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最高裁判所長官代理者(岩野徹君) アジア財団がいま御
指摘のような
関係にあるかどうかということは、
最高裁判所といたしましては、一切存知しないことでございます。事実がどうであるかどうかについて、いままでそういう点について疑念を持ったこともございません。アジア財団は、その日本支部の年次
報告によって見ますと、カリフォルニア州の法律のもとに設立されました一
民間団体でありまして、営利を
目的とせず、また政治にも宗教にも一切の
関係のない財団であるということを、過去から引き続きそういうふうに理解していた財団でございます。したがいまして、そういったいま御
指摘の点があるかないかもつまびらかにいたしませんが、そういうことを意識していままで
最高裁判所が行動をとったことは、かってないわけでございます、それからこのアジア財団の活動の内容を見ますと、
大学、報道機関その他各方面の
研究あるいは
会議開催、
研究等についての援助、こういうものが行なわれているようでございます。これはこの年次
報告書をごらんになれば、どういうことが行なわれているかは、おわかりになるはずでございます。したがいまして、裁判所としても、その活動状況に照らしましても、少しも政治的な意図あるいは宗教的な意図があるものと、そういうふうには何らの疑念も持っていなくてまいった状況でございます。
そこで、具体的にどういうような援助を受けたかということでございますので、それを二、三申し上げますが、国としての
最高裁判所といたしましては一度ございます。これはシェルダン・グリュックあらわすところの「少年非行の問題」という、少年
関係の文献としてはきわめて著名な著作でございますが、これをアジア財団から、
昭和三十五年の四月十五日に四十九冊——家庭裁判所が四十九ございます。その四十九冊を寄贈を受けまして、同年
最高裁判所から各家庭裁判所に保管転換をいたしましたのが、国に対する寄贈でございます。これは「少年非行の問題」という書籍でございまして、たまたま前年度の年度末に、この書籍が重要な価値ある書籍であるということを
指摘して、その購入配付方を部内から希望がございましたが、たまたま年度末に近づいておりましたので、その際、それは直ちに購入することが困難である旨を部内的に答えておったところが、これがどなたかのむしろ連絡があったそうで、アジア財団のほうから、そういうものを希望しているなら、自分のほうで購入して寄贈してもよろしいということがあって、新年度早々にそういうお話があったので、これは受け取ったという例でございます。
それから二回のアジア司法
会議というこの
会議の際に、賓客の接遇の
経費として約千ドルの寄贈を受けました。これは
最高裁判所としてではなくて、いわゆるアジア司法
会議事務局に対する援助でございます。アジア司法
会議は、第一回がフィリピンで行なわれまして、第二回が日本、第三回が今度タイで開かれる予定でございます。その
関係で、たまたま接遇費に関する
経費の中で、国の
予算の範囲より以上の接遇をしたいということから、それに必要な
経費をアジア財団に仰がれたということで、これはアジア司法
会議の事務局の受贈になっておる。先ほど御
質問のありました、
歳入歳出の
関係では、これは国が寄贈を受けたものでございませんので、国の
歳入の手続をとっていないわけであります。したがいまして、会計検査院の目にとまらなかったのは当然かと思います。 それからもう
一つは、
最高裁判所の名が出てまいりましたケースは、
最高裁判所の調査官で
外国旅行に参る際に、
研究等の
資料が十分でなかったことから、その個人に対して、約千ドルの書籍等の購入費がその者に交付されたという例がございます。したがいまして、
最高裁判所自体としましては、書籍の寄贈を受けたものであって、調査官の場合は、個人に対する援助、アジア司法
会議の場合は、これはその事務局に対する援助であるということでございます。
それからもう
一つ御
指摘を受けております司法研修所の場合がございますが、これは司法研修所出身の判事補、検察官あるいは弁護士等で
外国、特にアメリカ
関係の制度を勉強したい方々のために、便宜ある制度がアメリカにあったことから、これに皆さんがそれぞれ手続を踏んだ受験をされて、パスされた方がそれぞれアメリカの
大学で勉強されました。これはアメリカのほうのそれぞれ
大学あるいはその他の財団等でその滞在費、旅費等が支給されるものでございます。で、それについて、アジア財団から援助を受けているケースがございますが、これはその当該国で出ます滞在費あるいは往復の旅費は、その地域にとどまった以外の行動の
経費は入っておりません。せっかくアメリカに行った場合に、州の裁判所等を見学してくるということのために、三百ドルないし五百ドルの
補助が当該
研究員に贈られているという例はございます。しかし、これが司法研修所という名前になっているのは、司法研修所等でそういった人たちの受験等の手続については十分めんどうを見ておりまするので、アジア財団の年次
報告の中に、司法研修所という名前があがっているというのも当然かと考えられる次第でございます。
で、具体的に、それでは裁判所の職員でアメリカに出かけました、そのアジア財団の援助を受けて行った人たちの人数を御参考までに申し上げます。
昭和三十三年は、裁判所は、サウズアンメソジスト
大学、ハーバード
大学にそれぞれ一名、判事補でございます。弁護士がハーバード
大学に一名で三名。この弁護士
関係の分も、司法研修所に支給した形に
報告になっているわけであります。三十四年が、裁判所でハーバード
大学に一名。それから三十五年が、弁護士、サウズアンメソジスト
大学一名。三十六年が、裁判所、サウズアンメソジスト
大学一名。弁護士、ハーバード
大学一名。合計二名。三十七年が、裁判所はサウズアンメソジスト
大学、ハーバード
大学各一名。弁護士、ハーハード
大学一名。合計三名。三十八年が、裁判所、これは判事補ですが、ハーハード
大学、サウズアンメソジスト
大学各一名。検事、サウズアンメンジスト
大学一名。弁護士、サウズアンメソジスト
大学一名。合計四名。三十九年、ハーバード
大学一名、裁判所で。それから弁護士でサウズアンメソジスト
大学、ハーバード
大学各一名。合計三名。四十年、裁判所、サウズアンメソジスト
大学一名。検事、ハーバード
大学一名。弁護士、ハーバード
大学一名。合計三名。四十一年が、ワシントン
大学、裁判所一名。サウズアンメソジスト
大学一名、検事。サウズアンメソジスト
大学一名、弁護士。合計三名。四十二年が、サウズアンメソジスト
大学、ハーバード
大学、各一名、これが裁判所。弁護士が、ハーバード
大学とワシントン
大学各一名、合計四名。こういう人たちが出かけますについて、それぞれの個人に対して、三百ドルないし五百ドルの
補助があったというようなケースを聞いております。
それから、あるいは場合によっては、書籍で研修所に対して寄贈のあった例もございます。そういう意味で、これはもちろん書籍にいたしましても、旅費にいたしましても、先ほど大蔵からも意見がございましたけれども、多々ますます弁ずるものでございます。もちろん国の
費用で裁判所といたしましても、在外
研究の
費用は十分とは申せませんけれども、毎年
要求し、ある程度の
予算は認められております。しかし、それ以上に各個人としてなお勉強したいという方々が——そういった自己の
費用を払わなくても済むような制度を利用して
外国で勉強したいという方々のためには、その人の執務なり何なりの便宜を計らった上で本人の勉強されることを援助いたしておるわけでございますが、実質的には国のほうとしても、一面ではございますが、ある程度の援助をしてその方々の勉学を助けているわけでございます。
御承知のように、いま申し上げましたところはアメリカでございますが、戦後、制度の改変によりまして、特に刑事訴訟法手続
関係は、英米法系の手続を相当程度取り入れた制度に変わっております。独仏系の大陸法系の問題は、これは旧制のもとにおよそあらゆる
資料をわれわれは持ち続けてきたわけでございますが、戦後ももちろん続けておりますし、その
研究等も怠っていないつもりでございますが、やはり一番欠けておりますのは英米法系の裁判手続、裁判の
考え方、こういったものが現在のわれわれのいわゆる法律知識の中では相当欠けておるということから、こういった
留学生がアメリカのほうを指向して行かれるということもまた必然的な要望かとも考えられます。ヨーロッパ大陸等でも、もちろんみずから勉強される、これは自費で行かれる方もあるわけであります。自費で行かれる方も、やはり職務上の不便というものを忍んでも当該裁判官がよりよきすぐれた裁判官になられることであれば、結局においては国のためになるからという
考え方で、私どもは、そういう人たちの在外留学について便宜を計らっておるわけです。そのようにこのアジア財団から援助を受けましたことについて、裁判所として何ら、いま言った政治的あるいは宗教的、こういった
関係の意図のもとにある団体として理解してその援助を求めたものでございません。もしそういったことが、御
指摘の点があるとしましたら、実際にその活動状況を十分検討いたしまして、それがもし国民の疑惑を招くものであり、あるいはそれが国として好ましからざるものであるという結果が出たといたしますならば、もちろんそれに従って行動するのにやぶさかでございませんけれども、この在外
研究の実質的なすべての
費用をアジア財団に仰いだわけではございませんので、そのごく一部の援助が個人的に、あるいはものによっては国に対して寄贈されたという結果でございますので、この年次
報告そのものがああいう形で出ておるからといって、裁判所のいままでやってきましたことに私どもは何らやましいことはないと考えております。