○安達説明員 私、
政府代表といたしましてストックホルム
会議に出席してまいりましたので、その御報告を申し上げたいと思います。
ストックホルムの
会議は、知的所有権
会議というふうに銘打っておるわけでございますが、その内容といたしましては、一つは、一八八六年に制定されて二十年ごとに大体
改正されておりますところの著作権に関するベルヌ条約の
改正に関する問題、それから、工業所有権に関するパリ条約その他の
改正に関する問題、それから著作権、工業所有権を通じまして世界知的所有権機構、こういう世界的な
政府間の機構を設立するための条約を制定する、おおよそこういう三つの目的が総合されて議題に供されたわけであります。
会議は、六月の十一日から七月の十四日まで、三十四日間開催されたわけでございます。
そのうちで、著作権
関係についてのおもな問題点なり
改正点を申し述べたいと思います。
この
会議におきまして、第一の問題といたしましては、複製権、いわゆる著作物を文書あるいはレコード等に複製をする、そういう権利につきまして、文書等について複製をする権利は各国の国内法では認められておるわけでありますが、条約上の権利として認められていなかった、それを条約上の権利として確立する、と同時に、その複製権に対して、教育目的その他に
関係するところの条約上の著作権の制限規定を定めるということが第一でございます。
第二の点は、映画の著作権につきまして、映画の国際的流通を円滑にするという意味からいたしまして、映画に関するそういう映画の国際的流通を円滑にするための措置に関する規定の
改正。
それからもう一つは、アメリカ合衆国などは現在ベルヌ条約に入っていないわけでありますが、アメリカは現在
著作権法の
改正作業をやっておりまして、もしその
著作権法の
改正が通ったならばベルヌ条約にも入り得るようなふうに、アメリカなどが入り得るような配慮をするということで、現在ベルヌ条約におきましては、著作権を保護するにつきまして、著作物を文書とかその他によって固定しなければ保護しないということではなくて、講演にいたしましてもそれ自体が著作物であれば、原稿に書いてなくても保護するというたてまえでありますが、それを同盟国は、固定をしたものでなければ保護しないというように、固定を保護の要件とすることができるというような規定が入れられたということは、そういうアメリカその他できるだけ多くの国がベルヌ条約に入りやすいようにするというようなことであると伺っております。
それから第四点といたしまして、新興国に関しまして、新興国が教育その他の目的のために先進国の著作物を
利用しやすいようにする、そのためには、先進国並みの条件で著作権を保護しておっては、後進国としてそういう目的の達成に困難を生ずるということで、新興国については、たとえば翻訳について特別の規定を設ける、あるいは複製権について制限を加える、そういうようなことにし、あるいは保護期間を半分にする、そういうふうにいたしまして、新興国がベルヌ条約に入りよくするために、新興国に関する議定書というものを条約の中に取り入れまして、新興国をして十分この著作権の保護をはかりつつ、その教育目的のための制限ができるようにするというような点が、今回の
改正のおもな点でございますが、なお、わが国との関連において、特に問題といたしました点につきましてつけ加えさせていただきたいと思います。
一つは、翻訳権につきまして、現在ベルヌ条約の規定に留保できる規定がございまして、ベルヌ条約の、国の著作物を翻訳する場合におきまして、十年間以内に翻訳物が発行されないときはその翻訳権は消滅する、すなわち、イギリスの小説が出た場合に、それを翻訳が出ずに十年間経過いたしますと、その著作物については
日本では翻訳が自由にできる、原著作者の許可を得ずにできるという、そういう規定といいますか、古い規定を留保できるという規定がございました。それを原案では削除するという原案が出ておりましたけれ
ども、わが国は、現行法でそういう制度をとっておりますし、将来の
改正の問題としては廃止する方向で審議会の答申も出ておりますけれ
ども、廃止するかどうかは、それぞれの国家が独自の判断によって決定すべき問題である、条約上そのものを削除すべきではないということを主張いたしまして、これがいれられまして、翻訳権の留保はやはり従来どおり認めるということになったわけでございます。
それから第二の問題といたしまして、新聞、雑誌に掲載されました社説等につきましては、その留保がない限りは他の新聞、雑誌に転載することができる。中央の新聞に出ました論説を、そのまま地方紙では複製して出せるという特例規定がございます。これも、今度の原案では削除が
提出されておりましたが、わが国においてはなおその必要があるというような意見でございましたので、それを主張いたしましたところ、それも認められた次第でございます。
その他技術的な点はたくさんございますが、主要な点は、大体以上のとおりでございます。