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説明員(
磯崎叡君) ただいまの御質問は、
国鉄経営の全般の問題であり、また将来にわたっての
経営の基本をなす問題でございますので、多少数字にわたってこまかくなりますけれ
ども、現時点における私
どもの
見方並びに将来の見通しについて申し上げてみたいと思います。
国鉄の
経営が悪化いたしましたのは、実は
昭和三十九年度からでございます。
昭和三十八年度ごろまでは大体わりあいに順調に
運輸収入も伸びておりましたし、もちろん
経費の
増加もございましたけれ
ども、その
経費の
増加を
十分運輸収入の
増加でまかなってきた。一方、三十二年度から第一次五カ年
計画、三十六年度から第二次五カ年
計画を始めまして、相当多額の
資本投下をいたしましたが、いずれもまだ
長期負債の絶対額としてはそれほど大きなものじゃなかったということで、
利子負担がまあまあせいぜい五百億前後で済んでおったと思います。しかしながら、その後、特に
昭和三十九年度以降
新幹線ができ上がりまして後、主として
通勤輸送に
全力をあげて、また地方の
幹線輸送力の強化に
全力をあげる、さらに
保安対策というものにいままでに倍するぐらいの金を入れるというふうな、何と申しますか、非常に
資本を投下いたしましてから、それが
利益を生むまでに時間のかかる
仕事の
投資を始めましたのが
昭和三十九年度ないし四十年度からであります。したがって、
投資いたしましても、それが極端に申しますれば、いいもので五年、悪いもので十年、十五年間は
利益を生まないどころか、
利子の
支払いもできないような
投資を四十年ごろから始めたわけでございます。したがって、一方、
利子は毎とし
借金いたしました翌年からふえてまいりましたので、
利子負担が非常に急激にふえておるわけでございまして、
昭和三十二年ごろに比べますと十倍以上の
利子負担になっておるわけでございまして、私
どもで
借りております金は、御承知のとおり、
財政投融資並びに
国鉄の独力で集めます
特別債等でございますが、
平均利率が約七分でございます。そういたしますと、一兆の金を
借りますと、七百億だけはもう自動的に
利子として出てしまうというようなことで、
経費の中の
利子負担が非常に急激にふえてきておる。大体毎とし百五十億から二百億くらい
利子負担がふえておるというようなことで、もちろん
人件費のアップの問題もございますが、主として
資本費の大きな
増加のために
経営状態が非常に苦しくなっておる。一方、
収入のほうは、
道路の非常な急激な
発達とそれから
自動車の普及と、あるいは内
航海運の復活というようなことで、
国鉄の
陸上交通における独占的な地位はもはや全く失われたと申しても過言ではないと思うのでありまして、電電とか、あるいは郵政とかが非常に
法律的にも実質的にも
独占企業として続いておられるのとわけが違いまして、私
どもの
ほんとうに
独占性が崩壊し始めたのがやはり三十八、九年から非常に顕著に現われてきておると思うのであります。これはある
意味では、
輸送構造の
変化ということは当然産業の
近代化というものの一翼をなすものであって、やむを得ないものであるというふうに考えておりますが、ただ、いかにも
近代交通機関としてほかの
輸送機関に対抗すべくあまりにも
輸送力が貧弱である。たとえば
主要幹線におきましてもそれが建設されたときのままの
単線蒸気鉄道である。これではとてもバス、
トラックあるいはことに最近の
発達の
マイカーには及びもつかない脆弱な
輸送力しかないということで、全体の
輸送構造の
変化、その
変化の中にも
国鉄自体の非常な立ちおくれと申しますか、
近代交通機関としてふさわしくない姿でもって現在
輸送をしておるということにも大きな原因があって、やはり
輸送構造が変わりつつあるというふうに思っているわけでございます。ことに
旅客輸送と
貨物輸送と分けて申し上げますと、まず
貨物輸送におきましては、もう
石炭がいやがおうでも毎年二百万トンないし極端なときには三百万トンずつ減送するわけでございます。私
どもの
貨物運賃、
貨物収入の大宗をなすものは
石炭でございます。一時は全体の
貨物収入の四分の一を
石炭で占めておったわけでございます。
輸送量から申しますと、大体四分の一でございます。ことに
九州等におきましては
石炭の
減産がはなはだしく、
石炭の
減産、即
国鉄から見ますれば
石炭の減送になるわけでございます。そうすると、ほっておいても
貨物は年間いま大体二億トンぐらい
輸送しておりますが、その
うちの三百万トンぐらいは自動的に減っていくと、こういう
現象でございます。したがいまして、
石炭運賃の
収入がもうそれだけ減るというふうなことで、
貨物収入は昔は大体
旅客収入と半々近かったのでございますが、現在は大体
旅客収入の三に対して
貨物収入は一でございます。非常に
国鉄全体の中の
貨物収入のウエートが狭まってきておる。しからばそういう
石炭等の減送の
穴埋めを何か
運賃の
商い貨物でしなければいけないということは、これは当然でございますが、それをしようと思いますと
輸送力がないということで、
荷主の希望するようなスピーディーな、あるいは非常な便利な
輸送ができないということで、結局
運賃の高い
貨物はやはり
道路に取られるというふうな
現象がやはりこの数年間急激に起きてきているわけでございます。で、ここで何とかして
貨物収入を戻すためにはどうしてもやはりいい
輸送をしなきゃならぬ、まあ
ことばに
語弊がございますが、
荷主側から見ればぜいたくな
輸送をしなければいけないということだと思うのでございまして、最近は
物資別にいろいろ検討いたしまして、たとえば
自動車輸送、まあことしの秋には
日本の全乗用車の
生産量の約半分は
鉄道輸送にかかると、これは非常に
運賃も高いし、わりあいに
コストも、
輸送コストも安いし、非常に私
どもとしてはもうかると言っては
語弊がございますが、もうかる
商売でございます。こういうことがやれるようになったのは、やはり
幹線の
輸送力がふえて、多少なりともそういった特別の
貨物列車を走らせることができる、あるいは現在
旅客列車と同じ
速度で、百キロ以上の
速度で
九州あるいは下関の鮮魚を運んでおりますが、これらもほとんど一時は
トラックに取られかけたものが、やはり
国鉄の
輸送サービスがよくなって
東京市場の売りが著しく早くなった。
鮮度が高くなったということで、また
トラックから徐々に
鉄道に戻りつつあるというふうに、結局、今後
貨物輸送について
穴埋めを、
石炭等の減送による
穴埋めをするためにはどうしてもいい
輸送をしなきゃいけない。いい
輸送をするためにはやはり
輸送力をつけなければいい
輸送ができない。これはひいては国民全体から見ますれば
流通経費を下げていく、そして
大都市の方々に新鮮な
鮮度の高いものを供給できるということになると思います。
貨物輸送につきましては徐々にそういう点に着目いたしまして、現在いろんな
施策をやっておりますが、しかし、これとても急激に
輸送量が伸び、急激に
貨物収入が伸びることはそう大きな期待は実はできないと思っております。その証拠で、約ここ四年間というものは
貨物輸送は二億トンの線を前後上下するままで、ほとんど残念ながら
輸送量はふえておりません。これは逆に申しますれば、
石炭の減送をまあずいぶん努力して補っているというふうな
見方にもなりますが、しかし、
国鉄の
貨物輸送の実績は大体二億トンで頭打ちであるというのが
現状でございます。
一方、
旅客輸送のほうは、これは一番問題は、もちろん昨年の
運賃値上げの
影響もございますが、主として中
長距離輸送、これはまだまだ
国鉄の
独占性と申しますかが相当保たれている。ただし
北海道輸送などにつきまして見ますれば、大体全体のもう
東京−
北海道間の、
国鉄でいえば
一等客、
飛行機客と
国鉄一等客の割合は大体九十五対五、あるいはもっとひどいときには九十八対二と、ほとんどは
飛行機に行ってしまう。
九州におきましてもこれは五〇対五〇というふうな
事情で、
長距離輸送も大体
国鉄の
シェアは減っておりますが、まだまだ
近距離輸送に比べますれば
うちの
シェアは確保されているというふうに言っても差しつかえないと思いますが、ただ一番の問題はやはり百キロ前後の、たとえば
東京周辺で申しますと箱根とか、あるいは伊豆とか日光とか、こういった約百キロ前後の
近距離輸送の面におきまして非常に
自動車の進出が目ざましい。実は先ほど申しました
長距離輸送も、ずいぶん
先生方のお目にとまると思いますが、
国鉄の全体の
旅客の、
定期券外の
旅客の足の長さは大体五十キロでございます。したがいまして、
長距離輸送はずいぶん多いように見えますが、全体から見るとそれほど多くない。結局百キロないし百五十キロ
輸送でもって一番
国鉄としてはいい
商売をしておったわけでございますが、それが最近の
マイカーの
発達によりまして、百キロ前後の
輸送が非常に食われておるということが
旅客収入の減の非常に大きな
理由でございます。したがいまして、私
どもといたしましては、現在百キロ前後の
輸送で何とかして客の確保ができないか。ことに土曜、日曜、
祭日等におけるレジャーの客が車に移っているということは、もう見のがせない事実でございまして、これは
国鉄的に申しますれば、ほとんど
資本投下をしないでウィークデーの
通勤輸送の
余力でもってやれる非常にいい
商売だったのでございますが、これが、客が減ってきているというようなことが、これからの私
どもの
旅客輸送の非常に大きな
問題点だと思います。まあいまいろいろ
施策をやっておりますが、なかなかやはり起死回生の妙手はないと考えております。
まあこういうことで、非常に悲観的な
ことばかり申し上げましたけれ
ども、現在の
状況で申し上げますと、
収入が急激によくなる、非常に対前年の一割とか一割五分とかいう
増加は、なかなか期待できない。せいぜい五%、よくて五%から六%ぐらいの増収しか期待できない、まあこういうふうに考えられるのでございます。
一方、
経費のほうは、先ほど申し上げましたとおり、一番問題の
利子の
増加並びに
人件費の
増加も
一つでございます。現在問題になっております
人件費ベースアップ等につきましても、
国鉄だけがよその公社のおつき合いができないという
事情も全くこれはやむを得ない点でございまして、これらを吸収するだけの
余力が
国鉄の
経営費になくなっておるというのが
現状でございます。
一方、私のほうの
工事経費と申しますと、いわゆる
新規投資のことでございます。これは
国会の御
承認も得まして、
昭和四十年度から七カ年間の
長期計画をやっておりまして、全体で三兆の
投資をする、
国鉄全体の
体質改善をするという方針で進んでおりますが、何といっても一番急ぐのは
通勤輸送の
改善でございます。でも、それは
用地の獲得その他にいろいろ問題がございますが、
経営的に申しますと、非常に残念ながら
収支の償わない
通勤輸送というものをこれからやらなければいけない。で、
通勤輸送が
収支が償うようになる、すなわち
定期外のお客が乗ってくれるようになるには、やはり十年以上の年月がかかって、そうして
定期の客で損したものを
定期外の客でカバーするという時代がきますには、十年ないし十五年の時間がかかるというふうにいま考えておりますが、それにいたしましても、その
利子と、それからもう
一つは
借金の
内容から申しますと非常に
短期の
借金が多い。
短期と申しますといわゆる一般の民間の
短期ほどではございませんが、いわゆる
長期負債と申しておりますが、実際には
長期ではなくて七年ないし二年据え置きの五年
償還、あるいは極端なものはもう翌年から
償還するというふうな、
借金の
内容が非常に
長期的な低利的なものでないということが
一つの問題でございます。したがって、
借金の
返還に非常に問題がございます。たとえば
昭和四十年度に
運賃値上げができませんでしたので、いわゆる
特別債というものを千億ばかり初めて発行したわけでございます。これは
政府保証はございませんし、また日銀の
担保適格債でもございませんので、
金融機関が持てば持ち切りになってしまうわけでございます。その
昭和四十年度に
借りました約千億の
特別債をもうすでに
償還を始めているわけでございます。ところが、その千億でやり始めました
通勤輸送等の
工事はまだまだ
工事が完成するどころか、
用地買収あるいは
ほんとうの
基礎工事ぐらいにしか進んでない。ところが一方、
借りた元金を返し始めている、こういうことでございまして、
国鉄の
長期負債の
内容が非常に
経営的に見ると悪い。一番大事な
郵便貯金、あるいは
簡易保険から
借りているものは全体の一兆三千億の
うちの約四分の一ぐらいしかございません。これは非常に
長期負債で約二十年以上の
借金でございますし、非常に
償還期限が長い、
利子も六分ないし六分五厘ということで、これは非常にありがたい金でございます。これらが非常に少なくなってきておる。そしてほとんど
鉄道債券、すなわちその
鉄道債券の中には
政府の
保証のある
鉄道債券と、最近のように
政府の
保証の全くない、いわゆる
特別債というものがございますが、ほとんど大部分が、四分の三がその
鉄道債券であるということは、非常に
借金の
返還に大きな問題がある。ことしの
予算でごらんになりますように、ことしやはり九百億の
借金の返済をしなければならない。これは
期限がまいりますので、いやがおうでも返さなければならない。したがいまして、
財投で
借りましても、
財投で
借りた分がその
財投以外の
借りかえの分になってしまうということでございまして、たとえばことしの
予算で全体で
財投、
特別債等で約四千億の金を
借りますが、その
うち九百億は右から左に
借金の
返還に充ててしまうというふうなことで、
返還金を、
借金の
借りかえをするために
借金をする、これは当然でございますけれ
ども、そのために利息を払っていくということになるわけであります。
最後に結論的に申しますと、ことしの
予算ではまだ
利子を払っていくことができます。いわゆる
償却残は黒でございます。しかしながら、残念ながらいまの
状況でまいりますと、四十三年度時点以降はよほどの
収入の
増加の伸びが期待できない限り、
利子の
支払いのために
借金をする。すなわち
借金を返えすために
借金をするのは、これは当然でございますが、
利子を払うために
借金をする、こういう非常な
経営の悪循環を来たすおそれが四十三年度以降、一応数字的に詰めてみますと、考えられる。こういう
意味で、
うちの
総裁の
ことばを使いますと、まさにいまや
ほんとうに
経営の大きな曲がりかどにきているというふうに
いろいろ外で申し上げておるようでございますが、その
意味は、ことしまではどうやら
借金をしないで
利子を払っておりますけれ
ども、来年度以降は
利子を払うために
借金をする、こういう
経営の悪循環を来たすということになる次第でございまして、かと申しまして、一方、現在やっております
長期計画をやめる、あるいはうんと延ばすということになりますれば、それだけ
通勤輸送緩和がおくれる、あるいは
幹線の
輸送力がふえない、昔からの蒸気単線
鉄道のままで置いておくという形になるわけでありまして、どうしても現在の
長期計画をやっていかなくちゃならないという前提に立ちますれば、四十三年度以降は
経営事情が非常に悪化するというふうに申し上げざるを得ない。この点、私
どもといたしましても、何とか独力でできるだけのことはいたしたいと思っておりますが、いまやまさに
経営の危機に直面しているというふうに申し上げざるを得ないのはたいへん申しわけないと思っております。