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帆足分科員 剱木
文部大臣には、郷党の先輩として日ごろ敬意を表しておりますが、私は外務委員に所属しておりますものですから、日ごろお目にかかる
機会もないのですが、きょうは忌憚のない意見を申し上げますので、十分に御参考にしていただければしあわせでございます。順序不同でございますが、時間が限られておりますから、逐次申し上げます。
学生の世話をするという仕事は、
日本の未来をつくる仕事でございますから、最も重要な課題でございます。私は、本来ならば、
文部大臣になられる方には、教育学並びに哲学または人生
経験についても
相当の体系的な理論が必要であろうと思いますが、戦前の
文部省といえば、勉強した警察みたいなものでありまして、非常に
程度の低いものでございました。まだその伝統が抜けませんで、勉強といえば暗記、
歴史や地理学を暗記物と
考えている生徒が多い状況です。戦後、教科書の大改革によりましてよほど直りましたけれ
ども、教授
方法というもののおくれていること、驚くべきほどのものでございます。また、
外国語教育などにおきましては、
大学を出てもタイムズ
一つ読めず、外人の接待
一つできない、非常な致命的
欠陥が依然としてあると思います。
日教組などにおきましても、
先生は
先生に値する
生活及び
生活環境を合理的に要求することは私は必要だと思いますが、同時に、教師としての教養を高める、教授
方法の改革等が必要であろうと思います。
生活の改善には勇敢に団結し、そして戦う教員の諸君が、勉強においてはいろいろ雑務に追われて、必ずしも十分でない一面もあるように思いますし、それを
指導する
文部省も、結局役人でございますから、過去の戦前の
文部省の伝統も残っておりまして、まだまだ大改革の必要があると思っております。スイスやデンマークの
歴史などで御承知のように、また
アメリカの
歴史でもそうですが、その国の大きな民主革命では、常に教育の改革が中核になっておるのであります。それは現在の中国でもそうでありますし、ソ連でも初代の
文部大臣のルナチャルスキーがいかにいい業績を残したかということも、各位の御承知のとおりでございます。
また、子供の教育には、私は心理学とそれから医学及び予防医学、この三つの初歩
知識がどうしても必要であると思いますが、結核の陽性転化のときの対策ですら十分教えられていない教師の諸君も多いし、寝小便対策
一つにしましても、現代の医学及び心理学の進歩についてほとんど御存じない校長さんが多い。また、
文部省当局の
指導的役人諸君も大同小異であろうと思います。私は、高等学校のときに喀血しました。そのときは体操の時間です。クローバーの茂っているアカシアの木陰で空気浴でもして、そしてしばらく休むほうが健康にはいいのですが、
帆足君頼むから鉄棒に下がって三回だけ懸垂をしてくれ、三回しなければどうしても点をあげられない、こういう形式主義で三回懸垂させられまして、その晩また喀血しました。当時の体操の教師は、これを軍曹と呼びました。軍曹が体操の教師をしていました。こういう国柄でありまして、最近の体操など、よほど進歩したと思いますけれ
ども、体操の教師はもとより、他の教師も医学及び心理学の初歩の専門の
知識が必要であるということを痛感します。心理学は従来文学のうちに入っておりまして、心理学、論理学、ほとんど実
生活に役に立つような教育を私
どもは受けておりません。したがいまして、この点については、いま限られた三十分の時間内ですから御注意を促しておきたいと思います。一括して
大臣から、その注意はもっともであったか、もっともでなかったか、肯綮に値することか、ひとつ後ほどお答え願いたいと思います。
それと連関いたしまして、校医との
関係ですが、校医はすぐれたお医者さん二人くらいお選びになって、一人はそういう医療実務をやる、もう一人は重要な相談相手になれるような、それは無給でもやってくださる方がおると思いますが、そして単に子供のからだを見るだけでなくて、諸
先生を集めて医学の講習をするということが必要である。
先日、天野貞祐氏の、あれはもう何年前のことでしたか、文芸春秋で、お子さまをなくした涙の記録を読みました。一高三千の健児を引き受けていたカント哲学者の天野さんが、紀元節の日ごとに、雲に聳ゆる高千穂に最敬礼をしておったということ、そして、この教育勅語を読んで子供たちに十分間水ばなをたれさせていたということと、なんじの意志の確立が同時に万人の意志の確立と一致するように行動せよと教えたカント哲学とはたして一致するやいなや。これだけでも「世にもふしぎな物語」でありますが、わが子の陽性転化の結核理論すら知らず、ついに奔馬性結核でむすこさんがやられた。私はこの記録を見まして、一人の高砂族のような町蛮人がカント哲学の上っつらをちょっとかじって、そして一高三千の健児をその肩にまかしていたとするならば、親としてこれはおそるべき人間である。それは人食い人種に子供たちをまかしていたのかな、医学上の見地からいえば、そう思わざるを得ませんでした。わが国の
政治及び教育のアンバランスというものは、およそこの天野
先生に象徴されておるのでありまして、朝はカント哲学、「昼は雲に聳ゆる高千穂の」、夜は「芸者ワルツ」、こういうアンバランスは至るところに、われわれの
世界にも見られるのでありまして、夕べには「インターナショナル」、夜は「トンコ節」というような風景は、革新勢力の中にも見られる通弊でございます。
したがいまして、私は、教育における民主革命というものは、もっと根を深く掘り下げる必要があることを痛感しております。この前、人間形成について御
努力なさった作文などを見ましても、まことに軽薄であって、あれはやはり高砂族の夢物語であるまいか。というのは深さがない。これは
日本的プラグマチズムと申しますか、教育勅語はその最たるもので、
アメリカのデューイの学説が偉大なプラグマチズムとするならば、教育勅語は最も卑俗なプラグマチズムである。どこといって攻撃するところはないけれ
ども、人類の進歩において何ら益するところなし。
ちょっと話が横道にそれたかの感もありますけれ
ども、案外私の申し上げることばの中に
相当の真実があることを、まずおくみとりください。議員というものは必ずしも犬殺し、豚殺しの徒輩でないということを御了察願いたいのでございます。われわれも「
考える葦」でありまして、いろいろ
考えております。ただ残念ながら時間がありませんから、
文部省の各位にお目にかかって適切な助言を申し上げ、適切な皆さんからの御意見を拝聴する
機会が乏しいことを、外務委員として残念に思っておる次第でございます。
さて、取り急ぎお尋ねしたいことは、奨学資金のことです。ことし少し
金額をふやしていただいたそうですが、これは還流資金ですから、私はもっとふやしていただきたいと思います。それで幾らふやしたかということと、還流がその後円滑にいっているか。非常に家族が多過ぎて困っている人及び失業している人、これだけは特別届けを出して奨学資金の返還を延期してもらう、そして、その他からは税金と同じような取り口で取ってもいいし、もっと簡便にして峻厳な
方法で取って、それを後進への還流資金に使うべきである、こう思います。進歩陣営というものは、いつでも権利だけ主張して義務を果たさない傾向があると皆さんがお
考えになっていたならば、それは一部の弊風に対する保守、進歩を問わず、
日本的民主主義に対する
欠陥をついたものでありまして、われわれ社会党は、やはり義務を守るということは必要であるということを多くの同僚諸君も痛感いたしておるのでございます。したがいまして、そのようにお運びを願いたい。
それから第二に、
学生食堂、
学生健康保険の問題ですが、私は、
学生食堂はもう少し安くて栄養のあるものを
学生諸君が食べられる制度にして、学校が直営しない場合は、そういう食堂には低利の
長期補助金を
政府が出し、建設資金も出して、また
長期、不動産銀行でも何でもけっこうですから、もう少し間接に資金的に助ける必要があると思う。建物ももっとよくし、清潔にしてもらいたい。私
どもが
学生時代に一番困ったのは、栄養不良で困ったことです。
それから健康保険制度については、親が入っておれば子供はその家族として恩恵に浴しますが、親が入ってない場合、また入っておっても、
学生は全額免除になっておりません。私は、
学生の健康について全
責任を負えないような校長さんは、真に校長たる資格はないと思っております。私は十九のときにフットボールの選手で喀血して長い間苦しみました。学校はひとつもそれに対して相談相手にもならない。当時は薬もなかったせいですけれ
ども、喀血して校医のところへ行きましたら、頓服を飲ましてくれました。何かと思ったらかぜ薬でありました。これが当時の校医の水準でした。また、かりに名医をかかえても、校長さんに一文の金があるわけではなく、校長は小言だけ言いますけれ
ども、しかし、資金を持っておりませんから、病気の
学生を助けるすべもない。したがいまして、
学生健康保険のことは、ひとつもうぼつぼつ研究に着手願いたいと思います。大体
学生をアルバイトをさせるような状況に置くならば、
学生層としての大数法則は一種のアナーキスト的傾向を帯びることは必然でありまして、そうでなかったらふしぎでございます。したがいまして、現在の全学連、
学生運動の多少アナーキズム的騒ぎ、不安定さは、
文部省が
学生をかくあらしめておる
学生のアルバイト的、ニコヨン的不安の心理的表現でありまして、その原因は、むしろ学校当局にあると思うのです。したがいまして、
学生時代にはおおむね社会党左派または共産党系が多く、就職口がきまれば社会党中間、就職口がきまって、やがて主任になれば社会党やや穏健派、係長になれば民社党左派、やがて
課長になればまず自民党、これがおおむねの鉄則でございまして、心理学を少し御研究になればわかることでございます。また、日教組の人たちがある不安定な徴候を示しておりますのも、あの給料では——昔は巡査と教員といわれましたが、
相当の教養を必要とする学校の先住に今日のような待遇で、それから雑務が多くて、その反映として、教員職君はおおむね世の
中産階級に当たるものが、
中産階級の下層、下層階級の中くらいから上くらいの状況に置かれておりますことの反映と思えば、剱木
文部大臣の気持ちもおのずからそこにいって、ああ、なるほど問題の点はそこにあったか、それでは日教組を敵とするというようなあほうなことはやめよう、子供たちは自民党であれ社会党であれ同じ教室で
先生のごやっかいになっておる、その
先生の組合を敵として戦わねばならぬなどということがどこにあるということは、社会科学の入門と心理学の入門を御勉強になれば、あすから剱木
文部大臣の心境はおのずから変化を来たすのではあるまいか。
大体
質問時間三十分と言われましたが、
質問ということばがおかしい。なぜ私
どもがあなたに
質問せねばならぬのでしょう。私たちは、いつあなたたちの学校に入ったのでしょう。私は十万の市民を代表するその代表として皆さんに問いただし、こちらから説教し、そして要求するのが国会議員の任務であって、何もお役人諸公のために私が聞かねばならぬ、
質問して教えをこわなければならぬ理由はありません。もちろん、剱木さんは郷党の先輩で、私が平素尊敬しておりますからこれは例外であります。どちらかといえば、なんじが問いただす時間は三十分であるぞ、こう
主査は言うべきで、
主査の重大な失言である。
質問時間三十分、何をこしゃくなことを言うか——それはユーモアと御理解くださいまして……。
その次、身体障害者の数及び精神薄弱児の数は何名くらいおるか、それは剱木
文部大臣にお尋ねしたい。おそらく正確な数字は御記憶になっていないでしょう。まことに残念なことであります。そして、この人たちに対する主管官庁はいずれ厚生省、その厚生省をいじめておるのは
大蔵省ですから、きのう
大蔵省に対しまして十分な警告を発しまして、厚生省の良心的な方々が仕事をしやすい環境をつくるべく御協力申し上げましたが、しかし、
文部省が、わしは知らぬぞと言うてはならぬと思うのです。この身体障害者の子供たちは、私はときどき自分で目をつぶってみるのですが、目をつぶって一時間がまんしておってごらんなさい。それがどんなにつらいことか。見えても生きがたきこの世の中に、見えない子に生まれたとしたら、
文部大臣どんな気持ちでしょう。ましてや、サリドマイドの子などといって、アザラシほどの手もない子であるとしたならば、どんな気持ちでしょう。その子たちのために
予算をとるように
努力し、その子たちを教育する特殊機関に教育費をふやせと叫ぶのは、あなたの使命であると思います。いかに
大蔵省の諸君が質屋のように因業であろうとも、まず、そういう
予算を先に取って、そして大資本やその他のことは
あと回しにしたらいいと思います。山一証券をいつ救うかなどということはちょっと待ってくれ、身体障害児を救った
あとで君らのことを
考える、グラマン、ロッキードの十台や二十台、どうせ落っこちるのですから、あんなものはいまでは何も役に立ちません。あれはいまの近代兵器であれば大体二十五秒で全部墜落ということになっています。墜落候補のなにを、契約違反金を払ってでもあんなものは売り払って、そしてサリドマイドの子供や身体障害児に回すべきだと思うのです。そこで身体障害児の数、学校へ行っている、または収容されている率、収容されてない率がどのくらいあるか、その数字をやがて
大臣がお答えになれば、新聞社各位は驚くでしょう。お答えにならずに、専門員がお答えになれば
大臣が驚かれるでしょう。実は私は、この数字を聞いて腰を抜かさんばかりに驚いている者の一人であります。
一括して申し上げますが、入学金の問題です。三等重役になりましても、子供が慶応か早稲田か慈恵を受験して、不幸にしてボーダーラインで試験に合格して、少し余分に寄付金をよこせと言われたならば、おやじは憂うつで、意思が強固ですから首つりまではいたしませんけれ
ども、せっかく美濃部さんの青い東京の空もドブネズミ色に見えるような思いがいたします。まさに四月です。したがいまして、私学への寄付金はこれを免税にするということは、かねて多くの人が主張しています。それから私学振興を、官学に入ったと同様にするために、大奮発していただかなければならぬ、この結末はどうなっているか。
それから、同じ関連事項は一括して
質問します。こういう
質問のしかたは私
どもにとって不利であり、ものごとの印象を希薄にするおそれがありますけれ
ども、何ぶんにも時間がありませんから……。
子供の事故死の数は全国で何人か、東京で何人か。交通犠牲者の数は全国で何人か、東京で何人か。
文部省にお答えを願いたい。そしてこれに対して
文部省は、厚生省、建設省にどういう要求をされておるか。驚くなかれ、この数字を見て腰を抜かさんばかりに驚くでしょう。四月に入学した子供たち、ランドセルを背負って学校へ行った子供たちが、一半期では五割、二学期で三割、三学期にやや少なくて二割が交通犠牲者の割合です。そして子供の死亡率は、肺炎と疫痢が退治できました
あとでは、驚くなかれ五歳から九歳までの子供は死亡率が四〇%をこえています。これでは、どちらかといえば、医者なんというものは要らないのです。事故から子供をどうして守るかということが厚生省と
文部省の仕事でなければならない。その仕事をなぜ今日まで怠っておったのか。それは統計だけでわかるのです。そしてその事故の場所はどこであるかという統計、対策はどうすればいいかというきわめて初歩的物理学的
答弁、これは直ちに出る結論です。こういうことを
考えずに、人間形成のへぼ作文をつくっておった。これは一体どういう心境なのか。これもまた高砂族なのか、タスマニアの土人なのか、私は理解しがたいと思います。そこでこの御
答弁を願いたい。
子供の遊園地、東京で六〇%の子供は遊園地がありません。私の子供は近所のマンションにやっと住みましたが、踏切を越えて遊びに行くのがたいへんです。学校を開放しましたが、学校は遠いのです。そこで学校を開放していただいて、やはり児童
指導員を置いていただく。多少の経費はかかりますが、国と都や府で分けて分担すればいいでしょう。とにかく肥満児童がふえたこともその
一つの原因と言えますか、子供用の遊び場がないとは。
地方ではまだ遊び場、あき地があるのです。しかし、東京はほとんどございません。特に東京、大阪の対策を急いでいただきたい。それからあき地を持っている地主さんには、あいている間だけ、わずかの賃料でできればその間提供していただいて、地代値上げ、地価値上がりの罪滅ぼしになりますから、そういういろいろな
方法を講じていただきたい。第一範疇の
質問はそれだけで、御
答弁は二分くらいで願いたい。
あとはテレビと映画、それからオペラとバレエ、この二つについて
質問したいのです。
特にオペラとバレエをなぜ言うかといいますと、このエレガントな芸術は、みそ汁を飲み、たくあんをかじりながら、オペラとバレエをやっておる。しかも、その子たちが
世界的水準になって、今度モスクワの人民宮殿に行きまして「まりも」というバレエを見て驚きました。その人気の高いこと、すぐれていること。これは創作バレエですね。それから藤原義江さんのような人を出したということは、とにもかくにも尊敬すべきことです。藤原義江氏、山田耕搾氏、北原白秋氏のコンビこそは、
日本の民謡における最高のものだと思う。「この道」を
文部省が奨励するようにすれば、「芸君ワルツ」などでうつつを抜かさぬでも、また浪花節で元大蔵
大臣が勇名をはせるという、健康ではあるが、あまり
文化的に高くないことをやらずに済んだと思う。それについても話がありますから、私の
質問の時間を残して御
答弁願いたい。