○田中寿美子君 私は、
日本社会党を代表いたしまして、ただいま
議題となりました
所得税法の一部を
改正する
法律案、
法人税法の一部を
改正する
法律案並びに
租税特別措置法の一部を
改正する
法律案に対し、反対の立場から
討論をいたしたいと存じます。
まず最初に、私は、これら三法の
改正案における政府の基本的姿勢に対して、きびしく批判せざるを得ません。現在の
税制は、
昭和二十五年シャウプ勧告によって体系づけられて以来、今日まで、資本の蓄積に重点が置かれ、勤労大衆に重く、高額
所得着と大資本優遇の方向をたどってまいりましたが、歴代の政府の手で、たびたび、この方向に向かっての
改正が行なわれてまいりましたため、税
負担の公平は全く破られ、大衆収奪の特徴を著しくしてきたものであります。
昭和三十四年
税制調査会発足以来、
調査会はこの
税制の根本的
改正の方向として、税
負担の公平化、大衆
負担の
軽減、
税制の
簡素化、
合理化を答申してきましたが、それにもかかわらず、時の政府心政策によって実際の
税制が左右されてきました。ことに四十二
年度の
税制改正にあたっては、
税制調査会の答申は
税制の
簡素化を最大の目標としているにもかかわらず、具体的な
改正案では、かえって
税制を複雑にし、税体系を混乱させ、ときとして、
簡素化の名によって、大衆の
負担を増す結果となっております。また、四十一年十二月の長期
税制のあり方についての答申では、税
負担の公平をはかることによって、健全な家計と
企業の育成をはかることが
目的とされておりますが、四十二
年度の実際の
改正案では、むしろ、
国民の税
負担は、物価の上昇と名目
所得の上昇のもとでは相対的に重くなり、家計を圧迫されることが予想されます。また、
企業に対しては、資本の自由化などと関連して、政策的な配慮が用いられ、大
企業の優遇措置を拡大した反面、小規模
事業者、零細
企業家には増税となる結果を招くおそれがあります。私は、真に大衆の税
負担の
軽減と、それが有効に役立つ経済、物価政策と、高額
所得者、大資本優先の政策を改める姿勢が政府になければ、
税制調査会の何次にもわたる答申もむだになり、毎年のいわゆる
減税のための法
改正も、ほとんど根本的な
税制改正に効果をあげないどころか、かけ声だけ
減税で、実際に税額はふえていき、納税者大衆は、期待を裏切られた怒りに、納税意欲を失ってしまうであろうということについて、政府の反省を強く促したいと存じます。
以上述べました根本的な批判の上に立って、四十二
年度の
税制改正のうち、右の三法案について、私の反対の意見を述べたいと思います。
第一に、私は、政府が四十二
年度合計一千百三億を
減税すると称しておりますのが、全く
減税の名に値しないどころか、実質的には増税になるという点を指摘したいと思います。
政府は、八千億の国債発行のもとで、
昭和四十二
年度の租税の
自然増収を七千三百五十三億と、大幅に見込んでいるのにもかかわらず、
所得税の
減税は、
初年度わずか一千八十億、しかも、そのうちから印紙・登録税の増税、
租税特別措置の一部整理による
増収三百億を差し引きずれば、実質
減税額は八百三億にすぎません。これは
自然増収に対して一〇・九%の割合であります。かつて
税制調査会は、
自然増収の二〇%を
減税に充てるべきであるとしていたことからすれば、大幅の後退と言うべきであります。しかも、景気の過熱が一般に懸念されておりますので、
自然増収は政府の見込み額をはるかに上回ると予想されますから、今年こそ大幅の
減税が必要であり、可能なのであります。
所得税の
自然増収の見積もりは、政府の
計算でも、二千二百四十五億円にのぼるのであります。政府は、今
年度の物価値上がりを事実上五%と仮定して、名目
所得の
増加による累進
税率の
適用によって三〇%が増税になると
計算しております。かりにそのとおりとして見ますと、二千二百四十五億円の
所得税の
自然増収の三〇%、すなわち、六百七十三億円は増税になることになります。つまり、それだけ、四十二
年度には予定より、よけいに税金を
国民が支払うことになるのであります。実際には、社会党の
計算ですと、今
年度、物価は六ないし七%上昇の見込みですから、
自然増収は三千億にもなるでありましょう。したがって、物価値上がりによる増税分は九百億円に達し、もうこれだけで八百三億円の
減税は相殺されてしまいます。政府の資料では、物価
調整分については、物価上昇率を四・五%と
計算して、わずか三百億ないし、三百八十億と見ておりますが、いかにこのような数字で
減税したという幻想を
国民に抱かせようとしても、事実は、右に述べたような増税になるのでありまして、実際に自分のふところから税金が多額に出ていくのを、
国民は実感としてわかることでありましょう。その上、秋には、消費者米価一四・四%の値上げがあります。これによる
国民の貧打は千二百億、政府管掌健康保険の赤字補てんのための保険料
負担は三百四十億と予想されています。その他の物価上昇を考えあわせますと、八百三億の
所得減税では、どうしても納得がいきません。
第二に問題としたいと思いますのは、
給与所得者の
課税最低限が低過ぎるという点であります。
免税点が独身者で二十六万七千六百二十二円、五人家族で七十一万一千八百九十九円では、以上述べました理由からも、
減税の効果をもたらさないことは明らかであります。ベースアップによる税額のふえる分と物価上昇とで、この程度の
免税点では、生活費に食い込んで
課税されることになります。戦前と比べて現在は、実に重税が大衆に課せられているものでありまして、戦前の
昭和九年から十一年の
免税点千八百七十五円を物価上昇率で換算いたしますと、現在の
免税点は九十万円をこえることになります。このようにして、毎年納税人口は
増加し、
昭和三十五年千三百八十八万四千人であった納税者が、四十一年で二千三百三十四万九千人と、驚くべきふえ方であります。まさに大衆収奪の
税制と言わねばなりません。これは、特に若い独身者への
課税最低限が低いことが大きな原因となっております。四十二
年度の
税制でも、
大学卒のサラリーマンは一〇〇%、高校卒で七〇%が
課税されているのであります。私は、独身者の
免税点は思い切って底上げして、若者に生活への希望を与えるべきであると考えます。
次に、毎年問題になりますが、
課税最低限をきめるために大蔵省が設定する基準生計費に対しては、世論の強い批判があります。四十二
年度基準生計費六十三万七千円のもととなる男子の成人一人一日の食料費二百五円二十四銭による
計算は、物価高にあえぐ家計の実情に全く合っておりません。
課税最低限を
合理化するためにこのような
計算をすることは、やめたほうがよいと思います。
日本社会党は、去る一月の総選挙中、世論の強い要望により、民社党、公明党に呼びかけて、今
年度五人世帯の
課税最低限百万円を政府に強く申し入れましたが、ついに聞き入れられませんでした。それどころか、
税制調査会の答申では、四十二
年度五人家族八十三万円を最低限にすべきことが答申されていますのに、それより後退して七十一万円とされたことは、まことに遺憾に存じます。政府はいま、四十五年までには百万円
免税点にするということを発表しておりますが、三年先の百万円では現状と変わりません。現在、総理府統計局の数字によっても、人口五万以上の
都市の消費支出総額は、四十一
年度で、年間四人家族で約六十七万円、五人家族では八十万円で、四十二
年度には、九十万円に達すると推定されております。生活費には
課税しないという原則からも、
日本社会党は、独身者で年収三十六万円まで、五人家族で百二万円まで
課税をしないことを主張しております。これを国際的に比較してみますと、日本の一人当たり
国民所得が世界で二十一位にありながら、
免税点では欧米諸国より一番低いことがわかります。すなわち、独身者の場合の
免税点二十六万七千六百円に対し、アメリカ三十二万四千円、英国二十八万五千三百円、西独三十万七千八百円、フランス四十四万九千六百円、五人家族では、
免税点が日本では七十一万一千九百円に対し、米百三十三万二千円、英九十二万三千円、西独八十八万円、フランス百十六万九千円であります。日本の場合、特に
地方税の
免税点が現在四十三万円と低いことを考慮に入れると、物価高とともに、大衆が
課税によっていかに圧迫されているかは、与野党ともに認識しているところであります。さらに問題なのは、
所得税の最低
税率を、昨
年度の八・五%から九%に
引き上げたことで、これは、最低
税率の
対象となるべき比較的低
所得者層を苦しめるということになりますので、私ども社会党では反対しております。
課税最低限は、すみやかに、独身者三十万円、五人家族百万円に
引き上げることを要望いたします。
第三に、
法人税の
改正についてでありますが、
法人税の
改正では、
簡素化の名においてむしろ複雑化したきらいがあり、また、特に零細
企業に対して冷たくきびしく、大
企業を優遇する傾向が、ますます顕著になっていることにつきまして、政府の反省と配慮を要望いたします。
法人税法の
改正法案二十二条では、
課税所得額は一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って
計算されることになっておりますが、公正妥当な会計処理の基準の判定をだれがするかによって、零細な業者にはきびしい記帳義務が課せられたり、また、その結果、実情に即さない徴税が行なわれる心配があります。概して、小規模
事業者は不況のしわ寄せを一番受けやすいものであることについて、税務当局の徴税が、彼らにもっとあたたかく、実情をくみ取ったやり方をされることを要望します。私は、一番苦しい立場にある小規模の個人業者にも、
法人並みの
事業主控除を認めるべきではないかと考えております。
この際、私はむしろ、大
法人の
交際費、寄付金の
課税をもっと厳重にすべきであると考えます。これが政治献金のもととなり、政治腐敗を引き起こすものであります。資本金の千分の二・五、
所得の百分の二・五を合わせて半分までの寄付を非
課税にしておりますが、資本金十億以上の
法人は九百をこえております。政治資金規正法の穴もここにあるかと思われます。現在の
税制では、
法人擬制説に立ち、
法人は株主の集まりにすぎず、
法人税は利益の分配を受ける株主の
所得額の前取りにすぎないとしておりますけれども、
日本社会党は、この考えを根本的に改革して、
法人実在説の立場に立って、大
企業の超過利潤には累進
税率を
適用することを主張しております。
最後に、
租税特別措置法について、今回の
改正について、二、三反対の意見を述べたいと思います。
この
法律は、あくまで臨時の
特例法でありまして、
日本社会党は、
租税特別措置法の縮少整理、そして、できるだけ早くこれを廃止することを、これまで主張してきました。この
法律は、資本蓄積の名のもとに、何よりも大資本擁護、資産
所得者擁護を行なってきましたもので、
昭和二十五年から四十一年までの間に、大
企業中心に一兆七千億の多額にのぼる免税をしてきているものであります。
税制調査会の中山会長みずから、この
法律は「税不公平の最大のものであり、最も評判の悪いものである」と述べております。
税制調査会も、絶えずその縮小整理を答申してきましたが、政府は、かえって
利子所得及び
配当所得に対する
特別措置の期限を三年延長させ、
交際費課税を二年延長するなど、うしろ向きの姿勢をとっております。水田蔵相は参議院大蔵
委員会におきまして、時の政策によって
租税特別措置法の拡大もあり得るといった趣旨の答弁すらされました。今回の
改正でも少々の整理はありますが、全体として縮少どころか、むしろ項目を
新設し、拡大しています。しかも政府は、これらは主として
中小企業対策のためであると説明し、幾らかの項目を
中小企業向けに
新設しました。しかし、実際に一々各項目を検討してみますと、
中小企業が受ける恩恵は少なく、零細
企業に至ってはほとんど無
関係であるという実情を指摘したいと思います。たとえば、
租税特別措置の約八割が、全会社数の一%しかない資本金一億円以上の
法人に利用されております。また、たとえば、今回の
改正で
中小企業特別措置と銘打って拡大した貸し倒れ引き当て金の利用は、資本金一億円以上の会社や銀行で八〇・五%、五千万円から一億円のところで三・五%、五千万円未満一六%という状態で、同様の例は幾らもあります。
中小企業が比較的利用しているものでさえ、こういう実情であります。こうして
租税特別措置法は、大資本の納めるべき税金を控除するために、大きな特典を与えている一方、国の歳入に対しては、大きな減収をもたらしていることになります。四十二
年度は平
年度二千四百十九億円が減収に見込まれております。社会福祉や
社会開発の予算の不足を口にする政府当局は、このようにして、一方に財源を取りのがしていることに対し、私たちは反対いたします。
特に私は、
利子配当の優遇措置を三年間延長したことについて、強く反対いたします。
昭和二十八年以降、貯蓄奨励、資本蓄積の名目で、
利子配当所得は分離
課税となっております。これらは全く高額
所得者を優遇するもので、政府はすみやかに廃止の方向に努力する旨、これまで答弁してこられたものですが、今回三年の延長でさらに逆行させようとしております。およそ、これほど不公平な
課税はありません。株の
配当所得、五人家族で二百二十六万円まで無税、また、預貯金の分散では、世帯主百万円、妻子四人を四十万円ずつ百六十万円、合計二百六十万円まで非
課税の扱いを受けます。これを
給与所得者で見れば、年収二百二十六万円に対して
所得税二十八万三千円、
事業所得者の場合の
所得税は二十八万九千円、これは
専従者控除二十四万円としての
計算ですが、かかることになります。その上、
地方税を加えますと、税
負担は非常に大きくなります。このように租税
負担の不公平は最も不当なものであって、勤労大衆の納税意欲をそぐものであり、これが納税のモラルを低下させるものであると、
税制調査会の答申でも指摘しております。
租税特別措置法は、あくまで臨時の措置であり、時限立法であるはずであります。すみやかにこれを廃止し、その中で恒久性を必要とするものは、税の本法に組み入れることによって、税体系を
簡素化、
合理化し、大衆の
負担軽減の方向をとるべきであると考えます。
以上、政府の反省を求めまして、私の
討論を終わります。(
拍手)
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