○吉田之久君 私は、民主社会党を代表して、ただいま
趣旨説明のありました
政府提案の
公害対策基本法案について、二、三
佐藤総理及び所管各
大臣の御所見をただしたいと存じます。
言うまでもなく、最近の
わが国経済の
高度成長と
人口の過度
集中及び
交通機関の目ざましい発達は、一面において刮目すべき
近代国家への形成をなし遂げながら、他面においてどうにもならない幾つかの深刻な社会的犠牲をしいてまいったのであります。その一つが
公害であることは、いまさら論をまたないのでありますが、特に
公害の
公害たるゆえんは、だれも
責任を負わないままに
発生し、拡大し、際限なく
国民の健康をむしばんで、ときには死に至らしめるという持続的な
被害であるところにあります。それはまた、ひとり人間だけではなく、その
財産と周辺の動植物にまで害を及ぼし、しかもこの原因者の多くは営利追求の近代
企業であって、その
被害者はえてして弱き
立場の
農民、漁民であり、かかわりなき一般
国民大衆であるところにその悲劇性の最たるものがあります。(
拍手)
たとえば水俣病の場合、百十一名の発病と四十一名の死亡者を出しながらも、その原因の推定が下されたのは、事故
発生後三年を経過してからであり、いまもって十分な
対策と
救済がなされていない状態の中で、第二の水俣病と呼ばれる阿賀野川事件が起こっているのであります。しかも、この事故
発生後二年たった今日、なお
昭和電工側ではその原因者であることを認めておらず、そうした背景の中ですでに七名の人たちがこの世を去っているのであります。そして、ここでもまた十分な
対策や
救済が行なわれているとは言えないのであります。四日市ぜんそくに代表される
亜硫酸ガスの
公害、
東京、大阪、北九州のみならず、今日全国至るところに
発生しているばい煙と排気ガス、
騒音と地盤沈下などは、まさにとどまるところを知らない状態であります。
われわれはこのことを早くからおそれ、
公害問題こそ
わが国の今日的課題であって、何ものにも優先されなければならないと考え、第四十六
国会より今
国会まで絶えず他に先がけて民社党の
公害対策基本法案を掲げ、
国民とともに
政府にその決断を促し続けてまいったのであります。(
拍手)、しかし、
政府の熱意の乏しさのゆえか、
基本法の
制定はいたずらに遅延してまいりました。幸い今回
政府案の
提出を見ましたことは、おそきに失したうらみを覚えながらも、一応の敬意を表するにやぶさかではありません。
しかしながら、
政府案をしさいにながめますとき、われわれは幾つかの疑問を感ぜざるを得ないのであります。なぜなら、いま
国民は
政府に対し、
公害基本法は具体的にわれわれをどう守ってくれるのか、
公害防止の
責任分担はどうなるのか、
公害対策の
基準はどう定められるのであろうか、
救済はだれがはたして
責任を持ってくれるのであるか、
公害に対する
住民の不満はどうくみ上げられ、どのように迅速に
処理されるのか等々を訴えているのであります。
はたしてこれらの諸点がいかに
政府案に明確化されているかについて、これから順を追ってお尋ねいたしたいと存じます。
まず第一は、
公害対策に立ち向かう
政府の基本的な
姿勢であります。
政府は、この
法案の最初に、「
経済の健全な
発展との
調和を図りつつ、
生活の
環境を保全する」と規定いたしておりますが、これは、
国民の健康と
経済の繁栄とが並列に並べられ、てんびんにかけられている発想であるとしか受け取れないのであります。繁栄という名のもとにいささかでも
国民の健康が害されてよいという道理はございません。何ものにも優先して、
国民の健康はよりよき
環境の中に維持されなければなりません。その点、人間の尊重と風格ある社会を常に説かれる
総理は、まず人間の健康なくしては
経済の
発展はあり得ないというき然たる信念を発揮してもらいたいのであります。それなくしては、
公害対策は、しょせん砂上の楼閣に終わってしまうであろうことを憂えて、あえて
総理の御所信を承りたいと存じます。(
拍手)
第二は、
公害に対する
責任の所在であります。
公害の態様はしばしば複雑多岐でありまして、その
責任の所在が不明確であったり、解決をあいまいにしている例が非常に多いのであります。よって、
公害基本法の
制定にあたっては、それぞれの
責任をいかに明確に規定するかが法
制定の眼目であります。何としても、
公害発生の主たる原因者である
事業者が、不
特定多数ということばで
責任を回避することは許されてはなりません。最近の内外の判例が、原因者の無過失
責任まで強く追及しつつあるのもむしろ当然でありまして、
政府案は、こうした点ではなはだ多くの疑問を残しております。
さらに、国及び
地方公共団体は、それぞれの
立場において必要な
防止対策を講ずべきは当然でありますけれども、特に国は、
国民の健康を保護し、その
環境を保全しなければならない使命を痛感して、
公害対策の万全を期する最終的
責任者であることを明確にすべきであると私は考えます。(
拍手)これらの点で
総理の所見をお伺い申し上げるのであります。
第三は、
公害防止基準の
設定についてであります。
政府は、従来、
大気、
水質及び
騒音についてそれぞれ特別法を
制定して、
排出基準による
公害の
規制を企ててこられたのでありますけれども、
基準設定までに多くの時間が費やされ、その間に次々と
汚染、
汚濁等が広がってまいったのであります。しかも、この
基準設定は、集積
被害に対して何ら対応できない欠陥を持っていることを明らかにいたしました。また、かえって、
基準以下であるならば免れて恥なしという
事態を一そう助長したのであります。よって、
政府は、さらに別個に
環境基準なるものを
設定して対処しようとしているのでありますが、はたしてこの
基準の
設定と運用にどのような十分の配慮が織り込まれているのか、厚生
大臣にお答えいただきたいと存じます。
あわせて、
政府は、この機会に、きれいな空気、清らかな水、美しい自然をあとう限り残してほしいと願う
国民的願望にこたえる
決意を、この
基本法の中に強く宣言しなければならないと思うのでありますが、厚生
大臣のこの点についての御所見も承りたいと存じます。
第四は、
公害にかかる
被害者の
救済についてであります。
公害の
被害者がいかにむざんな死を遂げ、いかに悲惨な病苦に呻吟し、またいかに惨たんたる境遇にあえいでいるかは、水俣病その他の例ですでに明らかであります。世界の先端を行く
経済発展の陰に、このような
犠牲者があることは、あまりにも悲しむべき事実であります。
私は、この際、
被害者に対する
救済は、何よりも迅速かつ十分になされなければならないと思うのであります。特に
公害の態様が複雑になればなるほど、その原因も明確を失い、また、
責任追及に多くの時間を要するのであります。この点、
政府は、今後
被害が
発生した場合、そしてその原因の究明に一定の日時を要すると判断した場合には、遅滞なく国が
被害者を
救済し、しかる後、原因の究明とともに、
事業者にその負担を負わしめていくという
原則を明らかにされなければならないと思うのでありますが、この点、
総理の所信と厚生
大臣の見解をお尋ねいたします。(
拍手)
最後に、
質問の第五は、
公害対策の完ぺきを期するための総合
対策の樹立と
機構一元化の問題であります。
公害のよって来たる遠因は、まさしく今日までの
政府の行政の怠慢にあります。無
計画な
産業の
集中、
都市の過密、進まぬ
都市計画、下水道事業の立ちおくれ、先行投資の欠除、科学技術のおくれ等枚挙にいとまありませんけれども、今後
公害対策の推進のためには、各省行政の総合
対策の樹立が何よりの急務であると考えられますので、この点、特に通産
大臣及び建設
大臣の所信をお伺いいたします。
さらに、
総理にお尋ねいたしたいのであります。いまや
公害対策の業務は、実に十五省庁にまたがるといわれておりますけれども、そうした点で相互の連携はとり得ず、多くの支障を来たし、むしろその成果を阻害していると識者は指摘いたしておりますけれども、この際・
総理は、
公害関係の部局を統合し、かつ、これを統括する行政
委員会を
設置して、明確な
目的と権限を付与し、一元的な
機構によって
公害絶滅に乗り出す御用意はないか、御
決意のほどをお伺いいたす次第であります。
以上、私は、
政府案の諸点について、それが真に
国民の
期待にこたえ得るものであるかどうかをお尋ねいたしたのでありますけれども、終わりに、私は、この
政府案が
総理の諮問されました
審議会の
答申と比べてはるかに後退してしまっているものであることをたいへん遺憾に思うものであります。もしもこの
基本法案がこのまま
制定されるとするならば、またしてもざる法に終わるのかと
国民は大きく失望するに至るでありましょう。(
拍手)
総理、われわれは、この
公害問題こそイデオロギーを越え、党派を越え、お互いの衆知を集めて打ち立てるべき緊急課題であると考えております。現に各党ともそうした建設的な構想と用意があると存ぜられますので、この際、
政府案に強く固執されずに、国をあげて
意見の一致を見るための熱意と度量を示していただき、よりよき
基本法をすみやかに今
国会で成立せしめらるるよう強く
期待いたしまして、私の
質問を終わります。(
拍手)
〔
内閣総理大臣佐藤榮作君
登壇〕