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最高裁判所長官代理者(
菅野啓蔵君)
執行制度につきまして、
執行官法という
法律で組織法的な部面というものはやや
改善されたということを申し上げることができると思います。ただ、
手続法の面におきましては、
強制執行法の
改正ということがまだ実現しておりませんために、
執行の
手続に関していろいろ問題があるわけでございます。その
一つが、あるいは
道具屋であるとか、ブローカーであるとか、あるいは
執行屋であるとか、
立ち会い屋であるとか、
執行手続を取り巻くいろいろの人々から起きてくる問題なのでございますけれ
ども、じゃなぜそういうものを一挙に排除してしまわないのかということに御疑問があろうかと思います。ここにたとえて申しますと、
道具屋というものがございます。
道具屋というものは、これは
動産競売におけるまあ商売的な買い受け人、
競落人になる人でありまして、転売によってもうけて商売をするという人でございましょう。で、こういう人がなぜ残っていると申しますか、ある意味では社会的な機能を営んでいるわけでありまして、元来この
動産競売というようなことは、将来の姿から見るというと、いまの家財道具を全部を押えていくというような
制度は時代おくれでございまして、将来
強制執行法が
改正になれば、差し押えられるべき物件というようなものは非常に制限してもいいのじゃないかと思う。家財道具のがらくたまで全部押えるというような
制度というものはなくなっていりてもいいのではないかと思う。また、そういうふうに社会は進歩していくものであると思うのでございますけれ
ども、そうして現に
外国あたりの例を聞いてみますというと、自動車も、そういうものは生活の必需品として差し押え禁止物件になっているというふうにも聞いております。ところが、日本の現状からいいますと、たとえばテレビを押えるとか電気冷蔵庫を押えるということが
実情なわけであります。そういうものを禁止してしまえばいいようなものでございますけれ
ども、じゃそれ以外に何を、押える物がいまの債務者の多くの場合にあるかというと、ほとんど物がない、そういうがらくたでも押えなければならない。そういうがらくたは、これは債務者自身にとっては価値のあるものでございましょう、日常それで生活をしている。第三者に転売するということになれば、これは二束三文。そういうものを競売の対象にしているということは、それを差し押えるぞということを債務者が言えば、債務者はやはり無理をしても、まあ分割弁済をしても差し押えを延ばしてくれというようなことで、まあ差し押えでなくて、いわゆる間接強制的にその差し押えが利用されておって、それによって債務の弁済ということが一部なされるというような
関係で、それはそれなりに日本の現在の社会では無意味ではないわけでありますというふうに私
ども見ているわけであります。それで、じゃなぜ
道具屋というものが出てくるかということになりますと、これは
道具屋があって、これは債務者に売り戻すということが通常の慣行でございます。なぜかといいますと、そういうがらくたを買って他に売ろうと思っても、買うという人は、前の債務者以外にはほとんどそういう客というものはないわけであります。で、
道具屋は非常に安く買いたたくのではないかということがあるわけでございます。これは債務者の面から見ますと、非常に高く買われてしまっては、買い戻すときに債務者が非常に困るわけでございます。
債権者の立場からすれば、高く売れなければ困る。しかし、高く売れなければ困るといっても、客観的な価値からいえば、二束三文のがらくたでございます。そういうものを買う者は
道具屋しかいない。
道具屋は債務者に買い戻しさせるというような
関係がございまして、非常に安くは買いたたかれるようでありますけれ
ども、買い戻す側からいうと便利な面もある。非常に変な複雑な
関係で差し押えというものが現状、動いておる。こういうことがいいか悪いか。将来の進歩した社会においては、差し押え物件というものは非常に制限をするかわりに、そういうものは競買に出してはっきり高く売れるようなものだけを差し押えるという
制度になっていくべきではないかと思います。日本の
債権者、債務者の現状というものはそういう現状にあるということでございます。