○村田
政府委員 ただいま申し上げましたように、一九六〇年海上人命安全条約では、その条約の性質上、原子力船の機構上等の安全性についてだけの規定しかございません。原子力
施設関係で、国内でもそうでありますように、各国ともそのような安全
施設についての規定のほかに、万々一の原子力損害が生じました際の賠償措置規定というものをそれぞれ持っておりますが、原子力商船につきましてのこのような国際的な原子力損害賠償措置の条約は、すでに国際的に検討が行なわれまして、一九六三年でございましたか、ブラッセルにおいてその条約草案ができております。これを通常ブラッセル条約と申しておりますが、その主たる内容は、原子力船を国際的に運航いたします場合には、運航国の
政府は、この原子力船が運航することによって生ずべき万々一の損害、これについては絶対責任をとる、アブソリュート・ライアビリティをとる。そうしまして、万一損害を生じましたときの責任の補償額は、十五億フランとなっております。これは大体換算いたしますと、米価で約一億ドルに相当いたしますが、この額まではこの条約に加盟した国は責任をとる、大体こういうような内容のものでございます。
そのように草案はできたわけでございますが、現実の状況を見ますと、まだこの条約は今日発効するに至っておりません。また、ただいまのところでは、いつ発効するかということを具体的に申し上げられない状況であります。といいますのは、この条約の発効のためには、現に原子力商船を保有する国一カ国を含めての批准がないといけないということになっておりますが、現在は、御案内のとおり、原子力商船を持っておりますのは、アメリカのサバンナ号とソ連のレーニン号と二隻だけでありますので、米ソ二カ国が現実に批准する気配を見せておらないわけでございますために、発効の見通しがつかないわけでございますが、先々、わが国あるいはドイツという、原子力商船
計画をすでに持っておる国がこれを批准をすることになりますと、発効のめどがついてくる、こういう
段階でございます。そういう状況でございますので、この条約が発効しておりますと、安全性についての海上人命安全条約に基づくがごとく、賠償措置につきましても
——もちろんそれが発効する前には
国会の批准をお願いするわけでございますが、このブラッセル条約に基づいた措置がなされておればよろしい、こういうことに相なるわけでございますが、残念ながらあとの
一つがまだ国際的にきまっておりませんので、これにかわるべき措置がやはり何らかの国際的な形で必要だ。これを原子炉等規制法では、外国原子力商船の許可の基準といたしまして、第二十四条の二におきまして、「原子力損害を賠償するに足りる措置が国際約束により講ぜられていること。」という基準を
一つ置いておるわけでございます。その国際約束というのは、原子力商船を保有します国とわが国との間で、ブラッセル条約にかわる形の何らかの国際約束が存在しまして、それによって、万々一わが国水域に立ち入りました際に原子力損害が生じましたときには、その国際約束によって、
先ほど申しました絶対責任制のもとに必要な補償が行なわれるということをはっきりさせておきたい、こういう
趣旨であったわけであります。
そこで、今回アメリカのほうから、サバンナ号をわが国に入れたいという要望がございました際に、当然のことでございますが、わが国の原子炉等規制法に基づきます手続によって、立ち入り許可申請に対する審査を始めたわけでございまして、
総理大臣から原子力
委員会に諮問された。原子力
委員会としては、この船体構造等についての安全性については、原子炉安全専門審査会にさらに諮問した。これは、先般も申し上げましたとおりに四月の十三日でございましたが、その
結論をまとめて、
委員会へ
答申をされたわけであります。原子力
委員会のほうは、その内容をさらにチェックされますとともに、他の許可要件でございます幾つかの
事項、たとえば、これは当然のことでございますが、平和
目的であるかどうか、あるいはこの運航者が技術的能力を持っているかどうか、さらに、この運航者が経済的基盤を持っているかどうか、こういった問題をあわせまして、原子力損害を賠償するに足りる措置が国際約束で十分できているかどうかということを審査されることになったわけでございます。そのためには国際約束がなければならないわけでありますが、これにつきましては、主管の外務省を通じましてさっそく米国
政府と種々折衝いたしましたところ、先方の希望します入港の時期が、諸般の
向こうの運航
計画の
関係であろうかと思いますが、大体今年の六月ごろという希望でございました。そういたしますと、ここで必要な国際約束をつくるためには、両国の議会あるいは
国会の批准を要するような条約でございますと当然間に合わないということでございまして、
向こうがぜひとも六月をということでありますと、いわゆる行政協定の範囲でこの国際約束ができるかどうかということが必要な条件になってきたという形になったわけであります。そこで、この点につきましては、外務省はもとよりでございますが、法制局とも相談しました結果、行政協定の範囲でできるための条件というものがございますから、それらを協定内容としてつくりまして、米国側と折衝したのであります。しかるところ、残念なことでありますが、その中のいわゆる絶対責任制といいますか、この点についての
事項を協定上明記することは、現在のところ米国
政府としてはその権限を米議会から与えられていない、こういうことで、その条項が行政協定上入れられない、こういう回答が最終的に得られました。そうなりますと、私
どものほうで
考えております
——あるいはこれは法制局に御相談したのですが、原子力損害を賠償するに足りる措置という点で、国内にございます原子力損害賠償法とバランスのとれた形の補償措置がとれるとはいえない、こう
判断されますので、これを形を整えますためには、議会の批准を要する形にするか、あるいは他の
方法をとるか、いずれにいたしましても、とても六月までにその措置をとることができないというふうに
考えられ、お断わりせざるを得ない状況になったという経緯でございます。