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国務大臣(倉石忠雄君) 先般、
国会に
提出いたしました
昭和四十一
年度農業の動向に関する
年次報告及び
昭和四十二
年度において講じようとする
農業施策につきまして、その
概要を御説明申し上げます。
申すまでもなく、これらの
報告及び文書は、
農業基本法に基づいて、
政府が
国会に
提出いたすものであります。
まず、
昭和四十一
年度農業の動向に関する
年次報告について申し上げます。
この
年次報告は、「第一部農業の動向」と「第二部農業に関して講じた
施策」に分かれております。
「第一部農業の動向」におきましては、
農業基本法の趣旨に沿い、他産業と比較した農業の生産性及び他産業従事者と比較した農業従事者の生活水準の動向に焦点を置き、これに関連する農業の動向を、四十
年度を中心として、できる限り最近に及んで明らかにしようとするものであります。
〔
議長退席、副
議長着席〕
その
概要を申し上げます。四十
年度から四十一
年度にかけての
わが国経済は、三十九年来の不況及びそれからの
回復、さらには上昇という変動の過程をたどったのでありますが、このような
景気の変動にもかかわらず、新規学卒者を中心とする農家労働力の流出と、
内容の変化を伴う食料需要の旺盛な
伸びという従来からの傾向には、基本的な変化は見られなかったのであります。
このような状況のもとで、四十
年度における農業の生産性及び農業従事者の生活水準は、前
年度に引き続き上昇を見、他産業との格差も縮小を見たのであります。まず、就業者一人当たり
実質国民所得をもって農業と他産業との生産性を比較いたしますと、農業は製造業の三一%、非農業の二九%で、前
年度のそれぞれ二七%、二六%に比べて、格差はともに縮小を示しております。しかし、これが直ちにそれぞれの産業の就業者に分配された
所得の格差を示すものではありません。農業は家族経営が支配的であるために、農業
所得は、そのまま就業者に帰属するものと見てよいのでありますが、他産業では、法人の
留保分や株主配当になる分も含まれておりますので、就業者の
所得に回る部分はかなり少ないものとなっております。試みに、就業者に分配される
所得を比較いたしますと、その格差は生産性の格差に比べ、かなり小さく、一日当たりで見ると、四十
年度の農業
所得は、製造業常用労働者の賃金の七八%という水準にあるわけであります。
次に、世帯員一人当たりの家計費をもって農家と勤労者世帯の生活水準を比較いたしますと、農家は、全国勤労者世帯の八三%で、前
年度の七九%に比べ、この格差も引き続き縮小いたしております。
しかしながら、このように生産性の格差が縮小した
要因としては、不況の進行に伴い他産業における生産活動が著しく低調であったことや、農産物価格が大幅に上昇したことに負う面が大きく、基調としてこれが本格的に是正される方向にあるとは言いがたいのでありまして、なお農業の生産性の向上が強く要請される状況であります。
また、農家の生活水準の向上にいたしましても、兼業化の進展に伴う農外
所得の
増加に負う部分が大きく、住宅その他
生活環境施設の整備とあわせ、農民の福祉向上に資する諸
施策の一そうの
強化の必要性が痛感されるのであります。
農業生産は、食料消費の高度化、多様化の傾向に応じつつ、選択的拡大の基調を持続いたしておりますものの、農業労働力の急速な流出、兼業化の進展、冬作不作付地の
増加等に伴い、一部に
停滞のきざしも見られるのであります。四十一年におきましては、気象条件にも恵まれて、米の生産は四年ぶりに
増加に転じましたが、これも農業生産全体としての
停滞傾向に基本的な変化を生じたと言い得る状況にはないのであります。この結果、
内容の変化を伴いながら
増大する食料需要に、農産物の生産が必ずしも十分に対応し得ず、このため、飼料を含めた食料農産物の輸入が
増加し、食料自給率が低下する一方、流通機構の不備等もあって、農産物価格は大幅な上昇を見ているわけでありまして、今後、農業の生産性の一そうの向上をはかりつつ、需要の動向に即応した生産の
振興をはかることが必要と
考えられる次第であります。
次に、農業経営の動向について見ますと、農業就業人口は、四十
年度には、前
年度より三・五%
減少して、千百八万人となり、農家戸数も四十年十二月現在で五百五十八万戸に
減少いたしました。このような傾向の中で、一・五ヘクタール以上層の農家数は
増加し、一・五ヘクタール未満層の農家数は
減少を示す一方、兼業化はさらに広範化し、農家数全体の七一%に達しております。他方、農業に専念し、農業
所得だけで勤労者並みの生活水源を享受している農家も一部に育ちつつありますが、農地価格の高騰等により経営規模の拡大への道はけわしく、このような農家がその数を増し、農産物の供給に占める
割合を高めていくという動きは現在のところなお微弱であり、構造政策の
推進の急務であることを痛感する次第であります。
以上のような農業の動向にかんがみますとき、食料の効率的な供給をはかりながら、同時に、その生産を担当する農家が社会的に均衡した生産水準を確保し得るよう、需要の動向に即応して生産の
振興をはかること、農業構造の
改善を
促進すること、価格政策の円滑な運用をはかること等に配慮し、これらを有機的な関連のもとに総合的に
推進することが、これまで以上に強く要請されていると
考えるのであります。とりわけ、高い生産性と
所得水準を実現する経営体を数多く育成し、その手によって農業生産の主要部分が担当されるよう、農業構造の近代化をはかることが肝要であり、このためには、農地の流動化と地価の安定、さらには他産業における雇用条件の
改善、社会保障の
充実、その他農業構造の
改善を進めるための外部条件を整備する等、
国民経済的視野に立った諸
施策が総合的に進められる必要がますます強まりつつあると
考えられるのであります。
以上が第一部の
概要であります。
次に、「第二部農業に関して講じた
施策」について申し上げます。これは第一部と同様、四十
年度を中心としてできる限り最近に及んで、
政府が農業に関して講じた
施策を、
農業基本法第二条に掲げる
施策の全般にわたり、農業の動向との関連及び
施策の
実績等にも言及して記述したものであります。
———
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最後に、「
昭和四十二
年度において講じようとする
農業施策」につきまして、その
概要を申し上げます。
この文書は、
年次報告にかかる農業の動向を考慮して四十二
年度において
政府が講じようとする
農業施策を明らかにしたものであります。
政府は、
さきに申し述べました農業の動向にかんがみ、農業の近代化を一そう
促進することが、
わが国経済の均衡のとれた発展をはかり、効率のよい
経済を実現する上できわめて重要であることにかんがみ、
農業基本法の定めるところにより、農業の生産性及び農業従事者の生活水準の向上をはかるため、同法の定める
施策を着実に具体化することを基本的
態度として
農業施策を講ずることといたしております。
四十二
年度において講じようとする
農業施策の第一は、農業生産基盤の整備と農業技術の開発及び普及により、農業の生産性の向上と総生産の維持
増大をはかることであります。
農業生産基盤の整備につきましては、土地改良長期
計画に基づき、農業の生産性の向上、農業生産の選択的拡大、農業構造の
改善等の方向に即して土地改良
事業の
計画的かつ強力な
推進をはかるため、圃場条件の整備とその前提となる基幹かんがい排水
施設の体系的な整備、基幹農道の整備、農地及び草地の造成等を拡充
実施することといたしております。特に農道の整備につきましては、
農林漁業用揮発油税財源身がわりの
事業として一段とその拡充をはかっております。また、農業技術の開発をはかるため、試験研究の拡充
強化につとめるとともに、新技術の普及を
促進するため、普及組織の整備と普及活動の効率化をはかることといたしております。
第二は、最近における農産物需給の動向にかんがみ、農業生産の積極的
振興をはかることであります。
まず、畜産につきましては、既耕地に対する飼料作物の積極的導入を含めて飼料自給基盤の確立をはかるとともに、生産性の高い畜産経営を育成して畜産物の安定的供給をはかるため、引き続き酪農
振興のための諸
施策を
推進いたしますほか、家畜導入制度の拡充
強化と家畜衛生対策の
充実を期することといたしております。次に、野菜につきましては、引き続き指定産地制度の育成を
促進するとともに、果実につきましては、広域的、集団的な産地の形成と果樹園の
計画的造成をはかり、供給の安定的
増大に資することといたしております。このほか、米、麦、繭、その他の主要農産物につきましては、集団栽培方式の普及、高性能
機械の導入等により、経営の近代化と生産性の向上をはかることといたしております。
第三は、農産物の価格安定、流通
改善及び農業
所得の確保をはかるための
施策を
充実することであります。
米、麦、その他の重要農産物につきましては、引き続き食糧
管理制度等の適切な運用につとめますほか、畜産
振興事業団による畜産物の売買操作と調整保管、原料乳の
不足払い制度の円滑な
実施、野菜生産出荷安定法に基づく野菜価格安定のための諸
施策の
充実等により生鮮食料品価格の安定をはかることといたしております。また、引き続き中央卸売市場の整備を
推進いたしますとともに、新たに公設小売市場及び集配センターの設置につき助成することとし、低温流通、大規模精米等、食料品の貯蔵、輸送技術の開発、流通情報の提供
事業の
充実と合わせ、流通過程の
改善合理化を
促進することといたしております。
第四は、農業構造の
改善を積極的に
推進し、自立経営農家の育成につとめるとともに、協業の助長を
促進することであります。
農業構造の
改善をはかるため、
農業構造改善事業促進対策が地域の
実情に即して円滑に
実施され、
事業の成果が確保されるよう
措置いたしますとともに、最近における農業をめぐる諸情勢の激しい変化に即応し、
わが国農業の体質に最も適応した
方法を見出して、
わが国農業の特徴である零細経営を早急に克服するため、農地の流動化を一そう
促進する方途、農地の権利移動を経営規模の拡大に資するよう方向づける方途、協業の助長を積極的に
促進する方途、農業自営者の老後の生活の安定や経営の移譲を
促進するための方途等について、総合的な視野から検討を行なうことといたしております。このほか、次代の農業をになう優秀な後継者の育成確保をはかるため、中央青年研修
施設の建設を
促進する等、農村青少年の研修の
充実、農業後継者育成
資金の大幅な拡充等の
施策を講ずることといたしております。
第五は、農業金融を拡充
改善するとともに、農業改良
資金の拡充をはかることであります。農業経営の規模拡大と近代化に必要な長期低利
資金の円滑かつ十分な供給を確保するため、
農林漁業金融公庫
資金及び農業近代化
資金の融資ワクを拡大するとともに、
農林漁業金融公庫
資金につきましては、基盤整備に必要な
資金を重点として貸し付け金利の引き下げを行なうことといたしております。また、無利子の農業改良
資金につきましても、旺盛な
資金需要にこたえるため貸し付けワクをさらに拡大することといたしております。
第六は、農業従事者の福祉の向上と豊かな住みよい農村の実現を目標として、農村対策の
充実をはかることであります。農村における生活環境や社会環境の整備
改善をはかるため、農家生活の近代化の
促進、農村住宅の
改善、社会教育
施設、保健福祉
施設の整備、
国民健康保険、
国民年金等、社会保障の
充実等の
施設を
推進するとともに、山村
振興法に基づき、山村における
農林漁業等の産業基盤及び生活環境の整備をはかることといたしております。
なお、この文書におきましては、以上の基本
方針のもとに、四十二
年度において講じようとする
農業施策について、
農林省所管事項にとどまらず、各省所管事項を含めて記述いたしております。
以上、農業の動向に関する
年次報告及び四十二
年度農業施策につき、その
概要を御説明申し上げた次第であります。(
拍手)