○松本賢一君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、ただいま御説明のありました
道路交通法の一部を改正する
法律案につきまして、佐藤総理並びに
関係各
大臣に御質問を申し上げたいと存じます。
質問にあたりまして、前もって御注意なりお願いなり申し上げておきたいことは、皆さん方、つまり
大臣諸卿の御答弁をいつも伺っておりますと、ややもすれば、的はずれであったり、つじつまの合わないような論理を展開されたりいたしますので、きょうはひとつ、そのようなことのないようにお願いいたしたいと存じます。
質問の最初にお尋ねいたしたいのは、この改正案と並行して、
政府は、刑法の一部改正案を
提出しておられますが、それは、業務上過失あるいは重過失の事件に対し、懲役刑を適用するという改正であります。しかし、これは、その改正の理由が、
政府も説明しておられますとおり、悪質な自動車事故に起因するものであります
関係上、基本法である刑法の改正によって、自動車事故以外のあらゆる過失事件に大きな影響を与えるのは、いささか当を失しておると考えます。それよりも、むしろこの際、
特別法である道交法の改正によって、自動車事故の悪質なものを処理することが、筋も通るし、国民の理解も得やすいと思うのでございますが、
政府は、なぜ刑法の改正に固執して、道交治の改正によろうとはなさらないのか、法務
大臣並びに国家公安
委員長のお考えを承りたいと存じます。
次に、この改正案のうち、その眼目ともいうべき反則金制度について御質問申し上げます。
この反則金制度は、今回初めて脚光を浴びたものでありますが、この制度そのもののよしあしは別として、私は、いま示された原案には、一見ささいなことのようで、実は大きな矛盾が含まれていることを指摘したいのであります。この制度にいう反則行為とは、
提案理由の説明によりますと、「違反行為のうち比較的軽微」なものといい、また、去る十三日の衆議院における国家公安
委員長の答弁では、「非常に軽微な違反に限定」と言っておられます。軽微な違反とは、ついうっかりとか、ちょっとした不注意とかで起こした違反と考えるのが常識でありましょう。ところが、この
法律案の別表に列記されております反則行為の中身は、必ずしもそうではありません。たとえばスピード違反におきまして、バスも、ダンプも含めた大小全車両にわたって、制限速度超過二十五キロまでのものが、ことごとくこの反則行為の中に含まれておるのであります。また、トラックやダンプの積載量の超過違反は、青天井でこの中に入っておるのであります。しかも、その両方が同時に行なわれても、それが酔っぱらい運転や無免許運転でない限り、やはり単なる反則行為と認められているのであります。私もハンドルを持った経験がございますが、五キロや七キロのスピード・オーバーなら、ついうっかりということもあり、単なる反則行為とも言えましょう。しかし、二十五キロもの大幅オーバーは、たとえば、人間も通り、自転車も通る、あの狭い国道や県道を、ダンプカーやトラックが八十五キロのスピードでぶっとばすことであります。しかも、同時に、積み荷を二倍も超過している場合もあり得るのです。そんなことが、ついうっかりや、ちょっとした不注意で起こる現象ではありません。それはもう交通安全思想など無視された全く質的に異なった危険な行為と言わなければなりません。こうしたものを十ぱ一からげにひっくるめて「非常に軽微な」ものの中にランクすることは、運転車の安全
意識をゆるめ、一方では、たださえ問題になっておりますノルマ過重の傾向を助長することにならぬかを憂えるものでありますが、公安
委員長のお答えをいただきたいと存じます。
世はあげて交通安全を叫んでいるときに、危険なものとそうでないものと混同することは、国民を戸惑いさせるもので、慎重に検討すべきものと考えます。と同時に、私は一方では、この反則金的考え方をいま一歩前進させて、ほんとうに危険を伴わない単なる形式的な反則に対しては、この
法案にいう反則行為よりも、いま一つ下にランクして、単に説諭を与える
程度にとどめるような制度を考えるべきだと思います。また、この制度の
実施にあたっては、運転者の業務に支障を来たしたり、
生活に影響を及ぼしたりするような取り扱い、たとえばやたらに免許証を取り上げたりするごとき処分をできるだけ少なく、簡略にするよう心がけるべきだと思います。こうした基本的な考え方に立って一方ではきびしく交通の安全と秩序を守り、一方では悪意なき者の生業をあたたかく守ることが、政治の要諦であると心得ますが、これに対する総理並びに公安
委員長の御
見解を承りたいと存じます。
なお、この反則金制度によって徴収する反則金の総額は百四十億と見込まれているそうでありますが、これは交通安全特別交付金として地方自治体に交付されることになっております。とすると、市長さんや村長さんが、交付金ほしさに、反則多かれと祈るような、珍妙な現象が起こるかもしれませんが、まあ、それはそれといたしまして、この交付金が、他の
法律、たとえば交通安全緊急
措置法などによって国が行なうべき事業の地元負担金などとごっちゃにされて、自治体のプラスアルファにならぬかもしれない心配があるのですが、この点はっきりさせておいていただきたいと存じます。この私の質問と同様の質問に対し、衆議院における総理の御答弁は、その金では歩道橋を設けるのだとか、信号機をつくるのだとか、少々的はずれだったように思われますので、きょうは的のまん中を射抜くような御答弁をお願いしたいと存じます。
次に私は、本
法案と
関係の深い交通問題について、一、二お伺いしたいと存じます。「黄河の水を治める者は天下を治める」とは堯舜のいにしえのことでありますが、いまや日本の
現状は、「車の洪水」を治めなければ真の為政者とは言われないのであります。車の洪水を治めるのには、第一に道路の
整備でありますが、
現状では車と道路とのアンバランスがなかなか解消できないのではないかを憂えるものでありますが、いかがなものでしょうか。この点について、西村建設
大臣は衆議院での御答弁で、それは第五次五カ年計画によっておおむね対処し得る、自動車の伸び率は一六%だが、道路事業費の予算も一六%伸びていると、こうおっしゃっておるのであります。しかし、これは理屈がどうもおかしいんで、自動車はお札の上を走るんじゃないんですから、予算が車の台数と同じ率でふえるからいいというのではありますまい。私がつじつまの合わない論理と申し上げたのはこういうことをさしたのであります。どうかきょうは、つじつまの合った御説明を建設
大臣にお伺いいたしたいと思います。
次に、車に対する歩行者の問題です。これが日本における交通事故の最も大きなパーセンテージを占めておるわけであります。これを
解決するのには、第一が歩行者保護施設の完備、第二が車の運行、すなわちスピードなどの問題です。保護施設については、昨年十二月十五日のあの愛知県における大惨事以来、総理府の交通
対策本部におきましても大いにあわてて力こぶを入れ、昨年立てた交通安全施設
整備事業三カ年計画を早めて、本年度中に大
部分やってしまうという決定がなされておりますが、この三カ年計画の進捗状況と今後の増強計画について建設
大臣からお聞かせ願いたいと同時に、特に
総理大臣にお願い申し上げたいのは、きょうは大蔵
大臣がお見えになっておりませんので、この計画の財政的裏づけについて、大蔵
大臣は研究費なら金を出すのを惜しまないとおっしゃっておりますが、研究費などよりも、このほうをもっと早く出し惜しみしないように説得していただけるかどうか、お伺いいたしたいと思います。
第二の、車の運行について、先ほど私はスピードの問題をやかましく申しましたが、かといって、私は違反者を大いにつかまえて重く罰せよと決して主張しているのではありません。警察官
諸君は、どうも違反者をつかまえるのにはすこぶる熱心ですが、違反の起こらないように親切に指導する
努力が少し足りないんじゃないかと思われます。警察官は常に運転者のよき助言者であるべきで、いやしくも点数かせぎのため運転者を不意打ちにするような態度は改めねばならぬと思いますが、公安
委員長のお考えを承りたいと存じます。
次に、事故を
防止するには、運転者の心身の
状態をよくしておくことが大切と思いますが、これには労務
管理が重要な問題であります。
労働大臣の説明によりましても、ダンプカーなどの運転者の二七%が十時間以上働いているそうであります。これはゆゆしい問題でありまして、現在
行政的な指導につとめておられるそうでありますが、なかなかそんなことではなまぬるいと思われます。そこで、
労働大臣にお伺いいたしたいのですが、この際、
労働基準法を改正して、業務上の運転者の労働時間を制限し、ノルマ過重のために違反や事故を起こすことのないよう法的
措置をとることができぬものかどうか、お答え願いたいと存じます。
最後に、
総理大臣にお伺いいたします。現在、
政府は、交通
対策本部あるいは
関係閣僚協議会を持って、交通問題にかなり積極的な態度を見せておられはしますけれども、まだいままでのところ、いわゆる交通戦争に対する戦術的な
対策に追われ、基本的な戦略が確立されているとは申されません。戦略の確立こそ交通戦争に勝つ道であります。そこで、私は、道路の
整備及び安全施設の
整備、交通安全思想の徹底、交通秩序の確立、事故犠牲者に対する
補償など、いわゆる四本の柱、その他、物心両面にわたる総合的な交通安全基本法というものをつくる御意思があるかどうか、もしすでにその準備が進められているとすれば、いつごろ御提案になれるか、総理の明白な御答弁をお願いして、私の質問を終わりたいと思います。(
拍手)
〔
国務大臣佐藤榮作君
登壇、
拍手〕