○広沢賢一君 私は、
日本社会党を代表して、
所得税法、
法人税法、
相続税法の一部
改正法案に対する基本的な
質疑を行なわんとするものであります。(
拍手)
第一、
所得税の
基礎控除について。
私は、今回国会に初登院して以来、期待に胸をふくらませて国会
審議に参加してまいりました。しかし、いまは、わが国の議会制
民主主義の将来にとって、はだえにアワを生ずるような
危機感を感じているものでございます。それは、国の最高機関である国会の
審議が、行
政府たる官僚の勢力によって事あるごとに冷遇され、国政が官僚行政によって事実上独断専行されているありさまを如実に味わったからであります。
現に、ここに
一つ、
昭和四十二
年度予算案に対する与野党一致できめられた予算委員会の
附帯決議第一項目取り扱いの問題があります。すなわち、第一項には、「
所得税の
課税最低限引き上げは、標準五人
世帯百万円を目標にして、なるべくすみやかに実現につとめる」と明記されております。御
承知のように、このたびの
所得税法の
改正は、物価上昇の今日、給与
所得については
課税最低限を十万円
程度引き上げるため、諸控除をそれぞれ
引き上げるというものでございますが、これを五人家族標準で換算すれば、平
年度七十三万円、月給にして六万一千円
程度、独身者で二万一千円まで
引き上げられることになるのであります。これでは
税制調査会の四十一年「長期
税制の
あり方についての中間
答申」に示されておりますいわゆる
課税最低限の水準は、「基準
生計費の水準を上回って、貯蓄のためのゆとりを織り込んで決定することが望ましい。」という政策目的にはほど遠いものがあることがすでに明らかにされております。たとえば、この
一つの基準である最低
生活について、いわゆる大蔵省
メニュー、一日一人当たり食料費は物価上昇を見込んでも、何と成年男子一日二百五円、一食六十八円であります。
政府閣僚の皆さんにお聞きしたい。議員各位にも訴えたい。私を含めて一体この中でだれが、ラーメン一ぱい百円もする今日、一食六十八円で生きていけるのかお聞きしたいのであります。(
拍手)皆さんは、自分や自分の
子供たちにとうてい要求もできないことをこの国会の決定によって
国民に押しつけようとなさるのであろうか。このことを私たちは大蔵委員会において重ねて論議してまいりました。その結果、委員会においても
課税最低限を年
所得百万円まで
引き上げる
附帯決議が行なわれようとしました。しかし、その時期をめぐって、それはことし、来年か、または四十四、五年かという議論が対立したままついに決定されませんでした。
消費者物価は一昨年七・四%、去年は六%近くも上がりました。ことしもまた公債政策二年目に入り、消費者米価や健康保険料などの値上げを自民党
政府は強行しようとしております。こうした引き続く物価上昇を考えるとき、ことしや来年でなくて、はるか三年後に控除を
引き上げるというのでは、それは物価値上がりに追いまくられて何ら政策的効果がないことはだれにもはっきりわかることであります。したがって、権威のないことはやめたほうがよいというので、大蔵委員会では
附帯決議をあえてとりやめたのでありますが、今回、そうしたいきさつの上で、予算委員会の
附帯決議が与野党合意の上で決定されました。
本来、この物価、
減税、住宅等五項目にわたる
附帯決議は画期的なことであり、これによって国会の権威は著しく高められたと確信いたします。ところが、翌日の読売新聞によりますと、奇怪なことに、大蔵省では「すみやかに実現する」というこの時期を、早ければ四十四年、おそければ四十五年、すなわち四年先に実現したいという方針を固めたと、かってに発表されております。これこそ官僚の独断専行の実例であります。一体、大蔵省のだれが国会に断わりなく予算委員会の
附帯決議をかってに解釈して、四十四年以降に回したのであるか。そのいきさつと、今後実現の見通しについて、
大蔵大臣の所見を承りたいのであります。(
拍手)
同時に、国の基本である、この議会制
民主主義の確立について、
総理大臣の御所見も承りたいのであります。
第二、給与
所得税と
法人税について。
今
年度の税金の自然増収は七千三百五十三億円にのぼります。税収の弾性値を
昭和三十四年以来の平均一・四
程度に見れば、一兆二千億円の自然増収さえ見込まれるといわれております。一方、
減税は一千五十億円、増税分を差し引けば実質的にはわずか八百三億円であります。こんなに自然増収があるならば、年
所得百万円までをはじめとして、もっと大衆
減税はできるのではないかという野党の質問に対しまして、
大蔵大臣は、
景気過熱のおそれのあるとき、これ以上の
減税は差し控えるべきであると
答弁されております。確かに
総理も、
大蔵大臣も、
景気過熱のおそれがあるから、民間設備投資は行き過ぎないようにと、財界に重ねて警告しておられますが、この行き過ぎをやろうとしておるのは、勤労大衆や
中小企業ではございません。それは資本金一億円以上の大会社であります。この大会社こそ、ことしでも、
地方税を合わせると、平
年度千百三十四億円——利子配当の分離課税その他をこれは含まないで一千百三十四億円に及ぶ租税
特別措置に加えて、交際費の非課税分は五千億に及びます。これは事実上
法人税の
減税でございます。この減収分、事実上の
減税の七割を占めている。これを許しておいて、
景気過熱のおそれがあるから
減税を差し控えるという
大臣の
答弁は、全く本末転倒もはなはだしいものがあると思います。(
拍手)この
経済政策の合理性を無視した御
答弁、態度に対して
総理大臣はいかにお考えになるか、お聞きしたいと思うのであります。
第三、租税
負担の公平について。
今回の三法
改正に一貫して見られるところは、低
所得の勤労大衆、特に独身者、青年層にきわめて冷たいものがあると思うのであります。
ここに二、三の実例を申し上げます。諸控除の
引き上げにつきましても、
減税の恩典は低
所得者と高額納税者の間にかなりの差が出てまいります。たとえば
課税最低限に近い納税者の控除が一万円
引き上げられた場合には
減税額は八百五十円、ところが年収一千万円
程度の納税者にとっては五千円の
減税になります。これは
所得税率が累進制であるために、同じ額だけ控除を
引き上げたとしても、
減税の恩典は中産階級または高額
所得者に吸い取られてしまうわけでございます。これを是正するためには、たとえば
所得税に
段階別漸減控除方式を採用するとか、または二分二乗方式の採用等の
方法があると思いますが、
大蔵大臣はこの点いかにお考えになっておられるか。
さらにまた、今回の
課税最低限は、独身者では平
年度月二万一千円であります。これでは大学卒業生、高校卒業生はもちろん、中学を卒業して入社して一年後の方々も、ほとんど全員が
所得税を取られるわけでございます。一方では、昼間額に汗して、夜間苦学してやっと入社したという若者や、結婚したくても家賃が一万数千円ではと、結婚もできない若い勤労者がたくさんいます。それがわずかの月給から
所得税を差し引かれております。他方では、利子、配当など資産
所得、つまり、親譲りの紙きれ一枚を持っていて遊んでいても収入のある不労
所得者が、租税
特別措置で、五人家族年収二百二十六万円まで
所得税はかからないということは一体どういうことでございましょうか。(
拍手)この税金の不公平について
大蔵大臣として御
答弁しようがないと思いますが、明確な
答弁をお願いしたいと思います。(
拍手)
日本の未来は青年の力によるものでございます。また、一円の金も切実に感じるのはこれからという青年であります。この低額勤労独身者に対する税の控除の
引き上げ、
所得税の
最低限の底上げ、ということは非常に重要な問題であろうと存じます。
さらに、ことしは消費者米価
引き上げによる
国民の
負担分は千二百億円、
政府管掌健康保険の赤
昭和四十二年五月九日 衆議院
会議録第十一号字補てんのための保険料や患者
負担値上がり四百九十四億円等が待ちかまえております。これらは一種の保険税や間接税の
引き上げとでもいうべきであり、低
所得大衆には非常につらい一番
負担の大きいものでございます。ところが、最近
所得税の
伸びに対して間接税の
伸びが少ないからと、たばこの値上げをはじめ間接税増徴の動きが
税制調査会はじめ
政府部内にあるとお聞きしますが、これは低
所得勤労大衆にとってたいへんな増税を意味します。間接税の見通しについて
大蔵大臣の御所見を承りたいのでございます。
次に、
所得税の控除が若干
引き上げられても、
住民税の控除は据え置きの状態で、そのアンバランスは物価上昇に伴いさらに大きくなる一方ではないかという、このことについては五月四日の参議院予算委員会で
大蔵大臣も
自治大臣も、それは是正しなければならないと
住民税減税の方向を明らかにしました。先ほどの御
答弁ではそれがちょっとあいまいになって
改善、
合理化と言われましたが、はっきりと
住民税引き下げと言うべきでございます。しかし、伝えられるところでは、この
住民税減税は、さらに
地方財政の窮乏をもたらすから、実現するまでには紆余曲折があると伝えられております。そこで大会社に対する
地方税の特別優遇
措置を取りやめ、または
国税の
地方税移譲を行なって、
住民税を
減税しても、なおかつ
地方財政を
強化する必要があると存じますが、
大蔵大臣並びに
自治大臣に伺いたいのであります。
以上のように、こまかい点にわたりましても、今日の
税制は働く者、低
所得者に対してきわめて冷たく、税
負担の公平は著しく阻害されております。こうした
状況を
改善しないで、
国民特に低
所得勤労青年の中に正しい納税意識、ほんとうに国を愛する心を養えというのも、それは無理なことではないでございましょうか。(
拍手)私は、ただ単に税金の損得という問題以上に、ここに国の政治の基本がかかっている、こういう点から見て
総理及び
大蔵大臣の長期
税制の基本的なお考えを十分お伺いしたいと思うのでございます。
最後に、税務行政の明朗化について。
今国会の予算分科会でも、日本の税法ほど条文難解で大衆にわからない
法律はないということが力説されました。また、昨年八月、京都
地方裁判所に、サラリーマンの税金で提訴した同志社大学大島教授も、日本の税法がむずかしいため、税法で規定するところよりも通達
事項で処理する面が多いから、日本は税金に関する限り法治国家ではないと論じております。こうしたことのために官僚の独断専行は横行して、現に今国会の大蔵委員会でも、
大蔵大臣と
国税庁長官は、配当
所得の確定申告不要制度の法定期限切れを通達
事項で処理したため、今後このような越権行為は一切いたしませんと一札をとられておるわけであります。さらに町の
中小企業者にとっても、最近の税務官僚は警察官よりももっとひどい悪代官ぶりであるといわれておりますが、そこで税務行政の明朗化、民主化のために、第一、税法をやさしく書き改めて、通達、政令も国会に報告、承認を求めること、第二、
国税通則法を再
検討して、
国民に公平、親切な税務行政制度に改めるべきであること、を提案いたしたいと思うのであります。この点について
大蔵大臣の御所見を伺いたいと存ずるのでございます。
以上のほか、さらに
相続税法その他具体的に伺いたい点がございますが、時間の限りがある現在、以上基本的な問題について御質問いたしました。
総理をはじめ各
大臣の明確な御
答弁をお願いいたしたいと思います。
質問を終わります。(
拍手)
〔
内閣総理大臣佐藤榮作君
登壇〕