○達田龍彦君 私は、
日本社会党を代表し、ただいま
報告されましたいわゆる漁業白書に対し、
内閣総理大臣並びに
関係大臣に若干の
質問をいたしたいと存じます。
昨年九月、
内閣総理大臣官房において、沿岸、沖合い、遠洋のすべての漁業について、漁業協同組合に関する世論調査を行なっておりますが、その中に、今日の漁業が今後よくなるか悪くなるかという
質問がございます。これに対して、よくなると答えた者はわずかに一三・三%でありますが、悪くなると答えた者は驚くなかれ四六・二%もあり、半数に近い数字を示しているのであります。この数字が示しているように、これが現実に漁業に携わる人たちの漁業の今日と将来に対する実感であります。しかるに、白書は、このような日本の漁業の苦悩する現実を的確にとらえることなく、事務的かつおざなりな分析の中で、こま切れに、何ら生きた姿としてとらえていないのであります。
私は、今日
国民や漁業者が漁業白書に最も期待していることは、たとえば、なぜ魚が高くて、
国民は魚が食えないのか、その原因、あるいは、新鮮な魚が安定した価格でなぜ供給できないのか、その仕組みと過程など、直接身近な食化活の問題を知りたいのであります。この最も知りたいことが知らされないばかりでなく、他の分野の白書と比較して、たいへん見劣りのする、きわめてお粗末な白書と言わざるを得ません。
今日、
わが国の漁業の生産量は、
昭和四十一年において初めて七百七万トンと、ようやく三十七年の水準に回復しました。このように、この数年間、沿岸及び遠洋漁業の生産量が横ばいの状態を続け、しかも、
わが国漁業総生産量の増減は、沖合い多獲性魚の豊凶によって大きく左右されるという状態であります。このような計画の見通しのない不安定な局面は、今日に至るもまだ打開のための方向すら立て得ず、さらに、海況、海温、海流等の気象現象の良否にたよる、いわゆる神頼み、お天気頼みの、全く原始的漁業がまだ多く取り残されている現状にあるのであります。
他面、経済成長のもたらした需要の増大は、消費構造の高度化を伴いながら、著しいものがあり、ために、水産物消費者価格は高騰を続け、輸入は激増しております。さらにまた、国際漁業においては、開発途上国や後進国の進出もあり、要資源は国際管理化への方向を明らかにし始め、沿岸国による漁業専管水域設定は増加しており、
規制はますます強化され、新規漁場の開発も見るべきものがなく、
わが国漁業の現状と将来は、まさに夜のやみの中でいずくへ行くべきか、とほうにくれて立ち尽くしている年寄った旅人の感があるのであります。
そこで
総理にお尋ねいたしまするが、
総理は、この日本漁業の現状と将来をいかに認識し、日本の経済社会開発の中で
わが国漁業をどう位置づけていこうとしておられるのかお伺いをいたす次第でございます。さらにまた、このような
事態に対処するために、この際、漁業の抜本的振興をはかるために漁業基本法を
制定する情勢と段階がすでに来ていると考えるが、
総理の決意と御
見解を承りたいのであります。
質問の第二は、今日、漁業は、農業とともに、
わが国経済の高度発展と成長の中で大きく取り残され、他の産業と比較して、経営構造の分野でも、生産手段においても、所得水準においても、いよいよその格差は拡大し、行き詰まりつつあるのであります。しかも、日本の産業の中で一番取り残され、行き詰まっているのが漁業であり、その中でも、
わが国漁業構造の中で九割五分を占める沿岸漁業者と漁家及び漁村の経営と生活はさらにきびしく、前途はきわめて憂慮にたえず、まさに破局的、危機的様相を呈していると言っても、決して過言ではない
実情にあるのであります。白書もこのことを反映して、漁業就業者の激減、漁業生産の低下、若年労働力の流出、漁業収益の減少など、若干の現象をとらえているのであります。まさに今日の
わが国漁業、とりわけ沿岸漁業は、全く希望も魅力もない漁業となり、衰微、衰退を続ける漁村となり果てているのであります。同時にまた、このことは、中小漁業も、
程度の差こそあれ、同じ方向と実態に推移しております。しかるにその反面、遠洋、沖合いを中心的漁業とするいわゆる大資本漁業は、
政府の手厚い援助と資本力にものをいわせて、その支配力と収益率を拡大しているのであります。申すまでもなく、産業としての漁業の使命は、
国民の食生活に必要な動物性たん白質をより多く供給することが最大でありまするが、今日の大資本漁業とその経営者は、白書も指摘しているごとく、生産量はほとんど横ばいの状態にあり、たん白質資源の
国民への供給度合いは拡大していないにもかかわらず、その収益率は生産率を大きく上回り、ばく大なる収益を示しているのであります。この収益率の増大原因は、大資本漁業者による独占と支配力を背景とした生産、加工、流通過程を通じての収奪、市場価格形成の場における収益、さらには沿岸及び中小漁業の分野への進出による生産の増大等によるものでありまして、この
意味では、今日の大資本漁業経営は、まさに沿岸、中小漁業の犠牲の上に安定していると言っても、これまた決して過言ではないのであります。このことが
わが国漁業構造上の根本的な矛盾であり、最大の問題点であり、また同時に、大資本漁業と沿岸、中小漁業との格差を拡大している原因であります。しかるに漁業白書は、四十二年度の講じようとする施策の中でも全然触れられていないのでありまして、これら格差と矛盾に対する
総理の御
見解と方針を承りたいのであります。
さらにこの際、農林
大臣にお伺いいたしたいことは、ことしはいわゆる指定漁業
許可の一斉更新の年に当たるのでありますが、今回の一斉更新は改正漁業法に基づく第一回目の更新であり、最近指定漁業をめぐる内外諸情勢も大きく変動しているときでもあり、今後の指定漁業の基本的方向についても、総合的、抜本的に検討すべき漁業情勢と問題点を指摘できるのであるが、この際、私は、今日の指定漁業の大部分が大資本漁業と中小漁業に集中的重点的に
許可されているこの弊害を除去するため、種類と
内容によっては、沿岸漁業経営の安定と沿岸漁家の所得の向上をはかるために、沿岸の漁業協同組合に指定漁業の
許可の一部を認めるべきであると考えるが、これに対する農林
大臣の御
見解を伺いたいのであります。
質問の第三は、
わが国遠洋漁業は、これまで領海三海里と公海自由の原則を方針として、諸
外国の沿岸で操業してきたのでありまするが、世界の大勢は、沿岸の水産資源の利用については沿岸国の優先を認める方向に向かっております。いまや領海十二海里及び十二海里漁業専管水域を設定する国々は六十四ヵ国の多きに達し、
わが国の領海三海里、公海自由の原則の
主張は、国際的に通らなくなり、いよいよ孤立化しつつあるのであります。このような傾向に対して、
政府は今日まで、国際漁業の問題解決のために、
関係国間の話し合いと実績尊重を基本方針として交渉を進めてまいっている
実情でありまするが、ニュージーランド、米国、スペイン等に見られるように、一方的に、国内法により十二海里専管水域を設定することが慣行となってきており、
わが国の話し合いと実績尊重も相手国がなかなか容認しない
実情であります。さきの米国との交渉においても、
わが国の原則論はたな上げとなり、実績をとることのみに専念する交渉をやらざるを得なかったと聞いております。有数の水産国である米国による一方的専管水域の設定には、
わが国が好むと好まざるとにかかわらず、今後、世界各国が追随するでありましょう。
わが国の国際遠洋漁業は、ますますきびしい
規制を受けることが容易に想像されるのであります。
しかるに、近年、
わが国の沿海にも
外国漁船が沿岸三海里近くまで数十隻の船団を組んで接近し、操業を始めたのであります。
政府は、今日までの攻めるのみの
主張から、追い払われる
立場、守る
立場の両面を考慮した
主張をせざるを得ない羽目に追い込まれておるのであります。このような
事態の進展に対して、なぜに実績を尊重した資源量に基づく漁業専管水域十二海里をとり得ないのか、
総理の所信を承りたいのであります。同時にまた、今後いかなる基本方針のもとに海洋政策及び国際漁業政策を進めていかれるのか、お伺いをいたします。
また、国際間の海洋及び漁業の
秩序を樹立する
目的で、一九五八年ジュネーブで開かれた国連主催の国際海洋法
会議では四つの
条約を採択し、昨年までにすでに四
条約とも発効を見ております。昨年、同じこの白書に対する
質問で、わが党の川村清一君がこの問題をただしたとき、
総理は、四つのうち領海及び接続水域に関する
条約及び公海に関する
条約の二
条約については、
政府も批准する
準備をしていると
答弁しておられるのでありまするが、国際漁業情勢の流動が激しく、日本の孤立化も一段ときわ立っている
事態の中で、世界一流の漁業国である
わが国が、いまだにこれに加盟していないのは、いかなる
理由によるのか理解できません。私はむしろこの際、国際漁業における
わが国の指導性と主体性を確立するためにも、早急に加盟すべきであると考えるが、なぜに、昨年の五十一回
国会で約束しているにもかかわらず、今
国会に批准を求めようとしないのか、
総理の御
見解を伺いたいのであります。
質問の第四は、白書も明らかにしているように、漁業においても農業と同様に、若年労働力の流出率がきわめて高く、新規労働力の補充も困難となっており、ために年齢構成は中高年層に著しい片寄りを示すに至っているのであります。漁村では老人漁家が増大をし、沖合い、遠洋漁業では、乗り組み員の奪い合いが行なわれております。漁業の将来は労働力の面から崩壊の危機に瀕しているとさえいわれるのであります。特に、日本で発達した在来の漁法は労働集約的な性格のものが多く、一貫した作業工程の機械化、省力化には、かなり多くの困難な問題をはらんでいるのでありまして、何よりもまず労働力の確保というのが漁業者の偽らざる声であります。しかるに、現在これが対策としては、ほとんど見るべきものがない
実情であります。沿岸漁業の労働力の現状について農林
大臣はどのように認識しておられるのか。現在とられている
程度の施策で十分にやっていけるという見通しか、お伺いをいたす次第でございます。
質問の第五は、昨年ジュネーブで開かれた第五十回ILO総会は、漁船内の設備に関する
条約を採択しております。この
条約の
内容は、漁船員の職場である漁船内部の設備を整備し、その労働
条件の改善をはかろうとするものであります。
わが国の漁業においては、今日なお、その大部分は乗り組み員の給与に歩合制をとっており、これがため漁獲の積載が優先され、船内設備は顧みられず、海難を招くこともあり、若年労働者をして漁船を忌避せしめる大きな要因の
一つとなっているのであります。沖合い・遠洋漁業の優秀なる乗り組み員を得ることがこれら漁業の発展の因をなすものでありますから、早急にこの
条約を批准することが必要であります。しかるに、一九四九年のILO総会で採択された
一般商船の船員設備の整備を規定した船内船員設備に関する
条約は、一九五三年に発効を見ているのでありまするが、日本
政府は採択以来二十年になんなんとする今日、いまだに批准をしていないのであります。この事実は、いかに、
政府が、船舶、船主に対して優遇
措置をとっている反面、船舶労働者に対して冷淡であったかの証左だと思うのであります。こうした
政府の
態度が今日の漁船等の労働力の需給逼迫を招来した根本的な要因の
一つであるのでもあります。そこで、外務
大臣にお尋ねしますが、これら二
条約の批准のための作業はどこまで進んでいるのか、いつ
国会に
提出する予定か、お尋ねをいたします。
さらに、運輸
大臣はこれに対して、運輸
行政の
立場からどのように国内法の整備に対する所信をお持ちであるのか、お尋ねをする次第であります。
以上で私の
質問を終わります。(
拍手)
〔
国務大臣佐藤榮作君
登壇、
拍手〕