○堀議員 ただいま議題となりました
物価安定緊急措置法案の提案理由を御説明申し
上げます。
今日、
国民がひとしく望んでおりますのは物価の安定であると言っても過言ではありません。ここ五、六年、
消費者物価の上昇は著しく、三十五年を一〇〇とする
消費者物価指数は、四十一年に至り、一四二・一となりました。また、久しく安定しておりました卸売り物価指数も、四十一年は三・八%という驚くべき上昇を示しました。
消費者物価も四十年の対前年上昇率七・六%と比べ、四十一年の対前年上昇率は五・一%と低下いたしましたが、これをとらえて政府は、物価安定の実が大いにあがったと強調いたしております。しかし、これは、四十一年が好天候に恵まれ野菜の
価格が下落したこと、
消費者物価指数の構成比が変えられたこと、また四十年の異常ともいえる上昇に対する反動という要素があるのでありまして、政府の対策が功を奏したということとは、全く次元を異にするものであります。それのみか、五・一%という数字自体が、欧米諸国と比べて、異常なものであることを強調せざるを得ないのであります。
したがって、昨年の物価の趨勢を見て、即本年度以降物価が安定基調に移ると判断することはまことに危険であると言わざるを得ません。すでに十月からの
生産者米価をはじめ電信電話料金、たばこなどの一連の公共料金の位
上げがプログラムに入れられており、また昨年以来の卸売り物価の上昇基調を
考えますならば、
消費者物価上昇の要因は依然として除去されていないのであります。もとより物価問題は、日本経済に調節、間接に関連する問題であります。政府の経済政策、財政政策の破綻、さらには、その大企業中心の諸政策によって生じた二重構造、都市問題、こうした諸問題が放置されている限り、長期の物価安定がはかられるはずはないのであります。
物価の異常な上昇ほど、
国民生活を破壊するものはありません。この
国民生活を破壊する根源をいかにすれば断ち切ることができるのかを、いまこそ真剣に
考えるべきであります。物価の異常な上昇は、
国民の政治への不信を醸成し、社会の混乱の大きな原因になることは、諸外国の例を引くまでもなく、周知のとおりであります。こうした混乱を、
国民生活の破壊を、あらゆる手段を講じても緊急に避けなければならない、年間六%も七%も上昇する物価を何はともあれ安定させなければならないという立場から、ここに
物価安定緊急措置法案を提出することといたした次第であります。
今日、物価の問題は、単に物価そのものの対策だけでは解決し得ないのでありまして、総合的な経済政策、すなわち財政、金融政策を含んだ計画的な経済政策から、
生産振興対策、流通対策、さらには消費構造にまで入り込みまして、包括的な対策を立てることが必要でありますが、そういたしますと、これは日本経済の根本的な立て直しをはかる経済計画法たる
性格を有することになり、短期日のうちにはとうてい制定を見ることは不可能であります。
そこで、ここに提案いたしました
物価安定緊急措置法案は、五年間に時限立法といたしまして、緊急な物価安定策を織り込んだのであります。この法案の大きな特徴は、公共的な料金を国会もしくは内閣の審議にゆだねるとともに、内閣に強力な諮問機関である臨時物価安定
調査会を設けて、物価上昇に関連するあらゆる要因について
調査し、内閣に答申するというものであります。
政府は、昨年十二月
経済企画庁長官の諮問機関である物価問題懇談会が解散した後、本年に入り、総理大臣の諮問機関として、物価安定推進
会議を発足せしめました。物価問題懇談会は、四十一年一月から、その解散にいたる同年十二月まで、十一項目にわたる提案をいたしましたが、そのほとんどが政府によって全く顧みられなかったことは、はなはだ遺憾といわざるを得ません。これは、単なる
経済企画庁長官の諮問機関にすぎず、法律に基づいた機関でなかったところにその一端の理由があろうかと
考えるのであります。総理大臣の諮問機関である物価安定推進
会議、私どもの臨時物価安定
調査会の役割りと、その発想において類似点が少なくはありません。しかし、最も異なっている点は、物価安定推進
会議は法律に基づかない機関であるということであり、したがって、物懇と同様、単なるサロン
会議にすぎなくなる危険が十分
考えられることであります。今日の物価対策は、もはや語り合うことではなく、実行することに向けられなければなりません。われわれが法律に基づいた強力な機関の設置を主張する理由はここにあるのであります。
また、この法律におきまして特に強調いたしましたことは、経済政策が物価と不離一体の
関係にあるとの観点から、予算の作成にあたって、内閣はその
内容をこの
調査会にはからなければならないとしたことであります。少なくともこの五年間、物価安定の緊急性にかんがみ、この法案が大きな役割りを果たすことを確信いたしまして提案をいたした次第です。
次に、法案の
内容を御説明申し
上げます。
第一は、この法案の目的であります。最近における著しい物価の高騰をすみやかに抑制するため、公共料金その他政府が規制する
価格、料金等について特別の措置を講じ、臨時物価安定
調査会を設置して、物価の安定に関する重要事項を
調査審議させる等、物価の安定をはかるために必要な措置を講じ、もって健全な
国民生活の維持及び向上をはかる、これが目的であります。
第二は、政府の義務についてであります。これは政府が長期経済計画その他の経済に関する基本的な政策を策定するにあたっては、物価の安定について十分な考慮を払い、いやしくも物価の安定を阻害することのないようにすること、さらに物価の安定をはかるために、必要な法制上及び財政上の措置を講ずるべきことを義務づけているものであります。さらに内閣が予算を作成し、並びに財政投融資計画及び地方財政計画を策定するにあたっては、これが物価に重大な影響を及ぼすものであることにかんがみ、これらを後述いたします臨時物価
調査会にはかるべきこと、及び物価に関する年次報告、講じようとする施策を明らかにした文書の国会提出を義務づけているのであります。
第三は、公共的な料金もしくは
価格について、国会の議決または承認を要するものと、内閣の決定を経て定めるものに分類したことであります。前者は、国の独占的事業であります国鉄運賃、郵便、電信、電話料金、製造たばこの
価格、NHK受信料、米穀の販売
価格と、民間であっても、著しく公共性の高い電力料金とし、後者は従来各省認可であります私鉄運賃、通運料金、水道、ガス料金、航空運賃など二十二品目といたしました。なお、後者の内閣の決定を経て定める料金もしくは
価格に関しては、その閣議決定にあたり、臨時物価安定
調査会にはかることを義務づけているのであります。
第四は、この法律案の基底をなす臨時物価安定
調査会の設置についてであります。臨時物価安定
調査会は、内閣に置かれる諮問機関でありまして、両院の同意を得て、内閣が任命した三十名によって構成され、次の事項について
調査審議し、内閣の諮問に答申し、意見を述べることができるのであります。
調査審議いたします項目は次のとおりであります。
一、鉄道における運賃その他の公共料金等政府が規制する
価格または料金に関する事項
二、独占または寡占の
状態にある大企業における
生産品または役務の
価格または料金に関する事項
三、農業、中小企業の低
生産部門における
生産品または役務の
価格または料金に関する事項
四、
生産品または役務についての
価格または料金に関する共同行為に関する事項
五、
生産品の流通機構に関する事項
六、地価、地代及び家賃に関する事項
七、その他物価の安定に関する事項
第五は、専門委員、幹事、事務局についてであります。専門委員は専門の事項を
調査するものでありまして、学識経験のある者のうちから内閣総理大臣が任命することといたしました。幹事は学識経験のある者及び
関係行政機関の職員のうちから内閣総理大臣が任命し、
調査会の所掌事務について委員を補佐することといたしました。事務局は
調査会の事務を処理することとし、内閣総理大臣によって任命される
事務局長のもとに三十名を定数とすることにいたしました。
最後は、主務大臣と法律の有効期間についてでありますが、内閣法にいう主任大臣は総理大臣とし、また法律の有効期間は、施行の日から五年を
経過した日までとすることにしたわけであります。
以上、提案の骨子について御説明申し
上げましたが、よろしく御審議の上、物価安定の緊急性を御認識いただきまして、御賛同下さることをお願い申し
上げる次第でございます。(拍手)