問を抱いておるわけです。すでに二兆五千億という巨額な血税を投げ出した
国民といたしましては、苦々しいきわみであります。
政府は、防衛力
整備の理由として、
日本の
経済力、ひいては国際的責任の向上と防衛費の対
国民所得の低さをあげるだけで、それ以上の具体的必要性を、
国民に何ら示しておりません。いまや防衛力
整備計画は、名は防衛
計画であっても、真に一朝事ある場合の想定の上に立った防衛
計画ではなく、形だけのものであり、防衛産業、防衛生産のための防衛
計画であり、対米向けの防衛
計画であると、ここに断定せざるを得ないのであります。そこに二万人、三万人もの恒久的欠員をかかえたままの
自衛隊が現出してくるのであります。これが平和憲法を持つ、また、その憲法を守っていこうとの決意に燃えている
日本国内での
自衛隊の姿であります。現在、
自衛隊を
国民に結びつけているものは、わずかに
災害救援に出動した際の
自衛隊のみであります。
自衛隊の最高指揮権を持つ
総理は、このような
自衛隊の現状について、いかに対処されていこうとするのか、御所見を承っておきたいのであります。
最後に、防衛庁長官に
自衛隊のシビリアンコントロールということについて、お伺いしておきたいと思います。
私
たち日本社会党は、
自衛隊は憲法違反の存在であるとして
政府を追及し、
自衛隊の解消のため、今日まで努力してまいりました。しかしながら、現に
自衛隊は二十八万をこす武装集団として存在することは、否定できない事実であります。その意味でも、
民主主義国
日本において、
自衛隊のシビリアンコントロール、すなわち
政治優位の原則は、いささかも侵されてはなりませんが、運用の面においては、例の三矢事件の例を引くまでもなく、はなはだ遺憾な点が多いのであります。私がここに指摘したいのは、次の三点であります。
第一点は、防衛庁には、秘密主義が横行しているということであります。三矢
計画において、あるいはフライングドラゴン作戦
計画なるメモにおいてしかり、ということができます。国会の資料要求に対しても、軍事上の理由ということで秘匿し、
自衛隊の実情を、国会の場を通じて
国民に知らせることを、みずから拒否しておるのであります。この点については、大いに反省すべきであります。
第二点は、内局の人事についてであります。防衛庁の内局という存在は、
自衛隊のシビリアンコントロール補強のための機関として、わが国独特のものと聞いておりますが、いま問題にしたいのは、内局の人事であります。内局の防衛局は警察庁から、経理局は大蔵省からというように、二、三年間の出向輪番人事が行なわれておるのが現在の実態であります。このような形で、それぞれ軍事専門家としての幕僚監部に対して指示を与え、防衛庁長官を十分補佐し得るかどうか。四ヵ月でおやめになった上林山長官の例をあげるまでもなく、まことに疑わしい限りであります。このように見てまいりますと、私
たちは国会の場で油断なく
政治優位の原則を守り抜かねばならないと、ここに心を新たにするものであります。
以上の点につきまして防衛庁長官の御
所信を承って、私の
質問を終わります。(
拍手)
〔
国務大臣佐藤榮作君
登壇、
拍手〕