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国務大臣(
三木武夫君) ここに
外交に関する私の
基本的考え方と
日本外交の
重要政策について
所信を述べる
機会を与えられましたことは、私の光栄とするところであります。
人類はいまや二十
世紀最後の三分の一
世紀に足を踏み入れました。第一、第二の三分の一
世紀ともそれぞれ悲惨なる
世界大戦に見舞われましたが、この残された
最後の三分の一
世紀を、
世界大戦、しかも
人類破滅の
核戦争なしに過ごし、輝かしい平和の二十一
世紀を迎えることができるかどうかに
現代最大の
課題があると考えます。しかもその
重大課題の
中心は、核をめぐる安全の問題と
先進国と低
開発国との間のいわゆる南北問題であります。この二つの重要問題はいずれも
わが国とは深い
関連のある問題であるだけに、私はこの二大問題に
戦争と平和の問題がかかっていることを銘記し、
わが国としてこれにどう対処すべきかに日夜心を砕いている次第であります。
日本外交の
指針が
日本の安全と
繁栄の
確保、
増進にあることは申すまでもありませんが、それを
アジアの安定と
繁栄の中に、ひいては広く
世界の安定と
繁栄の中に求めるのが
現実の
外交政策だと考えております。私は今後の
日本外交の
目標として、
アジアの
繁栄、
日本の
安全保障及び
世界平和への
寄与ということがきわめて重要な
課題であると考えております。(
拍手)
しかし、
アジアといい、
世界といい、その
情勢は著しく移り変わりつつあります。
アジアには一方に
協力と
連帯の喜ぶべき
新風が吹き始めましたが、
他方、
ベトナム戦争は依然として継続され、中国問題とともに困難なる
アジア情勢をかもしだしております。ヨーロッパにおいては
東西融和の新
時代が訪れ、また、
アフリカ等にはイデオロギーを離れて
現実的に
経済建設を進めようとする風潮が見受けられます。
こうした激動と複雑化した
世界情勢に処して、
日本外交は、
日本の
国益擁護に誤りなきを期さなければなりません。幸いにして、
国民各位の御
理解と御
協力のもとに私は全力を傾けてこの重い
責任を果たす
決意であります。
つきましては、
日本外交の
重要目標たる
アジアの
繁栄、
日本の
安全保障及び
世界平和への
寄与について、いま少し詳しく
所信を述べさせていただきたいと存じます。
まず、第一に、
アジアの
繁栄についてでありますが、
アジアの
繁栄の
達成は、
アジアの
一員としての
わが国の最も希求してやまないところであります。幸いに、最近
アジア諸国の間に、
政治的立場の相違を越えて、
経済建設のための
連帯と
協力の
必要性が次第に認識されつつあることは、まことに喜ばしいところであります。
昨年はこの
アジアの
連帯と
協力にとって記念すべき一年でありました。すなわち、
東南アジア経済開発閣僚会議、
東南アジア農業開発会議、また、アスパックと呼ばれる
アジア太平洋閣僚会議、さらには
アジア開発銀行の
発足等、人をして
アジアの
新風と言わしめた
アジア地域協力への
動きが活発でありました。
アジアの
開発は、
アジア人の発意により推進さるべきものであります。その意味において
アジアの
地域協力への
機運を助長し、かつ、
具体的成果が生まれるよう
わが国としては
努力を傾けてまいりたいと存じております。さしあたり本年四月マニラで開催される第二回
東南アジア経済開発閣僚会議に出席して
経済協力の一そうの
具体化をはかりたいと考えております。
他方、オーストラリア、ニュージーランドはもとより、米国、カナダの
太平洋諸国においても、最近、
アジアに対する
関心がとみに高まりつつあります。これは当然の
動きというべきであります。私は、いまや
アジア問題は、
アジア太平洋という広さにおいて考えることが今日の
時代の
要請であるとともに、
歴史の
方向でもあると確信するものであります。
私は、
アジア太平洋地域に
動きつつあるこのような
歴史的な流れを自覚し、当面、既存の二国間及び多数国間の
会議の場はもとより、あらゆる
機会を利用して、
アジア太平洋地域諸国間の
相互理解と
連帯協力の
精神を、じみちにつちかってまいりたいと考えております。(
拍手)すでにわが
民間においても、
日豪経済合同委員会、
太平洋産業会議をはじめとし、この線に沿った
話し合いが行なわれるに至っておりますことはまことに歓迎すべきことであり、
政府としてもこれらの
動きに側面的支援を惜しまない考えであります。
しかし、
他方不幸なことは、
アジアの一角たるベトナムにおける戦いが、いまだに終息を見ないことであります。
アジアの平和と
繁栄をこいねがう
わが国として、こんな残念なことはありません。私は、この際
紛争当事者が勇気をもって平和回復への決断を下すよう要望してやまない次第であります。そして、戦いではなく、
アジア本来の
課題たる平和的国内
建設に取り組む日のすみやかな到来を切望するものであります。
政府は従来より
関係国との接触を重ね、
和平への糸口の探求につとめてまいりました。他の多くの国々の
政府やローマ法王、ウ・タント国連事務総長等によっても
和平実現のための
努力が払われてきましたが、いまだ成果はあがっておりません。しかし、
情勢の
変化は常に起こり得る可能性を持っております。平和への
努力はあきらめるべきではありません。
わが国としてもかかる目的
達成のため、今後とも
外交機能をあげてできる限りの
努力を重ねてまいりたい決心でございます。(
拍手)
他方、いまもって戦火に悩む現地の
人々には深い同情の念を禁じ得ません。
わが国はこれらの
人々のために医療、
農業等の面で適切な援助を提供したいと考えております。(
拍手)
ひるがえって、目をわが近隣
諸国に転じますと、
わが国と最も近い隣国の
関係にある韓国が
政治的安定と
経済建設の道を着実に歩んでいることは力強く感じております。
また、中国との
関係につきましては、
わが国は従来より中華民国と正式の
外交関係を維持しており、両国間の友情と
理解はますます深まっております。一方、
わが国は中国大陸とは隣同士の
歴史的に深い
関係にありますが、現在
中共内部にはいわゆる文化大革命が進められており、中ソ
関係の悪化等、
中共をめぐる
内外の
情勢は大きく動いております。
政府としては、日中接触の道を常に開放しながら、
事態の推移を十分に見きわめ、当面は従来の方針を続ける考えであります。
第二に、
わが国の
安全保障問題について申し述べたいと存じます。
わが国の安全を守ることは、
国民の一人一人がこれを真剣に考えなければならない根本の問題であると同時に、
政府として
国民に対して負うべき第一義的責務であると考えております。(
拍手)しかし、今日の
世界においては、独力で国土を防衛できる国はほとんどありません。戦後
わが国もまた米国との間に
安全保障条約を締結し、
わが国安全保障政策の基調といたしました。波乱に富んだ戦後の
国際情勢の中にあって、
わが国がよく平和と
繁栄を享受し得たことは、その
政策の妥当なるゆえんを十分に証明しているものであります。(
拍手)私は、今後とも
日米安全保障条約をわが
安全保障政策の中核として堅持してまいる考えであります。(
拍手)
わが国と米国との
関係は、単に
安全保障の分野のみにとどまらず、広く
政治、
経済、文化等あらゆる面においてきわめて緊密かつ良好であります。両国はまた、
世界ことに
アジアの
開発のために互いに
協力してまいっております。両国が共通の
関心を有する
現下の国際問題についても随時率直かつ有益な
意見の交換を行なっております。
政府としては、今後ともこの友好緊密な日米
関係を維持していくことが、
わが国の国益に合致するのみならず、
世界の平和と
繁栄にも役立つものであることを確信するものであります。(
拍手)
なお、
沖繩問題については、
わが国を含む極東の
安全保障の問題を考えるとき、
沖繩の果たしている重要な役割りを無視することはできませんが、
他方、戦後二十数年を経た今日、なお
わが国土の一部が他国の施政下に置かれていることは不自然な事実であります。この
安全保障の
要請と不自然な状態の是正とをいかに調節するかが、今日、日米間に横たわっている重大問題であります。
政府としては、究極の
目標である
施政権返還について今後とも不断の
努力を続けますとともに、それと並行して、やがては返ってくる
沖繩の自治の拡大、
民生福祉の
向上、本土との
格差是正等当面の諸問題については、米国との協議を続け、
現実的
解決を行なっていきたいと考えております。(
拍手)
第三は、
わが国の
世界平和への
寄与についてであります。
わが国としては、引き続き
世界の平和維持機構である国連に対する
協力につとめながら、西欧
諸国との
関係を一そう緊密化するとともに、ソ連及び東欧
諸国とも友好
関係の
増進につとめ、もって
東西融和の促進に
寄与したいと考えております。(
拍手)
日ソ
関係は、両国外相の
相互訪問等の人的及び
経済交流の
増進を
中心として着実な
発展を遂げております。近く領事館の
相互設置が
実現されることになっており、また、本年四月には、日ソ直通航空路も開通する予定であります。
政府といたしましては、今後とも日ソ友好
関係の一そうの
発展につとめるとともに、領土問題その他両国間の懸案の
解決に引き続き効力する考えであります。(
拍手)
また、私は、ラテンアメリカ、中近東及びアフリカの
諸国が、みずからの
国家建設と、よりよい
世界実現の
努力を通じて国際
社会でますます重要な地位を占めつつある事実に対し多大の敬意を表するものであります。
一方、
世界平和の
確立は、
世界経済の
繁栄と表裏をなすものであります。したがって、
わが国が
世界経済の
繁栄に貢献するための効力をいたすことは当然であります。この効力がわが
経済の
繁栄にも役立つものであることは申すまでもありません。
日本は、いまや米国、ソ連に次ぎ、英国、EECと並ぶ
先進工業国の地位に立つに至りました。
わが国はこの
世界経済におけるみずからの地位と責務を自覚しながら、ケネディラウンド等を通ずる貿易の自由化、OECD等の場を通ずる資本の自由化にもできる限り積極的に
協力すると同時に、
外交を通じて
日本経済発展のための国際的基盤の
拡充に
努力したいと存じております。(
拍手)
さらに、
世界の平和を促進するためには、単に
経済面の
協力にとどまらず、広く文化的交流を通じて
相互の
理解を深めることが必要であります。この
見地から、海外における
わが国の広報文化
活動も一そう
強化していきたいと考えております。
次に、私は、軍縮と
核兵器拡散防止の問題について
所信を明らかにしたいと考えます。
核兵器の拡散は、
核戦争の危険を増大し、
世界平和の重大な脅威となることは明らかであります。したがって、
政府としては、核兵器の拡散を
防止しようという
核兵器拡散防止条約の
精神に賛成であります。しかし、この
条約がその目的を
達成するためには、核兵器を持つものも持たないものも、できるだけ多くの国がこれに参加することが必要であり、そのためにも、核兵器を持たない国の
安全保障について十分の考慮が払われなければなりません。
しかも、この
条約が、核兵器の拡散による
人類の不安を除去しようというのが真のねらいである以上、単に核兵器を持たない国への核拡散を
防止するというだけにとどまらず、核兵器を持っている国々が、核軍縮、ひいては一般軍縮に
努力するという誠実な意図が明確にされなければならぬと思うものであります。(
拍手)もちろん、一挙に軍縮が
達成できるものではありませんが、核兵器をなくしてもらいたいという
人類の悲願に一歩一歩近づけるための具体的
措置が講ぜられなければならぬということであります。(
拍手)そうでなければ、この
条約はその
道義的
基礎を失うことになると思うのであります。
また、この
条約は、
原子力の
平和利用とその研究、
開発をいささかも妨げるものであってはならないということであります。(
拍手)さらに、この
条約は、
原子力平和利用について、核兵器を持つ国と持たぬ国との間に区別を設けてはならないということであります。(
拍手)将来核爆発
エネルギーが平和目的のために実用化される段階になれば、現在の非核保有国も、それを平和目的に差別なく平等に利用し得る
機会が保障されなければならぬということであります。(
拍手)もとより、今日
政府はみずから核爆発装置を
開発する意思は持っておりません。ただ、
平和利用のための原子科学の進歩への参加の
機会を後世の
わが国民から奪ってはならぬということであります。(
拍手)
政府は、核拡散
防止条約の中に、このようなわが方の見解が十分に反映されるよう今後とも
努力をいたしまして、公正な
条約の
実現を希望するものであります。
最後に、南北問題についてさらに一言申し上げて
国民各位の御
理解を得たいと存じます。
私は、
世界に紛争の種が尽きない大きな原因の一つは、
先進国と低
開発国の格差があまりにもあり過ぎるところにあると考えております。結局貧困の問題に帰着いたします。貧困、無智、偏見、疾病、ことごとく平和の敵であります。イデオロギーの争いもこうした
情勢がこれを激化しております。
アジア不安定の
最大原因もまたここにあると考えます。
わが国といたしましては、いまだ国内公共投資、
社会開発投資が立ちおくれておりますが、にもかかわらず、
アジア唯一の
先進工業国としてこの重大な南北問題に真剣に取り組む
道義的
責任があることを痛感いたすものであります。(
拍手)特に、
アジア諸国に対する
経済、
技術援助の分野では、
わが国はできる限りの援助をいたしたい考えであります。そのために、進んで
わが国の
経済協力推進の体制を
改善し、その機能を
強化し、もって
経済協力外交を強く推進する
決意であります。
今日の
世界の
歴史の流れは、イデオロギーの観念論から離れて、実際的に具体的にそれぞれの国の安定を求めようとする
方向を目ざして動いております。(
拍手)
私は、この変貌する
国際情勢のもとで平和と
繁栄へのあらゆる可能性をとらえて柔軟性ある
外交を推進し、もって
わが国に寄せられた
世界の期待にこたえたい
決意であります。
国民各位の御
理解と御支援を切に希望するものであります。(
拍手)
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