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増田国務大臣 米内山さんの御
質問は大体において三つあると思います。近衛さんの問題と、それから
相手方を見そこなってはいけないということと、それから、日米安保条約の
関係で、好むと好まざるとにかかわらず、米国の指向する方向に
日本は動かされておる。したがって、三十八度線付近の問題は非常に気になるが、どう考えておるか。
そこで、まず近衛さんの問題から申し上げまするが、近衛さんは
相当えらい人ではございますが、当時の憲法、帝国憲法でございます。十一条というものがございまして、帷幄上奏、統帥権というものがございます。もちろん天皇陛下が統帥権と国政と両方持っていらっしゃいますけれ
ども、近衛さんは国政のほうだけしか発言できないという、いわば明治政府はかたわの政府でございまして、でございまするから、近衛さんが幾ら中国を
相手とせずとかなんとか言ったって問題にならぬ。(米内山
委員「
昭和だ」と呼ぶ)
昭和でも二十二年の五月二日までは帝国憲法が支配しておったわけでございまして、
昭和二十二年五月三日以後は
日本国憲法が支配しておるわけでございます。
そこで、
日本国憲法のもとにおける
自衛隊法といたしましては、天皇は国事を行なうだけでございます。憲法一条から八条まで書いてあるだけでございまして、内閣の助言と
承認において行なう、いわば全
責任は政府にあるわけでございます。そこで、
自衛隊の平素の
行動は、最高指揮司令官並びに軍政の
——昔の
ことばで申します。いまは
防衛行政事務と言ったほうがいいですか、そういう方面は両方とも
内閣総理大臣がこれを握っておりまするから、近衛さんも公爵でえらいかもしれませんが、佐藤榮作
内閣総理大臣のほうがはるかに権限がある。また、皆さまに対して義務を背負っておる。でございまするから、めったなことはございませんから、佐藤さんが何か声明されればそれは安心してもよろしい。近衛さんが幾ら中国を
相手とせずと言ったって、これはどうも信用しにくかったのは、いわゆる帷幄上奏のほうで、かってなことをやらかすからなんです。今度はそういう憲法ではございませんから、旧帝国憲法時代の御
質問は御容赦願いたいと思います。
それから、その次に
相手を見そこなうとたいへんなことになるということは同感でございます。われわれはすべて周辺諸国のみならず、世界全体のどこの国、ここの国というようなことの調査を一生懸命
——日本国も独立権
国家としては当然の権利と義務があると思っておりまするから、英国がどれくらいのGNPがあるか、中国がどれくらいのGNPがあるかということは、個人の趣味といたしましても、最近この四、五年間中国のGNPを計算しておりましたが、大体において中国は人口は七億ございまするが、
日本の半分しか国力はございません。しかしながら、われわれは好戦
国民ではございませんから、
相手を見そこなって、
相手が小さいと思ったからどうするなんということは絶対にないのでございます。われわれはもうミリタリストでも何でもない、膨張主義者でもない。このことはもう憲法が厳粛に宣言しておりまするし、われわれは憲法に従ってお互いに立法府も行政府も司法府も動いておるものである、こういうことでございまするが、ただ、あなたのおっしゃったうちで、
相手方を見そこなってはいけないという
ことばは、教訓として承っておきます。
それから第三に、日米安保条約の
関係で、
日本の
自衛隊は、好むと好まざるとにかかわらず、米国の指向する方向に制約されるのだということはございません。たとえば、安保条約の第五条によりまして、
日本の施政下における、領域における米軍のベースあるいは
施設等に対しまして、あるいは
日本の本土等に対しまして、
武力行使が行なわれたる場合に、共同しておのおのの憲法の
規定に従って
防衛の
行動に出る。これが日米安保条約の第五条第一項の精神でございまして、これ以外にかれこれ言われることはいまや全然ございません。
それから、昨年までは
アメリカが
日本に援助
物資として
武器を援助してくれたこともございます。これはMAPといいまして
——これもしかられるかもしれませんが、普通MAPと言っておりますから。MAPというものはもうなくなったわけでございます。したがいまして、MAPがある間は、くれてやった
武器はこういうふうに使ってくれというようなことは、事実問題としては文句はあるかもしれませんが、もうMAPはありません。まだFMSがある。向こうの政府から市価よりは安く買うという
武器が第三次防には約三百億ばかりございます。しかし、これはいずれ金をわれわれは払うわけでございます。ただでもらうわけではないのですから、幾分安いというだけのことでございまして、われわれの
行動に対しまして、かれこれ言うということはありませんから、好むと好まざるにかかわらず、日米安保条約がある以上は、米国の指向する線に制約されるのであるという
意見は、あなたの御独断ではないかと私は考える次第でございます。
それから、最後に朝鮮
関係の、三十八度線の近所に事件が頻発しておる。これは心配にたえないが、
防衛庁自衛隊はどう考えておるかということでありますが、私もひとしく心配いたしております。ただ、あそこにはいまでも国連軍がおるわけでございまして、国連軍と韓国軍とが南のほうにはおります。北のほうには北鮮軍がおりますが、小ぜり合いは多少ございましょうとも、休戦協定を守っていくであろう。両方とも良識ある権威であり、
国家でございまするから、多少の小ぜり合いはあろうとも、重大なることにはならないというのが、われわれ
防衛庁としての良識ある見方でございます。