○柳岡秋夫君 私は、
日本社会党を代表して、ただいま提案されました
公害対策基本法案について、総理並びに
関係大臣及び提案者に
質問をいたしたいと思います。
はなやかな工業開発の裏で、
国民はいま
公害におびえております。明るい太陽がほしいという声は、単に、一時的、局地的なものではなく、常に広く全国的に広がっておるのであります。そうして
公害都市四日市では、
企業と
政府の人命軽視の無責任な態度に対して、死をもって抗議をするという悲劇が再び起きているのであります。
公害が社会問題としてやかましく論議をされましてから十年を経過いたしますが、その被害は深刻かつ重大化しつつあり、
わが国の美しい国土と健康な
国民生活を破壊するばかりでなく、農林水産業等の他産業にも悪影響を与えるなど、重大な問題となっておるのであります。
公害問題がここまで大きくなったことは、
制度上の欠陥もさることながら、
わが国企業が
政府の産業優先政策の庇護を当然といたしまして、
経済活動や営利の自由を強調して、
企業の社会的責任を自覚しないばかりか、
政府もまた、
企業の
保護、
生産第一
主義の立場から、
企業が
国民の
生活環境や健康を阻害することを、やむを得ないこととして見過ごしてきた人間無視の政治に、その大きな要因があるのであります。
国民の生命をあずかる
政府の政治的責任はまことに大きいのでありますが、人間尊重を唱える佐藤総理は、今日のこの
現状を招来した政治責任をどう感じておられますか、まずお伺いしたいのであります。
質問の第二は、
公害問題に対処をする
政府の基本的姿勢についてであります。
総理は、今
国会の施政方針演説の中で、「社会の主体は人間であり、
経済の繁栄は人間の尊厳と社会の福祉に奉仕するものでなければならない」と強調されました。
政府の
公害対策の
基本姿勢を示します
目的規定には、「
経済の健全な発展との調和を図りつつ、」という
条項がございます。言いかえれば、
経済の発展のためには、
国民の健康が犠牲にされることもあるということであります。私は、ここに、
政府の産業優先の基本的な性格が端的にあらわれていると思うのであります。人間の生命や健康を脅かすような
経済の発展は、それ自体、健全とは言い符ないと思います。憲法で保障された、
国民の健康で文化的な
生活を営む権利を守るためには、
公害の
発生源についての権利を制約することは、国の当然の使命であります。
国民が
公害の被害から免かれる権利を持っていることを認めて、被害者の
人権尊重を何よりも優先させるということを基本としなければならないと思うのであります。総理の演説が口先だけでないことを、ここに示していただきたいと思います。
質問の第三は、
公害の責任についてであります。
都市
公害は別といたしましても、
公害が
企業活動の結果であることは明らかであります。したがいまして、その責任者は
企業であることは論をまちません。この点、
政府原案は、
発生者責任
主義をとっているにもかかわらず、それを具体化する
原則の表明に欠けているために、その責任がきわめて不明確になっているのであります。すなわち、被害者に対する補償責任については、今後の
検討にゆだね、また、
公害防止事業に対する負担の
範囲については、一切を別の
法律に定めるとしているのであります。科学的に因果
関係が証明でき、原因者がはっきりするのであれば私法上の救済の余地がございますけれども、
当事者が多数で確定できず、また、因果
関係の証明ができないところに、今日、新たな
公害規制の必要が化じたのであります。したがって、
公害関係についての立証は、常識的に見て因果
関係があると判断できる程度であれば責任を認めるということにしなければ、
公害問題の前進はあり得ないと思うのであります。
企業活動と被害との因果
関係が個別的に明白である場合はもとより、これが不明確な場合でも、無過失責任の
原則を確立し、
企業みずからの責任において救済
措置を講ずべきであります。この点について、総理の見解をお伺いいたします。
また、厚生大臣は、「この法案は一般的な基本法であるから、一般的には無過失責任を
規定できない」と衆議院の本
会議において答弁をされました。しからば、鉱業法や原子力賠償法のように、個々の
法律において個別的に
規定する
考えであるのかどうか、お伺いをいたします。
質問の第四は、
救済制度についてであります。
基本姿勢のあいまいさが
企業の責任を不明確にし、
発生者の責任がごまかされてしまうのであります。四十一人もが死亡をいたしました水俣病が新
日本窒素水俣工場から排出をする排水中のメチル水銀化合物であると判断をした
政府は、二度とこのような事件のないようにということで、全国の同様な
生産工程に対して調査と指導を行なったはずであります。しかるに、同じ事例が再び新潟県阿賀野川流域において
発生したということは、
政府に手抜かりがあったか、あるいは
企業側の廃液処理に欠陥があったか、いずれにいたしましても、因果
関係がはっきりしているにもかかわらず、
企業は、当社に責任がないとして、裁判を受けて立つと豪語いたしております。
政府もまた傍観の態度をとっていることは、きわめて遺憾でございます。このような
企業と
政府の姿勢が続く限り、
国民は
公害の被害から免れることはできないのであります。
公害の予防と、現に起きている
公害の排除、そして被害者の
救済制度の確立は、今日、
公害対策の重安な課題であります。泣き寝入りや不当な示談に甘んずることのないように、すべての
公害の紛争に、和解.仲介の
制度、調停及び
仲裁の
制度を設けるほか、被害者の申し立てによる
公害発生源に対する施設の改善命令ないしは施設の使用中止命令などの
行政処分の行使、さらには苦情受付窓口の一元化等、被害者の救済を徹底的に行なうべきであります。
政府はいかなる
救済制度を
考えているのか、厚生大臣から明らかにしていただきたいと思うのであります。なお、この際、阿賀野川事件に対する総理の御見解もあわせてお伺いをいたします。
質問の第五は、基本法の持つ
効果と関連
法律についてであります。過般の衆議院における
政府の態度は、基本法で
公害防止ができるような印象を受けることはきわめて遺憾であります。基本法は、具体的
施策のよって立つべき基本方針の宣明を
内容とするものであることは言うまでもありません。そして、それは憲法と異なり、他の関連
法律に対して、
法律的意味ではこれを規制する
効果を持っていないのであります。そこで、基本法の審議にあたっては、関連
法律をあわせ審議するのでなければ、その実質上の機能を
確保することはできないのであります。しかるに、今
国会に提出される関連
法律案は、海水
汚濁防止法案、工業立地適正化法案の二つだけでございまして、最も
関係の深いばい煙規制法、工場排水法の改正案は、提案をされておりません。また、基本法に基づいて当然制定すべき
費用負担に関する法案、被害者救済に関する法案については、その要綱さえもいまだ明らかにされていないのであります。
公害はおくれればおくれるほど
事態は深刻となり、解決は困難となるのであります。仏つくって魂入れずということばがございますが、仏ならざる仏では魂の入れようもないと思うのでありますが、関連
法律が提案できない現出はどこにあるのか、また、いかなる
法律を、いつ、いかなる
内容でもって提案しようとするのか、厚生大臣にお伺いをいたします。
質問の第六は、
公害行政の一元化についてであります。
公害対策の適切な
施策をはばんでおりますものに
公害行政の多元性がございます。十二に及ぶ
関係省がそれぞれの立場から、ばらばらに
対策を打ち出してくるために、所管の不明確さから、手がつけられないものができたり、せっかく取り上げられた
施策が、異なる立場からの牽制によって、
効果がしり抜けになっているのであります。基本法が、
実施部門の多くの名にまたがっておる
施策について共通の目標を設定し、総合化をはかることにあるとするならば、総合化を
確保する道として
実施部門の一元化がより有効であります。厚生省も、こうした観点に立って、強力な権限を持った
行政委員会としての
公害委員会の設置を打ち出したと思うのでありますが、
関係閣僚
会議のごとき
公害対策会議に後退をした理由はどこにあるのか、また、かかる寄り合い世帯的機関で
国民の期待にこたえるような責任のある総合的
施策が推進できると思うかどうか、お伺いしたいのであります。
また、総理に、この際、一元的
行政機関によって責任体制を確立してこそ、総合的な
施策の推進がはかられると思うのでありますけれども、御見解をいただきたいと思います。
質問の第七は、
公害の予防
対策についてであります。今後の
公害対策の基調は、総合的な都市計画ないし地方計画に基づく
土地利用計画による予防的
施策でなければなりません。
政府は、この際、
土地利用、規制に関連をして、憲法第十二条及び第二十九条の
解釈を明らかにし、
土地利用の
原則を確立すべきであると思うのであります。また、都市計画法の改正を
検討中でございますけれども、この中で
公害規制にどのような地位を与えようとするのか、建設大臣にお伺いをいたします。
質問の第八は、
公害防止技術の研究開発についてであります。今日、
わが国の
公害防止技術の研究開発の体制は、少ない予算で、しかも各省ばらばらの研究が行なわれております。さらに、民間におきましても、利潤に結びつかない研究は放置をされ、研究の秘密
主義と相まちまして効率的でないのであります。したがって、実用化率も低いのであります。
国民の生命と健康を守る立場から、
政府は、この際、試験研究機関の強化をはかるために、大幅な研究費の増額と、
公害防止の総合試験研究機関を投資する
考えはないか、厚生、通産両大臣の
お答えをいただきたいと思います。
質問の第九は、中小
企業対策についてであります。中小
企業は、
発生源が多発的であり、しかも技術の後進性と資金難で、防除施設の普及も容易ではありません。したがって、特にきめのこまかい
政府の援助が必要であります。今日、中小
企業近代化資金等の貸し付け状況を見ますると、貸し付け予定ワクに対し申請件数がきわめて少ないのであります。したがいまして、
公害防止施設のための融資は、自己負担をやめまして、全額無利子の融資とする
考えがないかどうかを、この際、
通産大臣にお伺いしたいのであります。
次に、角屋衆議院議員に、
政府案と社会党案の基本的な相違点をお伺いをいたしたいと思います。
最後に、今日、
公害対策は、実行あるのみであります。どんな困難な事情が伴うとしても、強力に推進をしなければならない
国民的課題であります。したがって、私は、
国民の立場に立った具体的
施策のすみやかな
実施のために、
政府も、原案にこだわることなく、党派をこえて各党のそれぞれの基本法案を謙虚に
検討し、一日も早く
人権優先の理念に基づいた基本法の制定をはかるべきと思うのでありますが、この点についての総理の所信をお伺いいたしまして、私の
質問を終わります。(
拍手)
〔
国務大臣佐藤榮作君
登壇、
拍手〕