○石野久男君 私は、ただいま
趣旨説明のありました
動力炉・核燃料開発事業団法案について、
日本社会党を代表して、佐藤
総理並びに
関係閣僚に対して若干の
質問をいたしたいと思います。
質問の第一点は、この
事業団法案は、
原子力基本法の精神、思想を踏みにじって変更しているということであります。
基本法は、
原子力の平和利用を自主、民主、公開の三つの
原則で進めることを規定しておるのであります。そのために、
原子力委員会を設け、
原子力研究所と
原子燃料公社に研究と
開発の仕事を行なわせてきたのであります。ところが、この
事業団法案によると、まず
原子燃料公社は解散され、
事業団に吸収されるのでありますが、
核燃料、原料の
開発、生産、管理を総合的に
国家管理で行なってきた精神は完全にくずれ去り、
核燃料の民有化の方向が明らかになろうとしておるのであります。また、原研は、
原子力の
開発と研究のほとんどが
事業団の下請作業化されて、自主
開発の機能の過半を失うことになることは明らかであります。なお、
原子力委員会の権限は、この
事業団の
役職員の任免規定でも明らかなように、完全に従前よりは権威を失っております。加うるに、
核燃料民有化に呼応して、機密保持のための規制がたくらまれているとするならば、
原子力基本法の精神は完全に失われたといっても過言ではありません。
佐藤
総理は、このような事実を
承知でこの
事業団法案を提案したのであるか。この
事業団法案が
原子力基本法の精神をじゅうりんしているという事実をどのように考えるかを承りたい。そしてまた、
基本法の考え方を
根本的に変える
方針を持っておるのかどうかも承りたいのであります。
質問の第二は、この
事業団の
役職員及び
役職員であった者には機密保持の義務が政令によって課せられるとうわさされているが、そのような意図があるのかどうか、
総理、科学技術庁長官に承りたい。そのようなことがあれば、公開の
原則に対する挑戦であります。
質問の第三は、
事業団は、大資本、特に電力資本に奉仕して、
わが国の科学技術
政策を弱体化させるのではないかということであります。
事業団をつくろうとした当初、この
事業団は
原子力開発の参謀本部的
性格を予定されておりました。ところが、
現状は燃料
公社をつぶして実施部隊になったのであります。では、電力
開発の参謀本部は、
事業団を指揮するのはだれなのかといえば、これはおそらく
原子力委員会ではなくて電力業界であろうかと思うのであります。
事業団の資本構成は
政府と
民間が出し合うものでありますが、国はこの法案ではほとんど権利を主張してはおりません。ところが、電力資本の
要求は非常に強いのであります。すでに二階堂長官のところには、
公社の鉱山部門は採算が合わないから
事業団から切り離せという強い申し出があると聞いております。また、国内のウラン鉱山は低品位で採算が合わないのに、これに
事業団へ
出資した
民間資本の分がつぎ込まれるようではかなわないと電力業者が言っているというふうに、二月二十二日の読売新聞は伝えております。まことに露骨な
意思表示であります。山を開いて核原料や燃料を自主
開発しようという精神は、この
事業団に
出資する電力
産業資本家たちは毛頭持ち合わせていない。
国家統制をきらう電力資本は、
公社をつぶして
事業団をつくろうとしておる。十年間の燃料
公社や原研の
努力と成果を大資本がただ取りしようとしているのだと思われるのであります。炉と燃料をこの
事業団に一まとめにしたことにもまた
意味深長なものがあります。
核燃料に対する国費が電力資本だけに限られる結果になるからであります。
事業団に魂が入るにはかなりの曲折は免れぬと、読売新聞はかつて批評しておりますが、この
事業団には、魂が入るどころか、大きなトンネルができてしまう。
国家資金がストレートで電力資本に落ち込むようなトンネル会社になる危険があるのではないかと憂えられます。
事業団には
指導性もなければ
開発の熱意もない。
事業団は電力
産業資本の利益本位に運営されて、国の
原子力開発の
政策が全く弱体化されるのではないかという危険を感じます。
総理はどのように考えるか、大蔵
大臣はこのような弊害をどのように取り除こうとしておるか、科学技術庁長官はこれをどのように規制しようとしておるか、
お尋ねしたいのであります。
質問の第四は、
政府の
原子力政策に自主
開発の一貫した
政策があるのか、
事業団の設立は、
原子力産業を対米従属に急傾斜させるのではないかという点であります。
事業団法案によると、その
業務として、第二十三条には、高速増殖炉及び新型転換炉の
開発、研究をうたっております。また、
原子力委員会の兼重部会でも、
長期計画で、国のプロジェクトとしてそれを示しております。そして、
原子力発電の
長期計画では、五十年代で六百万キロワット、六十年代に至って三千万ないし四千万キロワットの電力を出そうとしておるのであります。この四千万キロワットは、今後二十年間、アメリカの軽水炉を導入することにたよろうとしているのも事由であります。電力業界は、
事業団や兼重部会がどう言おうと、実用炉は拘束されないと宣言しております。電力中研はフェルミ炉
計画を
推進しておりまするし、原発は転換炉の輸入を積極的に考えております。重電機メーカーは軽水炉導入体制でアメリカ独占資本と結託して受け入れに狂奔しておるのが実情であります。
このように見てまいりますると、
わが国の
原子力開発の能力は、ほとんど米国の軽水炉導入のためにその受け入れ体制に組み込まれるといっても過言ではありません。
事業団がどのように自主
開発を強調しても、客観的にはアメリカの炉に従属するということになります。これはまさにアメリカの第五十一番目の星という形で
原子力開発が行なわれるのではないか。新しい実用炉を受け入れるための技術を準備するということになるのじゃないかと憂えられます。
わが国の炉の
開発は、アメリカの濃縮ウランが安いから軽水炉でいこうという電力資本の考えに押しまくられているのではないだろうか。カナダのCANDU型天然炉がアメリカの軽水炉よりも安いといわれておる。それが事実だとすると、
わが国の原子電力はアメリカを向いたりカナダを向いたりで、ちっとも定まらないことになるのじゃないか。
事業団は、はたして炉や核原料、
核燃料物質の自主
開発に取り組んでいけるかどうか、非常に危ぶまれるのであります。
政府は確固とした自主
開発に対する考え方をどのようにお持ちであるか、この際承りたいのであります。
自主
開発のための原研の
立場は、
さきにも申しましたように、まさに
事業団の下請的
性格になっておりまして、原研の労組の皆さんがこのことを
心配して丹羽理事長に会見したときに、「原研が
事業団の下請
機関になってしまうがどうか」という
質問をしたら、「それでもいいのだ」こういうふうに答えたそうです。高速増殖炉の
開発のために原研に研究体制を置いてその成果を期待したとしても、原研のこうした状態のもとでは、軽水炉
中心の
開発体制のもとでは、その期待にこたえることができないのじゃないか、私はそのように
心配します。科学技術庁長官はどのようにお考えになるか。また、
総理はこれについてどのようにお考えになるか、
お尋ねしたい。
なお、この炉の
開発にあたって、大蔵省は、炉の
開発について三年目ごとに再
検討するということをいわれておるそうでありまするが、これでは一貫した
方針が出てこないのじゃないか。大蔵
大臣はなぜ炉の
開発について三年ごとにそういう
検討を加えようとしておるのか、その
趣旨をお聞かせ願いたい。
質問の第五点は、この
事業団をつくることによって、
原子力開発と研究のための人材を自主
開発のために集結することができるかどうかという点についてであります。非常にそれは困難だと思います。
事業団は、
民間資本の発言権が非常に強い、国の管理
監督が非常にむずかしいのであります。もうけ主義、営利第一主義に動くことは言うまでもありません。したがって、炉の自主
開発よりも導入炉に圧倒されることは、もう
さきに見たところでございます。加うるに、
原子力委員会の弱体化、原研の下請化等によって、自主
開発に熱意を持っている人材はどんどん原研から出ていく、大学とかあるいは
海外に出ていくということが憂えられます。
事業団の営利第一主義を
政府が完全にチェックしない限り、自主
開発のための人材はとても残らないのじゃないかというふうに私は
心配しますが、
総理はどのようにお考えになるか、科学技術庁長官はそれに対してどのように自主
開発の人材の養成、蓄積をする
方針であるか、承りたい。
質問の第六は、核原料及び
核燃料物質の民有化、特にプルトニウムの民有化
方針についてであります。
事業団法案で炉の自主
開発をどのようにうたっておりましょうとも、現在の
わが国の電力資本の方向は、アメリカの軽水炉によって早急に四千万キロワットの
原子力発電を行なおうとしているのでありますから、アメリカが
昭和三十九年八月特殊核物質の民有化を決定して以来、
政府は日米
原子力協定の改定を考えておる。そして全面的に民有化することを閣議で決定している模様でございます。もしそれが事実であるとするならば、
原子力平和利用をうたい、自主、民主、公開の三
原則を信じておる
日本の
国民は、
政府によって
原子力開発では全くほんろうされているといわなければなりません。
政府は全面的に核原料物質、
核燃料物質の民有化を決定しているのかどうか、
総理のお答えを願いたいのであります。
特にプルトニウムの民有化についてでありますが、発電用燃料としてプルトニウムを必要とする段階は、高速増殖炉が稼働するときであるといわれております。高速増殖炉は
昭和五十年代に試運転を行なう
計画でありますから、
昭和四十三年十一月の段階で民有化を行なうというのは、かりに民有化の方向にあるとしても、早過ぎるのではないか、私はそのように思います。この年代で民有化が行なわれた場合、
民間会社はプルトニウムをどういうふうに使おうとするのか。プルトニウムによって
民間会社はどのようにしてもうけを出そうとするのか。これはきわめて危険であります。国はこれを管理し、
監督することはできないのであります。
民間電力
産業は、現在国際的な
課題になっておる核拡散防止協定の査察に反対しております。また、国際
原子力機関IAEAの
民間査察をいやがっております。国の管理、査察もいやがっております。このような事情を
承知の上で、
政府はなぜプルトニウムの民有化を、
原子力基本法の精神を踏みにじり、平和利用の三
原則をみずから無視してきめておるのか。本
事業団法案は、プルトニウム民有化への地ならし法案として
提出されたのではないかとさえ私は思いますが、
総理はその間の事情をどのように見ておるのか、ひとつ御
説明願いたい。あわせて、
原子力基本法の精神をこの際変えて、
基本法を変えようとしておるのかどうかも御所見を承りたいのであります。
質問の第七は、安全性の
確保についてであります。
事業団は、好むと好まざるとにかかわらず、これは自主
開発といいましても、導入炉を
中心とした
開発業務が多いと思います。輸入炉については、たとえば東海発電所におきますコールダーホールにおきまして、燃料破損検出装置の動きがとまってしまって大騒ぎをした経験がございます。安全性の規制はきわめて重要であると考えます。
事業団が営利本位の
民間電力資本と合弁であるだけに、安全性の規制については特に注意を要すると思いますが、二階堂長官はそれに対してどのような考えをしておるか、御所見を承りたい。
質問の第八は、
原子力委員会の権威についてであります。
原子力委員会の権限はいままでも
政府によってしばしば軽視されてきておりますが、本
事業団法案によれば、明らかにその権限は縮小され、無力化されていると言えます。法案の第十三条並びに第十六条に規定されておる役員の任免でありますが、燃料
公社法第十条、第十三条においては、役員の任免は、
原子力委員会の同意を得なくては
総理大臣はこれは行なうことができなかったのであります。
事業団法案によりますと、単に意見を聞けばよろしいということになっております。
政府は
原子力委員会の権限を縮小し、
事業団に対する
原子力委員会の権威を削減しようとしているとしか思えません。本
事業団法案によると、
原子力委員会は
事業団の運営に対しては全く有名無実の存在になっていると受け取れます。
政府は
原子力委員会の権威についてどのようにお考えであるか、また、それを縮小しようとしているのか、
総理並びに長官の所見を承りたいのであります。
質問の第九は、
原子燃料公社の解散に伴う従業員の処遇についてであります。
本法が実施されれば
公社は解散されるのであります。従業員のすべてはその際従前と同様の処遇をされ、その給与、労働条件、既得権益がことさらにゆがめられることがあってはなりません。この際、長官のお考えを承っておきたいのであります。
最後に、私は法案の文言について二点ほど
政府の所見を聞いておきたい。
その
一つは、第一条の
目的において、「
核燃料物質の保有」ということが書かれております。この保有ということばの意義が、きわめて抽象的で、明確でありません。保有の意義と、
事業団の
目的として特にこの保有を明記した理由について御
説明を願いたい。
その第二は、第二十条の「顧問」についてであります。学識経験者の中から、理事長が
総理の認可を得て任命するのでありますが、その任務は「
業務の運営に関する重要事項に参画させる」となっております。何名くらい置くのか、主として大学の先生なのか、あるいは
事業界の大物なのか、どのような人が適当だと考えておるのか、どのような人が不適当と見ておるのか、
政府の考え方をお聞きしたいのであります。それは、私どもは、理事の諸君の力よりも、この顧問団の権限がこの
事業団にあっては強くなる危険性があると感じているからであります。
政府の考え方をただしておきたいのであります。
私の
質問は以上であります。誠意ある御答弁をお願いいたします。(
拍手)
〔
内閣総理大臣佐藤榮作君
登壇〕